アバターがログインIDに?米国でのNFTの広がり【海外Hot Info】vol.26

2022.05.16

―――世界各国の先進的な取り組みから、旬で“GROWTH”につながりそうな企業・サービスをご紹介する「海外Hot Info」。10年以上デジタルマーケティングに携わってきたGrowth Labの三石所長(当時)が、その知見をもとに海外のデジタルマーケティングのトレンドについて切り込みます。

三石所長(当時。以下、三石) 本日はお時間頂き、ありがとうございます。今回は、スタートアップの全面的支援を行っているベンチャー・キャピタル「NTTドコモ・ベンチャーズ」シリコンバレー支店の舞野 貴之さんに、「NFTとMETAVERSE(以下、メタバース)」について、お話を伺います。

(編集部注:NTTドコモベンチャーズ様の紹介については、vol.1の記事 で詳しく紹介させていただいておりますので、ぜひご覧ください!)

舞野 貴之さん(以下、舞野) はい、よろしくお願いいたします!

舞野 貴之
NTTドコモ・ベンチャーズ Senior Director

新卒でNTTドコモに入社。海外拠点での勤務を経て、本社にてグローバル企業とのビジネス交渉や新規事業の立ち上げを多数経験。2016年からNTTドコモ・ベンチャーズに異動し、スタートアップ投資を担当。主に日本、北欧を対象にディールソーシング、デューデリジェンス、投資条件・アロケーション交渉を率先し、アーリー・ミドル・レイターステージのスタートアップ企業に出資。上場によるEXITやドコモに対する株式売却およびスタートアップの関連会社化などを実現する等、コーポレート・ベンチャーキャピタル業務に関する一連の経験を積んだ。2020年6月より米国シリコンバレー拠点のDirectorとして、組織運営と日本人・アメリカ人の混成チームを率いてスタートアップ投資を担当している。

「本物」の価値を守る 暗号通貨にはないNFTの2大メリット

NFTの特徴

三石 それではまず、今注目のNFTの定義から教えていただけますか?

舞野 はい。既にいろんなところで説明されているのですが、簡単に言うと、コピーが可能なデジタルデータに「オリジナル」と「コピー」の差が技術的に付けられる、暗号通貨に取引のルールのようなものを付与できるのがNFTです。

代表例としては、デジタルアートやゲームアイテムなどが挙げられます。そして、NFTは暗号通貨と同じくブロックチェーンの技術を使っていますが、個人的には以下の2点に様々な可能性を感じています。

1:所有権を担保できる

2:ルールを付与できる(プログラマビリティ)

【1:所有権の担保】
暗号通貨は代替可能なトークンを使っていますが、NFTは代替不可能なトークンを使っています。そのため、暗号通貨と違い、NFTは本物とコピーを区別できます。

たとえば、デジタルアートを始めとしたデジタルアセットの中には、コピーが可能なものもありますよね。コピーが多く作られてしまうと、「本物」の所有権をだれが持っているのか、分からなくなってしまいます。しかし、そのデジタルアセットをNFT化しておくと、本物とコピーを区別できるようになるため、そのデジタルアセットが本物か偽物かが分かるようになります。その結果、所有権が担保されるというわけです。

【2:ルールの付与(プログラマビリティ)】
NFTは、取引が行われる際のルールを付与することができます(プログラマビリティ)。

たとえば、「取引が行われる際、そのNFTの原作者・著作者に、対価の一部を還元する」といったルールを付与できます。こうすることで、NFTの原作者・著作者に、印税のような形で報酬が入る仕組みを作れるのです。貨幣や暗号通貨にはなかったこのプログラマビリティは、NFTの素晴らしい特徴のひとつと言えるでしょう。

≪三石所長(当時)`s Memo≫

NFTの利点は、「所有権の担保」と「ルールの付与(プログラマビリティ)」

そして、現在デジタルアセットをNFT化する際に必要なブロックチェーン技術としては、主にイーサリアムが使われています。しかし、ブロックのマイニングに必要なエネルギーが大きいことから、互換技術・代替技術として別のブロックチェーン技術が登場してきています。我々としてもまだこの領域の行方は未知数であるため、引き続き動向を追っているところです。

(※編集部注・GrowthLabでは以前にもNFTの事例について、こちらの Mr.モリスギの記事 で解説しています。ぜひ、ご覧ください!)

経済性をデザインできる! メタバースにおけるNFTの可能性

NFTの広がり(Metaverse)

三石 分かりやすく整理いただき、ありがとうございます! そして貴社では、NFTと同時にメタバースにも注目されているそうですが、そちらについても教えてください。

舞野 NFTの特徴のひとつに「所有権の担保」がありますが、アメリカでは「所有権の担保というメリットを、メタバースというバーチャル空間に応用しよう」という動きが、今広がっているんです。

たとえばVR空間プラットフォームや多人数向けのゲームにおいては、NFTを活用することで、ゲーム上のアバターやアイテムの所有権を担保(個人で所有)し、自分の所有するNFT作品をVR空間上で展示したり、マーケットプレイスでも売買できたりするようになっています。

これまで、VR空間プラットフォームや多人数向けのゲームにおけるアバターやアイテムは、そのプラットフォーム企業やゲーム開発企業が所有しているものでした。ユーザーは各企業が作ったアバターやアイテムを、「借りている」状態です。しかし、NFTを使うことでそうしたアバターやアイテムを「所有する」ことができるようになったため、自分のものとしてアバターやアイテムを展示、売買でき、最終的に現金化もできるようになっています。

≪三石所長(当時)`s Memo≫

メタバースでNFTを活用すると、アバターやアイテムを「個人で所有」できる

また、アバターやアイテムを「自分のものである」と証明することで、さまざまなバーチャル空間に自分のアバター・アイテムを持ち込んで遊ぶことができるようになりました。

たとえばこれまでは、ゲームAで貯めたポイントは、別のゲームBに移行して使うことはできませんでしたよね。NFTを使うことで、「自分のものである」と証明したポイントを、さまざまなゲームで使えるようになったのが、革命的なポイントと言えるでしょう。

そして、NFTはルールを付与できますので、そのゲーム世界で作ったアバターやアイテムに対し「取引時に手数料を徴収する」ルールを付与できます。このように、メタバース上でNFTの特徴を生かしたビジネスを行うこともできるでしょう。

こうして経済性が柔軟にデザインできる点など、NFTにはいろいろな可能性が秘められていると考えています。

アバターがIDとして活躍? 仮想通貨の流れに見るNFTの未来

アバターとポータビリティ

三石 メタバースにおいて、NFTはますます活躍していきそうですね。そんななか、メタバース内で使えるアバターにも注目が集まっているようです。

舞野 今後さらにNFTが広がっていけば、「アバター」にも、ポータビリティが求められてくるんじゃないかと考えています。若者を中心に大きな支持を集めている「Fortnite(フォートナイト)」の開発企業Epic GamesのCEOが、以前「アバターのポータビリティは、メタバースで役に立つものになるだろう」と発言しています。

たとえば、『ドラゴンクエスト』みたいなゲームのキャラクターは、そのゲームのなかでしか使えませんよね。しかし、自分のキャラクター(アバター)をNFT化することで所有権が担保できると、そのキャラクター(アバター)をあるゲームから別のゲームの中に持って行ったり(ポータビリティ)、カスタマイズしたりできるようになるということです。

このように、アバターをNFT化することで、プレイヤーはデジタル資産として、自分のアバターの所有権を主張できるようになります。アバターのポータビリティが一般的になれば、NFTはその特性上、唯一無二性を担保できるため、「アバター=ID」と考えることも可能です。各種サイトへのサインイン時に、GoogleIDやdアカウントの代わりに、自分のアバターでログインする、という時代が来てもおかしくないと考えられるんです。

≪三石所長(当時)`s Memo≫

アバターにポータビリティが出てくれば、別ゲーム内での使用やIDとしての使用も可能に

三石 メタバース上で思い入れを持っているアバターがポータビリティを持つことで、IDとしての役目が出てきたり、それに伴ってログインのためのセキュリティシステム等の開発も進んでいったりするのかもしれませんね。

舞野 また、こうしたアバターやデジタルアイテムの多くは、「Unity」や、Epic Gamesが開発したゲームエンジン「Unreal Engine」で制作されています。個人がバラバラにアバターやアイテムを作ると、クオリティや仕様がバラバラになるのでは、という問題もあります。しかしクリエイターの多くは「Unity」や「Unreal Engine」を使ってアイテムを作っているので、その違いは徐々に収れんされていくのではと考えています。

三石 ちなみに、バーチャル空間にまつわるゲームで有名な「Fortnite(フォートナイト)」や「ROBLOX(ロブロックス)」のプレイ人口はどれくらいなんでしょうか?

舞野 ロブロックスは、デイリーアクティブユーザーが4,000万人を突破したと発表しています。かなり大きなサービスですよね。ロブロックスでは自分のアバターに着せる服や帽子を買ったり、エモートという表情や動きを買ったりするんです。

こうして課金してカスタマイズすることで思い入れの深くなったアバターに、「ポータビリティ」という概念が出てくると、それまで課金してきたアイテムの金銭的価値を管理する意味でウォレットが発展し、マーケットも出てくるのでは、と予想しています。

そしてこの流れは、仮想通貨が出てきた頃の流れと似ています。今は一般の方にとって、NFTを購入することは結構ハードルが高いですよね。仮想通貨の時も同じで、ハッキングや盗難の事件もあるので、まだ資産として所有する安全性について不安に思う方もいるかと思います。

しかし今では1BTCが500万円を超え、一般の方でも取引する人が増えるなど、以前と比べればかなり普及してきています。アバターのポータビリティは今、仮想通貨の当初の頃のような、アーリーステージなのではと思っています。

≪三石所長(当時)`s Memo≫

NFTは今アーリーステージ。今後、仮想通貨のように普及していくのでは

三石 分かりやすい例をありがとうございます!今後の展開もよくイメージできました。

―――次回の【海外Hot Info】も、引き続きNTTドコモベンチャーズ様に「NFTとMETAVERSE(メタバース)」について、教えていただきます。現在のアメリカでの驚くべきアバター活用例もご紹介。ぜひお楽しみに!

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