小売業界において、企業が自社の製品やサービスをECサイト、店舗アプリやSNSなどを駆使して提供し、顧客との繋がりを深めてブランドの認知度を高め、販売促進を効果的に行う手法として「リテールメディア」が急速に広まっています。
この記事では小売業界における「リテールメディア」の事例を、WalmartとAmazonの成功事例を中心に幅広く紹介し、企業が顧客との関係を強化する方法やブランド認知度を高めるための戦略を探究します。
ぜひグロースマーケティングにおける貴重な洞察を提供するこれらの事例を、小売業界のプロモーションとマーケティング戦略においてリテールメディアの重要性を理解して効果的に活用する際の参考にして、リテールメディアを活用しながら自社サービス・プロダクトの競争力を高める手助けとしてください。
リテールメディアとは
リテールメディアの定義
リテールメディアとは小売業者が利用するECサイト、店舗アプリ、SNSやリアル店舗にあるデジタルサイネージなどのデジタル広告プラットフォームを指します。これにより、企業は店舗やオンラインで商品を購入する顧客の行動を分析し、戦略的なターゲティングを行うことが可能になります。
具体的には、以下のような目的に沿ってリテールメディアが活用されることが多いです。
商品やサービスに関する情報の提供
企業は、自社のWebサイトやSNSなどを通じて、商品やサービスに関する情報を提供することができます。例えば、商品の特徴や使い方、販売価格、レビューなどを掲載することができます。このように、顧客が商品やサービスについて十分な情報を得ることができるため、購買意欲を高めることが可能です。
コミュニケーションの促進
企業は、自社のWebサイトやSNSなどを通じて、顧客とのコミュニケーションを深めることができます。例えば、顧客からの質問や疑問に答えることができたり、商品やサービスに関するフィードバックを受け取ることができます。このように、企業と顧客との関係を強化し、顧客の満足度を高めることができます。
マーケティングの実施
企業は、自社のWebサイトやSNSなどを通じて、販売促進のためのキャンペーンやイベントを実施することができます。例えば、新商品の発売やセールの開催などを告知することができます。このように、顧客の関心を引きつけ、購買意欲を高めることができます。
以上のように、リテールメディアは、顧客との関係を強化し、販売促進を行うために非常に有効な手段となります。企業は、自社のWebサイトやSNSなどを活用することで、顧客とのコミュニケーションを促進し、ブランド認知度を高め、販売促進を行うことができます。
今リテールメディアが注目される理由
リテールメディアは現在、消費者の行動を理解し戦略的に活用できる優れたマーケティング手法として注目されています。特にWalmartやAmazonなどの大企業の活用に注目が集まっており、彼らに学ぶことでリテールメディアを活用したチャネル戦略、ターゲットマーケティング戦略、ユーザーエンゲージメント戦略の有効性を高めることができます。
Amazonによるリテールメディアのガイドについては こちら をご参照ください。
Walmartが運用するリテールメディアについては こちら や こちら もご参照ください。
昨今相次ぐ顧客データに関する法規制やCookie規制などのサードパーティデータ(3rd Party Data)規制も、リテールメディアへの関心が高まっている一因です。
2018年5月にEU圏で施行されたGDPRや、2022年4月に従来の規制を強化する形で日本で施行された改正個人情報保護法などの法規制に加え、AppleではiOS標準ブラウザであるSafariに対してサードパーティCookieの全面廃止やファーストパーティCookie(1st Party Cookie)保持期間の制限などの規制を強化。Googleも同様に2024年、WebブラウザChromeにおけるサードパーティCookie(3rd Party Cookie)を廃止する予定です。
これらの法規制やCookie規制については以下の記事で詳しく解説しています。
これにより、サードパーティCookieでの取得データに基づく広告配信や効果の検証・分析が難しくなり、自社が保有するファーストパーティデータをマーケティングに活用し、リテールメディア運用を視野に入れる広告主が増えてきています。
ファーストパーティデータやサードパーティデータの概要については以下の記事もご参照ください。
また、最近では、リテールメディアをアプリ中心に有効活用することで、UXを向上させる取り組みが行われています。特にスマートフォン上の消費者コミュニティや、レビューサイトなどを利用してターゲット顧客の特徴を把握し、有効なマーケティング戦略に役立てることが有効です。
また最近では、新型コロナウイルス感染拡大によるオンライン消費の急速な浸透という消費者の購買行動の変化を受け、リテールメディアをアプリ中心に有効活用することでUXを向上させる取り組みが広がりつつあります。そうした取り組みの中でも、特にスマートフォン上の消費者コミュニティやレビューサイトなどを利用してターゲット顧客の特徴を把握し、有効なマーケティング戦略に役立てることが有効です。
リテールメディアは、SNSを有効活用し有効なマーケティング戦略を立てることで、より高い売上と顧客満足度を達成することが可能となります。
リテールメディアの市場規模と動向
リテールメディアの市場規模は2018年時点で既に1兆7000億円、2020年には2兆円を超え、今なお毎年急速に拡大しており、2023年には5兆8500億円を超え、その後も年間1兆3000億円増のペースで拡大すると見込まれています。*1出典:「Insider Intelligence」https://www.insiderintelligence.com/content/retail-media-proves-its-value-amid-ad-spending-slowdown
米国における広告収入が1300億円(10億ドル)から3兆9000億円(300億ドル)になるまでの期間を見ると、リテールメディアは2016〜21年までの5年という短さでした(検索連動型広告は14年、ソーシャル広告は11年)。*2出典:「DIAMOND Chain Store」https://diamond-rm.net/technology/digitalmarketing/343312/
今後のリテールメディア市場の予測としては、さらなる技術の進歩によってより多くの顧客とのインタラクションが可能となり、現在以上のUXの水準向上が期待されます。
欧米におけるリテールメディアの広がりについては こちら をご参照ください。
リテールメディアにおける顧客行動を理解したターゲティング戦略
顧客行動分析がリテールメディアに有効
大手小売店は、各顧客の購買行動を計測・分析し、リテールメディア上でのターゲティング戦略を実施しています。消費者のデータを各チャネルごとに細分化した顧客行動分析を活用することで独自のターゲットユーザーを定義し直し、より的確なターゲティング戦略を実現しています。
リテールメディアと顧客行動分析を活用することで、顧客の独自のニーズを把握し、より的確なターゲティング戦略を実施できます。得られる効果としては、以下のようなものが挙げられます。
・コスト削減
・売上の改善
・チャンネルごとのイノベーション
・顧客エンゲージメントの向上
・プロモーションの効率化
リテールメディアにおける顧客行動理解に基づくターゲティング戦略
近年、データ分析に基づいた顧客行動の理解を最大化し、販売を向上させるためにリテールメディアが注目されています。顧客行動の理解には、ビジネスグロースにつながるファネル分析を自動で行え、コンバージョン向上と相関関係のあるユーザー行動を自動で導き出してくれる行動分析ツール「Amplitude」が便利です。
WalmartやAmazonなどの大型小売店は、顧客行動を端的に理解するためのターゲティング戦略を行っています。データマイニングや購買行動調査を行って、顧客の属性や購入傾向などを把握。それらの情報を基に顧客のニーズに合った広告を配信するなどの戦略をとっています。また、クリプトアナリティクスやA/Bテストなども行われています。
この他、顧客のニーズや行動を理解し、定期的にUI/UXやプロモーション戦略の改善を行うことなどが有効です。
リテールメディア代表事例:WalmartとAmazon
アメリカにおける小売大手であるWalmartとAmazonはリテールメディアにおいて、共に顧客行動分析に基づくターゲティング戦略を採用しています。
Walmartのリテールメディア戦略
21年1月期の広告収入が約2800億円だったWalmartは「ただの食料品スーパーではなく、ただの薬局でもなく、ただの自動車修理場でもない。こうしたものすべて」であり、「米国でどのように買い物するか、私は誰よりも熟知している」という独自の「ストーリー」を広告主に伝えることに主眼を置いています。*3出典:「Fast Company」https://www.fastcompany.com/90772916/amazon-walmart-retail-advertising-amzn
Walmartは広告事業で自社サイト上でのスポンサー商品の検索結果表示だけでなく、顧客の店舗やECサイト上での購買行動を匿名のデモグラデータと結び付け、それを別なデータと照合することで広告のターゲティングに役立つインサイトを広告主に与えることを目指しています。
このほかWalmartは価格競争を回避し、顧客のLTVを高めるロイヤリティプログラムを構築して収益を得ようと狙ったり、またレジ袋の調達情報を分析し、特定の購買者に個別のオファーやアイテムを提供することで、個々の顧客のニーズに応じたマーケティングを実践しています。
Walmartのリテールメディア戦略については こちら や こちら もご参照ください。
Amazonのリテールメディア戦略
米国のリテールメディアの頂点に立ち、市場シェアの77%超を占めるAmazon(23年7月発表の広告収入が前年同期比18%増の約1兆1600億円)は広告主に対し、オンラインキャンペーン施策の効果をリアルタイムで分析し、その結果を反映して施策を調整できる購買データを与えています。*4出典:「日経クロストレンド」https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00079/00167/
また、顧客の購買行動を分析し、それに基づき食品スーパー「アマゾンフレッシュ」店内のデジタル広告とショッピングカートのスクリーンを通じたオフライン広告や、オンラインのターゲティング広告などを投入して新規/既存顧客との関係構築を図っています。
また、独自の「サジェスト」機能を開発し、顧客の履歴から行動データを収集・分析することで、ユーザーの購買傾向を把握。その購買傾向を基に最適な商品やオファーを提示することで、顧客の関心を引き付け、顧客販売を向上させることに成功しています。
Amazonはこのほか、2018年に始めた無人店舗「Amazon Go」、そこで用いられる無人決済「Just Walk Out(ジャスト・ウォークアウト)」(カメラや生体認証により誰がどの商品をいくつ手に取ったかなどを自動認識。利用客が商品を手に取って店を出るだけで決済が自動で完了する)、ChatGPT形式の小売店向けのAI開発などを実用化/開発中で、世界のリテールメディアの最前線を走り続けている企業の一つです。
Amazonのリテールメディア戦略については こちら や こちら もご参照ください。
まとめ
近年、世界的な広がりを見せるリテールメディアは、小売業界において自社の製品やサービスを販売するために、ECサイトやSNSなどを活用して、顧客に向けた最適な情報やコンテンツを提供することでした。
具体的には商品やサービスの特徴や使い方、販売促進のためのキャンペーン情報、顧客からの質問やレビューへの回答、業界動向の情報などを提供するのに有効な媒体であり、またブログや動画、SNSなどを活用して、商品やサービスに関する情報を提供するだけでなく、顧客とのコミュニケーションを深めることもその重要な特徴です。
リテールメディアは、顧客とのコミュニケーションを通じて、顧客のニーズや要望を把握し、商品やサービスの改善や新商品の開発に役立てることができます。また、商品やサービスに関する情報を提供することで、顧客の購買意欲を高めることができ、販売促進にもつながります。
リテールメディアの活用は、インターネットやソーシャルメディアが普及した現代において、小売業界においては必要不可欠な存在となっており、小売業界のマーケターのみならず、それ以外の業種・業態のマーケターにとっても、今後の世界の消費者動向を掴み、事業をグロースさせていく上でその概念をしっかり理解し、最新トレンドを把握していくことが不可欠だと言えるでしょう。
*1 | 出典:「Insider Intelligence」https://www.insiderintelligence.com/content/retail-media-proves-its-value-amid-ad-spending-slowdown |
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*2 | 出典:「DIAMOND Chain Store」https://diamond-rm.net/technology/digitalmarketing/343312/ |
*3 | 出典:「Fast Company」https://www.fastcompany.com/90772916/amazon-walmart-retail-advertising-amzn |
*4 | 出典:「日経クロストレンド」https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00079/00167/ |