特定の企業(アカウント)を対象に、戦略的にアプローチを行うBtoBマーケティングの手法「ABM(アカウントベースドマーケティング)」が広がりを見せています。
本記事では、特定の条件を満たした企業にアプローチを取ることで売上につながる顧客に集中でき、ROI(投資収益率)を高めることができるABMの事例を紹介します。
ABM(アカウントベースドマーケティング)とは?
アカウントベースドマーケティング(ABM)は、特定の企業(アカウント)をターゲットとし、その企業に対してカスタマイズされたアプローチを展開する手法です。従来のマーケティングが広範な見込み顧客に向けてメッセージを発信するのに対し、ABMは個々のターゲット企業に焦点を絞り、それぞれのニーズや課題に応じたパーソナライズされたコンテンツを提供して開拓することを目指します。
BtoBマーケティングにおいてABMを行う場合は、通常のマーケティングとは異なり、数十〜数百社の主要顧客に絞り込みアプローチを実施します。ABMでは、ターゲットとする企業の数が少なくなる分、それぞれのアカウントに対して深く掘り下げたリサーチや個別対応を実施します。
ABMは、特定の顧客に対する深い理解と強固な関係構築を通じて、高いROI(投資利益率)を実現するための手法です。そのため、BtoBマーケティングにおいてますます重要な手法として注目されています。
ABMとLBM(リードベースドマーケティング)の違い
ABMとリードベースドマーケティング(LBM)は、BtoBマーケティングのアプローチとしてよく比較される手法ですが以下の違いがあります。
ABMは、特定の企業(アカウント)をターゲットとし、ターゲット企業に対して個別にカスタマイズされたアプローチを展開する方法です。ABMでは、少数の重要なアカウントに集中するため、深いリサーチと個別対応が可能となります。ABMのメリットは、LTVやリピート率が高いターゲット企業を開拓することで、高い投資利益率(ROI)を実現できる点です。
一方、LBMは広範な見込み顧客(リード)に向けてマーケティングメッセージを発信する手法です。LBMの主な目的は、大量のリードを生成し、その中から有望な見込み顧客を特定して育成します。LBMでは、一般的なマーケティングキャンペーンやコンテンツマーケティングを通じて、リードの関心を引き、徐々に関係を深めていきます。LBMのメリットは、大量のリードを効率的に生成できる点ですが、その分、コアなターゲットではない顧客も獲得することになります。
つまり、ABMとLBMの最大の違いは、ターゲットの範囲とアプローチの深さにあります。ABMは少数の重要なアカウントに焦点を当て、個別に対応するのに対し、LBMは広範な見込み顧客を対象にし、効率的にリードを生成していきます。企業のビジネスモデルやマーケティング目標に応じて、これらの手法を使い分けたり、組み合わせたりすることが重要です。
ABM(アカウントベースドマーケティング)の関連用語
ABMに関連する用語や概念を紹介します。
Tier
「Tier(ティア)」とは「階層・階級・段」を意味し、マーケティングにおいては、ターゲットを重要度や優先度に基づいて分類したものを指します。
分類するという意味では、セグメント/セグメンテーションやターゲティングという言葉と類似しますが、ABMの場合は、Tier1は最も重要なアカウント、Tier2は中程度の重要度、Tier3はそれ以下のアカウントと、優先度を明確にして「ターゲット顧客群」を分類します。Tierに応じてリソースと時間を効果的に配分し、各アカウントに対して最適なマーケティング戦略を実行することできます。
例えば、Tier1アカウントには個別にカスタマイズされたマーケティングキャンペーンや専任のセールスチームを投入する一方、Tier3アカウントには汎用的なマーケティング手法を適用することが一般的です。
インテントセールス
インテントセールスとは、ターゲットアカウントの購買意図や行動を基にして、セールス活動を行うアプローチです。具体的には、ウェブサイトの訪問履歴、コンテンツの閲覧傾向、ソーシャルメディアの活動などから、潜在顧客の興味や関心を分析し、その情報をもとにパーソナライズされたアプローチを実施します。
ABMの場合では、初期はターゲットとする企業名リストだけがある状態から始まることが多く、ここに対してテレマやDM、イベントといった手法でアカウントを開拓しにいきます。
これまで繋がりがなかった企業との商談創出をするために、法人のIP番号を利用し、広い意味でのインテント(興味・関心)を捉えるまた、部署や個人名などのリストを組み合わせることで、新規アプローチの効率をあげていくことが求められます。
インテントセールスは、顧客の購買プロセスの初期段階で有効であり、適切なタイミングで適切な情報を提供することで、顧客の購買意欲を高められます。
キーマンレター
キーマンレターとは、ターゲット企業内の意思決定者や影響力を持つ人物に対してメッセージや手紙を送る手法を指します。ABMの対象となるターゲット企業は、特定の業種に属する大手企業や上場企業であることが大半です。
ターゲット企業のキーマン(意思決定者)に直接アプローチすることが非常に重要となるため、まずは、日経新聞や企業のIR情報などを活用し、ターゲット企業の管掌役員や他の重要な役職者の氏名や役職を特定します。
また、企業のIR情報やニュースリリースを読み込むことで、その企業の最新の動向や戦略、課題を把握し、企業が直面している具体的な問題やニーズに対して、どのように自社の製品やサービスが解決策を提供できるかを考え、個別に手紙でのアプローチを行います。
キーマンレターは、単なる宣伝文ではなく、受け取る側が自社にとって価値のある情報と感じられるような内容でなければなりません。そのため、相手企業の状況に合わせたカスタマイズが必要不可欠です。また、手紙のトーンやスタイルも、ターゲット企業の文化や業界に合わせて調整することが求められます。
BDR
BDRとは「Business Development Representative(ビジネス・ディベロップメント・リプレゼンタティブ)」の略で、主に新規顧客の開拓やリードの育成を担当するインサイドセールスや営業のことを指します。ABMにおいては、BDRはターゲットアカウントに対する最初の接点として重要な役割を果たします。
BDRは、ターゲットアカウントに対して情報収集や初期コンタクトを行い、見込み顧客を特定し、その後のセールスプロセスを円滑に進めるための基盤を築きます。具体的には、電話、メール、ソーシャルメディアなどを通じてアプローチし、ターゲットアカウントのニーズや課題を把握します。
なお、BDRに対比して使用される言葉がSDRです。SDR「セールスデペロップメントレプレゼンタティブ(Sales Development Representative)」の主な任務は、ホームページからの問い合わせやイベントの参加者など、マーケティングが獲得したリードに対応して、リードを育成、商談を創出することです。BDRが「プッシュでの新規開拓型」なのに対して、SDRは「プルでの反響対応型」といえます。
ABMが必要とされる背景
BtoBビジネスの特性
BtoBビジネスにおいて、ABMが重要視される理由は、取引先企業の規模や業種によって取引金額やLTV(ライフタイムバリュー)が大きく異なるからです。従業員数が少ない中小企業と大企業では、同じ1件の取引でも価値は大きく異なり、大手企業との取引は高額で長期的な収益をもたらす可能性が高いため、特に重要視されます。
さらに、大手企業における導入実績は、他の企業や中小企業(SMB)に対しても信頼性を証明し、導入促進効果が期待できます。また、特定の業種や企業規模、成長ステージに最適なサービスや製品を提供する場合、ABMが効果的となることもあります。
そのため、BtoBビジネスにおいては、特に取引金額が大きく、事業のシンボルとなるような顧客とのアカウントを作っていくためにABMが行われます。
意思決定プロセスにおけるボトムアップ方式普及への対応
ABMは、従来の一般的なマーケティング手法ではなく、個別の顧客アカウントにフォーカスすることから、昨今さまざまな企業で採用されるようになってきた、ボトムアップ方式の意思決定プロセスへの対応に最適です。
ABMによるターゲットとする顧客アカウントの特定と理解によって、企業は意思決定プロセスの各レベルにおけるキーパーソンと関係を築き、顧客のニーズや要求に合致した戦略を展開することができます。
意思決定におけるボトムアップ方式の重要性については以下の記事で紹介した『未来IT図解 これからのDX デジタルトランスフォーメーション』などをご参照ください。
技術革新によるMA、CRMなどのツールの普及
ABMというマーケティング手法は、近年の技術革新により進化したMA(マーケティングオートメーション)やCRM(顧客関係管理)などのツールと組み合わせることで、より効果的に実施することができます。
これらのツールを活用することにより、顧客アカウントのデータ分析やパーソナライズされたコンテンツの提供、顧客とのエンゲージメントの強化などが可能となり、目まぐるしく移り変わるビジネスの現場に臨機応変に対応したマーケティング戦略を取り、最適な施策を打つことが可能になります。
CRMやMAなどのツールについては以下の記事で詳しく解説しています。
ABMのメリット
個別に最適化されたアプローチの実現
ABMでは、ターゲット企業ごとに個別に最適化した戦略を取ることが可能です。これは、従来のマーケティング手法とは異なり、ターゲット企業の属性やニーズに合わせて個別にアプローチすることになるため、より高い効果が期待できます。
例えば、複数のターゲット企業がある場合、従来の手法では同じメッセージを送信していたため、結果として反応のなかった企業も多かったかもしれません。しかし、ABMを活用することで、ターゲット企業ごとに最適なアプローチを行うことが可能になり、その結果ターゲット企業の中での興味関心が高まり、コンバージョン率の向上につながります。
またABMは、一般的なマーケティングと比較してROI(投資収益率)が高いという特徴があります。これはターゲット企業ごとに最適なアプローチを行うことにより、無駄なコストを削減することができるためです。このようにABMの活用は、より効果的なマーケティング手法の実践につながります。
ハイリターンが期待できる
ターゲット企業に対して、個別に最適化されたターゲティングを行うABMの手法を活用することで、より高い成果を得ることができます。例えば、ターゲット企業に合わせたカスタマージャーニーマップを作成することで、企業の具体的なニーズや課題を把握し、それに対応するコンテンツを提供できます。これにより、ターゲット企業からの反応率が向上し、効果的に顧客を獲得することが期待できます。
さらに、ABMでターゲットにする企業は、大手で取引額が大きく、自社サービスとの相性が良い前提です。そのため、取引単価も大きく、リピート率の向上やアップセルの機会が増え、LTVも大きくなる傾向があります。
営業とマーケティングの連携強化につながる
ABMの実践にあたり、営業とマーケティングの連携強化が重要なポイントとなります。通常のマーケティングでは、マーケティング部門がリードを獲得し、営業部門がそのリードをフォローアップする形態が一般的ですが、ABMでは逆の形態が取られます。つまり、営業がターゲット企業をリードし、マーケティングがその営業活動を補完する形態となります。
このように営業とマーケティングの連携が強化され、一体となってターゲット企業にアプローチすることで、より効果的なセールスサイクルを構築することができます。これにより新規顧客獲得や既存顧客のフォローアップがスムーズに進むため、収益の増加につながります。
このような営業とマーケティングの連携強化には、以下のようなメリットがあります。
ターゲット企業へのアプローチ方法がより適切になる:営業部門がターゲット企業と直接接触することで、その企業のニーズや課題を正確に把握することができます。そのため、マーケティング部門が作成するコンテンツや配信方法がより最適なものとなり、効果的なアプローチが可能となります。
リードのクローズ率が高まる:営業とマーケティングが連携することで、より効果的なリードナーチャリングが可能となります。その結果、リードのクローズ率が高まり、より多くのビジネスチャンスを獲得することができます。
顧客との良好な関係を構築できる:営業とマーケティングの連携により、ターゲット企業との良好な関係の構築が容易になります。営業部門が直接ターゲット企業とやり取りすることでその企業の信頼を獲得し、マーケティング活動にもプラスの影響を与える効果が期待できます。
以上のように、ABMの実践においては営業とマーケティングの連携強化が不可欠です。両部門が一体となってターゲット企業に対する最適なアプローチ方法を見出し、より効果的なビジネスチャンスの獲得につなげていくことが求められます。
ABMに取り組む際の留意点とデメリット
ターゲティングに失敗すると致命的
ABMは、特定のアカウントに対して集中的にリソースを投入する手法であるため、ターゲティングの精度が非常に重要です。誤ったアカウントをターゲットに選定してしまうと、リソースの無駄遣いとなる上に、期待される成果が得られません。
ターゲティングの失敗を避けるには、詳細な市場調査やデータ分析を行い、ターゲットアカウントの選定基準を明確にする必要があります。また、選定後も定期的に評価と見直しを行い、ターゲットアカウントがビジネス目標に適しているかの確認も必要です。
リソース消費が高い
ABMは特定のアカウントに焦点を当てるため、集団向けの一般的なマーケティング手法と比べて、一つ一つのアカウントに対する深い理解と、それに基づく個別の戦略が求められます。これは大きな時間と労力を要します。
効果が出るまでの時間が長い
ABMは長期的なリレーションシップ構築を目的とするため、すぐに結果が出ないのが通常です。そのため、速やかな成果を求める場合には向いていないかもしれません。
ABMを実践する上では、これらのデメリットを理解し、戦略立案に役立ててください。
ABM実践のステップ
ターゲットリストの作成
ABMの重要なステップの1つがターゲットリストの作成です。これはターゲットとする企業(アカウント)を特定・リスト化することで、営業やマーケティング活動を効果的に行うための基盤となるものです。
ターゲットリストの作成には、以下のようなポイントがあります。
企業のビジネス目標に合わせたターゲット設定:ターゲット企業を選定する際には、個々の企業のビジネス目標や課題に合わせて設定することが重要です。例えば、新規顧客獲得が目的であれば、類似する業界の企業を中心にピックアップすることなどが考えられます。
各ターゲット企業の決定的な特徴を明確化:ターゲット企業特定に当たっては、当該企業に著しい特徴や問題点を把握することが必要です。これによって、ABMの具体的な施策の策定や実行が行いやすくなります。
情報収集の徹底:ターゲット企業の情報収集は、ABM実行において欠かせない重要なポイントです。営業担当者やマーケティング担当者が協力してリサーチを行い、情報を集めることが求められます。
以上のようなポイントを押さえたターゲットリスト作成によって、より具体的で効果的な営業・マーケティング活動の展開が実現できます。
ターゲット企業のニーズや課題の把握
ABMを実践する上では、ターゲット企業のニーズや課題の正確な把握が重要です。特にターゲット企業の業種や規模、市場動向などを中心に分析することで、その企業が抱える問題やニーズをしっかり把握することができます。
たとえば、BtoB企業が自社の製品を導入している企業をターゲットにABMを行う場合、ターゲット企業の業務プロセスや課題を調査することで、そこに自社の製品がどのような価値を提供できるかを洗い出すことができます。
そのためには、ターゲット企業に対してアンケート調査を行ったり、同時に既存の顧客や営業担当者からの情報を収集することも重要です。また昨今は、SNSやオンラインコミュニティなどから情報を収集することも有効です。
このようにターゲット企業のニーズや課題を正確に把握することで、よりターゲットに合わせたコンテンツや提案が実現できるため、効率的な営業活動やマーケティング施策の実践につながります。
カスタマージャーニーマップの作成
ABMにおいて、カスタマージャーニーマップの作成は非常に重要なステップです。
カスタマージャーニーマップとは、ターゲット企業の意思決定者が製品やサービスを購入するまでのプロセスを可視化し、その中でどのようなニーズや課題があるかを具体的に把握するためのマップです。
カスタマージャーニーマップを作成するメリットは以下の通りです。
・ターゲット企業の購買プロセスを理解し、営業とマーケティングの連携を強化することができる。
・当該企業の購買プロセスにおいて必要となる情報やコンテンツをピンポイントで提供することができるため、購買決定の促進につながる。
カスタマージャーニーマップの作成には次のような手順があります。
・ターゲット企業の購買プロセスを理解する。
・各段階での決定者や関係者を特定し、そのニーズや課題を洗い出す。
・当該企業の購買プロセスを可視化し、カスタマージャーニーマップを作成する。
以下は例として、ITプロダクトのクライアント企業をターゲットとしたカスタマージャーニーマップの一部を示したものです。
購買プロセスの段階 | 決定者 | 課題 |
需要発生 | CIO、IT部門 | システムの改善が必要なことに気づいていない |
検討 | CIO、IT部門、課題担当者 | 要件定義が曖昧である |
提案 | 課題担当者、専門部署 | 提案内容が製品に合わない |
契約 | 法務部門、財務部門 | 契約内容が不明確である |
以上のように、カスタマージャーニーマップを作成することにより、ターゲット企業の購買プロセスを理解し、より効果的なアプローチが実現できます。
ABMや顧客体験(CX)の向上において重要なカスタマージャーニーマップや、その作成ポイントについては以下の記事もご参照ください。
コンテンツ作成やアプローチ方法の検討
ABMでは、ターゲット企業に対して個別に最適化されたコンテンツを提供することが重要です。そのため、コンテンツ作成や提供方法については慎重に検討する必要があります。
まず、ターゲット企業のニーズや課題を把握し、その解決策となる訴求、クリエイティブを作成することが重要です。またクリエイティブは各企業の立場や業界に合わせてカスタマイズする必要があります。例えば、医療機器メーカーに対してアプローチする際には同業界での顧客事例や、医療機器メーカーにおける特有の事業プロセスや用語を理解した訴求を用意します。
さらに、どのように情報を提供するのか、アプローチの方法を慎重に選ぶ必要があります。ターゲット企業がどのような情報源やコミュニケーションツールを利用しているかを把握し、そこにアプローチすることが不可欠です。例えば、SNSやブログを積極活用することで、企業のアピールポイントや特徴をこまめに伝えることができるでしょう。
キーパーソンの特定
ABMでは、ターゲット企業内の意思決定に影響を与えるキーパーソンの特定が重要です。キーパーソンは、購入や導入プロセスにおいて重要な役割を果たすため、彼らに対して適切なアプローチを行うことが必要です。
キーパーソンを特定するためには、ターゲット企業の組織構造や役職を調査し、意思決定者を特定します。また、ソーシャルメディアを利用し、キーパーソンの情報を収集するのも有効な手段です。
自社内に顧客データがある場合は、そのデータからキーパーソンを特定することも可能です。
アプローチの実践とPDCA
キーパーソンを特定したら、実際にアプローチを開始します。アプローチの際には活動が点にならないよう、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action)のPDCAサイクルを活用し、アプローチの効果を最大化します。
PDCAそれぞれのステップで実践すべき内容を紹介します。
・計画(Plan):ターゲットアカウントごとに具体的なアプローチ計画を立てます。どのようなメッセージを伝えるか、どのチャネルを利用するか、タイミングなどを詳細に計画します。
・実行(Do):計画に基づいてアプローチを実行します。各チャネルを活用し、パーソナライズされたコンテンツを提供します。
・評価(Check):アプローチの結果を評価します。KPI(重要業績評価指標)を設定し、効果測定を行います。ABMにおけるAPIの基本となるのは、設定したTierに対するリードの取得率(カバー率)、獲得したリードに対するアプローチ状況、創出した商談数・提案金額などです。
・改善(Action):評価結果に基づいて改善策を検討し、次のアプローチに反映させます。アプローチの精度を高め、より効果的なABM戦略を実行することができます。
ABMを成功させるポイント
ABMを成功させるためには、戦略的な計画と実行が不可欠です。以下に、ABMを成功に導くための重要なポイントを紹介します。
市場全体のセグメントと顧客単価等の分析
ABMを効果的に実施するためには、まず市場全体のセグメント化と顧客単価などの詳細な分析が必要です。セグメント化と分析を行うことで、ターゲットとするアカウントの選定がより正確になります。
まずは市場を細かくセグメント化し、各セグメントの特性やニーズを把握します。セグメント化により、最も価値のあるセグメントを特定し、リソースを集中させることができます。
続いて顧客単価の分析を行います。既存の顧客データを分析し、各アカウントの顧客単価(LTV: ライフタイムバリュー)を算出します。高い顧客単価を持つアカウントをターゲットにすることで、ABMのROIを最大化します。
ABMによる商談創出単価は、リードベースドマーケティング(LBM)よりも大きくなります。極端なイメージで表現すると、LTVが通常の100倍ある顧客群をターゲットにして、通常の10倍の手間をかけて商談を創出するのがABMのイメージです。
ターゲットリストの作成
ターゲットリストを作成する際には、ターゲットアカウントの選定基準を明確に定めます。例えば、企業の規模、業界、地理的条件、成長性などを考慮します。
また内部データや外部データベース、リサーチツールを活用し、信頼性の高いデータを使用することで、ターゲットリストの精度を向上させます。最近は、後述するABM用のターゲティングや情報収集ツールなども提供されており、「求人広告の出稿量」「IRで強調されている取り組みテーマ」「導入しているクラウドサービス」といった視点でターゲットリストを作成することも可能です。
顧客事例の活用
顧客事例は、ターゲットアカウントに対して実績を示し、導入のメリットを具体的に伝えるための有力な手段です。
ターゲットアカウントの業界やニーズに合わせて、成功事例を提供することが効果的ですので、なるべく多くの既存顧客の事例をピックアップすることが理想です。
キーパーソンの特定とリード獲得
ABMの成功には、ターゲットアカウント内のキーパーソンを特定し、リードを獲得することが重要です。キーパーソンとは、意思決定に影響を与える人物であり、キーパーソンに対して効果的なアプローチを行うことが重要です。
まずはキーパーソンになり得る人物を特定し、キーパーソンに対してパーソナライズされたコンテンツやメッセージを提供し、リードを獲得します。
具体的なリード獲得方法としては、専用のウェビナーやイベントへの招待、個別のデモンストレーションなどが効果的です。
継続的な個別アプローチ
ABMの効果を最大化するためには、継続的な個別アプローチが必要です。単発のアプローチではなく、長期的な関係構築を目指します。
長期的な関係構築のためには、ターゲットのニーズや関心に基づいて、継続的にパーソナライズされたコミュニケーションを行います。
コミュニケーションの効果は定期的に評価し、必要に応じて戦略を改善します。定期的な評価と改善によって、ターゲットとの関係性を強化し、最終的な成果を高めることができます。
ABMにおけるツール活用
ABMを実施する際には、適切なツールの活用が不可欠です。
ツールは、ターゲティングから情報収集、リード獲得から育成、商談から顧客維持に至るまで、さまざまなプロセスを効率化し効果を最大化します。
以下に、それぞれのプロセスにおけるツールの活用方法を紹介します。
ターゲティング~情報収集
ターゲティングと情報収集の段階では、ターゲットを正確に特定し、詳細なデータを収集することが重要です。
まずは、SpeedaやSansanなどのツールを活用して、ターゲットアカウントの詳細な情報を収集します。これにより、企業の規模、業界、成長性などのデータを取得し、ターゲットリストを作成します。
続いて、日経テレコンなどを使用して、ターゲットの活動や特定のキーワードでの出来事を確認します。ターゲット活動を調べることで、ニーズや関心を把握し、適切なアプローチを設計できます。
収集したデータに関しては、SalesforceやHubSpotなどのCRMツールを使用して、データを一元管理します。一元管理を行うことで情報のヌケモレをなくすと同時に、営業チームやマーケティングチームと共有できるようにします。
リード獲得~育成
リードの獲得段階では、WordPressなどのCMSを活用して、オウンドメディアを運営し、ターゲットアカウントに向けたコンテンツを作成・配信することが効果的です。ターゲットが検索しそうなキーワードで記事を作成したり、活用できるホワイトペーパー等を提供することでダウンロードを促し、リードを獲得します。
リードの育成では、MA(マーケティングオートメーション)ツールの利用が有効です。
MarketoやPardotなどのMAツールを使用して、パーソナライズされたメールキャンペーンやリードナーチャリングプログラムを実施します。MAツールを活用することで、リードを効率的に育成し、購買意欲を高められます。
またZoomやWebexなどのウェビナーツールを使用して、ターゲットアカウント向けのオンラインセミナーを開催することも、リードの育成に有効です。
商談~顧客維持
商談の管理ではSalesforceなどのSFA(営業支援)ツールを使用することで、活動の効率化と効果的なフォローアップが可能となります。
顧客維持には、MoEngageやBraze、Karteのようなカスタマーエンゲージメントツールを利用すれば、個々の企業ごとに最適な手法・チャネルでアプローチできるため、効果的なABM実施が可能になるでしょう。
またZendeskやFreshdeskなどのカスタマーサポートツールを使用して、顧客からの問い合わせに迅速に対応するのも、顧客との関係性維持に役立ちます。
まとめ
近年、改めて注目を集めているABM(アカウントベースドマーケティング)は、自社にとって重要な企業(アカウント)を選び、そこに対して個別に最適化されたマーケティング戦略を展開する手法です。従来のLBM(リードベースドマーケティング)などのマーケティング手法では、大量の見込み客に同様のアプローチを取ることから、ターゲット企業に十分なアプローチができていませんでしたが、ABMでは個々のターゲットのニーズや課題に合わせた最適なアプローチを行うことが可能です。
営業とマーケティングの連携強化にもつながるABMでターゲット企業との信頼関係を構築し、迅速な検証サイクルを回していくことは、ビジネスグロースを実現していくための第一歩だといってもよいでしょう。