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CX Circle TOKYO 生成AIが興隆する今、顧客体験価値はどう変わる?「アフターデジタル」著者・藤井氏が語る|ビービット 執行役員CCO(Chief Communication Officer)【イベントレポート】

2023.09.27

この記事は、2023年6月28日に開催されたCX Circle TOKYOの一部セッションレポートです。

『アフターデジタル』シリーズでお馴染み、UXの老舗ビービットCCO藤井氏が登壇!

株式会社ビービット 執行役員CCO(Chief Communication Officer) 藤井 保文氏

ビービット 藤井氏|
こんにちは、beBit(ビービット)の藤井と申します。

本セッションでは「生成AIが興隆する今、顧客体験価値はどう変わる?」というタイトルで、少し未来っぽいお話をさせていただきます。

弊社はユーザーエクスペリエンス(UX)について、23年間ずっと追究してきており、UXという業界では、やや老舗のような企業です。

私はそこで執行役員CCO(Chief Communication Officer)という役割を担っております。

特に2014年以降は台北と上海に拠点を移して仕事をしており、今は東京に戻ってきているのですが、海外事例も含めUXの最新状況をアップデートしていくということをやってきました。

ビービットのご紹介

また『アフターデジタル』という書籍シリーズを刊行しており、多くの方に読んでいただいたことから今回のような場にも呼んでいただけているのかなと考えています。

実は現在『アフターデジタル』シリーズとしては5冊の本を出しており、同名の書籍を2冊刊行した後、『UXグロースモデル』という数々の企業様の中で使っていただいている実用書があり、ノウハウなども含めかなり細かく書かせていただいています。(加えて、同時に『アフターデジタルセッションズ』を刊行)

それから去年、『ジャーニーシフト』という新しいタイトルの書籍も上梓しているのですが、今回は「アフターデジタル」や「ジャーニーシフト」といったお話は一切せず、生成AIのお話をしていけたらと思っています。

きっと「ChatGPTなどを触ったことがない」という方から詳しい方までいらっしゃると思うので、基礎的な部分から目線合わせをさせていただきつつ、それが顧客体験(CX)やUXにどう響いてくるのか、そして私たちが何を考えなければいけないかという点までお話しできたらと思います。

生成AIに関する頭合わせ −AIは情緒に弱いのか?

言葉のすり合わせ −AIの種類

まず生成AI(Generative AI)についてご説明します。

言葉のすり合わせ

生成AIとは別にAGI(汎用人工知能)という言葉があります。スライドの左端にあるこれが一番広い概念で、右に行くにつれだんだん狭くなっていくと認識していただけたらと思いますが、AGIというのは人間と同じ感性や思考回路を持つ人工知能のことで、まさに「鉄腕アトム」を作るようなイメージのことを行おうとしている領域です。それゆえ、人工知能の研究においては、これが最終目標と言われていたりもします。

一方生成AIは、人間の脳が体を動かしたり何かしらの表現をしたりするのと同様に、さまざまな事象について大規模なデータセットからパターンを識別し、新しいオリジナルなデータまたはコンテンツを生成するものです。

ものすごく簡単にいうと、「すごくかわいい猫を描け」と命令されたら、世の中にあるパターンの中から「すごくかわいい猫」はこういう感じだろうというものを描いて出します。

ただし「もう一回出して」と言われても、人間も全く同じ猫の絵は描けないですよね。生成AIも同じ指示・命令に対し全く同じものを出すわけではなく、その時その時に応じたアウトプットを出してきます。

ですから、モノを作るとか生成する、あるいは情報を提示するという意味では、人間と近いことができるのが生成AIだということになります。

そこには画像のAI、音楽のAI、言語のAIなどさまざまな生成AIがある中で、言語の部分だけ引っ張ってきたものをLLM(大規模言語モデル)と呼びます。

LLMは学習範囲をテキストに絞って、大量のテキストデータでトレーニングされており、「言語で聞くと言語で答えを返してくれるモデル」と理解していただけるといいかと思います。

株式会社ビービット 執行役員CCO(Chief Communication Officer) 藤井 保文氏2

昨今はよくChatGPTが話題に上っていると思いますが、ChatGPTとは何かというと、このような流れの各研究の中では、OpenAI社が出しているLLMが「GPT」という名前で、皆が使いやすいようそのGPTをWebのブラウザに載せたものがChatGPTだということになります。この辺りを混同しているケースがあったりするので要注意です。

私は本セッションでChatGPTだけの話をするつもりはなく、画像の話も少し含まれますが、基本的にはGPTはじめLLMや生成AIの話を中心に進めていけたらと思っています。

インプットがテキストから画像に広がると、例えば冷蔵庫の中をパシャっと写真に撮ると、その冷蔵庫の中にあるもので作れる料理のレシピを出してくれるサービスなども登場しており、一時期Twitterなどでバズっていました。

この技術は結構いろいろな場所で驚かれていて、これがまさに今日の話に関わってくるのですが、今までだって余り物で作れる料理のレシピを紹介するサービスなどは、各方面で企画・提供されてきたわけです。

ただ、従来はユーザーがいちいち「ニンジンや牛乳がどれくらい残っているか」といった情報を入力する必要があったのが、写真を一枚撮るだけでいいと思うと、サービスの作り方の根本がひっくり返ってきているともいえると思います。

GPTでできることは?

GPTでできること

他の例に、スライド左端の旅行サイト「エクスペディア」のサービスがあります。「エクスペディア ChatGPT」などでGoogle検索すると出てきますが、チャット上で普通の会話調で、例えば「いついつにハワイに行くが、どの島に行けばいいか?」、「目的がハネムーンになったが、この時期に行くのはそれに適しているか?」など、聞いたことに全部答えてくれ、最終的に泊まるべきホテルなどを提案してくれるサービスまで実現しています。

スライド右側はChatGPTを出しているOpenAI社の共同創業者兼社長がTEDで話したときの様子ですが、「このトークが終わった後に食べるのにオススメの食事を画像で出してくれ」といったらそれが画像で出てきて、「実際にそれを作りたいと思うが、それに必要な食材を出して」といえばふさわしい食材を出してくれています。

それを、アメリカで「簡単にネットスーパー的にモノが買える」と普及しているInstacart*1 … Continue readingで実際に買えるかどうか確認し「購買リストを出して」とか、そうして出したものを「全部Twitterに投稿して」などと、全部ChatGPTの画面だけで命令し、実行させています。

これがどういうことを示しているかというと、従来は例えば写真を撮ったら、料理レシピアプリにアップし、そこからレシピが出てきたら、今度は買い物のために別のアプリを開いて材料を買い物リストに入れ、さらにまたその写真を撮りTwitterを開いて「今日はこんな料理を作ろうと思っている」と投稿する必要がありました。

このような形で、それぞれのサービスごとに人間は行動していたわけですが、それらが今は全部APIでつながる形になってきているので、例えばエクスペディア、Instacart、Twitterなどが全部ChatGPTで開ける形になってきています。

どの企業も通常、自社のWebサイトやアプリに来てほしいと考えるはずですが、このように全部チャットの中で完了するという事実を受け入れられるのかそうでないかで、施策や戦略も大きく変わってくるようになってきていると思います。

冒頭のお話に戻ると、今回このように基礎的なところからお話しさせていただいているのには意図があります。

実は私も最近、生成AIでUX/CX関連のプロジェクトをやらせていただくことが増えてきていて、コンサルティングのクライアントの方と話をしていると「でもChatGPTって、こういうことはできないじゃないですか?」といったお話も出るのですが、結構勘違いや過小評価しているケースが多いなというふうに思っています。

GUIに続く革新!? GPTの社会的インパクト

GPTの社会的インパクト

生成AIについてはさまざまな人がその革新性をコメントしていますが、例えばビル・ゲイツ氏*2米国Microsoft創業者。同社は検索エンジン「Bing」に搭載されたAIとのチャット機能「Bing AI」を提供しているは「GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)を初めて見たときと同じくらいの衝撃を感じている」と語っています。

そこまではいかなくても「モバイルデバイス登場くらいのインパクト」、「インターネット登場と同レベル」といった意見は散見されます。

それをどうして多くの人が認識できていないかというと、ChatGPTの精度が今より低かった時期に質問していたり、質問の仕方があまりChatGPT向きでなかったりするケースなどもあり、「ChatGPTなんて大したことないな」と思い込んでいるからです。

これは実は、日本語版が英語版ChatGPTよりも賢くないと言われているからです。グローバル全体で見たときに英語の学習サンプル数の方が多く、より多く学習されているのですから、当然日本語で聞くよりもビル・ゲイツ氏が英語で聞いているときなどの方が賢い回答になっているはずです。

例えば、「病気の子供を持つ父親に何と声をかけますか?」といった繊細な質問に対する回答が、意外ととても感情表現豊かであったり、人をおもんばかった回答だったりすることが結構あります。

こう聞くと「いやいや、ChatGPTはじめAIが相手の感情を読み取れるわけがないし、情緒的な表現などできるわけがない」と言われるケースが結構あったりするかもしれませんが、そんなことはなくとても得意です。

AIはどちらかというと、文章を出すよりも読み取ることの方が得意だといわれています。ですから、皆さんが適当な文章を打ち込んだとしても、それが意図しているところをきちんと引っ張ってくるんです。

最近だとAIをWebブラウザにつなげると、インターネット検索までしてくれるようになるのですが、人間が入力していない単語でも推測検索していたりできます。

つまり人間の意図の裏にある背景を読み取って、まるで「それならこれとこれとこれ、3つくらいの検索ワードを意図しているのかな」と考えてでもいるかのように、演算して検索していたりします。

そして質問に対する回答も、その高い読み取り能力を使って、世の中にあるさまざまな情緒あふれるいい文章から引っ張ってきているので、実際に感情を持っているわけではないにもかかわらず、一般的な人が普通に返すよりはるかに感情表現が豊かなことも多いです。

ですから、私たちはこの辺りを過小評価しないような形で考えていけたらいいなと思っています。

AIが顧客体験にもたらす脅威

生成AIの活用における3段階

生成AIの活用における3段階

それではここから、AIが顧客体験に何をもたらすのかという話を、脅威と機会の両面にわたって紹介しようと思いますが、今回は基本的にスライドに「第3段階」と表した部分のお話にしようと思っています。

今、世の中で行われている生成AIの取り組みは、大体「第1段階」、「第2段階」がほとんどです。

「第1段階」は「対個人」です。個人が生産性を上げるためにChatGPTなどを使い、例えばいいバナーデザインや、いいメールタイトルを思いついて、開封率の高いメールが書けたりするといったレベルを指します。

次に「第2段階」が「対業務」で、業務プロセスを想定したもので、例えば「営業マン用のAIチャットボットを作ろう」といった形で業務に組み込んでしまうタイプです。

一方、今回のテーマは「顧客体験」なので、「第3段階」の「対顧客」、つまり顧客に対し提供しているサービスの中でAIをどう使うかというお話ができたらと思っています。

かなり多くの企業では、コンプライアンスの問題なども含め「第1段階」と「第2段階」までしか意思決定が難しく、「第3段階」に進めないどころか「第1段階」「第2段階」に取り組むことにさえ二の足を踏んでいるケースもあると思います。

私自身、「第3段階」は結構怖いなと思っています。例えば「Speak」という英語を勉強するためのアプリがあり、これは全部AIが先生として対応してくれるサービスです。かなり精度が高く、本当に人間の英語の先生みたいに回答してくれます。

AIが何か言ってきたことに対し、私が英語で回答すると、「今の言い回しはあまり良くないから、こういう言い回しに変えた方がいいよ」とか「発音がちょっとおかしいから、ここを直した方がいいよ」などと教えてくれたりします。

これについてUXの観点から考えてもらいたいのですが、英会話を勉強して外国人の先生に何かを習おうとしたとき一番面倒くさいことの一つは、わざわざ予定を空け予約を取る必要があることです。

せっかくいい先生がいるのにスケジュールがあわず「ああ、今週何回もレッスンをやりたかったのに来週になっちゃうな」といったシーンもよくありますよね。

それから、英語に慣れていない人は、知らない外国の人に対して英語をしゃべることにまずとまどうはずです。「発音が悪い英語を喋るのが恥ずかしい」とか、「相手が言うことも多分わからないぞ」などと思いながら、かなりドキドキしながらやり取りするわけですが、そもそも相手AIだったらそうはならないですよね。

つまり、先生はAIなので予約する際にも自分の都合だけ考えればいいし、また相手がAIであればいくら喋りかけても心理的抵抗は低いです。

ですから、人によっては何十年か生きてきた中で、一番英語を喋ったのはこの「Speak」に対してという人もいます。

それはやはり、人間が相手だと少し精神的なハードルがある人でも、AIなら喋りかけられると思えるからです。

裏を返せば、このようなサービスってすごく怖いですよね。なぜなら、人間の先生がいなくてもサービスが提供でき、しかもユーザーにとっては予約するときや、実際に喋るときのハードルがないということになると、これはもう従来のビジネスモデルは完全に崩壊しているといって過言ではないからです。

何ができるようになるのか?

何ができるようになるのか

そこで、無料版ではなく有料版のChatGPT-4に、試しに「GPT-4が大々的に活用された結果、現存する教育業界の大企業にとって危機となるシナリオを5つ挙げてください」と聞いてみました。

まず1つ目の回答は「教育資源の価値低下:GPT-4によって教材や教科書の内容が簡単に生成・カスタマイズされるようになり、従来の教育資源の価値が低下する」。

例えば、英語の単語帳みたいなものなら既に全部、生成AIで出せるのではないかということになると、単語帳の市場はどんどんなくなっていくでしょう。

なぜなら、「自分が今日勉強した方がいい英単語を10個教えて?」とGPT-4に聞いて出してもらえば、それで十分になる可能性があるからです。

2つ目の回答は「伝統的な講師の役割が脅かされる」。これは今紹介した「Speak」の例のように、「別に先生なんていらなくなってしまうのではないか?」という話です。

3つ目の回答は「オンライン教育プラットフォームの競争激化:GPT-4を活用した新規プレイヤーが教育市場に参入し、現存する大企業が市場シェアを失う可能性がある」。これも「Speak」の例のようにあり得ますよね。

4つ目の回答は「収益構造の変化」。これもわかりやすくて、先生が無料で手に入るようになってしまったので、収益構造は大きく変化しています。

そして5つ目の回答は「教育の品質に関する懸念」。「GPT-4が人間の教師と同等またはそれ以上の品質で教育を提供すると主張される一方で、AIによる教育の品質やその評価方法に関する懸念が生じる可能性がある」。

このように、倫理的問題のような部分にまでちょっと触れ始めていますし、「これにもう5個追加して」と言ったら、このほかの回答も追加してくれます。

皆様も、ご自身の業界に関して同様に質問してみると、結構ドキッとする回答が返ってくるかもしれません。

変化の段階仮説

変化の段階仮説

ここで、変化の段階を4つに分けてみました。皆様の中にも、例えばWebサイトやアプリを持っている方、メルマガを作っている方などさまざまな方がいらっしゃると思いますが、それらに関する作業が代替されつつあるという話が少しずつ出てきています。

そうすると、例えばデザイン・コーディング・コンテンツなどは、生成によって制作が不要になることも当然考えられますが、これが変化の第1段階です。

第2段階では、インターフェースが刷新されます。例えば、皆様がECで何か物を買うとき、今はいわゆる写真が並んでいるところに行って、フィルターをかけ自分の好きなものを選ぶといったことをしていますよね。

そうではなく、例えば「1週間くらい前に黒いNikeのコラボスニーカーか何かをInstagramで見た気がするんだけど、それっぽいものがあったら出して」、「ちなみに僕は男の子で靴のサイズはこれぐらいだから、該当しそうなやつを全部出して」といったら、LINEみたいなチャット画面の中から次々に商品情報が出てきて、「そうそう、多分これだったと思う。これはどこにある?いくら?」といった情報も全部出してくれるようなイメージです。

こうしたことは、今でこそまだ実現されていませんが、多分近い将来簡単にできるようになるのではないかと思っています。

そこまでいくと、デザインやコーディング以前にインターフェース自体がガラッと変わってしまうので、そちらの方がより大きい変化になると思います。

第3段階では、提供される価値やビジネスモデルが刷新されます。これは先ほどの「Speak」の例のように、コスト構造が変わってしまったり人・お金・教材を調達する必要がなくなってくることです。

そして第4段階は、これが一番怖いのですが、個人が自分自身向けのサービスをどんどん作れるようになることです。これをイメージすると、例えばランニング時のアプリとしてNike Run Clubなどがありますが、「基本機能はNike Run Clubと同様で、さらにサプリメントを飲みたいから、そのタイミングをリマインドする機能と、サプリの購入ができるEC機能を付けた私専用のアプリを作って」といったら結構普通に実現できそうだという感触があります。

もちろんこの第4段階までいくのはまだしばらく後だと思いますが、そういう時代に差し掛かってきているのだということはいえると思います。

そのような中、それでは「AIが顧客体験にもたらす機会」とは何なのか、私たちは今何をすればいいのかを少し考えていきたいです。

価値の出し方1:インターフェース

価値の出し方1 インターフェース

これについて4つの観点があります。まず、現在のチャットのインターフェースって使いにくいですよね。いちいちプロンプト(命令文)を全部書くのは大変です。しかもユーザーの書く能力に依存する現状では、まともなプロンプトが書けるユーザーの数は恐らく全体の5〜10%を切ると思います。

そうすると、このままではサービスの品質を保てないはずなので、今後も現状のチャットインターフェースのままだろうとは実はあまり想像できないと思っています。

つまり、ここの部分は私たちユーザーの方でハックする余地があると思います。例えば、前述のエクスペディのようなサービスも、「場所」「タイミング」「シチュエーション」「目的」といったボタンだけ用意しておいて、ユーザーに選んでもらったら、それを裏側で言語に変えて質問するという形にすれば、恐らくプロンプトを作る能力を問わずに済み、いちいち全ての文章を打ち込む必要もなくなります。

価値の出し方2:利用ハードルの解消

2つ目はわかりやすい例として、中古市場におけるメルカリの例を挙げてみましょう。「PCを利用したネットオークションが主流だった時代」から、メルカリが出てきて「アプリ中心のモバイル時代」に移ったことの要因としては、ユーザー側のハードルが大きく下がっているということがあります。

具体的には、それまではネットオークションに出品するためには、出品者は写真をデジカメで撮ってからコードをつないでPCに写真を読み込ませ、圧縮してアップロードするという一連の作業が必要でした。

これにはそこそこのリテラシーの高さに加え、そもそもデジカメを持っていないとできないことでした。

それがスマホ中心のメルカリであれば、そうした作業を全部モバイル上でできるため、上記のハードルを全部すっ飛ばして出品できるようになりました。

これはつまり、技術の革新によってハードルが下がったのだと言えます。先ほどの「Speak」の話も同じで、「英語を喋るのが少し怖い、どうしよう?」という恥ずかしさの部分が、AIが出てきたことによって解消されていますよね。

以上のように考えると、実は皆様のサービス・事業において今、何かしら技術的/精神的なハードルや、リテラシーによるハードルなどが邪魔をして、新規のお客さんが取れていないというケースが往々にしてあるでしょう。

ここのハードルを見極めたとき、新しい市場も見えてくるはずなので、ここをすごく重視していただけるといいと思っています。

価値の出し方3:Expert in the Loop

また、スライドに「Expert in the Loop」と書きましたが、例えばAIチャットボットにこれまでコールセンターで会話をしてきたログを全部テキスト化してGPTに読み込ませ、自動でコールセンター対応してくれるようにしようという話が今結構出てきていると思います。

しかし中には失敗例やお客様を怒らせてしまっている例もあるはずなので、そのようなことが起きないよう改善していく必要があります。そのために重要なのが、スキルの高いコールセンターのスタッフの対応や回答をGPTに学習させることです。そしてまた運用後のGPTの回答に対して、「それでは気遣いしきれていないので、もう少ししっかり気遣いした回答にしてください」など、きちんとラーニングをさせ続けていく必要があります。そのラーニングに専門家が常に入り、AIと人間とが一緒にいい品質の対応を作っていくといったことも必要になってきます。

価値の出し方4:プロトタイピング

価値の出し方4 プロトタイピング

多くの人がまず「ChatGPTを使って何かできないか?」と考えると思うのですが、思いつき程度の発想ではおそらくあまり使われるサービスにはならないはずです。

そうではなく、お客様のペインポイントをしっかり捉え、前述のようにAIの力で従来のハードルが下がっている部分をきちんと見つけることが必要になっていきます。

その上で「その程度の品質ではダメだ」と何度もループさせ、フィードバックをかけながらしっかりした品質を保てるサービスになって初めて、ユーザー側もそれに価値を感じて使い続けてくれることになります。

そのようなレベルにまで作り込んでいくためには、やはりしっかりしたプロトタイピングが不可欠だという話になると思います。ですから、実はこれまで皆様がユーザーやCXを理解しようと取り組まれてきた活動が、引き続きとても重要になっていきます。

まとめ

まとめ

まとめです。まず、日本では過小評価されがちな読解力や情緒的な対応こそが、むしろ生成AIの真骨頂だともいえます。ですから、これまで解決が難しかった顧客の課題や困りごとを一瞬で難なく解決する可能性を秘めていることをお伝えしました。

大きな脅威やリスク、顧客の課題をしっかり捉えている企業にとっては、生成AIの登場は恐らく朗報です。プロンプトが不要な選民的でないUI/UXをきちんと考え、いかにユーザーや顧客が抱えている課題に対して、誰でも使える形で価値を提供できるかが鍵になります。

例えば、既存の顧客接点やサービスで利用するとしても、やはりペインポイントの把握がしっかりでき、サービスや事業と向き合えている方々にとっては、恐らく「むしろこれまでやりたかったことが簡単にできるじゃないか」くらいの好機になってくるはずなのです。まずは引き続き、しっかりユーザー理解・顧客理解というところから始めていくことが肝要だろうと思っています。

スピーカー

株式会社ビービット|執行役員CCO(Chief Communication Officer) 藤井 保文氏
東京大学大学院修了。上海・台北・東京を拠点に活動。国内外のUX思想を探究し、実践者として企業・政府へのアドバイザリーに取り組む。AIやスマートシティ、メディアや文化の専門家とも意見を交わし、人と社会の新しい在り方を模索し続けている。

著作『アフターデジタル』シリーズ(日経BP)は累計22万部。最新作『ジャーニーシフト』では、東南アジアのOMO、地方創生、Web3など最新事例を紐解き、アフターデジタル以降の「提供価値」の変質について解説している。

ニュースレター「After Digital Inspiration Letter」では、UXやビジネス、マーケティング、カルチャーの最新情報を発信中。
https://www.bebit.co.jp/blog/all/newsletter/

関連リンク

https://contentsquare.com/jp-jp/

https://www.bebit.co.jp/

References
*1 米国の企業が運営する、オンラインでオーダーすると、スーパーやドラッグストアなど、近所のお店での買い物代行&即日配達を行ってくれるサービス
*2 米国Microsoft創業者。同社は検索エンジン「Bing」に搭載されたAIとのチャット機能「Bing AI」を提供している

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