自社のユーザーに対する一貫してパーソナライズされたマーケティング施策の提供や、3rdパーティデータ規制によって1stパーティデータ活用の重要性が高まっていることなどを背景に、現在ますます多くの企業やサービスでCDP(カスタマーデータプラットフォーム)の導入や活用が進んでいます。
CDPを活用することで、広告やCRMツールによるメール配信、MAツールでのプッシュやポップアップなど様々なマーケティングチャネルでの施策をより強力にすることが可能になります。
しかし一方で、システムとしてのCDPの導入や運用においては様々な困難があり、それによって活用が思ったように進まなかったり、想定以上のコストがかかってしまうこともあります。
そのため「自社の状況に合わせた最適なCDPの形」を検討し、その選択肢を知っておくことは重要です。そして米国などデータ活用の先進国では、従来のパッケージのCDP製品の他にすでに企業が持っているDWHなどのデータ基盤や、そこにためられているデータを活用するためのツールを組み合わせることでCDPを構築する”コンポーザブルCDP”という新しい選択肢が登場し、主流になりつつあります。
この記事では、パッケージ型のCDPとコンポーザブルCDPの具体的な違いや、企業の状況に応じてどちらを選択するべきなのかについて解説していきます。
企業のデータ基盤におけるCDPの役割
まず、企業のマーケティングデータ活用において、CDPがどんな役割を担い、なぜ重要なのかと言うことについて少し触れておきます。CDPは、企業が自社のユーザーに対していわゆるOne to Oneマーケティングをするために必要な顧客軸のデータを集め、外部ツールへ連携していく役割を担います。
そして主に収集されるデータとしては、以下が挙げられます。
- Webやアプリ上の行動データ
- POSなどから収集される購買データ
- アンケートやイベントなどその他のユーザーデータ
従来のパッケージCDP製品ではそれらのデータをCDP製品の環境へ投入し、CDPの環境内でユーザーID軸でのデータの統合やユーザーセグメントの作成などを行います。そして統合されたデータをBIツールによって可視化したり、外部の広告やCRM、MAなど様々なツールに連携することでマーケティング活用のデータソースとして活用していきます。
また、CDPはDMPといった他のデータ基盤と異なる点として、主に自社で収集する1stパーティデータを活用するためのデータ基盤になります。そのため、すでにID等で識別できている既知のユーザーに向けた、ロイヤル化やLTVの向上などを目的とした施策での活用が主なものになります。
関連記事:CDPとは?マーケティングにおける役割や導入メリットを解説
コンポーザブルCDPとは?
コンポーザブルCDPとは、主に欧米で主流となりつつあるCDPを実現するための新しいCDPの選択肢です。企業が持っているDWHなどのデータ基盤や、そこにためられているデータを活用するためのツールを組み合わせることでCDPを構築するコンセプトを指します。
コンポーザブルCDPにももちろんメリットとデメリットの両方がありますが、メリットの多くはその登場の背景からも、既存のCDPの課題を解決するようなものになっています。コンポーザブルCDPにすることで、CDP導入のハードルを下げ、扱うデータ量や加工処理が膨大になった場合でも高いパフォーマンスやコスト最適化を実現することなどができます。
コンポーザブルCDPの主な特徴を4つ紹介します。
コンポーザブルCDPの特徴
- 企業が持つDWHなどのデータ、リソースを活用
・データソースを一元化*1Single Source of Truth(信頼できる唯一の情報源)のコンセプトに基づいているしデータのストレージ、管理コストを最適化
・大量データの保持、加工をDWHなどで行いコストやパフォーマンスを最適化
- 必要な機能のSaaSツールの組み合わせで構築
・ツールの組み入れ、組み替えが容易
・企業のユースケースに合わせた構築が可能
・機能拡張の柔軟性やスケーラビリティが確保できる
- データソースを社内環境に限定する
・外部にデータを置かないためセキュリティ性が向上
・外部ベンダーによるベンダーロックを防げる
- 利用機能、ボリュームに応じたコスト体系
・各SaaSツールは従量課金のコスト体系で使った分だけの費用にできる
・使う機能のみにコストをかけることが可能に
欧米では、すでにBigQueryやSnowflake、DatabricksなどのクラウドDWHとHightouchといったツールを組み合わせたコンポーザブルCDPがデータ活用基盤の鉄板の組み合わせになりつつあります。
具体的なソリューション「Hightouch」について(ページ内ジャンプ)
既存CDP(パッケージCDP)との違い
現在普及しているパッケージ型CDPは、顧客データの収集、統合、活用のそれぞれの機能を有したオールインワン型のソリューションです。
また、パッケージ型CDPは、次のような様々な機能を搭載しており、データ活用のための一連をパッケージ型CDPのみで完結させることが可能です。
- Webやアプリからユーザーの行動データを収集するイベントトラッキング機能
- 収集したデータのID統合機能
- セグメントを作成する機能
- 外部ツールへの連携機能
コンポーザブルCDPと既存CDP(パッケージCDP)の違いには、主に以下の3つが挙げられます。
データの保管場所
パッケージ型CDPでは活用するデータは全てCDPの環境内に投入し、コンポーザブルCDPでは自社のデータ基盤環境に集積されているデータを活用する形になります。
社内に利用できるデータ基盤がなかったり、新たに基盤を構築するのが難しい場合や、CDPとその中のデータを特定の部門だけで使う場合はパッケージ型CDPを導入することでスムーズに利用を開始することができます。しかし必要なデータは全てCDP環境に投入する必要があるため、データの追加や変更があった際の対応や社内のセキュリティ基準に合わせた対応が必要になります。
企業ですでに活用しているデータ基盤があったり、データを社内の環境からなるべく出さずに使いたい場合は、コンポーザブルCDPを採用することでデータソースを自社の環境に閉じて活用することができます。ただし、コンポーザブルCDPはパッケージ化されていない分、自社にどのような組み合わせが最適か常に気を配り選択する必要があります。
システムの柔軟性
パッケージ型CDPではデータのストレージや処理のパフォーマンスがCDP製品のプラットフォームに依存する形になります。データ処理の技術は日々優れたものが出てくる領域のため、リリースから時間が経っている製品ではデータ処理の構造的にパフォーマンスがでない場合があります。
一方、コンポーザブルCDPはSaaSツールの組み合わせで構築するため、ツールの自由な組み替えといった柔軟性を持たせることができます。スモールに始めたい場合や特定の部門での利用から始める場合は、最小限の構成から始めることで特徴を活かすことができます。
導入・運用コスト
パッケージ型CDPの場合、導入の際にCDP環境の構築に半年近い時間や費用がかかります。また導入後のCDPへのデータ連携の構築や保守・運用のコスト、CDP内のデータストレージにかかるコストなどは利用が進むと想定以上に増加する場合があるので注意が必要です。
すでにデータソースとなる基盤がある場合、コンポーザブルCDPでは、導入においてはSaaSツールの連携設定などの少ない設定だけで済み、数日〜数週間の期間でほとんど費用をかけずに始めることができます。
運用においても、大量データ処理に優れたクラウドDWHをデータソースとすることで、ストレージとデータ処理が分離されているためニーズに合わせて必要な所にコストをかけることができます。
しかし、コンポーザブルCDPでは社内のシステムを理解しているエンジニアなどの関係者がいない場合、導入や運用など全般において難易度が上がります。
関連記事:コンポーザブルCDP(結合型CDP)は、なぜコストを最適化できるのか
コンポーザブルCDPと既存CDP(パッケージCDP)比較表
パッケージ型CDPとコンポーザブルCDPの機能性における違いについては、以下の比較表をご参照ください。
比較項目 | パッケージCDP | コンポーザブルCDP |
---|---|---|
導入の容易さ | データの保持、加工、連携のためのCDPプラットフォーム側環境の構築が必要で半年程度、数千万円程度かかる | すでにDWHなどの基盤を持っている場合、データの保持やクエリ実行がDWH上で行われるため導入作業は数日〜数週間、ツールによってライセンス以外の導入費用もほとんどかからず完了 |
データ処理、 連携パフォーマンス | CDPプラットフォームのパフォーマンスに依存 | DWHのパフォーマンスに依存 |
活用データ | CDPに投入されたデータ | 自社データ基盤にある全てのデータ |
システムの拡張性 | 他ツールとの連携や機能拡張はCDPプラットフォームに依存 | 基本クラウドSaaSの組み合わせで構築するため拡張性が高い |
データセキュリティ | データを外部のCDPプラットフォームに置くため社内のセキュリティ基準などに応じた対応が必要 | データは自社データ基盤で保持されるためガバナンスが比較的容易でセキュリティリスクや対応工数を低減できる |
課金体系 | プラットフォーム料金やパッケージ機能料金、データ量などに応じた従量課金 | 必要な機能に対する料金、データ連携のパターン数などユースケースに応じた従量課金 |
コンポーザブルCDPと既存CDPの比較について、さらに詳しく解説した資料を、以下よりダウンロードいただけます。
コンポーザブルCDPが登場した背景
新しいCDPの形として欧米で主流になっているコンポーザブルCDPですが、その登場の背景としては従来のパッケージ型CDPの課題が重大になってきたことがあります。
主な課題としては下記の3点が挙げられます。
- 利用とともにCDPに入れるデータ量が増えランニングコストが高騰
- 膨大なデータ量やデータ処理にCDPの性能が耐えきれずパフォーマンスが低下
- ツール利用にSQL知識などが求められ機能も多いため使いこなせない
これらは海外企業だけでなく、実際に私たちが普段日本の企業と商談をしていてもよく聞く課題になります。そして、これらの課題に対して、製品のアップデートではなくCDPの実現方法を変えるというアプローチがコンポーザブルCDPの登場の背景になります。
どのCDPを選択するべきか
では、どういった場合にそれぞれのCDPを選択するのが良いのでしょうか。企業や組織の現状だけでなく、データ活用やマーケティングなどの中長期の戦略とも照らし合わせて考えることが重要です。
これまで紹介したそれぞれのCDPのメリットを踏まえると、一般的に以下のように分けられます。
パッケージCDPが適しているケース | コンポーザブルCDPが適しているケース |
---|---|
自社のエンジニアリソースやデータ基盤の整備が十分でなく、マーケティングチームによる短期〜中期での活用が求められる場合 | データ基盤の構築や運用を行うエンジニアリソースがあり、マーケティングチームやエンジニアチームなど横断で中長期的にデータ活用していく場合 |
実績が豊富なコンポーザブルCDP「Hightouch」
コンポーザブルCDPを構築する場合、海外ではBiqQueryやSnowflakeなどのクラウドDWHと「Hightouch」というソリューションを組み合わせることが鉄板になっています。
Hightouchはシリコンバレー企業が提供するSaaSで、G2の「リバースETL(データ連携)」カテゴリーで1位を獲る*2Best Reverse ETL Software|G2(2024年8月時点)など、世界で高い評価を受けているツールです。
Hightouchではデータ基盤のデータを、広告やCRM、MAなど200以上の連携先に瞬時に連携する機能や、ユーザーセグメントの作成やID統合、BIツールのような可視化など、企業のニーズに合わせた様々な機能を提供し機能単位で契約することが可能です。
また、Hightouchではコネクタを持っていないツールともプラットフォーム上でAPI連携が瞬時に構築可能で、国産のマーケティングツールとの連携も実現可能です。
DearOneは日本唯一のリセラー代理店としてHightouchの提供をしており、様々な企業でお使いいただいています。
主なユースケースとしては、次ようなものがあります。
- Salesforce Marketing CloudでSQLが必要だったユーザーセグメント作成をHightouchで行うことで、SQL不要に
- Hightouchで作成したユーザーセグメントをBrazeなどのMAツールに連携して、パーソナライズ
- Salesforceへのデータ連携やCSVへの吐き出しなど、数百以上のデータ連携パターンをHightouchで一括運用
関連記事:【Hightouch活用事例】1st Partyデータ連携で広告配信・計測効果を劇的改善
関連記事:【Hightouch活用事例】メール配信の仕組み化でリードリサイクルを自動化
最後に
コンポーザブルCDP、パッケージのCDPそれぞれメリットがあるので、あくまで選択肢があることを理解しつつ企業ごとの状況に合わせたCDPを構築することが重要です。
コンポーザブルCDPを検討している方、コンポーザブルCDPの詳細をお知りになりたい方は、お気軽にご相談ください。