こんにちは。安田です。
アプリ開発とデジタルマーケティングを支援する株式会社DearOneでB to Bマーケティングをしています。そんな私が初心者マーケターにもわかるように解説していくこのコーナー。
今回で第12回目です。
前回第11回の記事では『顧客分析して満足?それじゃ二流です』について解説をしました。
第1回目から順番に読んでいただければ、より理解が深まると思いますので、まだ読んでいただけていない人はぜひ読んでから戻ってきてほしいです。
それでは、今回のテーマを発表します。
グロースエンジンとは?
Here We Go!
サービスを成長させたいならグロースエンジンを回せ!
先輩から「サービスを成長させたいならグロースエンジンを回せ!」って言われたんです。
いきなりそんなこと言われても、グロースエンジンって何なんでしょうか?
先輩が言うには、今後ビジネスをグロースさせるため、これからの時代を生きていくためには必要らしいです。
でも詳しくは教えてくれませんでしたので、とことん調べました。
グロースエンジンとは?
で、グロースエンジンを一言で表すと「マーケティング施策の実行・検証・改善のサイクルを回すこと」です。
プロダクト・サービスの「グロース(成長)」に向けてPDCA(Plan・Do・Check・Action)のようなサイクルをぐるぐる回す様子が車のエンジンのような役割を果たすので「グロースエンジン」と呼ばれるのですね。
グロースエンジンによるサービス改善プロセスでは、サービスを完全な状態になってようやくリリースするのではなく、一旦7割くらいの完成度で市場に出し、まず顧客となるターゲット層からの反応を待ちます。
そして市場性があると判断できれば、観察の結果見えた課題に対して必要な改善を打ち、うまくいけば導入をする、そしてさらに改善を施す。
このように、提供しているサービスに対して、課題を見つけ、改良を重ねるというサイクルを回すことを「グロースエンジン」と呼びます。
グロースエンジンの必要性
グロースエンジンが何を意味しているのかは理解していただけたと思いますが、「なぜグロースエンジンが必要とされているのか」を把握できていなければ、なかなか取り組むまでに至りません。
グロースエンジンが必要な理由として「多くの施策は失敗に終わるから」というのが挙げられます。
どれだけの時間をかけて、どれだけの費用を費やして実施した施策も失敗に終わってしまうことの方が多いのが現実です。
これまでに革新的な発明をした科学者なども、我々が知っているのは「成功」の部分だけですがその裏には何度となく実験を繰り返し、失敗をして、失敗から学び、また繰り返すという、ある意味グロースエンジンを常に回し続けていただけなのかもしれません。
また、AmazonのCEOである、ジョフベゾスは「実験の回数を100回から1,000回に増やせば、イノベーションの数も劇的に増える」「Amazonの成功は1年、1ヶ月、1週間、1日でどれだけ多く実験を行えるかにかかっている」とグロースエンジンの必要性を語っています。
実験の成功率を調査した Microsoft ThinkWeek paperによると、AmazonやMicrosoftといった世界を代表する大手IT企業で行われた「改善を目的とした施策」において実際に改善が見られた(成功した)ものは50%にも満たなかったと報告されています。
これらの失敗によってAmazonは何十億の損失を被りましたが、ここから学び、施策を繰り返すことで今日における地位を確立したと言えるでしょう。
グロースエンジン実施の課題と解決策
いざグロースエンジン実施!のフェーズに進んでも、実際にグロースエンジンを実施できる環境を構築しようとすると、さまざまな課題が出てきます。
次々と課題が出てくるため、そこで行き詰まってしまう企業も多いですが、よく出てくる課題は共通しているため、把握し解決策を知っておくことでスムーズにグロースエンジン実施までたどり着くことができるでしょう。
よく出てくる課題としては以下のようなものがあります。
- データのアクセスが特定の部署で実施されていて、気軽にデータにアクセスできる環境ではない。
- データのアクセスは自由にできるが、求められているデータ解析をするには、クエリや複雑なツールが求められ技術的ハードルが高い。
- A/Bテストやプッシュ通知等のマーケティング施策を実行しようとすると、社内承認や部門間調整等が発生してしまい工数がかかってしまう。
- データ解析や施策実行で学習した内容を無所感で共有する仕組みがなく、また、担当部署から課題やアイディア出しが共有される仕組みとなっていない。
このように次々と課題が出てきてなかなか進まず、時間だけが過ぎていく。という状況に陥りかねません。
これらの課題の解決方法として、
- 分析作業の高速化、自動化、民主化の実現
- テスト&施策実行環境の高速化、自動化、民主化の実現
- 部門を超えたアイディア&学習内容の共有化の実現
(参照元:「グロースエンジン」導入で年1,000回以上の施策実行&検証サイクル環境構築へ)
などが考えられます。
それぞれの解決策については詳しく解説している記事がありますので、そちらを参考にしてみて下さい。
- 分析作業の高速化、自動化、民主化の実現については「データの民主化がもたらす、一億総分析時代」
- テスト&施策実行環境の高速化、自動化、民主化の実現については「より早く!OODAループを加速させる方法 3選」
- 部門を超えたアイディア&学習内容の共有化の実現については「データの民主化実現事例3選から見る、得られる成果とは?」
【事例】グロースエンジンを回している有名企業
Netflix、P&G、Amazon、Googleといった愛用者が多く顧客満足度の高いサービスを提供している先進的な会社は、サービスやプロダクトを世の中に出し、その結果をフィードバックし、改善するといった一連のサイクル、グロースエンジンを年間に1,000回レベルで回しているのです。
日本企業において、商品やサービスの企画開発でよくあるのが、新しい商品をリリースするまでに、社内で役員に見せるための資料や事前レビューを1ヵ月以上行い、役員の審査会でNGを出されたら再度持ち帰って企画を直して、という繰り返し。商品をリリースするまでに半年から長いと1年以上かかります。
昨今のユーザーニーズの変化の速さにはこれでは対応できませんよね。
PDCAからOODA(ウーダ)ループへ
グロースエンジンを回そうとする際に、先ほど例であげた従来のPDCAのサイクルが最適ではない場面があります。ほんの少し前、世にインターネットが出た際には、利用者が1億人に達するまでに8年間~10年間かかっていました。
一方で現在。
例えば一世を風靡した「ポケモンGO」。
ユーザーが1億人に達するまでにどれくらいの期間がかかったと思いますか?
たったの8日間です。
正解を言い当てた人は少ないのではないでしょうか。
リリースして8日後には1億人だなんて想像もつきませんよね。
それくらい今日のデジタル業界の進化のスピードは人知を超えて上がってきています。とにかくサービス改善のスピードを上げていかないと、太刀打ちすらできない状況なのです。
これまでの「開発は年に4回」といったレベルであれば、PDCAでも対応可能でしたが、Netflix、Amazonなどのように年間1,000回レベルで施策を繰り返し実行するのに、PDCAでは今の市場環境変化のスピードにはついていけません。
こうした時代の変化の中で、さらにグロースマーケティングの時代に適した思考・意思決定プロセスが「OODA(ウーダ)ループ」です。
OODAループとは「Observe(観察)」「Orient(情勢判断」)「Decision(意思決定)」「Action(行動)」の頭文字をとって作られた言葉で、簡単にいうと、「真っ先に観察し」「方向、兆しを掴み」「方向づけを決めて」「アクションする」というループです。
OODAループは特に、サイクルを高速で回すために使用されるフレームワークで、VUCAと呼ばれる混沌とした時代を生き抜くために企業が取り入れるべき手法となっています。
VUCAはVolatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の4つの言語から作られた造語です。
この混沌とした世の中では、計画を立てても、それを超えるスピードで時代が変化をしており、また計画を立てている間にも、顧客のニーズが変化し市場が大きく変わるため、施策を高速で繰り返し、常に改善を施すことが大切となります。
グロースマーケティングにおいても高速で施策を繰り返すことを重要視しており、ユーザーの反応を見て、市場の変化を考えて、常に顧客を満足させることを目指しています。
グロースマーケティングはVUCA時代を生き抜くために必要なフレームワークとなっているのです。
行動分析ツール「Amplitude」を活用したグロースエンジンの実践
Amplitudeとは、アプリやWebなどのオンラインデータと、店舗POSなどのオフラインデータ全てを統合して顧客の行動分析を簡単に行える分析ツールです。
Amplitudeは「グロースエンジン」を年間1,000回以上実施できる環境のプラットフォームとして利用していただけるように設計されています。
実際Twitter、Dropboxといった企業で使用され、年間1,000回以上ものグロースエンジンを回すのに役立てています。
さらに、様々なサードベンダーのマーケティング基盤との連携が容易なため、 Amplitudeの管理画面からプッシュ通知を可能にしたり、メール送信を可能にしたり、A/Bテストを可能にするなど、マーケティング施策実施を容易に行うことが可能です。
グロースエンジンは4つのフェーズから成り立っており、Amplitudeではそれぞれのフェーズで支援できる機能が備わっています。
1つ目のフェーズが「仮説・アイディア出し」
2つ目のフェーズが「実験・学習」
3つ目のフェーズが「ロールアウト」
4つ目のフェーズが「情報共有」
です。
これらのフェーズについてそれぞれ説明していきます。
仮説・アイディア出し
「仮説・アイディア出し」フェーズでは、先行指標(マジックナンバー)機能が課題解決に向けた仮説やアイディア出しを効率的に行ってくれます。
先行指標は一般的に
「アクション(ユーザー行動)」×「時間」×「期間」
の式で求められます。
従来は先行指標を手動で求めていました。しかし、組み合わせは無数にあり、その中から真の最も効果的な先行指標を探し出すには、とても多くの工数を要していました。
しかしAmplitudeでは、手動で数週間かかっていた作業を数秒で終わらせることが可能となります。
以下の画像は、ファネルチャートでコンバージョン向上に向けた先行指標(マジックナンバー)となるユーザー行動を求めている画像です。
サブメニューから選択するだけで、Amplitudeがマシューズ相関係数*1Matthews Correlation Coefficient(MCC):2値分離問題の評価指標を求め、スコアの高いユーザー行動内容を求めてくれます。
先行指標(マジックナンバー)の求め方については「グロースのカギとなる魔法の数字 マジックナンバー分析とは」で詳しく説明しています。ぜひ参考にして下さい。
実験・学習
「学習・実験」フェーズでは、Amplitudeは外部ツールと連携することによって、A/Bテストの自動化が実験/学習速度の高速化が可能です。
AmplitudeのA/Bテスト基盤連携の一つとしてOpitimizely*2 … Continue reading連携が備わっており、Optimizelyで実行したA/Bテストの結果をAmlplitudeに戻すことで、Amplitudeがテスト結果を集計してくれます。
専門知識や複雑なクエリが必要ないので、A/Bテスト結果を統計的に、客観的に把握することができます。
以下の画像はAmplitudeでA/Bテスト結果を集計し、統計的優先性を求めた画像です。
ロールアウト
「ロールアウト」フェーズでは、Amplitudeと外部ツールが連携することによって、マーケティング施策をAmplitudeから自動展開することが可能です。マーケティング施策の中にはプッシュ通知、アプリ内メッセージ、新規ユーザー獲得、リターゲティング等、ユーザーエンゲージメントを高め、継続的に使用してもらうための施策があります。
ロールアウトによって、マーケティング施策実行までのプロセスをこれまでより大幅に縮小し実施を高速化することが可能で、グロースマーケティングで重要な3つの軸のうちの「施策を高速に回す」を実現することができるのです。
施策を高速に回すためのフレームワーク「OODAループ」についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてみて下さい。
より早く!OODAループを加速させる方法 3選 | グロースマーケティング公式|Growth Marketing (growth-marketing.jp)
以下はAmplitudeとFacebookを連携するときの設定画面です。
Amplitudeのユーザーセグメントは、Facebookのカスタムオーディエンスとして定期的に同期され、ユーザー獲得やリターゲティングに利用することができます。
情報共有
情報共有フェーズでは、Amplitudeのレポーティング機能「notebooks」を使用することで、部署内外でのコミュニケーションコスト削減してくれ、情報共有の効率化実現が可能です。
また、notebooksを使用することで、インサイトの共有が容易になります。
新規または改善が施された製品や機能、キャンペーン等の実験結果の共有も簡単にでき、重要なコンテキストや分析結果の共有も可能となるため、チーム全体でより質の高いデータドリブンな意思決定ができるようになります。
データドリブンについての記事はこちらで詳しく説明していますので、参考にしてみて下さい。
まとめ
この記事ではグロースエンジンについて紹介しました。OODAループ等のフレームワークを使用し、施策を高速化し、常に改善を試みることでより大きな成果を上げることができるようになります。
お役に立ちましたでしょうか。
それではまた今度。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次回の記事は「これからのマーケターが見るべき数字」です。これまでは売上や顧客数など、会社の基幹システムから出力した結果の数値を見ていることが多いのでは?これからは何を見るべきなのでしょうか?