今回も、株式会社トラストバンクの森杉育生さん(Mr.モリスギ)に、デジタルファッションやNFTについてお話を伺いました。
巨大ビジネスに成長したデジタルファッション
三石所長(当時。以下、三石) 今回は、徐々に一般にも浸透してきたNFT(※)や、NFTに含まれるデジタルファッション・デジタルグッズなどの「デジタルプロダクト」について、重点的にお伺いしたいと考えています。
(編集部注:NFTとは「Non-FungibleToken(ノンファンジブル・トークン)」の略称で、ブロックチェーン技術を活用し、偽造できない鑑定書や所有証明書が付いたデジタルデータのことを言います。)
森杉さん(以下、Mr.モリスギ) 今日もよろしくお願いします!
三石 Z世代やミレニアム世代を中心に、今はデジタルファッションをはじめとする「デジタルプロダクト」にお金を払うことが当たり前になってきていますが、そもそも、デジタルファッションというのはどういったものなんでしょう? アバターが着る服を買うとか、そういった意味合いであっていますか?
Mr.モリスギ その通りです。ARで着るファッション、VRで着るファッション、アバターに着せるファッションのどれも、「デジタルファッション」に当てはまります。
たとえばオンラインゲーミングプラットフォームRobloxの中にあるゲームチャンネル「Vans WORLD」内では、VansのTシャツや眼鏡、シューズなどが売られています。ユーザーはそれらを購入して、Robloxの中で身につけて楽しんでいるのです。
こうしたデジタルファッションは、バーチャルコンサートととても相性が良いんです。アーティストがRobloxの中でバーチャルコンサートを開催して、そこで限定グッズを発売することができます。現実世界でもコンサートを行う時は観客を動員して、限定グッズを発売しますね。ただし、バーチャルコンサートがリアルと大きく違うのが、スケールの大きさです。リアルでは動員できる観客は会場のキャパシティで決まりますから、多くても5万人、10万人が限界です。ところが、バーチャルにはそのような制限がありません。たとえば、2020年にRoblox で行われたリル・ナズ・Xのバーチャルコンサートでは3,300万ビューを記録しました。このときのグッズの売り上げは8桁ドル(少なくとも10億円)と言われています。これは、リアルではあり得ないことです。
三石 面白いですね! ビッグアーティストに関しては、デジタルファッションはすでにビッグビジネスとして成立しているんですね。他にも、デジタルファッションで大きく収益を上げた例などはあるんでしょうか?
Mr.モリスギ RTFKT(読み方: アーティファクト)という、NFTが流行するずっと前からNFTベースのデジタルシューズを販売していた会社がありますが、2021年3月に彼らが作ったNFTのデジタルシューズ600ペアー分がたった7分で310万ドル(約3.3億円)で売れました。他にも、FortniteでTravis Scottがアバター販売で2,000万ドル(約22億円)以上の収益があったと報道されるなど、デジタルファッションで稼いでいる事例はたくさんあります。
三石 なるほど。ちなみに、そのシューズはバーチャルで履くためのものであって、現実に履くことはできないんですよね?
Mr.モリスギ リアルの靴を作ってくれる場合もありますが、基本的にはデジタルオンリーのものが多いです。ただ、ARで履くことができるので、Snapchatで自分の足にカメラを向けると、デジタルシューズを履いているかのような画像が撮れます。InstagramのARフィルターでも同じようなことができますね。
AR機能って誰でも使えるんです。デジタルシューズを購入していない僕や三石さんも、AR機能を使えばそのシューズを履いているかのような画像が撮れる。それなのになぜデジタルファッションなどNFTをお金を出して買うのかというと、やはり「所有権を持つ」というところに価値を見出しているからです。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
デジタルの最大の強みである「物理的な制限のなさ」がデジタルプロダクトを一大ビジネスにのし上げる。リアルでは考えられないような巨額の収益が、デジタルの世界では大いに可能となっている
NFTの価値を最大限に高める「ドロップ文化」とは
三石 少し前にファッションブランドSupremeが世界規模で流行ったことがありましたが、デジタル版Supremeだと考えるとイメージしやすいかもしれません。
Supremeは入手困難な限定品を多く発売しており、「Supremeを所有している」ことがステータスになっていました。Supremeを持っていることを自慢できるし、憧れの対象にもなる。それはデジタルファッションでも同様に、オンラインで身につけて周りに騒がれることが、購買欲を高めているということなんでしょうね。
Mr.モリスギ はい。そこに関しては、デジタルもリアルも同じだと思っています。たとえばモナ・リザという有名な絵画がありますが、モナ・リザを写真に収めたり、精巧なレプリカを作ったりすることは技術的に可能です。しかし、サザビーズなんかのオークションで競り落として所有証明書をもらえたら、やっぱり比べものにならないくらい嬉しいはず。それと同じことを、NFTはデジタル上でやっているだけなんです。
ただ、デジタルファッションの方がやり方がうまい。デジタルデータでありながら、リミテッドのような形にして数や購入時間を限定して売り出します。「今から24時間で100個だけ販売します」とか。
この数や購入時間などを限定して売り出す手法を「ドロップ」と言います。多くの若者向けブランドやサービスは、このドロップをうまく活用することでモーメンタムを獲得していると思います。
三石 徹底して流通数を制限することによって、二次流通で市場に出回ったときに価値が大きく跳ね上がるわけですね! こうした事例って、やはりチャレンジしている企業もベンチャーのような新しい企業が多いんでしょうか?
Mr.モリスギ それが、そうとも言えません。たとえばGUCCIやルイ・ヴィトンは、NFTアートに参入しています。GUCCIはデジタルアニメーションをNFTアートオークションに出品して話題になりましたし、ルイ・ヴィトンは「LOUIS THE GAME」というブロックチェーンゲームのアプリをリリースしています。
三石 なるほど、伝統的なブランドも、デジタルの世界に参入してブランディングを始めているんですね。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
デジタルだからこそ、販売する時間と個数を制限することで付加価値を高めることで大きな効果を生み出すことができる
これから、デジタルファッションはどう進化していく?
三石 デジタルファッションを中心としたNFTの価値について理解できてきました。さらにお聞きしたいのが、今後の展望です。これからデジタルファッションはどのように進化していくんでしょうか? シンプルに、クオリティが上がっていくんでしょうか?
Mr.モリスギ 僕は、AR・VRをはじめとしたメタバースの世界ではデジタルファッションの存在が当たり前になっていくと思っています。
三石 リアルの世界でTPOに合わせて服を着るようなイメージで、普通に着飾って参加してね、という話になってくると。
Mr.モリスギ すでにゲーム上のアバターでは自分の人格やファッションで着飾るということが当たり前ですし、ARグラスのようなものが今後は出てくると思っていて。たとえば、現実世界の自分は腕時計をしていないんだけど、ARグラスを通じて見てみると、購入したNFT腕時計が見えるとか。
三石 現実ではダサい格好をしていても、デジタルファッションでカッコイイファッションをしていれば「映える」という(笑)。
Mr.モリスギ 映えますし、デジタルなので全く汚すことなく転売もできます。さらに言えば、(コンピューティングのコストを別にすれば)大量生産・大量廃棄も起こらないですし、環境にも優しいですよね。
ただ、そういう世界になるには、おそらく5年から10年はかかると思います。メタバースとNFTの世界が全部融合してバーチャルと現実が重なり合うのが、ここ10年くらいのシナリオじゃないかなと思っています。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
デジタルプロダクトにARを融合させることによって、リアルとデジタルの垣根がどんどん低くなる!
三石 今回もすごく刺激的なお話でした。森杉さん、今回もありがとうございました!
―NFTやメタバースが牽引するデジタルの世界では、アートやプロダクトを生み出す「クリエイター」の価値がこれまで以上に高まっています。
次回の【海外Hot Info】では、「NFTやメタバースの世界で活躍するクリエイターとは?」というテーマで、引き続き森杉さんにお話を伺います。次回もぜひお楽しみに!