第6回のテーマは前回に引き続き「ヘルスケアアプリ」。今回はアプリの開発にも携わっているDearOneのメンバーが、「ヘルスケアアプリをつくるときに考えていること」を中心に議論が盛り上がりました!
ヘルスケアアプリをつくるときに考えている3つのこと
小嶋 今回、皆さんとぜひ議論したかったのが、「ヘルスケアアプリをつくるときに何を考えているか」ということです。
三石 面白いですね! では早速、小嶋さんが考えていることを語ってもらおうかな。
小嶋 僕は3つあります。1つは「ユーザーがアプリを使う理由を必ず用意すること」です。群雄割拠のヘルスケアアプリが溢れているなかで使ってもらうためには明確な理由やインセンティブが必要で、それを事前にしっかり確立できることが肝だと思っています。
三石 うんうん、大事な視点ですね。
小嶋 2つ目は「ユーザーの手間を極力排除すること」。たとえば、機器連携系のアプリでは、体重計に乗るだけで自動でアプリにデータが転送されるようになっています。このように、「いかにユーザーが何もしなくても連携できるか」が重要で、BluetoothやWi-Fiなど、いろいろな技術を使ってそこを実現する必要があると思います。
三石 面倒だとアプリを使わなくなっちゃったり、アンインストールしてしまったりすることに直結するからね。
小嶋 そうなんです。だから最後の3つ目は「継続させるためのコミュニケーション設計」です。たとえば今グロースハックを支援しているアプリでは「3週間使うと人は習慣になる」という考えのもと、アプリプッシュとメッセージをつかい、初めてインストールしてから3週間で定着させることができるかに注力しています。
小野木 僕は今の3つを聞いて、2つ目の「ユーザーの手間を極力排除すること」が一番重要だと感じました。実際に自分でもナイキやアシックスの歩数管理系アプリを使っていたんですけど、面倒になってアンインストールした経験があるので。
赤木 ヘルスケア系のアプリはユーザーがインプットしたデータを後で振り返って分析することがよくあると思うので、そこでどれだけ分析しやすいインターフェースにしているかはどこもこだわっていて、さまざまな創意工夫がありますよね。たとえば僕は睡眠分析してくれるアプリSleep Cycleを10年ぐらい使っているんですけど、グラフのUIがどんどん進化しています。
三石 自分でデータを入れるのが面倒なんですよね。
ササキ インプットの観点で言うと、森田さんのレポート(※前回のアプリ同好会vol.5に掲載)を見て、早速、FiNCを入れてみたんですけど、属性情報をただ入力するだけでなく、チャットでAIと会話するように入れていけるので、面白いですね。
赤木 対話型、カンバセーショナルフォームは最近ちょっとずつ出てきましたね。コンバージョンレートで調べたら、従来に比べて2.5倍にアップしているらしいです。スマホ主流の特にZ世代に馴染みやすいと。
三石 それはUIUX観点で、重要な視点ですね。
濱田 30歳ぐらいを過ぎていると、従来の入力するフォームUIに慣れているんですが、若い人は「古臭い」と思っている印象がありますね。実際に、以前、健康系のアプリ開発の話のときに、「親近感を演出するためにチャット形式にしたい」という話が出ました。
三石 気軽に情報を吸い上げるときには、そっちのほうがいいんでしょうね。フレンドリーな感覚で。
濱田 「入力する」という実感そのものをなくしていきたいという考え方ですよね。
三石 コンテンツにアクセスする上で障壁となるような仕組みづくり、いわゆる“フリクションレス”な体験設計をすることが重要なんでしょうね。『おもてなし幻想』という名著があって、そこでは「フリクションをなくすことこそが究極のCS」と提唱しています。
三石 購入した商品に問題が起きてコールセンターに電話して、そこで気持ちいい挨拶や対応をしてもらうよりも、そもそもコールセンターに電話するような行為が起きること自体をなくすのが理想ですよね。アプリもそうで、会員登録の段階などでストレスをなくすことは、恒常的なテーマだと思います。
継続して使ってもらうにはゲーム性、UIUXを工夫することが大切
小嶋 UIの観点では、やはりデザイナーの橋井さんの話を聞きたいですね。
橋井 はい、今回はみなさんが歩数系やウェアラブル系の話をされると思ったので、僕は別のアプローチから気になっているUIのアプリを紹介します。
三石 何だろう?
橋井 水分管理アプリです。コロナでみんなマスクをずっとしているので、水分補給が不足している人が多いのではないかと思い、アップストアを調べてみました。
三石 なるほど。どんなUIが多かったんですか?
橋井 水分管理系のアプリは水をイメージするようなブルー系のUIが多いですね。その中で僕がいいなと思ったのが「水分補給 Water Llama わたしの水」です。動物のラマがキャラクターになっていて、水分補給を促すような仕掛けになっています。このアプリはいろいろな飲料を飲むとラマの身体が地層のようにカラフルな色が積みあがっていくのが楽しいです。課金すると、ラマ以外にキリンなどの動物が出てきます。
(出典:Water Llama のアプリインストールページよりhttps://apps.apple.com/jp/app/id1454778585#?platform=iphone)
小嶋 橋井さんも、課金したんですか?
橋井 はい、課金すると水だけでなく、お茶やコーヒーなどの飲料も使えて、オリジナルで新しい飲料を作成することもできます。ドリンクの記録も直感的にできるので触っていて楽しくて、起動したくなるんです。
三石 面白いですね。老若男女問わずかわいがられるようなデザインなのもいいね。その他、このアプリを使っていて継続して使いたくなったポイントはありましたか?
橋井 1日1日ノルマを達成すると、ふくろう、くま、たこ、パンダ、くじゃくなど、動物が増えていきます。他にも「酒抜きだクマ」など、10日間禁酒に取り組むチャレンジキャラクターもあって、クリアすると新しいキャラがもらえて。面白いキャラやカラフルなUIにして「起動したい」と思わせるのが上手なアプリだなと思いました。
小嶋 継続させるためにゲーミフィケーション要素を取り入れるのは、ヘルスケアの領域では注目されていますね。
(※編集部注……ゲーミフィケーションとは、ゲームデザインやゲームの原則などをゲーム以外の分野に応用することです)
松本 それでいうと、私はピクミンのウォーキングアプリ「Pikmin Bloom」が楽しくてハマっています。自分が歩くと街中に花びらをまいて、街中が花いっぱいになっていって。
ササキ 私も使っています!! ピクミンがどんどん育っていくんですよね。普段は散歩しないのに、ピクミンのためにわざわざ散歩します。
(出典:Pikmin Bloomのアプリインストールページより https://apps.apple.com/jp/app/pikmin-bloom/id1556357398)
小嶋 僕も入れています。あの日記機能のUIが凄いよね。毎日つけちゃう。
ササキ そうですよね。1日を振り返ってみようと、歩いた地図の軌跡と歩数、その日取った写真1枚とメモが書けて。
松本 毎朝、通知も来るんですが、そのメッセージもかわいいんですよね。「今日は雨だから傘をもってね」「良い天気ですよ、歩いてみませんか」とか。
小嶋 やっぱりゲーム性を持たせるなど工夫して、いかにして継続させるかをどの会社も考えているんですよね。僕が支援しているクライアントさんも、カスタマージャーニーを徹底的に考えて、分析して、どうしたら継続するかを突き詰めています。
DearOneが開発に携わるヘルスケアアプリとおすすめポイントをご紹介
小嶋 この流れで、僕たちDearOneのメンバーが担当しているヘルスケアアプリについて、ぜひ紹介させてください(笑)!
三石 もちろん大歓迎ですよ! お願いします!
小嶋 オムロンさんのOMRON connectは、体重計に乗るだけで体重などのデータを自動でアプリに送ってくれる素晴らしいアプリです。4人まで登録できるので家族全員が使える上に、体重に応じて識別してくれるから、本当にただ乗るだけで記録されていくんです。
三石 体重以外のデータも取れるんですよね?
小嶋 もちろんです。基礎代謝や体脂肪、血圧、体温など、いろいろなデータが取れます。この端末1つで管理できるので、本当におすすめです。
それから、DearOneの伴走型アプリ開発サービス「ModuleApps」でつくっている事例ですと、おくすり手帳の連携機能などがある「ウェルパーク」や「江戸川区総合公式アプリ」が、ヘルスケアアプリと連携しています。
小笠原 他にも僕たちDearOneが担当しているところでいうと、日清オイリオさんの「バランス日記 ~10 食品群チェック~」があります。開発の目的は明確で、油脂が一般的に健康を害するイメージがあったものの、実際は短鎖脂肪酸を摂ると痩せやすくなるなど、じつは健康に寄与することがたくさんあることがわかったので、ネガティブなイメージを払拭することが大きな目的の1つでした。
河野 加えて、日清オイリオさんは、三重県鈴鹿市と鈴鹿医療科学大学との産学官連携の取り組みで、MCT(中鎖脂肪酸)を含む多様な食材摂取が栄養状態の改善につながることを確認したそうです。それをもとに、このアプリを共同で開発した東京都健康長寿医療センターが考案した油脂類を含む「10 食品群チェック」をつくっています。
三石 なるほど!
河野 つまり、油脂類は身体に悪いどころか、長生きするための10食品群の1つだったんです。実際にこのアプリをやってみると、10食品群を全然摂れてないことがわかって、面白いですよ。
三石 このアプリは、日清オイリオさんのプロダクトを買ってもらうためというよりも、社会的大義の一環ということですね。
小笠原 入口はそこで、現在はD2Cを実現しようと、ログインボーナス希望をつけたり、ECで使えるクーポンコードをプレゼントしたりしていますね。
小嶋 日清オイリオさん、DearOneのアプリ分析ツールAmplitudeでデータ分析をしてましたよね。
小笠原 そうですね。10食品群の日記をどういう風につけている人が、どういう利用をしやすいか。健康に対する意識が高い人はこういう行動をする、という解析をして、フィードバックしています。
小嶋 アプリのUIもいいんですよね。直感で押していけばできて、自分のグラフも友達や家族にシェアできる。めちゃくちゃシンプルでいいですよ。
河野 「食べ友機能」ですね。もともとは高齢者とお孫さんとのコミュニケーションの創出のために生まれたもので、食べ友になった人の10品目群チェック表を見ることができる機能です。
三石 家族の健康管理の観点は最近よく聞きますね。話は尽きませんが、そろそろ時間なので今回はここまでにしましょう。今年も、アプリ研究会をよろしくお願いします!
――第7回のアプリ研究会も、お楽しみに!