DearOneの小島健一と申します。
私は15年ほど前からデジタルマーケティング業界で、多くの企業のデータ分析に携わってきました。以下、簡単に自己紹介をさせていただきます。
《経歴》
20代のころはミュージシャンとして活動しましたが、2007年からデジタルマーケティング業界にキャリアチェンジし、エンターテイメント企業でモバイルサイトのマーケティングを担当しました。
その後、アクセス解析ツール(Google Analytics、SiteCatalyst)をECサイトに導入し、分析を担当したことを契機に、2014年にアイ・エム・ジェイ(現アクセンチュア)に入社し、代理店サイドとしてアクセス解析のコンサルティングを中心に活動してきました。
2020年に現職に入社し、プロダクトアナリティクス Amplitdeの分析コンサルティングを担当しています。コンサルタントとして経営サイドの知識と技術を深めるために、2022年にMBAを取得しました。
約15年間データ分析に携わる中で、特にここ数年はテクノロジーの発展や顧客行動の変化などもあり、業務を取り巻く環境が大きく変わってきたことを実感しています。
本記事では、実際の経験を通して感じた、データ分析の進化と企業が抱える問題について、私なりの考えをお伝えしたいと思います。
データドリブンマーケティングって何?
データ活用の基礎となる考え方がデータドリブンマーケティング(Data-Driven Marketing)です。
データドリブンマーケティングとは、その名の通り、データと分析を基にしたマーケティングを指します。市場のトレンド、消費者行動、売上データなどの様々な情報源から収集されたデータを活用して、より効率的、効果的なマーケティング活動に繋げることを目的としています。
ざっくりいうと、経験や勘ではなく「データに基づいたマーケティングをしましょう」というものです。今では当たり前になりましたが、データを使って業務を行うことがまだ定着していなかった2000年代初頭に先進的な考え方として広まりました。
データ分析の移り変わり
15年ぐらい前は何をしていたか
私がマーケティングの世界に飛び込んだ15年前は、今思えば、ちょうど「データを使えや!」の号令が飛び交う時代に入ったところだったと思います。広告媒体はテレビ、新聞、雑誌、交通広告、街の看板がメインの時代から、インターネット世界に替わってきたころです。
当時はガラケー全盛期。私のミッションは「月額300円のモバイルサイトの会員数を増やすこと」でした。アフィリエイトやリスティング広告を運用、さらにモバゲーやGreeなどの大手ゲームサイトに広告を掲載していただき、ひたすら会員数を増やす日々…。
毎日、広告費とCPA(Cost Per Acquisition)を追っかけて、「この広告はCPA悪いね、次から出稿しないでおこう」という会話をしまくっていました。今では当たり前になったことですが、当時はダッシュボードでデータが瞬時に把握でき、意思決定できるだけでも新鮮味がありました。個人的には、これがデータドリブンマーケティングの幕開けだったと思っています。
一方で、見ていた指標は、広告費、クリック率、広告からのCV数など、獲得中心のものでした。当時は、認知拡大や新規ユーザーの獲得がマーケティングの目的になっており、現代のように顧客体験やユーザー行動を分析するという視点は希薄でした。
データが身近に – アクセス解析の登場
私はWEBの世界に身をおいていたので、Google Analytics(以下、GA)の登場は画期的でした。GAは2005年に誕生してたらしいのですが、2008年頃から一般に広まったように感じます。アクセス解析という分析ジャンルの認知が拡がり、企業のデータ活用が一気に加速した印象を受けます。
GAなどのアクセス解析ツールにより、WEBサイトのデータの可視化が進みました。アクセス解析ツールが普及するまでは「WEBサイトのトップページを何人見ているか?」とか、「ある商品ページを見たあと、次にどのページを見てるか?」などを把握するのは非常に時間がかかっていたのですが、かなり短時間で実現できるようになりました。
さらに、離脱率、直帰率などの指標が一般化することにも繋がりました。これらの指標はGAのデフォルトとしてセットされているものでした。また、GAはデータ量や機能に制限はあるものの、無料でも使えるものなので、導入ハードルが非常に低かったことも見逃せません。
GAほどの高性能なツールが、無料で提供され一般に浸透したことは、その後のツール業界、SaaS業界に留まらず、世の中に与えた影響は大きかったはずです。2023年の現在においても、WEBサイトやマーケティングに関わりがなくても「GAは聞いたことはある、なんとなく知っている」という人がたくさんいます。
GAの認知の高さは他のツールと比べると違和感を感じるほどであり、GAはデータ分析のスタンダードを作った代表的なツールだと言えます。
獲得からその先へ – CRMの強化
このようなWEBサイトの分析が広まるのと時を同じくして、小売店などのPOSレジの購入データ分析が盛んになりました。当初は、商品の仕入れや在庫の調整により利益を上げることが主な目的でしたが、CRM(Customer Relationship Management)の考え方の広まりに合わせて、「利用回数が多いユーザーは◯◯を買っている」といった顧客の興味関心などを加味した分析が行われるようになりました。
今やどの店舗でも当たり前になった「ポイントカード」も、CRMマーケティングの定着により急速に普及した仕組みの一つです。
私は2010年ごろにCRMの分析に携わることになったのですが、当時は分析に必要なデータを都度SQLを駆使して抽出する必要があったり、たくさんの中間テーブルを作ってデータを処理したり、分析用のデータを貯めておくサーバを別途用意しなければいけなかったりなど、分析作業には大変な労力が必要でしたが、当時はこれが当たり前で、大きな課題に感じていませんでした。今考えると少し恥ずかしさすら感じます。
複数チャネル、複数デバイス、複数サービスの分析が必要に
この15年で消費者の行動は大きく変化しました。「ネットで商品を選んで、店舗で実物を見て購入するか決める」は今や当たり前ですが、以前はなかった行動です。私はプロ野球が好きなのでスポーツの動画サービスを利用していますが「試合を帰宅途中の電車の中でスマホで見て、途中からは自宅のテレビで見る。」ということもしょっちゅうで、休日はテレビを子供が独占しているので、プロ野球はiPadで見ています。
さらに、ひとつの企業が複数のサービスを展開することも増えました。テクノロジーの進化により、さまざまな業界で事業立ち上げ、参入の障壁が下がったことや、企業の合併、吸収が増えたことなどが背景にあると考えています。
そのような背景もあり、企業側が「ユーザー行動を一貫して追いたい」と考えるようになってきました。効率的、効果的にサービス改善、マーケティング活動を進めるためには、ユーザー行動を正しく把握する必要があるからです。
前述のスポーツ動画サービスの例に挙げます。スマホのデータだけ見ていた場合、ユーザーはどこまで試合を見ていたのかわからないですし、休日はiPadで見ているため、サービスを利用してないことになります。「そもそもユーザーがどれだけサービスを使っているか」がわからないことになってしまいます。
このような状況から、複数チャネル、複数デバイス、複数サービスを跨いだ分析が必要とされ、アクセス解析だけでは不十分になってきました。そこで、顧客データを統合するCDP(Customer Data Platform)に注目が集まりだしたのがちょうどこの時期です。
進むマーケティングのパーソナライズ化
ユーザーの個々に合わせたマーケティング施策のことを「パーソナライズ施策」と呼びます。例えば、ECサイトでカートに商品が入っているけども、まだ買ってない人に「お買い忘れはありませんか?」のような内容でメールを出したり、購入履歴や閲覧履歴をもとに「あなたにオススメの商品」としてサイト上に商品を掲載したりすることもパーソナライズ施策にあたります。
このような試みはこの15年で一気に広まりました。
デジタル市場におけるパーソナライズの急速な進化は、消費者行動の多様化が進んだことと、Amazonの影響が大きかったと思います。Amazonはいち早くこの分野に取り組み、ユーザー行動に基づいたデジタル接客を実践し、ユーザーから見ても納得感がある施策を打ち出していきました。次第にユーザー側がこのような接客を当たり前と感じるようになり、他の企業は追従していくこととなりました。
ユーザー行動や顧客体験を分析することができるツールに注目が集まるようになり、私がプロダクトアナリティクスツールのAmplitudeに出会ったのはちょうどこの時期です。
Amplitudeとの出会いは私のマーケティング人生において衝撃を感じるものでした。Amplitudeはそれまで見れなかったクロスチャネル、クロスデバイス、クロスサービスでの顧客行動が極めてスピーディーに都度、データの前処理なく把握可能です。
Amplitudeのような行動分析ツールの登場は新たな時代の到来を示すものでした。Amplitudeの詳細はこちらをご参照ください。
AIの急速な普及
ここ数年、急速に広まったテクノロジーといえば、AI(人口知能)や機械学習があげられます。消費者行動の理解においても、AIを使うことでビッグデータから消費者の行動や好みをより深く理解することができ、今まで難しかった高度な分析のハードルが下がりました。
また、この記事を書いている2023年は「ChatGPT元年」と言えるほど、ChatGPTの登場はインパクトがありました。最新のマーケティングソリューションにおいても、AIが内蔵されるものが続々と登場しており、今後AIはより身近になっていくものと思います。
ちなみに、弊社DearOneでは、Amplitudeの他にもAIや最新のテクノロジーが搭載されたユニークなツールを多数取り扱っております。取り扱いツールについてはこちらをご覧ください。
このように、消費者行動や市場、それをとりまく技術環境はここ10年で大きく変化し、データドリブンマーケティングはマーケティング手法として定着したと言えると思います。その一方で、15年前と変わらない問題もあります。それは、テクノロジーを利用する人間や組織の問題です。
この問題の原因や解消策について、以降の章で説明をしたいと思います。
日本企業が抱える大きな2つの課題とは?
私は、多くの企業のデータドリブンマーケティングで成果を上げていくために、「多くの企業が抱える問題は何か?」「企業は何をしていくべきか?」ということについて考えてきました。この疑問について、私なりの回答を述べさせていただきます。
ちゃんと使えない問題
世の中に魅力的なテクノロジーは多数存在しますが、未だにお客様からの相談が絶えないのは、「導入したが使えない」「使っても成果につながらない」というテクノロジーのアンマッチに関するものです。私はこれを「ちゃんと使えない問題」と呼んでいます。
では、「ちゃんと使っていく」ために何をすればいいか?
この問題は根深く、そもそも課題を解決できないツールを導入してしまったケースなど、選定時の判断ミスも含まれます。その場合、マッチしないツールで無理に課題を解決しようとすると、無駄な開発やシステム連携が発生し必要以上にコストと労力がかかってしまう場合が多いため、リプレースをお勧めしています。
それでは、マッチしたソリューションを導入したにもかかわらず、ちゃんと使えない問題が発生していた場合は、どのように改善すれば良いのでしょうか?以下では、私が考える、分析ツールを使いこなすための有効なアプローチについてご紹介したいと思います。
1. ツールに歩み寄る
どんなに簡単なツールでも、ツール特有の用語(解釈)やクセがあり、新しいツールを使う際には、ツールを使い慣れている人でも一定量の学習が必要となります。そのため、まずは人間がツールに歩み寄って、ツールの仕様や特性を理解してあげることが大事です。
この工程を疎かにすると、ツールの魅力を知る前に悪いところに目が行ってしまい「期待外れ」と感じたり、仕様を知らないがゆえに「ミスをしたら悪いことがおこるんじゃないか」という不安が先行し、活用を阻害してしまいます。
2. まず使ってみる
基本的な仕様を理解したら、まずは使い始めてみることがとにかく大切です。
新しいツールに対する期待が大きいと、すぐに大きな成果をあげたいという想いから、企画段階で構想を詰め込みすぎて構築フェーズが膨大になってしまうなど、使い始める前に時間がかかってしまいます。この手のソリューションやシステム領域全てに言えることなのですが、いざ使い始めてみると、次のアイディアが湧いてきますし、やりたいことが明確になって、改修したり追加をしたくなるものです。グロースマーケティングの目的がエンゲージメント(結婚)に例えられるように、ソリューションやシステムもまた、形を変えながら存続する、いわば永遠に完成しないものです。
このように、ツールとの関係を割り切って取り組んでいる企業が成功していると感じます。また、成長する企業は共通して、とにかくスピード重視でトライ&エラーが許容されるカルチャーを持っています。特に分析は、広告やMAツール等と違って顧客と直接接点を持つわけではないので、失敗してもノーダメージです。迷ったらやってみる。うまくいかなくても、次にうまくいけばいい。というマインドと、組織の雰囲気作りが大切だと考えています。
3. 「アクション(施策実施)」をゴールにする
分析においては、必ずなにかひとつのアクションをゴールに設定することが必要です。ここでいうアクションとは、マーケティングにおける施策のことです。具体的には、ユーザーに向けてのメールやプッシュ配信だったり、ホームページやアプリの画面の改善だったり、キャンペーンやセールの企画などを指します。
当たり前のことと感じるかもしれませんが、多くのプロジェクトで出来てないのが実情です。「CDPを整備して、CRMを強化しましょう!」とか「高性能な分析ツールを導入して、データ分析を強化していきましょう!」と叫んでも分析はされません。
この点を意識するだけで分析の成果が格段に向上するので、私はクライアントの分析を行う際には、ゴール設定について入念にすり合わせをするようにしています。
外注を上手く利用できない問題
私自身が企業から見れば「外注」の立場なので、少々勇気がいるのですが、書かせていただきたいと思います。(汗)
簡単にいうと、日本企業は外注の使い方に問題があると思います。社員が行うべきコア業務と、外注すべき業務の切り分けが行われずに、単に「自社にノウハウがないから丸投げする」という発想が当たり前になっていると思います。よく目にする外注業務として、システム、マーケティング、商品企画などが挙げられますが、これらの業務は重要なプロジェクトの中心を担っていたり、もしくはハブになっていたりする場合が多く、いずれも内製化するメリットが高い業務にあたると思います。
例えばデータ分析を基に戦略策定するなどの、重要なポジションを外注化すると、何かをやろうとすると都度調整や折衝が生まれ、意思決定まで時間がかかります。認識齟齬も生まれやすいうえに、責任の所在も曖昧になります。自社にノウハウが溜まらず、社員のスキルも上がっていきにくい。そして何より深刻なのは、こういった問題が放置されると、サービス競争力や社員満足度の低下を招いてしまうことです。
この記事を読んでいただいている方の中にも、心当たりがある方がいらっしゃるかもしれません。
私が問題視しているのは、多くの日本企業が外注の使い方に問題があると気づいていない点、気づいていてもさまざまな事情で変えられないと判断することが当たり前になっている点です。
外注業者を上手く活用するために
上記では日本における外注文化の問題点について書きましたが、全ての外注に問題があるわけではありません。外注の目的(コスト削減、知見や技術の習得など)がはっきりしていて、PDCAを阻害しないものであれば、外注を取り入れるメリットは十分にあります。問題が起こりがちなのは、適任者が社内にいない、欲しい人材が採用できないといったネガティブな理由で、コア業務を恒常的に外注するケースです。
しかしながら、市場価値の高い人材は容易には獲得できません。分析業務に例えると、「サービス/業界知識がある」「マーケティングの知識がある」「分析に精通している」「高度なツールを使いこなせる」などといった条件で募集すると、理想的な人材を獲得することはなかなか難しいものです。
こういった問題をできるだけ解消してクライアントのデータ活用を推進していくために、私が分析支援を行う際に必ず行っているのは、クライアントと共に試行錯誤しながらゴールを目指す過程において、ツールの扱い方だけではなく、分析の考え方や分析手法、ツールとの上手な関わり方を身に着けていただく活動です。クライアントの方々には、我々が持つノウハウを持ち帰っていただきたい。と思っています。
高度な分析人材を多数獲得することは困難でも、組織の力、最新ツールの力、ツールと上手く付き合うノウハウを獲得することで、分析を内製化することは十分にできると考えています。
最後に
私はツールの扱い方や分析手法はレクチャーをする立場ですが、実際に手を動かしてみると、ビジネスを深く理解しているクライアントの方が、オリジナリティがある分析アイディアを思いつくことが多々あり、日々勉強をさせていただいています。
また、分析には、人間が思考して意思決定するポイントがいくつかあります。どんなに優秀な分析ツールでも、自動で全てを行ってくれるわけではありません。分析で得られた示唆を、どのようにして掘り下げるか、次のアクションにつなげていくか、などといったツールとの関わり方を実際の分析を通して知っていただくことが重要と考えています。
どのような外注業者に依頼するのかによって、分析業務の進め方や企業が得られるものも変わります。もし、事業やサービスのグロースを見据えてデータ活用・分析を進めたいと考えている場合は、DearOneまでご相談ください。