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MaaS(マース)とは?交通手段の革新がもたらす新たな体験、メリットと国内外の導入事例

2024.02.15

自転車、バス、タクシーなど異なる交通機関を、ITを用いて簡単かつシームレスに使うことができるMaaS(マース:Mobility as a Service)が世界的に広がりを見せています。MaaSを使うことによって、公共交通機関だけでなくタクシーやレンタサイクルなど、複数の交通手段を最適かつ便利に利用できるなどメリットが多く、今後国内外でさらなる普及が予想されています。

本記事ではMaaSの定義、MaaSという交通手段の革新がもたらす新たな体験の重要性・メリットと日本における課題、そして国内・海外の事例について紹介します。

MaaS(Mobility as a Service)とは?

MaaSの定義

MaaSとは、交通機関などのモビリティサービスをサブスクリプション形式で提供するサービスの総称です。MaaSを導入することにより、各地域における交通網が充実して利用が容易になるとともに、利用者の利用料が安定しコストが削減できるなどの効果が期待できることから、海外を中心に導入が進んでいます。

MaaSでは、単に複数の交通手段を乗り継ぐだけでなく、異なるサービスをシームレスに利用することが可能になります。例えば、複数の交通手段を一度に比較して、最安値の交通手段を検索して利用することができる「マルチモーダル」*1移動の際、目的地までのルートや移動手段を検索し、料金の支払いや予約まですべて一括処理することが可能なサービスと呼ばれるサービスなどが人気を集めています。

MaaSの利用シーンの例

MaaSでは、電車やバス、タクシー、自転車やスクーターなどを効率的に組み合わせて利用できます。例えば、レンタサイクルで駅まで行き、電車とバスを乗り継ぎ、タクシーで目的地まで行くというように交通手段の複合利用を行う場合、複数の交通手段を1日単位でまとめて計算し、1日分の交通費を一括で支払うことができます。

MaaSはこのような特徴やサービスから、特に大都市圏などの交通網が充実している地域で有効に活用できることが多いです。MaaSを利用することで、日常の移動を効率的に行えるとともに、より安全かつ快適な移動体験を実現することが可能になります。

MaaSの重要性と日本における課題

MaaSは日本でも様々な事業者によって提供・導入が進められています。しかしながら、日本でのMaaSの現状としては、海外に比べるとまだ利用者数が少なく普及が遅れていると言えます。その主な理由として、交通網の状況、競争環境、技術的課題などが挙げられます。

交通網の状況:日本の交通網は都市部を中心に充実しているとはいえ、歩行者や自転車にとっては不便なところがまだまだ多く存在します。このような状況を踏まえ、MaaSを導入する場合には駅やバス停の状況を改善するなどの対策が必須となることが障壁になっています。

競争環境:MaaSを提供する企業がグローバルに多数存在し、競争が激しさを増しています。このため、MaaSを提供する企業は、顧客情報やサービス内容などを活用した差別化を図る必要があり、国内企業による参入を難しくしています。

技術的課題:MaaS環境を構築するためには、ネットワーク技術やデータ技術などに精通した多数の技術者の確保が必要となる上、工事にかかるコストも大きなものとなるため、なかなか導入が進んでいない現状につながっています。

以上のように、日本でのMaaS導入にはまだ様々な課題が残されています。しかし、MaaS導入により以下のようなさまざまなメリットが期待できることから、後述のように官民が協力してMaaSを導入する事例が徐々に増えてきています。

総務省による「次世代の交通 MaaS」の紹介については こちら をご覧ください。

MaaSのメリット

ITを用いて複数の交通手段をシームレスに利用できる

MaaSでは複数の交通手段が一元的に管理されるため、利用者が一つの利用プランやサービスを使って交通手段を利用することができます。例えば、自動車やバス、電車、タクシーなど、複数の交通手段をシームレスに利用することで、時間やコストを削減することが可能になり、また交通網が充実している地域では、MaaSを活用することで既存の交通手段の利用がより容易になります。バスや電車を利用して目的地まで行くために乗り換えが必要な場合には、最適な経路を選択して時間や交通費を抑えることができます。

また、MaaS導入には交通網の拡充やコストの削減などのメリットもあります。日本では、国土交通省が新しい交通サービスを推進するとともに、多くの企業がMaaSの導入に取り組んでいます。また、海外では、MaaS先進国であるフィンランドのほか、スウェーデンやドイツなどでもMaaSの導入が進んでおり、今後もMaaSの導入はさらに広がりを見せることが予想されます。

国土交通省による「日本版MaaSの推進」に関しては こちら をご参照ください。

SDGs目標達成に貢献できる

また、MaaS導入により、SDGsの目標達成に貢献できます。SDGs(持続可能な開発目標)とは、2030年までの17の目標を定めた国連の計画です。SDGsは、世界中で貧困と不平等をなくし、環境保護に取り組み、健康と教育を改善するなど、世界の人々の幸せを実現することを目的としています。

MaaSを活用することで、交通機関に関わる資源を最適化し持続可能に使用することができるため、地球温暖化防止や農業の発展、地域の経済活性化などの目標達成に貢献することができます。また、MaaSの導入による交通手段の充実は、人々の時間と労力の節約にもつながり、貧困や不平等をなくすための目標達成にも貢献できると考えられています。

国連による「持続可能な開発目標(SDGs)」の紹介は こちら をご参照ください。

欧米でのMaaSとSDGsの関係についての解説は こちら をご覧ください。

アメリカ政府による「持続可能な都市交通やMaaS」に関する考察は こちら をご参照ください。

国内外の導入事例

日本での導入事例:マルチモーダルMaaSアプリ「my route」と空港送迎サービス「nearMe.Airport」

日本でも、徐々にMaaSの導入が進んでおり、特に観光地でのMaaS導入が活発です。例えば

熊本県では、県内各地への周遊促進による経済活性化や、地域交通の利便性向上、交通課題の解決を目的として2023年1月から、トヨタファイナンシャルサービス株式会社が提供するマルチモーダルモビリティサービスのMaaSアプリ「my route」*2https://top.myroute.fun/を活用し、県内でのMaaSサービスの提供を開始しています。

取り組みの第一段階として販売開始された「my route」上の5種類のデジタルチケットや乗り継ぎ案内のサービスにより、住民や旅行者などの利用者は、利用区間のすべてのバスをはじめ、鉄道や航空機も含めたスムーズな利用や乗り継ぎが可能になりました。

自動車会社を超えた総合的なモビリティ・カンパニーを目指すトヨタが提供する「my route」は、熊本だけでなく全国で展開されているサービスで、目的地に関する「お出かけメモ」、「乗り換え検索」、そして「ナビタイムジャパン」と提携した「デジタルチケット購入」などの豊富な機能を備えています。

MaaSアプリ「my route」のサービスやグロース施策の展開については、以下の記事をご参照ください。

また別の例としては、株式会社NearMeが「ユーザーと地元のタクシー会社を繋ぐプラットフォーマー」として、空港送迎サービス「nearMe.Airport(ニアミーエアポート)」*3https://app.nearme.jp/airport-shuttle/を展開しています。

nearMe.Airportは「自宅/ホテルと空港をドアツードアでスマートシャトル」として、北海道から沖縄まで全国13の空港で展開され旅客の80%以上が利用可能な体制を整えるとともに、複数のユーザーを独自のAIで最適にマッチングしてグループをつくり、それぞれの地方・地元のタクシー会社にその情報を共有する形で配車を実現。

Webやアプリで簡単に予約可能で、日時や乗降車場所などを入力するだけで仮予約できます。フライト番号とも連携しており、推奨される時間を逆算して提案する機能などを備えています。

このように近年、日本国内でもさまざまなMaaSサービスが日常的に利用できるようになってきています。

NearMeのMaaSにおけるサービスや、カスタマーエンゲージメント施策については以下のインタビューやセミナーレポートをご参照ください。

海外での導入事例:ロンドン市公式ルート検索MaaSアプリ「TfL GO」とフィンランド発MaaSサービス「Whim」

海外では、すでに数多くの導入事例が存在します。

例えば、英国ではTfL(ロンドン交通局:Transport for London)がコロナ禍での移動支援として市公式MaaSアプリ「TfL GO」*4https://tfl.gov.uk/maps_/tfl-goを導入し、ロンドン市内で利用できる交通手段による最適なルート検索できるサービスを提供して、代替交通手段の利用を支援しています。

またフィンランドは、MaaS(Mobility as a Service)を実践する最初の国として知られています。フィンランドでは、MaaSを活用した交通サービス「Whim」が導入され、2015年から提供が開始されました。

日本国内でも現在、バイクシェア・カーシェア・タクシー・相乗りシャトルの4つの交通モードの実証実験サービスを提供中で、ユーザーは個人情報や決済方法など基本的な情報を登録するだけで利用可能な交通手段を自由に検索、予約、決済することができます。*5https://whimapp.com/jp/package/whim-japan/

このようにWhimは公共交通機関の他にも、タクシー・レンタカーなど複数の交通手段を最適かつ便利に利用できるサービスを提供しており、登録したユーザーは利用した交通手段の料金をまとめて支払うことができます。またWhimでは、登録したユーザーが実際に移動に費やした距離や時間を計算・記録することも可能です。

フィンランドでは日常的に、Whimを利用した交通サービスが広く利用されています。Whimでは公共交通機関の利用時に、より効率的な移動ができるだけでなく、タクシーやレンタカーなどの交通手段も併用できるなど利用可能な交通網が充実しているので、誰でも便利かつ気軽に利用することができます。また交通事業者側にとってもコストの削減が期待できることから、今後も世界各国でのMaaS導入を後押しするだろうと期待されています。

日本におけるMaaSのこれから

今後、MaaSの需要はますます高まると予想されています。日本では近年、政府がMaaSを推進する政策を推進しており、MaaSに関する法令の整備も進められています。

さらに、MaaSを推進するために、公共交通機関の情報を統合したり、利用者が快適な移動を実現するためのサービスを提供するなど、さまざまな取り組みが行われています。

今後もMaaSを活用して、最適化された移動手段を利用した快適な移動の実現が可能になるよう、政策立案や施策実施が進められることが予想されます。

日本政府によるMaaSの解説は こちら をご参照ください

トヨタのMaaS戦略:新たなモビリティサービス創造に向けたプラットフォーム(MSPF)の展開

トヨタは自動車製造の枠を超え、先ほど紹介した「my route」のほかにも、既存のモビリティサービスを統合して新たなモビリティサービスを提供するための戦略を採り、MaaS実現に向けた技術開発や事業展開などに関するさまざまな取り組みを行っています。

例えば、モビリティサービスを管理・統括する「モビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)」*6https://toyotaconnected.co.jp/service/bigdata.htmlを展開し、ITを用いて複数の交通手段をシームレスに利用できる環境整備を推進しています。

MSPFは自動車のみならず、電気自動車、モノレール、バス、タクシー、自転車など、様々な交通手段を統合し、新たなモビリティ・サービスを提供することで、日常の移動がより快適で効率的になることを狙いとしており、トヨタは現代の日本において、MaaSの旗手としての役割を果たしていると言ってもよいでしょう。

トヨタが開発に取り組むWoven Cityとは:MaaSはじめ多分野のイノベーションが花ひらく「スマート都市」

トヨタが開発に取り組むWoven City*7​​https://www.woven-city.global/jpn/とは、AIやIoTを活用した都市デザインのプロジェクトです。スマート都市の中のあらゆる分野でITの最新技術を駆使することによって、生活をより良く、より快適なものにすることを目的としています。

Woven Cityは、静岡県裾野市にある約70ヘクタールの山間の土地で開発が進められています。都市の基盤インフラは、AI、IoT、自動運転技術などを活用し、多様なモビリティオプションを提供するものです。AIによる自動運転車をはじめとした様々な交通手段が提供される予定です。

また、Woven Cityには多くの生活、健康、教育、文化などの分野に関するイノベーションが導入されるとされています。都市全体を覆う5Gネットワークを活用して、デジタルデータを収集、分析し、AIを使ってさまざまな健康、教育、文化などの分野で新しいサービスを提供するとされています。

Woven Cityは、AI、IoT、自動運転技術などを活用した都市デザインを提案し、さまざまな分野でイノベーションを試みる最先端プロジェクトです。AIやIoTを活用した都市デザインを実現することで、安全で快適な生活を提供することを目指すとともに、最新の数々のMaaS技術が導入・試行されることが期待されています。

Fordが取り組むMaaS事例:モビリティ支援アプリ「FordPass」

海外勢では、世界を代表する自動車メーカーの一つであるFordがいち早くMaaSに取り組んできました。同社は駐車場の検索・支払、旅行中の車のレンタル・シェア、サービス予約など、顧客のモビリティ全般をサポートするFordPass*8https://www.ford.com/support/category/fordpass/と呼ばれるアプリを開発しました。

インターネット接続機能を備えた車の製造、自動運転の技術開発、車に搭載したセンサーなど、あらゆる利用者のデータを収集・分析することで、同社は利用者の移動手段の傾向や現状についてリアルタイムで把握しています。

FordPassによって利用者は、単に駐車場の検索・支払などが行えるだけでなく、Fordが誇る北米最大のEV向け公共充電ネットワークがいつでも簡単に利用できるなど、カーライフや移動手段全般にわたるサービスを享受することが可能になっています。

FordPassについては以下の記事もご参照ください。

まとめ

MaaSは、ITを用いて複数の交通手段をシームレスに利用できるサービスです。日本でも近年、記事で見てきたように海外から遅れながらもMaaSの普及が進んでいます。

MaaSを普及させるためには、交通網の拡大が必要となります。例えば、都市部では、様々な交通手段を統合し、時間やコストの削減を図るために、公共交通機関と配車サービスを組み合わせて活用したりするなどの取り組みが行われています。

また、地方では、交通手段の有無に関わらず、地域の観光資源を活用したり、配車サービスを利用したりして、移動手段を充実させる取り組みが進められています。

MaaSの普及を促しているのは、政府や自治体、企業などの様々な団体です。例えば、政府は、国を越えた複数の交通手段を統合するための新しいインフラ整備を行っている他、自治体は地域の交通網を充実させるため、「my route」をはじめとしたMaaSのサービスを導入するなどの取り組みを行っており、今後、さらなる普及が期待される分野だと言えるでしょう。

IoTやAIの普及が急速に進み、ますますデータの重要性が増しつつある現代、DXやデータドリブンと親和性が高く、人々の生活向上や地域活性化、そして地球温暖化防止にも貢献できるMaaSビジネスは、業種を超えたグロースの可能性に満ちていると言えるでしょう。

References
*1 移動の際、目的地までのルートや移動手段を検索し、料金の支払いや予約まですべて一括処理することが可能なサービス
*2 https://top.myroute.fun/
*3 https://app.nearme.jp/airport-shuttle/
*4 https://tfl.gov.uk/maps_/tfl-go
*5 https://whimapp.com/jp/package/whim-japan/
*6 https://toyotaconnected.co.jp/service/bigdata.html
*7 ​​https://www.woven-city.global/jpn/
*8 https://www.ford.com/support/category/fordpass/

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