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MIXIのものづくり 〜テクノロジーと共に創る新しい世界〜|MIXI TECH DESIGN CONFERENCE 2024

2024.04.26

はじめに

MIXI 吉野氏|
こんにちは。MIXI TECH DESIGN CONFERENCE2024を始めたいと思います。今回は技術だけではなく、デザインのセッションも多く用意しています。楽しんでいただければと思います。

基調講演として、社長の木村さんとファウンダーの笠原さんに登壇いただき、MIXIのものづくりについてディスカッションしていきますので、よろしくお願いいたします。

最初に軽く自己紹介として、MIXIへの関わり、また人生におけるものづくりへの関わりということを盛り込んでお話しいただければと思います。また、MIXIでは、会社のパーパス・ミッション・ウェイ・バリューを定めていますが、お二方それぞれ、個人としてのパーパス・ミッション・ウェイ・バリューをどんな風に考えているかも伺えればと思います。

MIXI 木村氏|
MIXIの木村です。MIXIにおける私のものづくりの代表作としては「モンスターストライク(以下、モンスト)」があります。「モンスト」も、とてもMIXIらしいサービスだと思っています。最大4人、友達や仲間と集まって一緒にワイワイ楽しむ空間や機会をどう提供できるかにこだわって作りました。

私自身のパーパス、何をやってきた人間かというと、ずばりコミュニケーションです。学生時代、とくに大学生の時、将来のことを考える時間があると思います。「自分は何をやりたいのだろう?」と考えた時、何をやるにしても友達とやっていると楽しい、これは何だろう? ゲームでも、スポーツでも、何でも、友達と一緒にやっていると楽しい。そして「全部に共通することはコミュニケーションだ。私がやりたいことはコミュニケーションなのだ」と発見しました。

じつは私はMIXIを3回受けて入社しました。1回は笠原さんの面接で落とされました(笑、 MIXIは自分がコミュニケーションの仕事をやりたいと思って恋焦がれて、やっと入社できた会社で、会社のパーパスと自分のパーパスがかなり一致している感覚です。

MIXI 笠原氏|
MIXIの笠原です。私は株式会社MIXIを創業して、SNS「mixi」を長くやっていました。直近では2015年から「家族アルバム みてね(以下、みてね)」という家族で子供の写真や動画を共有するサービスを展開しています。また、2020年から「会話AIロボット Romi(ロミィ)」をやっていたり、最近でも新たに取り組んでいるプロダクトがあり、2024年にリリースしたいと思っています。今はこの3事業を事業責任者として担当しています。

私のPMWV(パーパース・ミッション・ウェイ・バリュー)は木村さんと似ています。コミュニケーションサービス、それも世界中に広がっていくようなコミュニケーションサービスを作りたいと思っています。簡単ではありませんが、先ほど触れた「家族アルバム みてね」などは世界中に広めることが出来ていますので、非常に楽しいです。これからも同じように、世界中に広がるような、みんなでコミュニケーションするようなサービスを作っていきたいと思っています。

MIXI 吉野氏|
私も簡単に自己紹介させていただきます。MIXI CTOの吉野と申します。2008年にMIXIに入社しましたので、木村さんとほぼ同時期の入社になります。そして、そこからMIXIが提供する多くのサービスの成長を技術的な観点から見てきました。現在も技術的な可能性やサポートを考えながらいろいろな事業に関わっています。MIXIのコミュニケーションを軸としたサービスは一気に盛り上がるタイミングがあります。そうした部分を技術面から支える、楽しむことを生きがいにしています。

ここから本題に入りますが、今日は大きく分けて3つのテーマで話していきます。まず、「モンスト」や「みてね」といったサービスの誕生と成長を振り返りながら、具体的なMIXIのこれまでのものづくりを紹介していきます。次に、MIXIらしいものづくりとは?というテーマで、抽象度を少し高めて話していきます。そして最後に、未来のコミュニケーション、未来のMIXIというテーマで進行していきます。

「モンスト」「家族アルバム みてね」の誕生と成長を振り返る

基調講演『MIXIのものづくり ~テクノロジーと共に創る新しい世界~』

1つめのテーマとして「モンスト」や「みてね」について振り返っていきます。いくつかトピックを用意していますので、それを順番に聞いていきます。

新サービスがどんなきっかけで誕生するのか?

まずサービス誕生のきっかけですが、どんなことをきっかけに、2つのサービスが生まれたのか。木村さんいかがでしょうか?

MIXI 木村氏|
まず大前提になりますが、人間にはいろいろなタイプがありますので、お話しすることは私と同じタイプの人には合うと思いますが、必ずしも正解ではないので、それは心に留めて聞いていただければと思います。

生まれたきっかけとしては、原点回帰です。MIXIという会社はSNS「mixi」でぐっと成長しましたが、競合の存在などもあってSNS事業が難しくなっていく中で、MIXIとしてコミュニケーションやソーシャルサービスに対する自信が少し揺らいでいた時期がありました。

その中で、MIXIが再度復活するためには原点回帰して、コミュニケーション、とくに小さなコミュニケーションが大事だという思いがありました。「モンスト」が最大4人で遊ぶというのも、小さなコミュニケーションにフォーカスすることで、それが友達から友達に指数関数的に広がっていくはずだという考えがあり、原点回帰という意図がありました。

MIXI 吉野氏|
同じ質問になりますが、事業が生まれたきっかけを笠原さんにも伺えればと思いますが、いかがでしょうか?

MIXI 笠原氏|
「みてね」も「モンスト」と同じく、家族という小さくクローズドなコミュニケーションの場として始まっています。一方で「モンスト」はどんどん飛び火していく、人が人を誘ってどんどんバイラルで成長していくというストーリーがありますが、「家族アルバム みてね」の場合、家族単位で広がっていくので拡散するスピードは少し遅かったですね。

事業のきっかけとしては、自分に子供が生まれて1週間程度が経った時、「こんなに写真や動画をいっぱい撮るんだな」ということに驚きました。そして、次に「撮った写真や動画を家族と共有したい、また、奇麗に整理・保存したいな」と思いました。ところが、既存のサービスはそれ専用には作られてはいないので、理想の使い勝手ではありませんでした。そんな中で、沸々と「MIXIで作ったらいいんじゃないだろうか」という考えが出てきたことが最初のきっかけです。

MIXI 吉野氏|
自分にお子さんが生まれた体験を通じて「みてね」を考えたというのは、非常に分かりやすいですね。木村さんの場合は、普段からずっと考えていてふっと出てきたとか、それとも何かきっかけがあったかというといかがでしょう?

MIXI 木村氏|
私の場合、商売をするうえでの絶対条件として「他にないものをつくる」ということが重要だと思っています。いかに美味しい料理をつくって、どうぞ召し上がれと言っても、「もうそれは今お腹いっぱいなんだよ」と言われてしまったら手に取ってもらえないわけです。ゲームであっても、どんなサービスであっても、「今これってないよね」かつ「これって必要だよね」と思うと、これをやるべきだ!となるわけです。

株式会社MIXI 代表取締役社長 上級執行役員 CEO 木村 弘毅氏
株式会社MIXI 代表取締役社長 上級執行役員 CEO 木村 弘毅氏

当時を振り返ると、1人で遊ぶゲーム、あるいは、オンラインで知らない人とやっつけ合うようなゲームばかりでした。友達と一緒にその場でワイワイ楽しみながらやるゲーム、あるいは友達とワイワイ楽しむ機会を提供するものは一切なかったので、これは私たちこそが、MIXIが作るべきだと思った形ですね。

MIXI 吉野氏|
今のお話で、自分たち独自のものを作っていかないといけないというメッセージがあったかと思います。一方で、事業を作っていくうえでは、「競合にあるものは同じように作らないと劣後してしまう」という考え方もあると思います。独自性に舵を切っていくというのは、どう考えればよいのでしょうか。

MIXI 木村氏|
私は、たとえばユーザーインタビューなどはほとんどやらないタイプです。ユーザーに聞く、あるいは「こういうのが流行っている」といったデータを見てしまうと、判断にバイアスがかかってしまいます。

流行っているものを調べて、その中央値を取ってしまうような人は、そういった市場や競合調査をやらない方が良いと考えています。調査したうえで「ここが無いよね」と最大の差分値を取れる人はやっても良いと思います。私はバイアスを持ってしまうタイプなので、競合や市場で何が流行っているかといったことは敢えて見ない、もしくは競合がしているなら手を付けないという感じです。

MIXI 吉野氏|
笠原さんはいかがですか。競合とかは見られますか?

MIXI 笠原氏|
そうですね。よく見ます。

これはフェーズによるかなと思います。「みてね」は本当に自分自身の「こういうものが欲しいな」から始まって、同時にそれが事業として成り立つか?競合と比べてどうなのか?本当にみんなが必要としているのか?といったことを検証しながらやってきました。ただ、これは毎回出来る話ではなく、「欲しいもの」と「つくるべきもの」が一致することは、本当に一生で1回2回ぐらいのチャンスだと思っていて、その意味ですごく幸せなプロダクトで、楽しくやらせてもらっています。

一方で、いろいろな事業を作ってきた身としては、自分の「欲しい」だけでは食べていけないかもしれないし、チャンスはそれ以外にも沢山あると思っています。従って、競合環境や社会の変化といったことを見ながら、「いま何が世の中に求められているのか?」を考えながらサービスを作ることもやっていきたいと思っています。

MIXI 吉野氏|
タイミングや背景、自分の思いとか、さまざまなものが合致する時に大きなものが生まれてくるというところでしょうか。

MIXI 木村氏|
今の話は笠原さんが天才だから出来るところもあります。「みてね」の開発エピソードをひとつ暴露すると、ユーザーインタビューをして実はほとんどの人は「要らない」、1人だけ「欲しい」という人がいる結果で、開発に踏み切ったんですよ。もう何のためにユーザーインタビューをやったのかという(笑 笠原さんのように多数派の声みたいなものに影響を受けない人はやってもいいんだと思います。

MIXI 笠原氏|
確かに・・・(笑 でも影響を受けていそうな気もしますし。難しいですね。

MIXI 吉野氏|
そういう意味では、自分のバイアスを知っているかどうかみたいなところも大事ですね。

サービス開発に「仲間を巻き込む」ためには?

MIXIのものづくり 〜テクノロジーと共に創る新しい世界〜|MIXI TECH DESIGN CONFERENCE 2024 「仲間づくり」

MIXI 吉野氏|
「こういうものを作っていくぞ」というきっかけがあって、そこから周りに伝えて仲間を作っていく段階が始まっていきますが、これがまた難しいと思います。MIXIでは「何かやるぞ」となった時に、自分で仲間を集めるという文化や空気があると感じます。周りに伝えて仲間を作るというところを、お二人がどんな風にやってきたかを伺えればと思います。

MIXI 木村氏|
とにかく説得することだと思います。自分がやりたいことを伝えても、簡単には同意してくれなかったりします。「今はこれに夢中になっていて」などと返されるわけです。そこに対して「そっかそうだよね。今それやっているよね。それはそうと、モンストの構想はすごく面白くて!」と、敢えて相手の話を親身に聞かない勢いが大事ですね。「それはそうと・・・」と木村が言い出したら、無理やり仲間に入れられる合図だ、と言われるぐらいです(笑

MIXI 笠原氏|
タイミング的に新規事業をやりたがっている人たちが一定数いましたので、そうした人に声がけしたりしました。「みてね」の場合だと、子供が生まれたばかりの人に声をかけて、ユーザーインタビューも兼ねて話を聞いていく中ですごく共感してくれた人に「一緒にやろう」と声がけもして、それは事業を進める上でも後押しになりました。やはり新規事業は一人では出来ないので、賛同してくれた人たちがいたから実現できたと思います。

MIXI 吉野氏|
人に伝えて共感を得て仲間を集められる能力が、事業をやる人には絶対必要なのかと感じます。お二人の経験を踏まえて「仲間づくりがうまく出来ていない」という人にアドバイスをするとしたら、どんなことを伝えますか?

MIXI 木村氏|
最終的に作りたいこと、達成したいビジョンをきちんと伝えることが一番大事だと思います。人によって視覚優位、聴覚優位、言語優位といった形でどの認知が優位かが違いますので、私はプレゼンテーションなどをするときには、絵も描きますし、言葉で何とか説明したり、テキストで長い文章を書いたりといった形で、さまざまな伝え方をハイブリッドして、何とか伝えようと頑張ります。

MIXI 笠原氏|
仲間を作ることが最初の試練だと思いますので、仲間づくりが上手くいかないということは、もしかしたら自然淘汰されるべきアイディアなのかも知れないですし、もしくはタイミングが悪かっただけかも知れません。最初の試練である仲間づくりのハードルを乗り越えるのは頑張ってやるしかないかなと思います。

MIXI 吉野氏|
私自身は何かビジョンなどを考える時、他の人に壁打ちして「それはビジョンじゃなくて、ミッションじゃないかな」など、フィードバックを受けながらやっていますが、お二人はそういったビジョンを磨いたりフィードバックを受けたりするような壁打ち相手はいらっしゃいますか?

MIXI 木村氏|
最近はChatGPTです。

MIXI 笠原氏|
木村さんはよくChatGPTを使っていますよね。木村さんからしょっちゅうChatGPTと喋った内容が送られてきて、見ています。

MIXI 木村氏|
そうですね。ChatGPTは優秀ですよ。適当に喋ってもいい感じにまとめてくれます。たまに「そうじゃないんだよ・・・」というのもありますが(笑

アイディアを形にしていくうえで大切なこと

株式会社MIXI 執行役員 CTO 開発本部長 吉野 純平氏
株式会社MIXI 執行役員 CTO 開発本部長 吉野 純平氏

MIXI 吉野氏|
先ほどはビジョンをいろいろな人に伝えていくという話がありました。そこからプロダクトとして具体的な形にしていくうえで、「ビジョンがこうだからこうなんだよ」と現場のメンバーや作り手に伝えていくことになると思います。その時にどんな手段で伝えていくかが気になっています。

私の場合、研究用の機能を1個開発してみようといったことをエンジニアやデザイナーとやることもありましたが、「思っていることをちゃんと伝える」というのは非常に難しいなと思います。絵にしたり、文字を書いたり、ディスカッションしたりしていくと思いますが、「普段こうしている」といったポイントがあれば、ぜひ教えてください。

MIXI 木村氏|
チームでやるときには、やはりホワイトボードを使いながら喋りますね。これが視覚と聴覚優位の人それぞれに一番早く伝わります。あまり時間をかけて文章にして、というよりは、喋りながらささっと書くイメージですね。ホワイトボードの良いところは、UIであっても、UXであっても、動きや因果関係を説明しやすい点です。私はホワイトボード+喋るというのが得意なので、リモートだと少しやりにくいですね。

MIXI 笠原氏|
私はアプリでいうと、実際に触ってみて感じることが多いなと思っています。贅沢というか、実際にアプリが出来ていかないと出来ないので、本当はペーパーとかで出来れば良いですが、やはり実際に触るなかで分かる、感じる事が多いと感じます。ですから、アプリを作っている中でもリリース前のものをしょっちゅう触ってみる、また、ユーザーになりそうな人に配ってみて使い続けてくれるかを見てみるといったことがすごく参考になると思っています。

MIXI 吉野氏|
配った時に見るのは、使い続けてくれるか?なのですね。

MIXI 笠原氏|
そうですね。こちらから来てもらって「これを使ってください」とやりますので、使い始めるか?は検証ができません。また、自分で「使いたい」となった人たちではないので、あまり熱量が高くない可能性もあります。だからこそ、そういう人が使ってみて好きになってくれたり使い続けてくれたりしたら、すごく良い兆候だと思っています。

こんな形で考えているので、実際に使ってもらったフィードバックの方がすごく参考になることが多いと思っています。

MIXI 吉野氏|
先ほどユーザーインタビューは参考にしないといった話もありましが、リサーチは使い続けるかリテンションできるかといったリアルな行動、また実際に触ってもらってのフィードバックなどがメインになってくるということですね。

MIXI 木村氏|
とくにスタートアップの時に事前のリサーチをやってもあまり費用対効果が良くないかなと思います。それよりも社内の人たちに触ってもらって、その人たちがはまっていかなければ、世の中に出しても絶対に受けないと思っています。

一方で、たとえば「モンスト」は長寿化して、利用者が約6,000万人以上います。そうすると、ニーズも多様化してきますので、事前のリサーチが有効になってくるケースもあります。

MIXI 吉野氏|
社内の人たちがはまらなければ・・・という話で、モンストをリリースした当時、MIXI社内にすごくゲームをやっている社員がいて、その人が「これはいけるね!」とリリースして触った瞬間に言っていたことを思い出しました。そういうことですね。

サービス成長までのみちのり

MIXIのものづくり 〜テクノロジーと共に創る新しい世界〜|MIXI TECH DESIGN CONFERENCE 2024 「成長までの道のり」

MIXI 吉野氏|
プロダクトをリリースすると、リリースした瞬間から運用や改善をどんどん進めていく事になると思います。リリースしてから成長するまでの中で、どんなところが大変なのか、どんな部分を頑張ったのかを伺えるでしょうか。

MIXI 木村氏|
「モンスト」でいうと、やはり火がつくまでが一番大変でした。木の棒を擦って火を起こすイメージで、わーっと擦って煙が出てきて火がつくところまでが大変です。「モンスト」の場合、世の中にリリースする前に社内で試していく中で煙が出て火がつくことを確認しました。火がつけば、後はリリースすれば、燃え広がって山火事のように火が大きくなっていきます。MIXIがやっているビジネススタイルは、バイラルでどんどん広がっていくようにするので、最初の火をつける、種火を作れるか?が最大のポイントですね。

当時、「何万人が一緒に対戦するようなオンラインゲームが流行っている中で、対面で直接接続して最大4人で遊ぶゲームが流行るとは思えない」と、パートナー企業に開発の相談をしたものの断られたこともあります。「4人で遊ぶゲームなんて見たことがないし、マネタイズできない」と断られるわけです。ここでも、まだ存在してないものを「これを作るんだ」と説明するのはすごく難しかったです。

逆に言えば、これらのハードルを乗り越えて火がついてしまえば、あとはバイラルで広がっていったというイメージです。

MIXI 笠原氏|
「みてね」の場合だと、ユーザーの利用サイクルを当初から意識していました。「みてね」では、自分がアップした写真や動画を家族に共有するというのがユーザーの行動です。共有するという行動があることで、撮った写真や動画を振り返ったり、整理して見返す価値が生まれます。

ユーザーが写真や動画をアップする、共有するという利用サイクルを回すうえで、共有したものに対する家族からのコメントやフィードバックも大事なんですが、運営が提供する「驚きの振り返り体験」みたいなものが重要だと思っています。たとえば、1秒動画とか、アップした動画を切り抜いて再編集してBGMを付けて贈る、ウィジェットで「何年前の今日の写真」がぱっと見られるといったものです。

こういう驚きの振り返り体験があると、「みてね」にまた写真や動画をあげようかな、共有しようかなという利用サイクルが回るのではないかという仮説をリリース前から持っていて、その仮説に基づいて手を打ってきている形です。

MIXI 吉野氏|
木村さんからは火種を作る、笠原さんからは循環というお話がありました。火種を作って、山火事までに広げていくところもある種の循環が必要かと思いますが、サービスをデザインする時、そうした循環という概念は考えていますか?

MIXI 木村氏|
因果関係や順番は重要ですね。開発におけるMVP(Minimum Viable Product)と同じで、枝葉のところは後から付けていけばよいので、最初に問いたい仮説が何か?を絞り込んで早く世に問うてみることが大事だと思います。

MIXI 吉野氏|
「モンスト」でも、因果関係や仮説、こういう工夫をしようといったものが大量にあったのではないかと思うのですが、何番目ぐらいに考えたアイディアで実際に形になったということはありますか。最初に「これだ」と思ったものが当たったのか、それとも何度か考え直しながら修正したアイディアが良かったねという感じか、いかがでしょう?

MIXI 木村氏|
「モンスト」に関しては半年ぐらいで作りましたので、Day1からほぼ迷わずに同じものを完成しきったというイメージです。その意味では1番目のアイディアということになります。ただ、その前にいくつか事業の失敗を体験してきていますので、そういった外れの仮説が積み重なった中で当たったのが「モンスト」になります。ただ、あたるときというのは、最初の仮説の段階でぐっとはまる感覚があって、もう失敗するという概念がない、みたいなところもありますね。

MIXIらしいものづくりとは?

MIXIのものづくり 〜テクノロジーと共に創る新しい世界〜|MIXI TECH DESIGN CONFERENCE 2024 「MIXIらしいものづくりとは?」

MIXIらしさとは?

MIXI 吉野氏|
実際に具体的なサービスの誕生から成長を振り返ってきましたが、ここからは抽象度をあげて、「MIXIらしいものづくり」というテーマで話していきます。大きな質問ですが、まず木村さんは「MIXIらしいものづくり」とは何だと思いますか?

MIXI 木村氏|
まず私は「ものづくり」だけだと、事業の上では25%ぐらいの比重だと思っています。一番大事なのは、「誰を喜ばせるか?」というWhoです。その人が求めている、あるいはあったら将来喜んでくれるだろうものが何か?を考えることが非常に重要だと思っています。

その中で、私たちMIXIはコミュニケーションの場や機会をどう提供するか?にフォーカスしていますので、世の中を見まわして「コミュニケーションで困っていることはないかな?」あるいは「こういう遊び場をつくったら、すごくニーズがあるんじゃないかな?」ということを追及することが大事だと思います。

コミュニケーションの課題というのは、世の中に沢山あると思います。私はコミュニケーションは「人生必需品」だと言っています。米や水のように「それがないとすぐに死んでしまう」という生活必需品ではないかも知れません。でも、もし「誰ともコミュニケーションを取らずに生きていってください」「可愛いお子さんの写真も一生見ないでください」となったら、人生はしんどいと思います。コミュニケーションというのは、それだけ生きていくうえで重要だと思っています。だからこそ、私たちがものづくりする上では、どれだけ豊かなコミュニケーションをイマジネーションできるかがすごく重要です。

MIXI 笠原氏|
MIXIらしさを考えると、MIXIにはコミュニケーションが好き、コミュニケーションサービスが好きな人が集まっています。また、良い人、優しい人、でも芯が強い人が多いなと感じます。そして、木村さんが「ユーザーサプライズファースト」というMIXI WAYを浸透させていただいているお陰で、良い意味でユーザーに驚きを提供したい、ユーザーの期待を超えたいという思いを持っている人も多くいます。こういったキャラクター、性格というのがものづくりにも反映されていると感じますし、MIXIのサービスの特徴になっていったらよいなと思っています。

MIXI 吉野氏|
確かに、サプライズということは非常に意識しながらサービス開発していると感じますので、それがどんどん出てくると良いですね。木村さんの話の中では「コミュニケーション」というキーワードが沢山出てきました。そこでお二人に聞いてみたいのが、MIXIらしいコミュニケーションというのは存在するのか?どんなものか?です。

以前にエンジニアなどで合宿をやった際に、MIXIらしいコミュニケーションについて話し合ったことがありますが、その時はあまり統一見解はなかったなと思います。いろいろな形のコミュニケーションがあり、意見があるよねという話になったのですが、お二人は何か思うところはありますか?

MIXI 木村氏|
営利企業としてのMIXIを考えると、コミュニケーションを事業としてやっているからこそ収益がしっかり上がるんだということは、私の信念にしています。SNS「mixi」も最盛期は高い利益率でしたし、「モンスト」も利益率はかなり高くなっています。インターネットサービスの中で、高い利益率を作れるのがコミュニケーションサービスの特徴であり重要な点です。

私が最近提唱しているMIXIの3L、MIXIのサービスを作っていくうえで大事な3つのLがあるので紹介したいと思います。まず1つめがLow User AcquisitionCost(低い獲得単価)、ユーザークリエーションコストが非常に低い。そして、Long Life(長寿)ということでサービスの寿命が非常に長い。そして、最後にLarge Revenue(大きな収益)。3つのLが大切だと思っています。

なぜLow User Acquisition Cost(低い獲得単価)が実現できるかというとバイラル、友達が友達に紹介していって指数関数的に顧客が増えていくからです。SNS「mixi」も広告宣伝費を一切かけずに数千万人のユーザーを獲得しています。モンストも最初は広告宣伝費をかけずに集客している。この結果として、顧客の集客コストが非常に低くなります。

次に、Long Life(長寿)。友達あるいは家族と一緒に使うツールになることで、ネットワーク効果、ネットワーク外部性のおかげで、サービス寿命が非常に長くなります。

そして、最後にLarge Revenue(大きな収益)。やはり友達と一緒にと盛り上がっている瞬間は、財布の紐がつい緩んでしまいます。あるいは可愛い子供や孫の姿を想像すると自分自身が嬉しくなって手を伸ばしてしまいます。近しい人との関係を豊かにする、そんなコミュニケーションサービス特有の財布の紐の緩み方というものがあり、それがLarge Revenue(大きな収益)につながります。

この3Lを達成できているコミュニケーションサービスが、MIXIのビジネスモデルとしていけているものになるのかなと思います。

“らしさ”をプロダクトに反映する

株式会社MIXI 取締役ファウンダー 上級執行役員 笠原 健治氏
株式会社MIXI 取締役ファウンダー 上級執行役員 笠原 健治氏

MIXI 笠原氏|
先ほど良い人、優しい人が多いという話をしましたが、MIXIには居心地の良い、ストレスがないコミュニケーションを作りたいという思考が多い気がします。結果として、「匿名で誰でもコミュニケーションできる、すごいコミュニケーションの場です」といった発想よりも、もっと細切れの場、「ここだとストレスがなく、自分らしくいられるよね」といったコミュニケーションをつくる方向で思考している人が多い気がします。

MIXI 吉野氏|
広い世界のコミュニケーションだと、やっぱり言いづらくなったりすることやいろいろなストレスが生じたりもする。そういったところを考えている人が多いということですね。

MIXI 木村氏|
MIXIのカラーはあると思います。ゲームでも、ゲームの中ぐらいはプレイヤー同士が撃ち合うような世界じゃなくてもいいよねみたいな思想があります。現実の世界には人と人が戦っているような紛争地域があったり、銃社会で悩んでいるような国もあったりします。でも、ゲームでは友達4人と協力して一緒に遊ぶ。そんな世界観でゲームを作るのはMIXIらしさだなと思います。

MIXI 吉野氏|
「モンスト」には何か文字を書き込んで通信したり、お互いにコミュニケーションしたりするための入力機能がほとんどなく、グッジョブボタンぐらいだと思います。あれは意図的にそうしていますか?

MIXI 木村氏|
意図的ですね。対面で遊ぶというのが最高の体験になって欲しい。だからこそ、オンラインでやるよりも集まって遊んでもらった時に完成するように、敢えてオンライン上のコミュニケーション機能を入れていません。

MIXI 吉野氏|
コミュニケーション機能を考えよう、作ろうと考えてしまいがちですが、敢えて削ることも大事ということですね。

MIXI 木村氏|
そうですね。お客さんに立ち返るということだと思います。

MIXI 吉野氏|
お客さんに立ち返るという意味では、いまは普段からユーザーサプライズファーストを考えていて、MIXIらしくやっていこうという文化ができていると思います。ただ、それを浸透させていくフェーズがあったと思います。ユーザーサプライズファーストに関しては、木村さんがまず「モンスト」から浸透させていったと思いますが、浸透させていくうえで難しかった点などはありましたか?

MIXI 木村氏|
「モンスト」が大きくなっていくなかで、やはりいろいろな考え方の人が入ってきました。その時に、「これがMIXIがやりたい世界なんだ」と伝えていくことは苦労しました。実際にやったのは、たとえば、「モンスト」がリリースされた時、X(当時はTwitter)に、モンストの画面キャプチャではなく、友達と一緒にモンストで遊んでいる様子がたくさん投稿されました。それを「これが僕らのお客さんなんだ。こういう世界を作りたいんだ」と、オフィスの壁一面に貼ったりしました。

ITサービスは、お客さんの顔が見えなくて、全部がDAUなどの数字になってしまうところがあると思います。しかし、ユーザーサプライズファーストを浸透させる上では、使っている人の様子を知ってもらう、イマジネーションしてもらうことがすごく重要だったと思います。

MIXI 吉野氏|
「みてね」の場合、子供がいて自分で使っている人などは非常にイメージが伝搬しやすかったかなと思いますが、笠原さんが苦労された点などはありますか?

MIXI 笠原氏|
ユーザーの方からの声というのは日々入ってきますし、レビューなども海外からの声なども含めてSlackですべて共有しています。そういったところで、どんなところが価値として届いているのかは感じられているかなと思います。

一方で、何を考えながら作ってきたのかをちゃんと言語化した方がいいのかなと思っています。一部は言語化していますが、私がある機能は作ったり、逆にある機能は作らなかったりしたのをどんな軸で判断してきたのかなどはちゃんと残せていません。そうした判断の軸といったものを言語化して残しても良いのかなと思います。

MIXI 吉野氏|
その内容は、非常に興味があります。

MIXI 木村氏|
「みてね」だと、“いいね”のような簡単フィードバック機能をつける/つけない論争をどう判断する、などでしょうか。

MIXI 笠原氏|
そうですね。“いいね”のような機能が欲しいとはよく言われがちです。ただ、単純な“いいね”ボタンは付けたくないと思っていて、今、もう少しエモーションが乗った“いいね”的な機能を作っていますので、そうしたものはありだと思っています。

ただ「ユーザーの要望だから」と何も考えずにぱっと作ってしまうのは少し違うと思っています。たとえば、単純な“いいね”ボタンだと、おばあちゃんは何にでも“いいね”してしまうかもしれませんし、あるいは気を遣って“いいね”され過ぎると、投稿者も気になって投稿しにくくなってしまうといったことも起こり得ますので、充分に考えながらやっていきたいと思っています。

MIXI 吉野氏|
ユーザーからのフィードバックなどは、これまで非常に多く目にしてきたと思います。その中で今のように考えてブロックをかける、作らないと決めるというのは、後天的なトレーニングによって生まれた感覚なのか、最初から持っていたものでしょうか?

MIXI 笠原氏|
ゼロから見てきたことは、立場上の強みになっていると思います。良くも悪くも「自分はこう思う。だからこういう機能にした。その結果ユーザーがこう動いている」ということを全部見てきたわけです。その結果「これをこう変えたら、こうなるよね」というのが見える部分があります。だからこそ、「何故そうしたのか」を言語化しておくことは大事だなと思います。ただ、言語化をやり過ぎると、私の過去の判断軸に縛られてしまうところが出てきます。古いものに縛られてしまうのもよくないので、塩梅が難しいと感じています。

MIXI 吉野氏|
新しいものに変えていかなければいけない側面と、今までの感覚値・経験として「これをやるとダメだよね」という部分のせめぎ合いが大事なわけですね。ありがとうございます。

未来の“コミュニケーション”に想うこと

“未来のコミュニケーション”に想うこと

MIXI 吉野氏|
ここからは最後のテーマ、未来の“コミュニケーション”やMIXIのものづくりということで進めていきます。“コミュニケーション”というものがどうなるか、その中で私たちがどんなものづくりをしていくか。木村さんが何か考えていらっしゃることはありますか?

MIXI 木村氏|
インターネットの歴史はオンデマンドの歴史だと思っています。たとえば、AmazonにしてもNetflixにしても、自分が欲しいものを細分化してロングテールで提供してくれます。一方で、その結果として、「みんなで同じものを見る、同じものを体験する」ということが逆に減っている世界になっています。だからこそ、MIXIとしてはテクノロジーを使うことで、コミュニケーションの機会をどう作っていけるか?が重要だなと思います。

たとえば、AIを使うにしても、AIが自分自身の好きなコンテンツを作ってくれるという方向よりも、AIが友達との予定調整をエレガントにしてくれるようなサービスをやっていくというイメージですね。テクノロジーを使ってコミュニケーションを進化させていくことをやっていきたいと思います。

MIXI 笠原氏|
ストレスがない、居心地が良い、そういうコミュニケーションをこれからも作っていきたいと思っています。現在のSNSサービスはどこも、レコメンデーションのアルゴリズムがどんどん強化されているなと感じます。その方がSNSへの滞在時間が伸びるし、投稿者も嬉しいということだと思います。一方で、友達間のもう少し狭い深いコミュニケーションみたいなものが取り残されている気がします。そんなニーズなどは面白いなと思ったりすることがあります。

MIXI 吉野氏|
滞在時間が短くても、お互いにより気持ちよい、お客さんもお金を気持ちよく払うし、小さなコミュニティで「滞在時間が短くても楽しいよね!」というものが出来ると最高ですね。

MIXI 笠原氏|
本当にできるかは分かりませんが(笑

同時にAIが進化していく中で、企業の生産活動にしても、ユーザーサイドにしてもAIと共にあります。私たちもAIをどう使いこなすかは大事なポイントになると思っています。

MIXI 吉野氏|
AIにはいろいろな可能性があると思いますので、どんどん取り入れて、より豊かな世界、豊かなコミュニケーションを生み出していければと思います。最後に、今日のお話も踏まえて新規事業を作っている人などにメッセージを贈るとしたらいかがでしょうか?

MIXI 木村氏|
世にないものを作りましょう!

MIXI 笠原氏|
今更ですが、やはりAIがすごく来ているわけです。だからこそ、これからの10年はAIと人間が協力してつくっていく共創時代だと思います。そこで新しいサービス文化が出てくると思いますし、AIと人間が共創する黄金時代になっていくと思っていますので、そこで一緒にやっていけたらと思います。

MIXI 吉野氏|
ありがとうございます。それでは、これでセッションを終了したいと思います。参加いただき、ありがとうございました。

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