企業にとってもマーケターにとっても、結果を出すには正しい目標設定が必要です。また、設定するだけでなく、達成ためのプロセスを正確に把握することも大切となります。そこで役立つのがKPIとKGIです。これらを正確に設定することがビジネスの成長を大きく左右します。
この記事ではKPIのメリットや、設定方法、ポイントについて紹介します。KPIを正しく設定して、事業を大きくしたい方はぜひ参考にしてみてください。
KPIとは?
KPIとは、「Key Performance Indivator」の頭文字を取った略称で、日本語では「重要業績評価指数」と訳されます。最終目標であるKGIを達成する上で、その達成度合いを計測するための定量的な指標のことです。
KPIは、顧客体験を取り入れてプロダクトグロースを目指す際の指標である「NSM(ノーススターメトリック)」においても重要な役割を果たしています。こちら「最先端のビジネス指標『ノーススターメトリック』」で詳しく紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
KPIと、KGI・OKR・KSF・KDIとの違い
KPIに似た言葉に「KGI」「OKR」「KSF」「KDI」というものがあります。混同されて考えられることがよくありますが、それぞれの違いを把握しておくことが重要です。
KPIとKGIの違い

KGIは、「Key Goal Indicator」の頭文字を取った略称で、日本語では「重要目標達成指標」と訳されます。最終目標が達成されているかを測定するための指標のことです。KPIが目標達成までのプロセスを評価するものに対して、KGIは「売上目標」「営業利益」などの、企業全体の最終的な目標数値を計測する指標を指します。KPIとKGIは基本的にセットで使われることがほとんどです。
例えば、「売上5,000万円」をKGIに設定した場合、その目標を達成するために「アクティブユーザー数」や「購入金額」「離脱率」などの売上を変動させる要因をKPIとして設定することができます。最終的な目標である「KGI(売上)」に対して、達成のために必要となるプロセスの達成度を測るもので、ゴールまでの「中間指標」であると言えるでしょう。
KPIとOKRの違い
OKRとは、「Objectives and Key Results」の頭文字を取った略称で、日本語では「目標と主要な結果」と訳されます。OKRはビジネスの生産性を高める手段として、アメリカのカリフォルニア州に本社を置く半導体メーカー、インテル社で生まれたものです。IT大手企業であるGoogleやFacebookが導入したことで、近年注目を浴びています。
OKRの特徴は、従来の計画方法よりも比較的高い頻度で設定、追跡、再評価をする点です。
OKRはその名の通り「目標と主要な結果」を測定するものであり、KPIなどで設定される「業績をアップする」などの一般的な目標とは異なり、「求められる結果」も明確に測定できる指標となっています。例えば、「業績をアップする」をOKRに設定した場合、そこには「1万人の新規顧客を獲得する」などのような「数値で結果を管理できる」事柄も同時に設定する必要があります。
KPIとKSFの違い
KSFとは、「Key Success Factor」の頭文字を取った略称で、日本語では「重要成功要因」と訳される、成功への鍵や要素のことです。従来は、経営用語として使用されていましたが、現在では「目標を達成するための要因」という広い意味で、ビジネス現場においても幅広く使用されています。
事業を成長させるための要素はいくつかありますが、その中でも特に大きな影響を持っているものがKSFです。KSFがプロジェクトの成功要因を洗い出すための指標であるのに対し、洗い出した要因を定量的な指標へと変えるのがKPIの役割となっています。
KPIとKDIの違い
KDIは「行動目標」を意味する「Key Do Indicator」として一般的に知られていますが、「主要診断指標」を指す「Key Diagnostic Indicator」の略称としても使用されています。
まず前者の「Key Do Indicator」とは、達成したい目標のための「行動を計測可能な数値で定めた指標」のことです。
実業家である冨田和成氏が2016年に出版した著書で使用した造語で、どのような行動を積み上げれば目標達成できるかを考え、具体的なアクションを定量化します。例えば、WebサイトのPVアップを目標とした場合、記事を1日に⚪︎件投稿する、リライトを1週間に⚪︎件行う、などがKDIとして設定可能です。
後者の「Key Diagnostic Indicator」は日本語では「主要診断指標」と訳される、プロダクトの「真」のパフォーマンスを測定するための指標のことです。
「主要業績評価指数」と訳されるKPIですが、組織はチームとして行っている活動が正しい方向に進んでおり、成果を出していることを証明するために、一定のパフォーマンス水準を達成しなければいけない、といったプレッシャーを感じてしまいます。
しかし、このような状況では、虚栄心を満たすための指標、いわゆる「バニティメトリクス」ばかり設定されてしまうようになりますが、成功の本当の尺度は、チームが「学習」しているかということです。
この「学習」を測るための指標が「Key Diagnostic Indicator」となります。KPIをKDIに変える方法は、チームを「グロース思考」に変えるには? KPI ではなく KDI が必要で解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
KPIの具体例
デジタルマーケティングにおけるKPIでは、以下のようなものがよく設定されています。
・Webマーケティング
-アクセス数
-問い合わせ数
-Webサイト上での売上数
・アプリマーケティング
-ダウンロード数
-アクティブユーザー数
・Eメールマーケティング
-メール到達率
-開封率
-商品ページや資料ダウンロードページへのリンクのクリック数
・コンテンツマーケティング
-ユーザー数
-ページビュー数
-ホワイトペーパーダウンロード数
・ソーシャルメディアマーケティング
-フォロワー数
-SNSからの問い合わせ数
-エンゲージメント数
-いいね数
-UGC数
・デジタル広告
-インプレッション数
-クリック数
-クリック単価
-コンバージョン率
-顧客生涯価値
KPIを設定するメリット
KPIを設定することで得られるメリットは大きく3つあります。
・指標が明確になる
・生産性が向上する
・評価基準を統一できる
それぞれ、事業を成長させるためにも大切なポイントとなっていますので、この際に理解しておきましょう。
指標が明確になる
まず、KPIを設定すると指標が明確になります。
指標及び進捗具合が明確になれば、目標到達のためにすべきプロセスが見えてくるでしょう。
逆に、KPIを設定せずに漠然とした指標を基に活動を進めても、途中で行き詰まりどうすれば良いのかわからなくなってしまう、何を基準に判断すればいいのかわからなくなってしまいます。社員全員がバラバラの方向に進んでしまうことは、組織において最も避けたい状況の一つでしょう。
また、指標を明確にすることは問題の可視化にもつながりますので、PDCAを回して効率よく作業を行う上で、KPIの設定は必要不可欠です。
生産性が向上する
2つ目のメリットは、生産性が向上することです。
KPIを設定して指標や進捗を明確にすると、優先すべき業務とそうでない業務を把握できるようになります。
業務を順序付けした際に必要が無いと判断した作業は削る事ができ、優先度の高い業務にその時間を割くことで、事業を成長させるための効果的な活動を行えるようにもなるでしょう。
また、KPIで設定した指標をグループで共有することで、全体のモチベーション向上も図れます。達成すべき指標が明確になり、それぞれの社員もそこに向かって何をすべきで、何をするべきでないか判断でき、その結果生産性の向上や、組織の統一にも繋がるでしょう。
評価基準を統一できる
3つ目のメリットは、評価基準を統一できることです。
KPIを設定し、具体的な数値を指標に掲げることで、感覚的ではない客観的な見方をすることが可能になります。
明確な数値が指標だと誰が見ても納得のいく評価基準を設けられるので、組織内で公平な評価を下すことが可能です。
営業と事務など普段担当が違う部署の人でも、KPIを用いればプロセスを数値として可視化できるので、評価基準の統一が容易になります。
KPIの設定方法
KPIを設定するためには、KGIとKFSを分析する事が大切です。
最終目標であるKGIとKPIの繋がりを意識することで施策に一貫性を持たせる事ができるでしょう。KPIを設定するための3ステップを紹介します。
・KGIを設定する
・KGIを細分化してKFSを洗い出す
・KFSからKPIを設定する
KGIを設定する
最初にやるべきことは、最終目標となるKGIの設定です。
KGIは指標の最終地点なので、ここが定まらないことにはKPIを設定する事はできません。
KGIを設定する際のポイントは、数値として明確に定義でき、現実的に達成可能な指標を設定する事です。
具体的な数値として指標を定義しておくことにより、KPIを設定するための逆算が容易になります。
KGIを細分化してKFSを洗い出す
KGIを設定したら、続いてKGIを細分化しKFSを洗い出します。
KGIを細分化し、構成する要素を1つずつ挙げていくことで、KFSは見えてくるでしょう。
例えばECサイトの売り上げ向上をKGIとして設定した場合、SNS運用やSEO対策などがKSFに当てはまります。
WEBサイトの広告収入向上をKGIとした場合のKSFには、検索結果の占有やコンテンツの品質向上が含まれるでしょう。
KFSからKPIを設定する
上記2ステップが終わったら、最後はKFSからKPIの設定を行います。
KFSで導いた成功要因を、KPIとして可視化できる目標数値に置き換えていく作業です。
この際にKPIを多く設定しすぎると、管理が大変で作業効率が落ちてしまう恐れがあります。
KPIとして設定するものは、本当に重要なプロセスのみに留めておくことが成功の秘訣です。
KPI設定のポイント「SMART」
KPIを設定する際に意識すべきとされている項目は大きく分けて5つあります。
・S:Specific(明確性)
・M:Measurable(測定可能)
・A:Achievable(達成可能)
・R:Relevant(関連性)
・T:Time-bounded(適時性)
これらは、その頭文字を取ってSMARTと呼ばれています。
SMARTを意識する事で適切なKPI設定が可能になるのです。
S:Specific(明確性)
SMARTの1文字目であるSは「Specific」の頭文字で、日本語では明確性を意味します。
KPIは個人の視点で考えるものではなく、社内やグループ内で共有するものです。そのため、誰が見ても明確でわかりやすい指標を設定する必要があります。KPIの内容が曖昧であれば、指標の統一性が無くなり、設定しても大きな効果を期待できません。
明確性はKPI設定における基本事項なので、しっかりと意識することを心がけるようにしましょう。
M:Measurable(測定可能)
2文字目のMは、測定可能を意味する「Measurable」の頭文字からきています。
KPIにおける測定可能の意味は、目標値が定められていることを指しているのではありません。この場合の「測定可能」は、指標に向けての進捗具合や現状の数値を測定できるようにするということです。
進捗具合の確認や業務内容の確認の際に、KPIが測定可能な数値で定められていれば、課題の早期発見やPDCAの効率化に繋がります。
その一方で、数値化が難しいものをKPIに設定することは、目標の達成度を確認しにくいため、場合によっては避けるのが賢明でしょう。
A:Achievable(達成可能)
SMARTの3文字目、Aは「Achievable」、日本語では達成可能を意味します。KPIで定める指標は達成が可能であるものを選ぶようにしましょう。達成困難な指標をKPIに定めてしまうと、モチベーションの低下に繋がるだけでなく指標達成へのプロセスの設定が難しくなります。
達成が可能なKPIを設定し、その後に具体的なアクションプランを考えていきましょう。
R:Relevant(関連性)
SMARTの4つ目にあるRは、日本語で「関連性」を表すRelevantに由来しています。
KPIは企業の指標を達成するために設定するものであるため、最終目標であるKGIと直結するものを設定することが重要です。
KFSも同様で、利益の向上をKPIとして設定した場合、それに直接関連のある売上高や販売数などがKFSの値として当てはめられるでしょう。このように、KPIはKGIや他部署のKPIと関連させて設定する必要があります。
T:Time-bounded(適時性)
最後のTはTime-boundedの頭文字で、日本語に直すと適時性を表します。
業務を効率よく進めるためには期限の設定が必要不可欠です。明確なKPIを設定していても、達成期限が曖昧だとアクションプランの構築が難しく、後回しになってしまう業務も発生してしまうでしょう。期限を設けることで、具体的なアクションプランが定まり、指標達成の可能性もより明確になります。
KPI達成に必要なKPI管理
KPIで定めた指標を達成するためには、KPI管理をしっかりと行うことが必要です。ビジネスにおいてよく使われるKPIですが、大事なのはKPIを定めることではありません。KPIを管理して指標に到達してこそ、KPIを設定する意味があるのです。進捗状況や予定との差異などは常に、途中経過として把握できるように管理しておく必要があります。
管理の際に気をつけるポイントは、前述したSMARTを意識することと、KPIの設計を単純にしておくことです。SMARTに忠実なKPI設定をしていれば、途中経過の管理が楽に行えます。KPIの内容量が多かったり、抽象的な指標が定められていると、生産性の低下が考えられます。
KPIを設定する際に、誰が見ても理解ができるような指標を設定しておくことで、後々のKPI管理が楽になるでしょう。
KPI設定で事業を成長させたの成功事例
とあるファッションECではKPIを分析することで、購入率を大幅に改善することに成功しました。同ECサイトはF2層(35歳〜49歳女性)をメインターゲットととして設定しています。売上目標をKGIに置き、KGIを達成するために「購入者数を増やす」を含む、複数のKPIを設定しています。KPIのうちの一つであるこの「購入者数を増やす」に注力して、分析しました。
購入者を増やすために、ユーザーの行動分析が可能な、プロダクト分析ツールを導入して、まず「購入者がどんな行動を取っているのか」ということを4つのタイプに分けて、分析した結果クラスターAに「2回異常購入するユーザー」が多いことを発見。
そこでクラスターAのユーザーがどんな行動を取っているのかを行動分析したところ、ふかの3つのクラスターよりも、「閲覧履歴を見る」回数が多いことがわかりました。
次に「閲覧履歴を見る」という行動を深掘りするために、「閲覧履歴を見る手前でユーザーが何をしているのか」を確認した結果、「商品詳細ページ」を見た後で、閲覧履歴を見ていることを見つけ出しました。同ECサイトでは、「閲覧履歴」へ遷移できる導線は「商品詳細ページ」の下部にしかありませんでした。
そこで「商品詳細ページから閲覧履歴ページへの誘導を強化すれば、購入数が増える」と仮説を立てて、A/Bテストを行った結果、
カートへの投入率:122%
コンバージョン率:156%
購入者数:114%
という、大きな成果を得ることができました。
まとめ
KPIとは、目標を達成するためにプロセスが適切に実行されているかを定量的に測るための指標のことです。指標が明確になることで、生産性が向上するなど、他にもメリットを受けることができます。
KPIには、虚栄心を満たすための指標である「バニティメトリクス」が設定されることがありますが、これはなんの成果にもつながりません。成長に必要なのは「学習」であり、チームの思考回路を「グロース」に切り替えるためには、KPIをKDI(Key Diagnostic Indicator)に変えることが重要です。