リモートワークが推奨されると共に、ZOOM、Slack、ShopifyなどのSaaS型サービスが急速な成長を遂げました。これらの企業が共通して導入している戦略があります。それがプロダクトレッドグロース( Product-Led Growth/PLG)です。
この記事では、プロダクトレッドグロースの概要や、成功に導くフレームワークやポイントなどを解説していますので、特にSaaS型のサービスを展開する企業でマーケティングを担当する方は、ぜひ参考にしてみてください。
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PLG(プロダクトレッドグロース)とは?
プロダクトレッドグロース(Product-Led Growth/PLG)とは、「プロダクトがプロダクトを売り込む」というスタイルの、営業やマーケティングなどの活動を全てプロダクト内部で行えるようにする、戦略のことです。日本語では「製品が主導として成長する」という意味になります。
これまでは営業主導マーケティングである「セールスレッドプロダクト(Sales-Led Growth/SLG)が主流でした。これは「営業がプロダクトを売る」というスタイルのマーケティングですが、ここから脱却して、プロダクト内部に成長のための活動を埋め込んだのが、プロダクトレッドグロースです。
下図はプロダクトレッドグロースを導入している企業の一覧となっています。
近年を代表する企業でよく導入されていることがわかります。また、Dropbox・shopify・ATLASSIAN・HubSpot・CLOUDFLAREなどは、プロダクトアナリティクスツールAmplitude(アンプリチュード)を導入してプロダクトグロースに成功しています。
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PLG(プロダクトレッドグロース)が注目されている背景
プロダクトレッドグロースが注目されている背景には、顧客が購買に至るまでのプロセスが複雑になったというものがあります。従来のセールスレッドグロース(SLG)では、営業担当者だけが製品を販売するために必要な情報にアクセスできていました。さらに、売上は営業担当者のスキルによって大きく左右されてしまいます。しかし今はその逆です。
顧客は、記事、ピアレビュー*1仲間や同僚とレビューし合う活動、比較を含むありとあらゆる情報にアクセスできるようになりました。そのため営業担当者が情報を提供する必要はなく、顧客は「とりあえず使って試したい」のです。エンドユーザーにはより多くの選択肢があるため、金銭的なコミットメントを求める前に価値を提供して、満足してもらうことが大切となります。
従来のセールス主導と今後のプロダクト主導
上記でも少し触れたように、従来のマーケティングはセールスレッドグロースと呼ばれる、営業がプロダクトを売る形式でした。例えば、「A」という商品を売るためには、営業担当者が商品について熟知し、見込み客に対して調べ上げ、興味を惹くようなアプローチ方法を考えていました。セールスレッドグロースは、あくまでも「人(営業担当)」が主体となるマーケティングであり、成果はその人のスキルに左右されるといったことが起こってしまいます。
また、チームで動いている場合には、情報共有をしながらマーケティングを進めることがほとんどです。情報が共有されるのを待っていれば、臨機応変に対応できず、営業活動が遅れて、その間に競合他社への商品の導入を決めてしまう、といったことも起こってしまいます。
こうした人間主導のスタイルから離れ、効率的にプロダクトを売ることを目指すマーケティングがプロダクトレッドグロースです。プロダクトレッドグロースは、商品自体に、顧客に売り込むための仕組みが内蔵されているため、セールスレッドグロースのような営業活動が不要となります。チームへの情報共有なども不要となり、低コストで効果的な事業拡大が可能となるのです。
PLG(プロダクトレッドグロース)の流れ
プロダクトレッドグロースと、従来のセールスレッドグロースの「プロダクト認知」から「顧客獲得」までの流れは、下記のようになります。
大きく異なる点であり、プロダクトレッドグロースで重要視されているのが「プロダクト使用までの速さ」です。まず、認知した段階ですぐにサービスを体験してもらいます。実際に利用してもらうことで、魅力や性能、メリットをスピーディに伝えることが可能です。その後、見込み客に対して積極的な営業アクションを取る、または営業担当との直接的なやりとりを省いて導入してもらうために、「自然と続けて利用してもらうための仕組み」をプロダクトに埋め込みます。そうすることで、顧客にはスムーズなサービス体験を提供でき、企業側はコスト・工数を削減することが可能となるのです。
一方でセールスレッドグロースは、実際にサービスを体験してもらうまでに時間がかかり、その間に他社サービスと比較してしまったり、乗り換えを検討される原因となります。
また、McKinseyの報告によると、ミレニアル世代の44%がB2Bの営業において営業担当とのやりとりがないことを望んでいるため、B2Bで特にミレニアム世代をターゲットとしている場合には、従来の営業ではなく、続けて利用したくなる仕組みが特に重要となるでしょう。
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PLG(プロダクトレッドグロース)のメリット
プロダクトレッドグロースのメリットは、コストを抑えて事業拡大を目指せる点です。ここまでにも述べている通り、事業拡大の要素がプロダクト自体に含まれているため、従来のセールスレッドグロースにおいて必要であった営業活動にかかる費用を抑えることができます。また、顧客獲得までにかかる工数も削減することができるため、その空いた時間とお金をもっと重要な作業へと割くことで、さらなる成長を目指すこともできるでしょう。
その他にも、顧客の利用状況に合わせて最適な提案が行えるのも大きなメリットです。顧客のアクションや、システムの利用状況に合わせて、例えば「〇〇の機能を使ってみませんか?」などの訴求を製品内で実施することで、有料プランへの誘導や、アップセルに繋がる選択を検討してもらえる可能性も高くなります。
PLG(プロダクトレッドグロース)のポイント
プロダクトレッドグロースでは、下記3つのポイントを抑えることが大切です。
より良いプロダクト
まず何よりも重要なのは、より良いプロダクトを作ることです。顧客に満足してもらって初めて製品を継続的に使用してくれるようになります。基本的にプロダクトレッドグロースでは、試用期間が設けられているなど、基礎機能は無料で使用できる場合が多いため、顧客はこの製品が役立つかどうか容易に判断できてしまいます。そのため、質の良くない製品であれば、アップセルやクロスセルはなおさら、継続的な利用もしてもらえません。機能や、利用の障壁を低くするためにサポート体制を充実させるなどして、製品の価値を明確に提示できるようにしましょう。
Call To Action(CTA)の整備
Call To Action(CTA)とは、顧客にある特定の行動を起こさせるように誘導することです。日本語では「行動喚起」と訳されます。例えば、ホームページを閲覧中のユーザーに対して、キャンペーンやクーポンを提示するポップアップやボタンを設置して購入へと誘導する、などがCTAです。
これはプロダクトレッドグロースの製品についても同じことが言えます。例えば、無料版を利用している顧客の利用率を活用することで有料契約に誘導したい場合、事前にある一定の利用率に達した際に、製品上でユーザーにメッセージを表示、または営業担当者に通知が来るように設定しておくことで、効果的なアプローチを行うことが可能になるのです。
この際複数のプランを用意しておくことで、顧客は具体的に有料プランを利用するイメージができ、アップセルやクロスセルを検討しやすくなります。
パーソナライズ(Personalize)
プロダクトレッドグロースを実施する際には、顧客一人一人に寄り添った提案をすることが重要です。ユーザーの利用状況や、傾向などのデータを取得できる仕組みと、それに応じた提案ができる仕組みがプロダクト内部に備わっていれば、顧客が求めるものを提供することができます。
顧客一人ひとりに適したマーケティング施策を打つ「One to Oneマーケティング」を行うことで、より製品に満足してくれるでしょう。One to Oneマーケティングでは、それぞれの顧客が求めるものをデータに基づいて、提供します。データには顧客自身でさえも気づいていない「真のニーズ」が隠されていることがあります。真のニーズを把握することで、顧客が本当に求めているものを提供できるようになるのです。
One to Oneマーケティングについては「One to Oneマーケティングの重要性・メリット・始め方とは」で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
また、プロダクトレッドグロースにおいては、いかにして顧客に満足してもらえるかが大切となります。この際に重要となるのが、カスタマーサクセスです。カスタマーサクセスとは顧客を中心に考え、能動的に顧客の成功を共に実現する活動のことを意味しています。プロダクトレッドグロースは、SaaS型ビジネスで使用されることがほとんどのため、顧客は満足しなかった場合、容易に他社のサービスに移行できてしまうのです。
そのため、顧客が自社サービスに満足し、成功してもらえるような仕組みを取り入れることが大切となります。
PLG(プロダクトレッドグロース)を成功に導くMOATフレームワーク
プロダクトレッドグロースの成功を大きく左右する「MOAT」というフレームワークがあります。MOATは下記4つの頭文字からなる造語です。
・Market strategy(市場戦略)
・Ocean conditions (ブルーオーシャン/レッドオーシャン)
・Audience(意思決定者)
・Time-to-value(プロダクト理解までの時間)
それぞれの観点からプロダクトを整理することで、自社にとってプロダクトレッドグロースが最適な戦略であるかどうか判断することができます。
Market strategy(市場戦略)
MOATの「M」を表す市場戦略をここでは「プロダクト価格」「プロダクト優位性」の観点から4種類に分類します。その中でも特にプロダクトレッドグロースに適しているのは、ドミナント戦略と、ディスラプティブ戦略とされています。
「ドミナント戦略とは」既に市場に出ているプロダクトよりも、安価で使い方がわかりやすい、かつ優れた機能を持つプロダクトがとるべき戦略です。「ディスラプティブ戦略」とは、機能は既存のプロダクトよりもダウングレードしているが、その分低価格なプロダクト、がとるべき戦略です。
どちらの戦略も「低価格」かつ「機能がシンプルで使いやすい」という2点からプロダクトレッドグロースに適しています。
Ocean conditions (ブルーオーシャン/レッドオーシャン)
競合環境を表す「Ocean conditions」は、大きく「ブルーオーシャン」と「レッドオーシャン」の2つに分けることができます。
プロダクトレッドグロースに適しているのは「レッドオーシャン」です。レッドオーシャンとは、市場がすでに成熟しており、多くの競合がいる市場のことを指します。レッドオーシャンでは、既存のプロダクトに対しての不満や改善点が浮き彫りとなっている状態であるため、顧客自身が求めているものをはっきりと自覚している場合が多いです。そのため、課題を克服した製品であれば使い方も容易で、顧客も価値を感じやすい状況にあります。
ブルーオーシャンは、市場がまだ成熟していないが、成長の余地があり、競合もまだ少ない市場を表していますが、まず顧客にプロダクトがどういったもので、導入することで得られる価値、どのように成長できるかという点を示さなければいけません。潜在ニーズも把握する必要があり、価値を感じてもらうまでに時間を要する場合がほとんどですので、プロダクトレッドグロースには向いていないと言えるでしょう。
Audience(意思決定者)
導入の意思決定者を表す「Audience」は、「実際に体験してもらい、価値を感じてもらうこと」が大切なプロダクトレッドグロースにおいて非常に重要です。「プロダクトを体験する人=導入の意思決定者」である場合、プロダクトレッドグロース戦略は非常にうまく機能し、購入に直結する確率も高くなるでしょう。
一方で、体験する人と意思決定者が異なる場合には、決定者がプロダクトの価値を体験していないため、プロダクトレッドグロース戦略だけで導入に誘導するのは難しくなってしまいます。特に会社全体の課題解決に関わるプロダクトなどは、利用者一人の判断で導入を決定できないため、別のアプローチ方法を考える必要があるでしょう。
Time-to-value(プロダクト理解までの時間)
プロダクトを体験したユーザーが、その価値を感じるまでの時間が短ければ短いほど、プロダクトレッドグロースに適しているといえます。サインアップや初期設定などにより実際に利用するまでの時間が長いと、顧客が価値を体験する前に離脱してしまう原因となってしまうでしょう。
PLG(プロダクトレッドグロース)の成功事例:ZOOM
プロダクトレッドグロースの代表的な事例として挙げられる企業の一つにZOOMがあります。2020年から始まった新型コロナウイルスによってリモートワークが推奨されるなどして、オンラインミーティングは多く行われるようになりました。
ZOOMは基本的に無料、招待URLをミーティング相手に送るだけでミーティングを開催できるといった利便性、通話品質の高さなど、ZOOMが提供する価値は、一度でも利用したことがある人であればすぐに理解できるでしょう。
ZOOMがローンチされた当時、高画質で最大15まで同時接続できるWeb会議サービスは他にありませんでした。15人規模のミーティングを開く際にZOOMは必須となり、これは同時に、他の14人の新規ユーザーを一度に獲得できるということです。
さらに、無料版の最大利用時間は40分となっており、これは、最適な会議時間とされている45分よりも少し短くなっています。そうすることで、自然な流れでアップグレードへと誘導する仕組みを埋め込んでいるのです。
ZOOMは今や、ビジネスパーソンが使いこなせなければいけないツールの一つですが、まず簡単に無料で利用できる点、利便性、顧客が顧客を呼ぶ仕組み、などプロダクトレッドグロースに沿ってしっかりと戦略を練っていることがわかるでしょう。
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まとめ
プロダクトレッドグロースとは、「プロダクトがプロダクトを売る」戦略のことです。マーケティングやセールスといった成長のために必要な活動をプロダクト内部に埋め込んだ、プロダクト自体が顧客を呼ぶ仕組みであると言えます。プロダクトレッドグロース戦略を成功に導くためには「より良いプロダクト」「CTA」「パーソナライズ」の3点を抑え、MOATの観点から自社製品を客観的に整理することが重要です。
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