この記事は、2021年8月25日に開催した「バーガーキングの成功事例に学ぶ アプリでの顧客体験価値向上」のウェビナーレポートです。
バーガーキングの成功事例に学ぶ アプリでの顧客体験価値向上
ファシリテーター 安田|
本日は、カスタマーエンゲージメントの最前線で活躍するBraze株式会社の森田様、そして株式会社DearOneの小嶋による講演とパネルディスカッションを行います。
世界3大広告賞の一つ、カンヌライオンズ3冠を受賞したバーガーキングUSの、アプリを活用した顧客体験価値向上施策「Whopper Detour(寄り道ワッパ―)キャンペーン」事例を紹介し、アプリの体験価値向上に有益な情報をご提供いたします。
それでは森田さん、よろしくお願いします。
価値ある「寄り道」を作り上げた顧客体験とその仕掛け
森田
Brazeは2011年にニューヨークで創立した会社であり、現在の従業員数は900人強です。
マルチチャネルにおける顧客とのコミュニケーションをリアルタイムに行う、統合型カスタマーエンゲージメントプラットフォームを提供しています。
今年2月より日本でもビジネスを開始し、Eコマース・メディア・ゲーム等あらゆる分野の企業様がすでに導入されています。
バーガーキングがキャンペーンを行った際の位置情報の利用方法
まず、バーガーキングの「Detour Campaign」施策についてご説明します。
バーガーキングのユーザーがマクドナルドの店舗に近づくと、バーガーキングの1ワッパーを1セント(約1円)で提供するクーポンがアンロックされます。つまり、ユーザーをバーガーキングへ回帰させるキャンペーンです。
クーポン発行の仕組みには、エンゲージメントを深める施策が散りばめられています。
そのカスタマージャーニーは以下の通りです。
- ソーシャルメディアでのキャンペーン告知
- 通知やロケーションをオンにしたユーザーが、マクドナルドの180m圏内に入ると、割引券をアンロック
- ユーザーは1ワッパ―を1セントで注文可能に
さらにこのジャーニーには続きがあり、
4. ユーザーが現在地からバーガーキングへ移動する間に注文を選べるUIに誘導
5. ワッパ―に加え、ポテトやドリンクも選べる
6. ユーザーから一番近いバーガーキングをマップ表示し、道順も情報提供
7. ユーザーが店舗内に入った瞬間に、オーダーボタンをプッシュし、注文完了
ここで重要なのは、上記のタイミングをリアルタイムで行うことです。
マクドナルドの場合、注文を受けてから出来上がるまで非常に速いため、ユーザーが店舗に近づいて注文してしまうとすでに遅いわけです。
そこで、ユーザーが180m圏内に入った瞬間にキャンペーンへの誘導を促し、その後の行動も常にキャッチし、ユーザーに次に行って頂く行動を次々に示すということを1キャンペーン内で実現しました。
ソーシャルメディア上でも非常にバズったこの施策により、既存に加えて320万人の新規ユーザー登録を獲得し、月間ユーザー数が53.7%増加するという、非常に大きな成果を出しました。
Whopper Detour キャンペーン結果
さらに、エンゲージメントを行う上でユーザーのアクティベート状態を保つこと、つまりキャンペーン後もユーザーとコミュニケーションを継続することが非常に重要です。
バーガーキングの施策は、ユーザーが通知やロケーションをオンにするよう端末を通じて都度促すことで、オンにするユーザーが200万人以上になり、その後の新しいキャンペーンへや新商品へとつなげることに成功しました。
ユーザーに対しては、前出のワッパーキャンペーンの後にも楽しいキャンペーンが続くことを示すことで、ユーザーのモチベーションを上げ、自発的にメッセージ通知をオンにし続けてもらう形を取りました。
A/Bテスト
キャンペーンのメッセージをベストタイミングで通知するため、バーガーキングはメッセージのシナリオに関するA/Bテストを行い、ユーザー反応の高い方を採用し、ベストなコミュニケーションを実現しています。
その結果、オプトインを10%増加させることに成功しました。
さらにバーガーキングは、ユーザーに対するパーソナライズ化を深く行い、通知オフやオプトアウトに至らないよう、ユーザーが興味を持つメッセージをキャンペーン後も送り続けます。
例えば外部の気候・ロケーションデータと連携し、今日は気温が低いのでバーガーキングのコーヒーで温まりませんか等、ユーザーの行動にマッチしたメッセージを継続的に発信しています。
アジャイルな開発
バーガーキングは、パーソナライズ化かつベストタイミングで行うユーザーコミュニケーションの施策を行うにあたり、Brazeとの契約締結からキャンペーンのリリースまで約2か月という迅速な導入を実現しました。
これは、様々なシステムとスムーズに連携できるBrazeの強みを生かせた事例と言えます。
つまりバーガーキングは、まさにマーケティングの3大要素である「正しいタイミング」で「正しいメッセージ」を「正しいチャネル」で行うことを実現しています。
ユーザーが午前中にアプリを見たらモーニングセットを表示し、マクドナルドのエリアに入ればワッパ―のクーポンをアンロックするといったリアルタイムのメッセージングを行い、さらにe-mail やポップアップを使い分けながらパーソナライズ化することで、カスタマーエンゲージを高めているのです。
統合されたエコシステム
バーガーキングのキャンペーンには、様々な技術パートナーが参画しています。
Brazeがコアとなり、マクドナルドの店舗情報はRadarのロケーションサービス、天気情報はAccuWeatherのサービスを使用し、メッセージを構築しています。
また、Amplitudeの行動データ分析やmparticleのCDMにデータ連携を行う前提で、キャンペーンの設計が行われています。 Best of Breed でリアルタイム性の高いBrazeを使用し、同様にリアルタイム性の高いサービスとつなげることでUXを最適化したのが、バーガーキングの事例です。
安田|
森田さん、ありがとうございました。それでは続きまして小嶋さん、よろしくお願いします。
アプリで顧客体験価値向上!モバイル売上3倍を達成したキャンペーンの裏側
小嶋|
株式会社DearOneは10周年を迎えたNTTドコモのマーケティング分野における新規事業型子会社であり、企業課題に寄り添ったDX支援を行っています。
アプリ開発及びグロースマーケティングを中心に事業展開し、主に「ModuleApps」といったアプリ開発の実績が多く、飲食・小売から金融、スポーツ、メーカーと幅広い業種・業態でお客様に最適なソリューションをご提供しています。
本日お話しするバーガーキングの事例「Whopper Detour(寄り道ワッパ―)」は、カンヌライオンズで3冠を獲得、アプリダウンロード数1位、売上も3倍、ROIも37倍という成果を上げました。そこに至るまでの裏側について具体的にご説明します。
1. 施策設計/効果測定方法
Point 1. 施策対象ユーザー
日本ではキャンペーン自体の効果測定になりがちですが、バーガーキングはユーザーのライフサイクルに応じてキャンペーン施策を出し分けています。
新規ユーザー → アプリダウンロード促進に絡めたモバイルオーダーキャンペーン
定着ユーザー → 個々に合わせたキャンペーン
キャンペーン全体では、頻度を上げる点にフォーカスした設計になっています。
そして、「新規→定着→休眠→復活」のライフサイクルに合わせたことが、バーガーキングのキャンペーン効果が最大化した点であると言えます。これをしっかり把握している日本企業はまだまだ少ないと思われます。
プロダクトのライフサイクルは、例えばゲームアプリなら1, 2日、ピザの宅配アプリなら3週間など、アプリやサービスによって異なるため、まずは自社のライフサイクルを定義する必要があります。
Point2. ユーザーあたりのモバイルオーダー額
バーガーキングは全ユーザーに向けたキャンペーンを行い、最終的に目指すべき重要指標「North Star Metric(ノーススターメトリック)」を設定しています。「ユーザーあたりのモバイルオーダー額」がバーガーキングの最重要指標です。
日本ではあまりなじみのないNorth Star Metric(ノーススターメトリック)は、KPIとKGIの間に置かれる、北極星のようにぶれない唯一の指標のことです。アメリカでは、Amazonが「Prime会員の購買点数」、NETFLIXが「60時間/月以上視聴した有料ユーザー数」にNorth Star Metric(ノーススターメトリック)を置いています。
North Star Metric(ノーススターメトリック)はプロダクトのユーザー体験価値を全て包括しており、North Star Metric(ノーススターメトリック)を上げることで、グロースマーケティングの重要な要素でもあるユーザー体験を向上させるメリットがあります。
また、ブレイクダウンも容易に行えるため、以下4つの観点からNorth Star Metric(ノーススターメトリック)を上げることができます。
「広がり」会員数・視聴者数
「深さ」お気に入り度・視聴時間
「頻度」来訪数・視聴回数
「効率」モバイルオーダーまでの動線
このNorth Star Metric(ノーススターメトリック)という指標設計は非常に注目されています。
Point 3. 先行指標
指標設計には対義となる2つの指標があります。PV数や売上といった「結果指標」、そしてそれ自体が上がると結果指標が上がる「先行指標」です。「先行指標」が上がると、短期間でPDCAサイクルを回すことができます。
バーガーキングは「先行指標」の設計をしっかり行っており、結果を待つのではなく、以下の指標を元に改善やキャンペーンの効果測定を行っています。
- インストールしてモバイルオーダーした顧客
- 1ユーザーあたりの起動回数
- 初回オーダー後の再訪率
2.BURGER KING(バーガーキング)のMarTechツール
前出の、バーガーキングが短期間でキャンペーンを実現できた理由は、提供ベンダーが取りまとめた複数のマーケティングテクノロジーを同一ブランドで提供する「Suites」型ではなく、ベンダーの違いにこだわらず自社が必要とする機能を自由に組み合わせたエコシステム「Best-of-Breed」型を採用したことにあります。アメリカではBest-of-Breedが主流です。
バーガーキングアプリのキャンペーンの裏側に、カスタマーエンゲージメントツール、CDP、プロダクトアナリティックス、アトリビューション、外部システムを組み合わせることにより、グロースマーケティングの4ステップ「1. ためる 2. 整える 3. 分析する 4. 使う」が実現し、リアルタイムのキャンペーンが可能になります。
ツールの組み合わせが自由にできる上、API連携も容易なところが、Best-of-Breed の利点です。
3. ユーザーの行動分析について
グロースマーケティング4ステップのうち、「分析する」について深堀りしていきます。バーガーキングのMAスタックでは、「アクセス分析」「ビジネス指標集計」「ユーザー行動分析」があります。とりわけ「ユーザー行動分析」をまだ導入していない日本企業は多いです。
ユーザー行動分析ツールであるAmplitudeは、世界では40,000サービス以上の導入実績があり、MicrosoftやFacebookを始めあらゆる企業のグロースハックに使われています。
Amplitudeは、ロイヤルユーザーやライフサイクルといった示唆出しをすると、数秒で行動分析を出すため、そのデータをそのまま前出のBrazeに送ればプッシュやメールを打つことができます。
リテンション分析
クリティカルイベント(継続利用に有効な行動や施策)の導出
全ユーザーのリテンション10%
キャンペーン閲覧・クーポン利用・モバイルオーダー利用の行動イベントを比較分析
→ モバイルオーダー利用体験者のリテンション率が一番高いと判明
→ リテンションユーザーを増やせる可能性
動線分析
サービス開始からの行動の流れを全体俯瞰で確認
動線を辿ると、4割以上がユーザーログインせずに離脱
→ 初めのオンボーディング改善が必要であると判明
打ち手の探索/示唆だし
現状のDXでは、アクティブユーザーに対し購買ユーザー率を向上させる具体的施策は困難
→ お気に入り登録の回数による購買率を比較
→ ユーザー行動分析による、統計的な改善示唆
→ モバイルオーダーを3回以上させるという示唆の導き出し
→ オンボーディング1回・キャンペーン月2回等、打ち手につながる示唆が見えてくる
このようにユーザーの深堀りを行うのが、グロースマーケティングの分析です。
安田|
小嶋さん、ありがとうございました。それではこれより、パネルディスカッションに移ります。
パネルディスカッション
キャンペーンにおけるBrazeの仕組みについて
小嶋|
先程のキャンペーンを実現するBrazeの裏側を見せて頂けますか。
森田|
(画面を披露し説明)
小嶋|
なぜBrazeだけがリアルタイムでできるのですか?
森田|
先程小嶋さんのお話にもあった通り、マーケティングオートメーションツールに関しては、マーケティングクラウドで提供しているものが多いと思われます。
マーケティングクラウド型の難点は、買収した製品をつぎはぎで行っているケースが多く、そのつぎはぎに対し、中央のコミュニケーション・メッセージングを設計するツールで対象リストを生成し、この人に送って下さいとメール・アプリサーバーに送ったりすると、一回SQLで間に入ることになります。
その場合、どうしてもリアルタイムにはならないのが現状です。ですので、アーキテクト的にはそこが難しいですね。
安田|
初めて見たのですが、イメージ的に分かりやすく作られていますね。
森田|
直感的に作れる部分と、オペレーションをする方はこの後どんな施策が行われるのか一瞬でわからないと後の施策が引き継げないので、次にどのメッセージをどのタイミングで送るのかすぐにわかるため、継続使用の観点からこのようなUIは重要なポイントと考えています。
分析してPDCAを回すタームについて
森田|
分析して施策を回す、PDCAを回していくタームはどのくらいで実現できるものですか。
小嶋|
先程のエコシステムが実現できていれば、A/Bテストはすぐできます。
例えばこのユーザーに対して配信したいとなると、示唆だしをしてユーザーをBrazeに連携して配信すると。その場合だと週に数回で回せます。
けれどもその部分がまだ自動で出来ないところもあり、手動でセグメント切りして、CSVで出して、メール・プッシュでの配信を別々に設定するとなるとマンパワー的にも回らないので、月一回の施策になっているところもあります。
ですので、以下に顧客に協力して頂いてシステムを組んでもらうかというところですね。その方が効果も出るので良いと思います。
森田|
例えばストリングが得意なAmplitudeやmparticle がつながっているとやりやすいですか?
小嶋|
そうですね、リアルタイムに特化したMarTechツールが入っていると非常にやりやすいです。
森田|
そこまで進めている会社はどのくらいありますか?
小嶋|
日本では数%ですね。
森田|
海外ではAmplitudeは当たり前のように存在していますが、日本ではまだこれからというところですね。
小嶋|
そうですね。弊社もグロースマーケティングを通じて良さを伝えていきます。
安田|
海外では分析と示唆を1,000回繰り返す等、プロダクト開発現場では普通のことですよね。
日本でもSaaSプロダクトは増えているので、いずれは一般的になると思います。
顧客体験アプリの日本の後進性について
小嶋|
バーガーキングの素晴らしい顧客体験アプリと同様のものが日本にはないのですが、なぜ日本は遅れていると思いますか?
森田|
バーガーキングのような施策を行う時に、まず様々なサービスに繋がっていくことが一つの重要なポイントになります。例えばRadarで競合店舗情報を把握するとか、AccuWeatherで天気情報を持ってくるとか、様々なモノを繋げて初めてマッシュアップ的発想が生まれると思います。
一方日本では、マッシュアップで作る流れをあまり聞いたことがありません。環境がないので発想がないというところにつながると思います。環境がないということは、システム同士が疎結合できるものが中核にないということで、まずは疎結合できる環境が必要かと。
小嶋|
そこが課題ですね。
森田|
アメリカでは廃れつつある、SQLをたたいてリストアップを出すという文化が日本では根付いてしまっているので。
安田|
それしか知らない方が多いというのもあるかもしれないですね。
それではお時間となりましたので、これでパネルディスカッションを終了します。
森田さん、小嶋さんありがとうございました。
本日のまとめ
- 行動ベースでユーザーを分類し、施策を細かく分ける
- パーソナライズされたメッセージがカスタマーエンゲージを高める
- A/Bテストで施策のブラッシュアップを継続することで効果が上がる
- マーテックツールを活用することで施策を早く、多く試せる
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