本記事はAmplitude社より許諾を得て株式会社ロケーションバリューが翻訳、転載しております。
本文では寄稿者のヴィンス・コセック(Vince Kosek)氏が、プロダクト分析チームの構造と運営に関しよくある 4 つの質問を取り上げ、解説します。私たちは、Amplitude のような製品は、分析の専門チームやアナリティクス推奨者へのエンパワーメント(力を与えるの意)を実現すると確信しています。こうした人々の能力を、劇的に強化する役割を果たすのです。
過去 15 年間で、私はある「パターン」に気づきました。様々な企業、各種の部門やチームと協業しデータ・インフォームドな、すなわちデータに基づく意思決定の実現を支援してきましたが、それぞれの組織はたいがい、以下の 3 つのカテゴリーのいずれかに該当すると気づいたのです。
- エビデンス(証拠)に裏付けられた意思決定を、業務の実行に完全に統合している。
- ひとつ目のカテゴリーに属することを切望するものの、「完全な統合」に要する知識や情報を取得し到達しがたいその状態を経験したことはまだない。(つまり能力を磨いている段階)
- 最初の一歩を踏み出そうとしている。
3つ目のカテゴリーに属したい組織などありません。「最初の一歩」を誰か、または何かが阻んでいる状態です。1 つ目のカテゴリーの規模は小さく、同カテゴリーに属していると自慢する組織は、間違いなく自らの認識ほど進化してはいません。そして「その他」にくくられる私たちが当てはまるのが2 つ目のカテゴリーです。
データに基づき知識を得るには、どこからであれ行動に着手せねばなりません。いわば、曲がり道を上る真っただ中という状況の方は、知りたいことが多数あるでしょう。それを念頭に置き、私自身もこれまでに尋ねた(尋ねられた)質問に対する回答やヒント、そして注意すべきポイントを、いくつかご紹介したいと思います。
プロダクト分析に特化する人材は、本当に必要か?
ある程度は必要です。組織全体としてより優れた意思決定を行うには、一定水準のデータリテラシーが求められます。組織内にデータリテラシーを普及させるには、以下の要素が必要です。
- データの知識があり、データを活用でき、かつ他の人に指導を提供したいと考える人材。
- その人材から教えられたことを吸収する熱意と意欲のあるチームメイト。
- 「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」という海外の格言のとおり、チームメイトなどに実践する手段を教える効果的な手法。
- 自ら実践するよう促す効果的な方法。
フルタイムで業務に従事する人にとって、気が遠くなりそうな「やることリスト」です。しかし、空き時間に取り組むという人には、ことさら厳しいものです。適切な技能を持つプロダクトマネージャー、UX 研究者やエンジニア、またはビジネスアナリストがいる場合もあります。しかしながら、それぞれが自身のスキルを全チームはもちろん、特定のチーム、現行のプロジェクトあるいは領域に集中して発揮できれば、運が良いというものです。
分析に特化した人材が最低、一人は確実に必要でしょう。ただ、全社的なデータリテラシーの水準向上という明確な目標がないまま、「プロダクト分析マネージャー」を採用すれば、最終的には多忙を極める下降スパイラルに陥るだけです。
専任のプロダクト分析マネージャーの存在が有用である状況は、他にもあります。新製品の導入、頻繁なアップデートや実験を多数実施する中、自社のデータタクソノミー(データの分類方法)を維持するための、動作が軽快なシステムを確実に配備しておく場合です。ただ、繰り返しになりますが、プロダクト分析マネージャーが他の人の関与なく、単独でこうした業務を管理統括できる可能性は低いと言えます。その場合、周囲はマネージャーを回避しようとするでしょう。
したがって、専任のプロダクト分析の人材の必要性については、端的な回答は「必要」です。ただ、プロダクト分析マネージャーは、全社的にデータリテラシーを向上さすることに注力することを考えるべきです。
あり得る「落とし穴」
「定性」という要素を忘れないように! 「定量データは事実を、定性データは原因を語る」とよく言われます。私の経験ではその通りです。データリテラシーは定性データを引き出す、および解釈する方法にまで及ぶものです。前述の 4 つの思考プロセスは、定性調査にも適用できます。
このような領域で、全社的なデータリテラシーの底上げに特化し、力を注ぐ人材がいることは、非常に有用です。個人的には、仕事上の経験の中で最もやりがいを感じたのは、熟達した UX 研究者との協業を伴うものでした。
さて、プロダクト分析マネージャーの必要性は明らかになりましたが、組織内での配置はどうするべきでしょう?
特定の組織構造に縛られるより、答えに至る方法について検討することが有益です。すべての目的を満たすことは不可能です。代わりに組織の現在の構造が、どのような目的を満たすべく最適化されているか熟考してみましょう。その結果、配置について興味深い知見を得られます。
プロダクト分析チームは、次を含め様々な要素に基づき編成するべきです。例えばプロダクトの性質、製品ライフサイクルにおける現時点でのフェーズや製品戦略、分析の専門技能・知識を持つ人材が組織のどの部署にいるか、ならびにプロダクトについて意思決定を行う人物は誰か、といったものです。これらを確認する上で役立つ質問を以下に挙げます。
- 意志決定は社内のどの組織で行われていますか? 決定を下すのは誰ですか? 会社として、どのような種類の意思決定が行っていますか?
- 様々な意思決定に必要な情報とは?
- その情報のソースは?
- 社内で尋ねられる数々の質問の共通点は? 質問により変わる要素は?
- 会社の事業、製品戦略について、安定している面は? 突然、発生する要素や事態とは?
- 一貫性と再現性が重要な領域や状態は? 柔軟性が大事な領域などは?
- 極めて強固な確実性が求められる領域や局面は? 逆に、不確実性のわずかな低下が許容されるものは?
上述の質問を熟考すると、大多数の組織においてコンテクスト(文脈や背景など)の面で、各組織内でも多様なとらえ方があるということが明白になります。全社が一枚岩として運営される企業はわずかです。企業は極めて試験的な新製品開発の取り組みと並行し、事業全般の健全性を示す「適切な」KPIの活用を実践しています。
組織内で様々なニーズが同時に生じる実際の状況を理解するには、サイモン・ワードリー(Simon Wardley)氏による「開拓者 – 入植者 – 都市計画者」という概念です。(ワードリー氏によると、同概念は 1993 年出版の、ロバート・X・クリンジリー氏による興味深い著書「Accidental Empires(偶然の帝国)」で、クリンジリー氏が企業を「奇襲部隊」、「歩兵隊」、「警察庁」と表現したことから派生しているそうです。)
以下は、ワードリー氏がこの概念の説明するために用いた見事な図です。
では、「開拓者」、「入植者」、「都市設計者」の多様なニーズへ対応する手法について考えていきましょう。
開拓者
自社のアナリティクスチームは、先駆的な取り組みに伴うニーズをいかに満たすことができるでしょう? その取り組みは、不明な点が多く、新しく「賭け」でもあり、また、実験の繰り返しが必要です。初期段階では顧客を無視することにもなります。
ペドロ・ユリア-レジオ(Pedro Uria-Recio)氏の「アナリティクスを人間の脳と同様に体系化する」と題する優れた投稿記事を参照したところ、組織の特定部門内に分析チームを配置する、あるいは各部門にそれぞれ小規模の分析のチームを分散して設けるという選択肢が存在します。なぜでしょう?
「分析チームをマーケティングなど特定の部門に配置する企業もあれば、各部門や事業部門に少人数の分析グループを置くという完全に分散型のアプローチをとる企業もあります。この 2 つの手法は、全社的なプロジェクトを戦略的に実行する場合はさほど効果はないものの、より迅速かつ俊敏であると同時に、自社のビジネスニーズとの整合性をさらにとりやすくなります」— ペドロ・ユリア-レジオ(Pedro Uria-Recio)氏 「アナリティクスを人間の脳と同様に体系化する」
真の「開拓者」にとっての、いわば建国者には、複数種類のデータを使いこなす人も含まれるかもしれません。いずれのアプローチを選択するにせよ、調査テクニックを生かし、スケーラビリティと一貫性には気を留めず、何より新規性および本来、存在するリスクに対処していく必要があります。
入植者
次は「入植者」の支援について触れます。この課題は、どちらかといえば分散型アプローチによる分析チームに当てはまりそうですが、全社横断的な専門グループにも関連するものです。再びウリア-レジオ氏の記事を引用します。
「ハイブリッドアプローチは、企業横断のアナリティクス施策の調整、戦略的な分析の展開、様々な関係性の構築、ならびにベストプラクティスと学習事項の共有において、適切なバランスを実現するものです」— ペドロ・ユリア-レジオ(Pedro Uria-Recio)氏 「アナリティクスを人間の脳と同様に体系化する」
「入植者」については、再現性や顧客獲得、リテンションのための既知のフレームワークや、タクソノミーとデータトラストを拡張する能力、漸進的な改善による影響の理解、といった事項にご関心があるかもしれません。「入植者」に該当するグループにとっては、自社プロダクトとの顧客のインタラクションを理解し、併せて定性データを生かすことで「顧客の声に耳を傾ける」ことを重視します。「入植者」に関する本セクションは、プロダクト分析および Amplitude のような製品の領域に踏み込んでいる段階だと言えるでしょう。
関連資料: プロダクト分析 戦略集: リテンションを極める
都市計画者
最後に、「都市計画者」による支援について詳述します。標準化と効率性向上に注力する中央集権型の、または(および)協議型の組織構造には、適合するでしょう。より従来型の BI ツールであれば、適合性はさらに高いかもしれません。
処理するべきことは大量にありますが、基本的な考え方は、自社の分析チームは組織の多様なニーズに応じて編成する、というものです。また「開拓者」的な取り組みは、「都市計画者」が提供するサービスで実現可能となる(– 妨げられたりスピードが落ちたりすることはない)との考えも肝要です。
型にはまったアプローチをとることはできません。思慮深く、システム思考ができる必要があります。
どのモデルを選ぶにせよ、常に留意すべき非常に重要な点があります。分析チームの構造は、チームの全メンバーにユーザーの共感を構築・創出する機会をもたらすものであるべきです。アナリストは、社内外の顧客とのつながりがなければ、真の知見を提供することは事実上、不可能です。元アナリストとしての私の見解ですが、人同士のつながりは、仕事に対する満足感を得たり、最高の仕事をしたりするために必須です。
プロダクト分析スペシャリストは何人、必要?
お察しの通り、人数は自社のチームの規模と、選択した組織モデルにより異なります。極端な例を説明するため、個人的な経験談をいくつかご紹介します。
- 無限 まずは、告白から始めます。以前、私は巨大 SaaS 企業からの電話インタビューを受けることに。自身の主な目的は、同社がアナリストをいかに組織内に配置しているかを知ることでした。フタを開ければ、同社にはアナリストのみならず、各プロダクト開発チームにデータサイエンティストもいたのです。全チームに、です。衝撃を受けました。つまり、このような体制を設ける企業は確かに存在し、そのアプローチはそうした企業にとっては良好に機能しているのです。この巨大 SaaS 企業は、間違いなく前述の 1 つ目のカテゴリーに属しています。
- ひとりチーム 一方、逆ともいえる経験もしました。それほど小規模ではない SaaS企業で、私は数年間、「ひとり」プロダクト分析チームとして単独で業務に従事していました。数十(おそらく 30)の開発チームがあるものの、セルフサービスツールは皆無。非常に効果的なアナリティクス提供のあり方とは言えなかった、と述べるにとどめます。また、自身の社内顧客の 95% 超に、毎週「ノー」と言うのは、意欲を大幅に削がれます。ただし、私たちが進捗を果たすことがなかった、というわけではありません。古いことわざでも「イエスと言うことに、ノーと言わねばならない」とされています。2 つのチームに集中することにより、それぞれで前進を実現しました。確かに他の各チームは除外することとなりましたが、小規模で明確なユースケースに的を絞ることで、私たちは自社プロダクトの使われ方に関し、部門としての理解を深めることができたのです。
- 「数」は多いが、課題あり また別の経験では、必要とされる全要素がそろっている状態もありました。専任のアナリスト、エンジニアリングサポート、アナリティクスからの知見に対する要望、お金で購入できる最高のツールとインフラストラクチャー。すべてが存在していたものの、一点、重大な要素が欠けていました: リーダー間の連携です。多数のアナリスト、エンジニア、知見を渇望する社内ユーザー。全員が異なるリーダーの要望に応じていたものの、リーダー陣は何が重要であるかに関し同意に至ることができませんでした(実際、同意成立は皆無)。例えば、いかに目標を定義し達成するべきか、あるいはどのような取り組みに、誰が実行責任を担うかといった事柄です。「主導している」とされる人物にさえ、計画実行の権限はありませんでした(そもそも計画が存在した場合に限りですが)。
採用可能な人数は?
以上の異なる経験から、私が「数」について学んだのは、「数」よりも、組織の構造と中核的な目的の設定が重要だということです。小規模なチームであれ、理にかなうサービスの組み込みや、そのサービスに関した連携、教育の実施、サービスの一元化に加え、現場の社員へのセルフサービスツールの提供を自由に行えるならば、実に多くの業務を遂行できます。価値ある成果は周囲からのサポートを喚起し、また、強固な基盤が確立されていれば、単に各種の取り組みを広げるのではなく、効果のある施策を拡大展開することにつながります。
大変な業務が進行中で、トップダウンの要望が多く、かつツールが脆弱という環境でストレスを感じている中央集権型のチームに、単に人員を追加するのでは事態は改善することはなく、悪化する一方でしょう。意志決定を支え、データリテラシーの劇的な向上に資するチームではなく、せいぜいデータを大量に処理するコンピューターのようになるだけです。
意思決定におけるデータ活用の「民主化」を、劇的に促進する上で有効な手段がいくつかあります。最も効果的なものを 2 つ挙げます:
- 教育 アナリストに、正式な、および形式ばらない方法の両方で、データリテラシー・スキルを組織内で共有し、指導を行う機会を提供してください。アナリストとしては、注目されたり感謝されたりすることを嬉しく感じるでしょう。さらに、チームの他のメンバーが協力できるようになれば、アナリストはいっそう喜ぶはずです。
- セルフサービス 企業のテクノロジースタックには、ユーザーが一定の技術的な(コーディング)スキルを持つことが求められるコンポーネントが必ずあります。しかし、テクノロジースタックが上述の「データ活用の民主化」を劇的に促進する役割を果たすには、ユーザーの使用開始を阻む障壁が存在しないツールが必須です。組織のエコシステムにセルフサービスのコンポーネントを導入すれば、チーム全体がより巧みにデータを活用できるようになります。
最も重要な質問: 分析チームの編成や運用に取り組む理由は?
意志決定の改善、取り組みなどの結果の向上、顧客の満足度アップ、チームメイトの幸福度の向上のためです。
私たちは、顧客が自社の製品やサービスを使用することで得られる価値を、さらに理解するため、アナリティクスを強化したいと考えています。自社製品・サービスを使用する顧客が得る価値について理解を深めれば、その価値をより引き出すとともに、いっそう多く、かつ迅速に提供しやすくなります。
結局のところ、アナリティクスは難しいものです。科学だからです。一方、芸術でもあります。分析が簡単なことであれば、すべての企業が前述の 1 つ目のカテゴリー「エビデンスに裏付けられた意思決定を、業務の実行に完全に統合している」に属しているでしょう。データを巧みに活用することは、ある種の旅だという視点を常に維持することが大事です。ゴールはありません。越えればよいという柵もなければ、チェック印を入れたら終了というチェックボックスもありません。「次なる一歩」を踏み出すことを続け、旅の途中で勝利を収めたときは、成功を祝うことも忘れないでください。
本記事はAmplitude社より許諾を得て株式会社ロケーションバリューが翻訳、転載しております。
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公開日:2019/9/5
ヴィンス・コセック(Vince Kosek)氏
コセック氏は、米国カリフォルニア州サンタバーバラを拠点とするプロダクト分析コンサルタントです。同氏はキャリアを通じ、金融サービス、製造、医療機器から、直近では建設・不動産管理業界特化型の B2B の SaaS 製品まで、幅広い領域で活躍してきました。コセック氏は、部門横断型のプロダクトチームがより優れた意思決定を行えるよう、支援することに情熱を注いでいます。
引用元:Amplitude社ブログ