この記事は、2023年6月16日に開催されたGLOBALIZED B2B製造業向けイベントの一部セッションレポートです。
川崎重工・山下まいか氏、1年ぶりのGLOBALIZED再登壇!
WOVN 北野氏|
モデレーターを務めさせていただきますWovn Technologies株式会社の北野と申します。
本日は川崎重工の山下様をお招きして、グローバルWeb戦略についてお話しいただきます。実は1年前のGLOBALIZEDにもご登壇いただき、非常に好評だったので再度オファーさせていただきました。
今回お話しいただくのは、実際に山下様がグローバルWebサイトのリニューアルプロジェクトを進めていく中で、うまくいったところからうまくいかなかった等身大のところまで、ネットでは読めないような貴重かつ稀有な事例をご紹介いただきます。
川崎重工 山下氏|
川崎重工業株式会社の山下まいかと申します。本セッションでは、当社のWebサイトの事例をご紹介させていただきます。
川崎重工業本社に入社し、広報やブランド関係、デジタルマーケティングなどを担当してきました。
そして、2年前にロボットの事業部門に異動して、そこでも同じようにロボットに特化した広報業務やWebサイト周りの業務を行っております。今回は川崎重工業全体の話ではなく、ロボットの事例に特化してご紹介いたします。
アジェンダは以下の3つです。
- 川崎重工のご紹介
- Kawasaki RoboticsのグローバルWeb戦略
- 欧州での多言語化の取り組み − WOVN.io導入
まず川崎重工がどんな会社かご存じない方も多いかと思いますので、ご紹介した上で、このようなWebサイトを作っていますという実例、そしてWOVNのサービスを導入して今このような感じですという事例、以上の三つをお話ししていきます。先進事例というよりは、等身大の姿をお伝えしていけたらと思っています。
売上高1兆7,000億円、従業員数38,000人!川崎重工を紹介
川崎重工の事業領域はモーターサイクルから産業用ロボットまで!
最初に川崎重工のご紹介です。当社は川崎市にある会社だとよく間違えられるのですが、実はそうではなく創業者・川崎正蔵の名前から取った社名です。100年以上前に神戸の地で創業され、以来歩みを進め発展してきました。そして、今では売上高1兆7,000億円、従業員数が38,000人強の会社に育っています。
「カワサキ」という名前の中で一番有名なのはやはりモーターサイクルで、中には「モーターサイクルの川崎と同じ会社だったのか」という反応をされる方もいらっしゃいます。そのモーターサイクルの「カワサキ」が、実は産業用ロボットも作っているんですね。
産業用ロボットのほか船や新幹線も製造しているほか、飛行機の胴体部分なども手がけています。
そのほか、エネルギー関係も含め陸・海・空にわたる非常に幅広い領域の事業を展開しています。
それぞれの売り上げの構成は、どこかの部門がずっと強いということもなく、年度によって1位が変わる状況ですが、そのうちロボット事業はまだまだ14%程度で、中でも特に私が担当している産業用ロボットは約10%の売上構成比率となっています。
川崎重工のロボット事業
ロボット事業自体の歴史はそれなりに古く、実は国産で初めてロボットを作ったのは当社です。そして、産業用ロボットが登場したのが約50年前で、当社は現存する世界最古のロボットメーカーでもあります。
どんなところでロボットが活躍しているのかというと、例えば自動車や半導体の製造ラインで黙々と働くことが、ロボットが非常に得意分野としているところです。
一方、今日お話しするのはスライドに「一般産機」と書いている分野です。自動車でも半導体でもない新分野でもっと産業ロボットを使っていただこうと、今取り組んでいるところです。
どのような事業背景があるかというと、スライドは製造業1万人当たりのロボット台数を表したものです。ロボットという言葉を耳にする機会が多いので、台数もさぞたくさん増えているのだろうと思われがちなのですが、まだ全体の10%にも満たない状況で、今なお工場の中では人の手で作りまくっているという現状がまだまだあります。
言い換えれば、残りの9割の部分ではまだまだ自動化の余地があるということなので、今そういった現場に対して「ロボットが活躍できます」ということを紹介していきたいと考え、目標として掲げているところです。
続いて当社のロボット事業の体制になります。日本を含むアジア、ヨーロッパ、アメリカの3極体制でそれぞれの地域を管轄しています。売り上げの約7割が海外からになるので、今や各事業ともグローバルな海外展開抜きには考えられません。以上が川崎重工全体の事業の概要でした。
Kawasaki RoboticsのグローバルWeb戦略
川崎重工のWebサイト構造とロボティクスサイト
ここからWebサイトの戦略についてご紹介します。スライドが川崎重工のロボティクスサイトです。川崎重工は非常に事業領域が広いので、まず全体のコーポレートサイトが存在しています。
基本的にはその中に事業サイトも入っているのですが、ロボットのサイトとモーターサイクルのサイトだけは、ドメインやサーバーが別になっている独自の構成を取っています。なぜかというと、ロボットはデジタルマーケティングでの期待が高いBtoB事業であると、社内でも位置づけているからです。
一口にBtoB事業といっても各事業の領域が非常に広いため、Webサイトに求める部分もそれぞれ異なってきます。
例えば航空機、鉄道車両、船などについていくら皆さんに知ってもらったところで、買ってくれる人は非常に少ないので、むしろその少ないお客様のところに一生懸命「こういうものがあります」、「お困りごとはありませんか」と直接コミュニケーションを取りにいく方が主流です。
他方、ロボットに関しては世界中にお客様がいて、どういうニーズがあるのか全てを手分けして聞きに行くことは難しいので、その点Webサイトが非常に効果的だと考えています。
2023年現在、30地域27言語に展開するWebサイトを運営しています。その中でのロボティクスサイトの位置づけは、まず「カワサキ」がロボットを作っていることや、Kawasaki Roboticsというものが存在していることを世間に知らしめること。
そして、新しいお客様にコンタクトしてもらって、以前の世界中にあるコンタクト先がわからない状態から、何らかお顔・名前とアドレスくらいはわかる状態に持っていくことを目標にしています。
ガバナンスが厳しすぎて反発も!?2度のリニューアルを経たロボティクスサイトの変遷
ここまでたどり着く以前の変遷をご紹介します。今までロボティクスサイトは大きく2回リニューアルしており、1回目が2015年、そして2回目が2022年です。
2015年のときにはそれまで国単位でサイトがバラバラだったものを、一つのWebサイトに統一しました。
そのときにはガバナンスが厳格なものを作り、「皆言うことを聞け」という形で入れたのですが、そうしたらガバナンスがガチガチすぎて「却って使い勝手が悪い」と反発が起き、2022年にもう一度、それらを考慮した適切なバランス感覚でWebサイトがリニューアルされたという経緯でした。
2015年にどのようなことを行ったのか、簡単にご説明します。このときは、それぞれの国で運営していたものを一つのサイトに統合しました。どうしてそれぞれのサイトを分けるのがよくなかったかについて、ロボットのアメリカ拠点の事例を紹介したいと思います。
当社はロボット事業を世界中で展開しており、ロボットのサイトだけでも8サイトあります。そして、川崎重工は非常に事業領域が広いので、アメリカでの他のビジネス領域も含めるとさらに4サイトあるため、それぞれが発信しているメッセージがバラバラという状態になっていました。
そして、何よりも困ったのが、アメリカのサイトがかなり力を入れて作られていたために、ヨーロッパなど他の対象国からのアクセスまで取ってしまっていたことでした。サイトが幾つも乱立しているがゆえに、SEOが強すぎるアメリカが他のところまで取ってしまう状況が発生していて、「これは全然良くないね」ということになりました。
そのほか、サーバーを重複して借りているサイトがあったり、安いサーバーを借りたサイトがウイルスに感染してしまったりなど、とんでもないことが起こっていました。
そこで「きちんとしたサーバーを借り、デザインも統一して作りましょう」という旗振りをしてサイトを統合しました。
ただ、前述のようにガバナンスを強めすぎて、各国のマーケティング担当から不満が起こってしまうということもありました。そこで2022年、CMSやサーバーをもう一度変え再リニューアルを行いました。
ここで何をしたかというと、スライドはそれぞれ日本サイト、タイサイト、アメリカサイトなのですが、ぱっと見たときの印象が大体同じになるようトンマナを揃えつつ、コンテンツの自由度を高めました。
グローバル統一とローカライゼーションのバランスは?
具体的には、「共通化し揃える部分とローカルに現地化する部分をくっきりと分け、バランスを見ていきましょう」ということで、現在取り組みを進めています。
共通化する部分というのは、ブランドイメージとセキュリティーに関わる箇所でデザイン・ドメイン・サーバー・CMS周りなどです。
CMSに入れるプラグインツールやお問い合わせツールなどは一緒にし、また導入事例も「グローバルで一つの事例を共有できた方が効率がいい」ということで共通化しています。
それ以外の部分については、「各国で自由にやってもいいですよ」というガイドラインを作りました。例えばメッセージを発信する部分に関しては、レイアウトや書いてある内容は単なる直訳ではなく、それぞれ違うことが書いてあってもいい一方、伝えたいメッセージは統一する形で運用しています。
グローバルでのサイト維持のために何をしているかというと、結局は各国の担当者と意見をすり合わせていくことに尽きます。ここに限っては楽な解決策はありません。
一つ「そうだったのか」という気付きがあったのは、先ほど申し上げた通り、当初日本で旗振りをし、ガバナンスがきつすぎたため、不満が続出してしまったことです。
それはやはり、日本側で現地の方のことを十分考慮できていなかったということです。具体的には、日本の感覚だとお客様からお問い合わせを受け、客先に行ってお話しすることが前提で考えがちですが、各国の担当者はそれでは収まりきれない範囲の顧客をカバーしているため、Web検索で見つけてもらい、そこでなるべく情報を渡して、ある程度ナーチャリングできた状態で商談に持っていきたいと強く思っていることがわかりました。
このように日本はデジタルマーケティング関連の感覚が遅れており、ヨーロッパ・アメリカの方が先行しているということを痛感する出来事でした。
ですから今では、どちらかというと日本がリーダーシップを取るというよりも、海外のメンバーに教えてもらいながらやっていくくらいのスタンスの方がいいと思っているところです。
欧州での多言語化の取り組み − WOVN.io導入
現地担当者にログイン権限を渡さず翻訳編集可!Webサイトの多言語化状況
続いて、WOVNのサービスを実際に入れてみてどうだったかをご紹介します。今アメリカやドイツなど各グローバルエリアの中心拠点では、同サービスを特に利用せず現地の人が一生懸命翻訳をしています。
とはいえ、ヨーロッパ全体ではドイツ語でカバーできる範囲は非常に少ないので、カバーしきれない地域については、今WOVNのサービスを使ってWebサイトを作ったり、あるいはランディングページで言語化を進めているところです。
WOVNのサービスを利用しているのはフランス、スペイン、イタリア、ポーランド、デンマークの6言語です。これらはドイツの拠点から「強化地域として入れてください」と依頼があったエリアで、すぐにでも多言語化をしたいということだったので、同サービスを利用させていただきました。
もう一つのランディングページは14言語で展開しています。スライドは直近2023年1月に、新しく作ってみたページです。多言語化しているサイトは全体で約300ページあるのですが、ランディングページは1ページだけしかなく、WOVNのサービスは入れずに社内で力業で1ページ分だけ作ってみました。
さらに今、「全ページ分はいらないが、何も作らないわけにはいかない」という部分のページについて、さらにランディングページを作っているところです。
ヨーロッパでの現地語対応の背景としては、母国語のアイデンティティが非常に強いことが挙げられます。当初は「英語サイトや、代表的なヨーロッパの言語サイトがあればいいでしょう」といった程度に考えていたのですが、そうではなくて母国語のサイトがあるということが、その国の人にとって「自分の国が大事にされている」という感覚を生むのだとわかりました。
それゆえ、「多少変な翻訳であっても、まずは母国語のサイトを作ってほしい」というのがドイツ側からの依頼内容でした。
また、もう一つ当社として頭を抱えていたのが、拠点がない各国では、当社と資本関係がない販売代理店に製品を販売してもらっている状態であるため、当社の現地社員はおりません。そういう中で「公式情報をどうやって出していくのか?」という点に非常に悩んでおりました。
そんな中、スライドのWOVNのサービスを入れた模式図でご注目いただきたいのは、WOVNのサービスを入れているところでは、実は当社の従業員ではなくて販売代理店の方、つまり当社と資本関係がない従業員の方がサイトを管理しているということです。
なぜそういうことができるかというと、WOVN.ioの管理画面は、当社サイトへのログイン権限を持たせる必要のない完全に分かれた状態のものなので、あくまで翻訳がおかしくないかという部分だけをチェックしてもらう形で、構造には触れないようなアカウントだけを渡すことが可能だからです。
ログイン権限を渡すのか、渡さないのかという議論は各社であるかと思いますが、このことが非常に画期的で当社にとっては助かりました。
ユーザー数30%増!直帰率改善などWOVN.io導入による成果
実際にWOVN.ioを導入してどうだったか、ヨーロッパでトータルで集計してみたところ、入れる前よりもユーザー数は増えつつ、直帰率が減るといういい結果が出ています。
このように、全ページにわたり現地語で展開されていることでユーザーエクスペリエンス(UX)が向上し、そしてドイツの担当者はじめ各国の代理店からも「問題なく使えています」ということで評価も高く、非常に喜んでもらえています。
それぞれの平均ユーザー数を細かく見てみましょう。ランディングページ構築国とWOVNのサービスを入れたWebサイトの比較です。ランディングページは1ページしかないこともあり、やはりWOVNのサービスが入ったページの方が全体的にいい結果が出ています。
問い合わせ数に関しても、WOVNのサービスの導入国の方が問い合わせ数が多いという結果が出ています。とはいえ、ランディングページを入れているところからもそれなりに問い合わせは来ていて、「ランディングページに情報が少ないから問い合わせをせざるを得ないのか」などと、これをどう取るか時間をかけて検証しているところですが、WOVNのサービスと両輪になる形でランディングページを作ってよかったと思っています。
最後に今後の展望としては、ランディングページはすぐに作ることができるのでお試しとしてはいいと思いますが、そこからどういう顧客導線になっているのかなどを分析することは全然できません。
よって、さらにロボティクス市場が成熟し、期待できるような規模になってきたら、もう少しページ数を増やすなどの施策も考えていく必要があるかもしれないと考えています。
質疑応答とまとめ
WOVN 北野氏|
WOVN.io 導入効果も実際に出ていることに加え、今後の展望としてよりニーズがありそうなところのページ数を増やしていくというお話までいただき、ありがとうございました。
質疑応答に移りたいと思います。オンラインでいくつか挙がった質問を取り上げさせていただきます。
まず「世界中にいくつも拠点がある中で、言語や文化が違うステークホルダーを巻き込みながらのグローバルサイトのリニューアルはかなり大変だったのではないかと思います。どのくらいの人数/体制/期間でプロジェクトを進めたのか教えてください」とのことです。
川崎重工 山下氏|
実は結構人数は少なく、日本国内で「Web担」をしているのはメインが2人で、両者とも兼務という形でやっているので、それだけが専任という者はいない状態です。
それからアドバイザー的な立ち位置の者2人を合わせた国内の4人と、それぞれ各国1人ずつの担当者という形でリニューアルを進めました。
WOVN 北野氏|
もっと大人数でやっていらっしゃるイメージだったので、そんなに少人数で回していたというのはなかなか意外で凄いことですね。
ちなみに各地の担当者というのは、それぞれ現地の方でしょうか?
川崎重工 山下氏|
はい。現地のローカルスタッフがそれぞれ担当しているので、意思疎通の言語は英語でやり取りしています。
WOVN 北野氏|
続いて、今後グローバルサイトのリニューアル・統合などを検討していらっしゃる方も多いと思いますが「一度、リニューアル時にガバナンスを強めすぎて失敗したということでしたが、成功も失敗もありながら6年かけてプロジェクトを進めていったということで、グローバルサイトリニューアル・統合時、特に要件定義の段階など、進めていくプロセスで気をつけておくべきことがあれば教えてください」という質問が来ています。
川崎重工 山下氏|
要件定義で気をつけるべきところは、事業特性にもよるのですが、グローバルにどこまで共通化するのか、あるいは各地域の裁量に任せるのかの範囲について、コンセンサスをえておくことが非常に重要だと思います。
まず最初にグループ全体でやるべきことはメッセージの統一で、当社でもまず2015年のリニューアル時にメッセージ統一をしたりして地盤固めをしていった経緯があります。
ここをWebサイトだけの話だと思うと、途中でのすり合わせも単なる好みの範囲にとどまってしまうのですが、そうではなく「世界で絶対に共通化すべき部分はここ」、「発信したいメッセージはこれ」といった形で、まず各地の担当者と一緒に見ていくことが重要です。
そのように、共感できるところは先に握っておき、後のなかなか同じ感覚になれない部分はそれぞれ個別でどこまで調整するか協議するのが適切だと思います。
WOVN 北野氏|
続いて「WOVNを導入いただき、実際に翻訳したWebサイトのコンテンツについて、ドイツの拠点をはじめ、現地の代理店等の方から何かフィードバックや反応はありましたでしょうか?」。
川崎重工 山下氏|
ネガティブなコメントは来ていません。欧米の方々は何か嫌なことがあると、それについて黙っている人たちではないことが以前の経験からもわかっているので、「便りがないのが順調な証拠」と受け取っています。
何かあれば「ここを変えてくれ」とすぐ言ってくる人たちなので、現状それがないというのは担当者として非常にありがたいです。
WOVN 北野氏|
その答えを聞いて少し安心しました。ちなみに、先ほど現地の担当者の方にWebサイトの管理権限を渡すことなく、WOVN上で翻訳を修正できることが、導入に当たって良かった点だとおっしゃっていましたが、やはり実際に現地の方がたくさんの部分を修正されたりすることも多いのでしょうか?
川崎重工 山下氏|
それは国や担当者によりけりです。こだわりがある方は細かく見ている一方、「元のサイトに書いてあることを信じるよ」というスタンスの方もいます。
このように、細かい部分まで求めるかどうかは担当者次第ですが、その前のレベルとして多言語化Webサイトの共通基盤が担保・共有できている状態は非常にいいと皆実感しています。
スピーカー
川崎重工業株式会社|ロボットディビジョン グローバル戦略部 主事 山下 まいか氏
2008年川崎重工広報部に入社・配属以来、コーポレートブランディング・デジタルマーケティング・メディアプロモーションに従事。2020年からロボット事業を担当。
関連リンク
https://www.kawasakirobotics.com/jp