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エンタープライズ向け SaaS のプロダクトマネージャーが活用すべき指標

2020.11.18

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本記事はAmplitude社より許諾を得て株式会社DearOneが翻訳、転載しております。

本文では、AWS バックアップサービスのプロダクト責任者であるワング氏が、SaaS 企業が追跡すべき 6 つのプロダクト指標を紹介します。

ご承知のとおり、「箱入りのソフトウェア」を販売する時代は終焉しました。1 回のみ購入するソフトウェアに比べ、SaaS 製品(プロダクト)には重要なメリットが複数あります。ひとつは、通常、何かしらの定期的なサブスクリプションが提供されていることです。月次、年次またはそれ以外であれ、サブスクリプション・ベースの価格設定モデルでは「箱入り」に比べ、収益予測が常に可能です。

もうひとつ、デジタルプロダクトの中核的な利点として、時間の経過とともに(新機能の追加やアップセルにより)ユーザーエクスペリエンスを改善できることがあります。このため、企業は既存の顧客とのエンゲージメントを継続し、リテンションを図るための手段を発見する無限の機会を得られます。

デジタル SaaS 製品の構築で企業が得られる最大のメリットは、主要指標の追跡が可能なため、自社のプロダクトについておよびプロダクトとユーザーとの関わり合いの「ストーリー」を明らかにできる点でしょう。また、プロダクト分析を用いれば「ユーザーのリテンション向上につながる製品の主なアクティベーション・イベントは?」、「コンバージョンに寄与する最大の要因は?」、「ユーザーは、自社の期待するとおりにアプリ内機能を使用しているか?」といった質問への回答につながる有用な知見を得られます。

プロダクトに関する指標の活用を極めることで、企業はユーザー行動の傾向を認識できます。また、顧客の獲得・維持に向けて、その傾向が示す、展開し得る施策のあり方を確実に理解することができます。

プロダクト分析における課題は、追跡する対象を明確に認識することです。ここで、筆者が Google 社、Rubrik(ルーブリック)社に在籍中、また現在、Amazon Web Services(データ保護)のプロダクト責任者として学んだ事項をもとに、自身が常に注視している 6 つの指標をご紹介しましょう。ユーザーに関するファネルにおいて、各指標を最も関連性が高いステップに結び付けて解説します。

トップファネル:顧客プロファイリングの実施を

成功への鍵は、自社の顧客基盤を理解することです。Amazon が自社の使命として掲げるものに「話すべき相手が誰であるのかを理解し、最終的には、誰のために製品を構築するのかを認識することは、お客様を理解する能力を身に着ける上で役立つ」、「お客様を起点とし、遡って取り組もう」という言葉があります。ビジネスの運営は、最終消費者の行動とは大きく異なります。組織構造が非常に複雑であったり、様々な種類の「ユーザー」や「購入者」のプロファイルがあったりします。「誰」に話しかけ、最終的に「どのような人」のためにプロダクトを構築するかを認識することで、自社の顧客を理解する方法を習得できるのです。

たとえば、Google Glass(グーグル・グラス)が初めて登場した際、Google 社は消費者の間で大々的に普及することを期待していたわけでは当然ありませんでした。同社はまず、Google Glass のテクノロジー(実のところ、同グラスが頻繁に着用されると動作が鈍くなる場合も)を実際に必要とする可能性のある、特定のユーザーペルソナを把握。その後、Google Glassをエンタープライズ顧客対象に販売する姿勢に舵を切りました。

医療関係のエンタープライズ市場には、多数の医師や医療提供者を雇用する病院が含まれます。病院は、精密医療スクライブに用いる高度なテクノロジーを求めていたため、Google Glass への理解が深く、大量購入の予算もありました。この例から考えさせられるのは「Google 社が製品ローンチ前に顧客プロファイリングを行っていたら(B2C、B2B の販売を比較)、Google Glassはデビュー時に失敗していただろうか?」ということです。

筆者が「トップファネル」に効果を及ぼすことを確認した指標は、以下の 2 つです。

  1. B2Bのデマンド・ジェネレーション(需要創出)マーケティングの結果としてのコンバージョン率
  2. アカウント担当者(アカウントエグゼクティブ、テクニカル・アカウントマネージャー)を介して得たインバウンドのコンタクト(連絡先)の数、および CAC(顧客獲得コスト)

ユーザープロファイリングは、測定において最もあいまいな段階であることに留意しましょう。というのは、プロファイリングを行う価値のある顧客の大多数は、その時点では自社の SaaS 製品を使用していないからです。次のセクションで触れますが、プロダクト販売を行う企業の成否を決める最大の差別化要因のひとつが、「リードを有料顧客へとコンバージョンする能力」です。

ミドルファネル:有料顧客の獲得を

B2B の SaaS 企業の存続において、最も重要なフェーズが「ユーザー数の持続可能な増加」です。製品を販売する企業が破綻した場合、第一の原因として、通常、買収が挙げられます。筆者の経験では、オープンソースの SaaS 製品に関る買収が特に難しい傾向にあります。プロダクトの導入と収益増を促進するには、買収は優先事項と位置付けるべきです。後から思いつくようなものではありません。

買収に対する堅実なアプローチを確立している企業の好例が、クラウドネイティブ・アプリケーションを監視するための SaaS 製品を提供するDatadog(データドッグ)社です。同社はアップセルの選択肢を複数伴うフリーミアムモデルを展開しています。フリーミアム期間が終了する頃には、顧客は自社のミッションクリティカルなワークロードに Datadog 社の監視機能をすでに実装していると考えられます。その時点で、無料の顧客を有料顧客へとコンバージョンするのは、かなり容易です。このため、Datadog 社の SaaS 製品は、大企業の間で大好評を博しました。その特長は、CAC が低く(フリーミアム版は何もせずとも利用が拡大)、LTV(顧客生涯価値)が極めて長いことです。

ユーザー獲得を促進するには、以下を確認することをお勧めします。

  1. LTV: 特定の顧客について、顧客である全期間を通じた「価値」を推定するために多くの企業が使用する、標準的な指標
  2. CAC: 単一の顧客を獲得するために必要な、企業が投入する人的資本コストとマーケティング費用の合計を測定する、標準的な指標

LinkedInのこちらの記事は、この 2 つの指標を設定する方法について丁寧に解説する有用な内容です。ご想像のとおり、「フェーズ 2」へ進むための鍵は、可能な限り最大の LTV / CAC 比率を達成することです。実際、B2B の SaaS 製品に投資している最も著名なベンチャーキャピタリストの一人、Tomasz Tunguz(トーマシュ・タングース)氏は、同氏のブログでこの概念について詳述しています。(なお、同氏は最近Google が買収した Looker 社に投資していました。)

顧客が自社のプロダクトへのオンボーディングを完了し、安定的にプロダクトへの支出を行うようになったら、次のステップはロックイン(顧客の囲い込み)とアップセルです。製品ポートフォリオの構成に応じ、顧客のロックインとアップセルの双方が、自社のプラットフォームに顧客をとどめるための重要要因となります。この観点から、AWS  Marketplace(AWS マーケットプレイス)は見事なコンセプトに基づいていると言えるでしょう。AWSのインフラストラクチャーで SaaS を構築した全プロバイダーを紹介しており、AWS Marketplaceでパートナー企業の SaaS 製品を使用する顧客から、インフラストラクチャー関連の根本的な収益を、さらに多く獲得できるのです。

ボトムファネル: とにかくリテンション! (およびアップセル)

ロイヤルカスタマーを獲得した後は、顧客の「ロイヤルティ」を維持することが肝要です。多額の現金を費やしたり、「底辺への競争」へと顧客を駆り立てたりすることなく、カスタマーロイヤルティを獲得しましょう。ベンチャーキャピタリストの市場マップを見たことのある方は、各業界で競争が激しいことをご存知でしょう。つまり、同じ顧客プロファイルをめぐり、少なくとも 3 つ(たいがいは 10 以上)の SaaS 製品が競合している状態です。また、各企業とも CAC にさらに多くの費用を投入することができます。幸い、多額の現金を投じたり、「底辺への競争」へと顧客を追い立てたりすることなく顧客ロイヤルティを得るための戦略がいくつかあります。

リテンションを促進する戦略のひとつに、いわば「第 2 幕」、つまり単に一か所に限った問題点ではなく、顧客の多様なニーズすべてに対応できるプラットフォームまたはスイート製品を構築することが挙げられます。あるいは自社のプロダクトに「テクノロジー・モート(技術の堀)」を築き、新たな競合他社が容易に自社を追い抜くことを防ぐ競争力を確立することもできます。

これに関し、おそらく最も良い例のひとつとして Google(または Alphabet、アルファベット)社を挙げます。同社の収益の主な稼ぎ頭は Google 広告ですが(同社の 2018会計年度の年次報告書をご参照ください)、Android、Google アシスタント、Chrome、Gmail といった Google 社のスイート製品すべて(特に Android、Google アシスタント、Chrome、Gmail)が、最終的には Google 広告の事業に貢献しているのです。Google 社のスーパー・プラットフォームで「Google のとりこ」とも言えるオーディエンスを築くことにより、同社はユーザーが Google を使用する時間を全体的に伸ばし、ひいてはクリック数や広告の閲覧回数も向上させています。

同様の例に、Atlassian(アトラシアン)社があります。同社は、アジャイルソフトウェア開発におけるスプリントやリリースを追跡する優れたコラボレーションツール、JIRAで知られています。Atlassian 社は、他に Bitbucket(ビットバケット)や Confluence(コンフルエンス)といった補助的なプロダクトも提供しています。こうしたプロダクトは、Atlassian 社のスイート製品にユーザーが費やす時間や、同製品へのユーザーの愛着を向上させており、いずれは販売ライセンス数から得る収益の増加へとつながるのです。

リテンション向上のための様々な手法をテストする際、各指標が示す事実に注目してください。特に、以下を追跡しましょう。

  1. 消費パターン: ユーザーが何に時間を消費しているのか確実にモニタリングしてください
  2. 先行指標の健全性: 例えば、サブスクリプションの新規加入者数やユーザーアクティビティの減少などに注意してください

項目 2 は、将来的な予測を可能にするため、プロダクトマネージャーが成功を収める上で鍵となります。新規顧客数が減少傾向にある、またはプロダクトの使用時間や頻度が落ちていることが明らかになったとすれば、営業収益に大きな影響が及ぶ前に予見することができます。

プロダクトの健全性と長寿命化には指標が不可欠

会社の、あるいはプロダクトの定量的な目標(例:コンバージョンやリテンション)を達成しているか否かにかかわらず、各種の指標は極めて重要です。目標を達成している場合、成功に寄与している要素、また、成功を再現する方法を知っておく必要があります。未達の場合は、各種の指標を用いて軌道回復を図ることが可能です。

また、経験がより豊富なプロダクトマネージャーがゼネラルマネージャーに昇進すると、PL(損益)の管理も業務の一環となり、責任を負うようになります。ゼネラルマネージャーは、事業の財務健全性なども注視する必要があります。例えば「営業利益の観点から、ビジネスのパフォーマンスはどうか?」、「プロダクトの売上原価を下げる方法は?」といった質問に回答できねばなりません。

上述の指標、および自社の業界で使用され得るカスタム指標に精通することで、会社とそのプロダクトが期待値を満たしているか否か、理解することができるのです。

本記事はAmplitude社より許諾を得て株式会社DearOneが翻訳、転載しております。
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公開日:2019/11/12
ナンシー・ワング(Nancy Wang)氏


ワング氏は、Amazon Web Services (AWS) バックアップサービスのプロダクト責任者です。同氏はまた、NPO の Advancing Women in Product(プロダクトに関る女性の前進)の創設者・CEO でもあります。AWS バックアップサービスでは、ワング氏は AWS の全サービスにおけるデータ保護(バックアップ/リカバリー)のニーズを一元管理する責任を負っています。以前は最も急成長を遂げているエンタープライズソフトウェアのユニコーン、Rubrik(ルーブリック)社、および Google(Google Fiber、グーグル・ファイバー)において、複数のプロダクトを主導。ワング氏は、「データの民主化」と、いっそう多くの女性テクノロジー・リーダーのエンパワーメント(「力を与える」の意)に情熱を注いでいます。

引用元:Amplitude社ブログ

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