この記事は、2021年11月17日に開催した「Growth Summit 2021」のセッション2ウェビナーレポートです。
河野|
本日は株式会社NTTドコモの田原様、小梁川(こやながわ)様をお招きし、取扱高8,100億円・ユーザー数3,500万人を達成したNTTドコモのスマホ決済サービス、d払いのリリースからグロース戦略と今後のDX展望について、お話をお伺いします。
まずはd払いのサービスについてご説明頂けますか。
d払いの進化と利用拡大
田原|
dポイントとd払いは表裏一体のサービスです。
dポイントは2015年12月開始の共通ポイントプログラム。一方d払いは、2018年開始の、dポイントプログラム会員が利用可能なキャッシュレス決済サービスです。いずれも街の店舗だけでなくネットの加盟店でも利用できます。
dポイント
dポイントは開始以来順調に会員数が伸びており、2021年9月末の会員数は8,554万人です。その内、ポイントをためたり使ったりが可能なdポイントカード登録数は5,433万人と順調に伸びています。
dポイント利用数ですが、2019年度は約2,000億ポイント、2020年度は約2,500億ポイントが年間消費されました。NTTドコモ自体が発行している2,000億ポイント強に加え、加盟店発行分も数百億ポイントあり、現在では日本最大規模のポイントプログラムと言えます。
dポイントは、非常にポイントをためやすい点が特徴です。
d払い
一方d払いは2018年当初、バーコード表示で店舗決済するシンプルな仕組みでした。その後2019年に、チャージや送金が行えるウォレット機能を装備し、加盟店のミニアプリをd払い上に連携させて加盟店提供の機能を簡単に使えるようにしました。
2020年にはメルペイとの戦略的提携、そして加盟店がクーポン配布等のCRMを容易に行えるスーパー販促プログラムを提供開始しました。
d払いのユーザー数は昨年に比べて130%UPし、世間のキャッシュレス化に伴い順調に拡大しています。
d払いの特徴は3点あり、いずれも「かんたん」であることがキーポイントです。
NTTドコモは元々i-modeを提供していたため、コンテンツ料金を電話料金と合算して払うユーザー文化があり、それを街でも実現することができました。
さらにネットワーク暗証番号は、携帯電話の暗証番号を使用して簡単に30秒以内で設定が可能です。
d払いの取扱高は、2019年度に4,000億円程度でしたが、昨年2020年度には8,100億円と順調に伸びています。先日、今年度上半期5,480億円の決算発表があったので、今年度は1兆円を超えるサービスに成長すると想定しています。
d払いの利用箇所も拡大しており、大手全国チェーンから中小個店舗にまで広がっています。加盟店に関しては、日本中の店舗でお取り扱い頂けることを目指して取り組んでいます。NTTドコモは元々コンテンツプロバイダーとの付き合いが幅広いので、リアル店舗に限らず、ネットショッピングでもさらにd払いが利用可能になるよう進めています。
また、最新のd払いウォレット機能ですが、QRコードで支払うだけではなく、チャージや出金・送金、dポイント受取等の機能があります。
請求書払いやポイント投資に続いて、今後は生活に便利な機能を増やしていきます。
急成長するNTTドコモのキャッシュレスプラットフォーム
d払い上のミニアプリは「予約・注文」サービス表示になっていますが、加盟店アプリの一部機能をd払いアプリ上に実装しています。
ユーザーのメリットは3つあります。
- 加盟店毎のアプリインストール不要
- ID・パスワードの登録不要 (d払い上でログイン済の環境であるため)
- 決済情報の登録不要 (d払い自体が決済サービスであるため)
つまり、d払いのアプリ上からシームレスに加盟店のサービス利用が可能です。
今年度中には、30以上の加盟店にご利用頂く見込みですので、ポータル的メディアとして強化していく予定です。
スーパー販促プログラム
2020年11月に発表、2021年1月開始のサービスです。
顧客がdポイント・d払いを使用した際に、一度来店した顧客を加盟店にてストックし、その顧客に対し再来店を促すメッセージを送ったり、クーポンを配布するというニーズに応えたプラットフォームです。
加盟店はダッシュボードを通じて、実際に来店しdポイント・d払いを使用した顧客をストック数ベースで確認できます。その数が例えば累計100万人となった場合、お得意様(ロイヤルカスタマー)になるのか離脱しそうなのか等、セグメント分けを行い、dポイント・d払いアプリ上のメディアを使用してクーポン配布やメッセージ送信ができるようになっています。
加盟店数は順調に成長しており、今年中には100以上の加盟店との契約を目指しています。
d払いの強みは、8,500万人のdポイントクラブ会員基盤があることです。その会員の皆様に、日常利用における最強のキャッシュレスサービスを提供していきたいと考えています。
出発点は金融・ウォレット機能ですが、今後はミニアプリ機能を活用し、業界別のDX推進やメディアを使った販促機能、そして決済機能を順次追加していく予定です。
dポイントとd払いをしっかり組み合わせて、キャッシュレスプラットフォームの構築を実現していきます。
河野|
田原さん、ありがとうございました。
急成長を遂げて大成功したサービスということで、グロースさせる方法について深掘りしていきたいと思います。
dポイント・d払いのグロースマーケティングの裏側
河野|
小梁川さん、サービス着想のきっかけについてお話頂けますか。
小梁川|
当時はi-modeに始まり、回線ユーザー向けにEC・デジコンといったキャリア決済手段を展開していた背景があります。その事業をECだけではなくリアルにも広げるために、QRコード決済事業を開始し、同時にd払いブランドを立ち上げました。
現在は会員数8,500万人のdポイントも当時すでに、リアル店舗で使う・ためるという基盤が確立していました。そのお客様に対する新たな決済手段としてd払いを始めた流れです。
河野|
8,500万人の会員様に、より便利に使って頂くことが発想の原点だったのですね。 では、d払いの企画立ち上げからローンチまで何年くらいを要しましたか?
田原|
ローンチが2018年で、その1年少し前から構想を練っていました。 当時すでに日本市場には、QRコードを使用したサービスがありました。ただNTTドコモも長らくi-modeを通じてコンテンツプロバイダーに決済サービスを提供してきたので、それをリアルで使えたらもっと便利なのでは、と考えたのが発端です。
その実現に向けた企画段階で、中国本土でAlipay(アリペイ)やWeChat Pay(ウィーチャットペイ)を実際に体験し、新たなサービスが中国で広がっていることを目の当たりにして、是非日本に持ってきたいと思いました。Alipay(アリペイ)やWeChat Pay(ウィーチャットペイ)は、小売店や流通等あらゆる業者のDX支援につながるプラットフォームになるのではと確信しています。
河野|
田原さん自ら現地リサーチに行かれたわけですね。
田原|
はい。現地に行って実際に人々がどのくらい使用しているのか自分の目で確かめることが必要でした。また店舗決済についてはAmazon Goなどアメリカからの情報を意識していたので、中国の急速なDX推進は現地で初めて体験し、衝撃でした。
河野|
そこで日本でもビジネス化すべきと判断されたわけですが、一方でNTTドコモさんのような巨大組織では事業計画から実現まで時間を要するイメージがあります。それでも構想から1年ちょっとでローンチできた理由は何でしょうか。
田原|
元々ペイメント・サービスを提供していたチーム内で小さなプロジェクトを作り、始めました。ただ当初のd払いアプリは、バーコード表示機能のみのシンプルなサービスでした。
マーケットにミニマムのプロダクトを出して、dポイントですでにお付き合いのあったローソンさん等リアル店舗やユーザーからヒアリングをしながら反応を見て、アクセルを踏むタイミングを計りました。
河野|
スモールスタート、まずはやってみるということですね。
とはいえ、いくら既存アセットをお持ちでも、3年で1兆円に届くまで急成長させるにはそれなりの工夫が必要だと思います。マーケティングのポイントを教えて頂けますか。
小梁川|
開始当初に相当行った市場調査で重視したのは、お客様が何によって決済手段を決めているかを把握することがまず第一でした。その結果、dポイントがたまるお得感や、普段よく行くお店でd払いが使えるかといった点が大事であると分かりました。
そこからdポイントがベースで、普段の買い物でしっかりポイントがたまること、そして普段よく使うお店で決済するだけでポイントを貯められるというメッセージが、d払いのUSP(Unique Selling Proposition)として導き出せました。
河野|
ビジネス立ち上げ時に、加盟店の獲得とユーザーの獲得は、ニワトリか卵かのように獲得の順番を意識されましたか。
小梁川|
両方が両立しないとお客様には使って頂けないのですが、基本的にはC向けに発信することが多かったです。お客様がリアル店舗で利用する際に感じるハードルが何なのか把握し、そのハードルをしっかり下げて使って頂くことを優先していました。
もちろん、加盟店開拓も含め両輪で動いていました。
河野|
元々8,500万人の会員ベースがあるのは強みですね。ちなみに田原さん、競合は?
田原|
中国の場合、Alipay(アリペイ)やWeChat Pay(ウィーチャットペイ)が9割以上のシェアなのですが、日本のキャッシュレス市場はクレジットカードや電子マネーを含めても3割ほどで、残りの7割は現金です。
この3割も全国平均なので、都心部で4割、地方で1割といった状況です。
日本市場はまだまだ現金文化なので、QRコード決済内での競争ではなく、「日本の人々の決済手段を現金からキャッシュレスに移行させること」と考えると、現金使用ユーザーにキャッシュレスサービスを使って頂きたいというところです。
そのためにはキャッシュレスのお得感や便利な機能を提供する必要があり、キャッシュレス利用者を増やす観点では、競合は現金になると考えています。
河野|
現金利用者をd払いのキャッシュレス決済に向ける工夫はされていますか?
小梁川|
NTTドコモとして提供しているので、NTTドコモの武器を追求する必要があると考えています。
その観点からポイントは3つあります。
1つ目は、共通ポイントプログラムとして既に確立していたdポイントクラブ会員規模です。効率よくお客様を獲得し、またお客様に使って頂ける点です。
2つ目は、dポイントクラブサイトやdメニュー等NTTドコモが持つオウンドメディアがあるので、メディアを通じてお客様にメッセージを伝えられます。Webキャンペーン等の利用促進ができます。
3つ目は、回線ユーザーの強みです。NTTドコモユーザーであればd払いを使うのが当たり前になることを目指しています。今年9月にローンチしたd払いステップボーナスという施策では、回線ユーザーなら1回でもd払いを使用すればポイントが上乗せで還元され、NTTドコモユーザーであり続ける限りずっとポイント還元が続くお得感を出しています。
河野|
NTTドコモならではの強みを活かしているということですね。
3年で8,000億円を突破し1兆円目前の勢いは、KPI設定ありきだと思うのですが、参考までに教えて頂けますか。
田原|
当初のKPIは利用者増加率でした。dポイントクラブが母体なので、その会員がd払いを使い始めてどの程度利用者が増えるのかMAU(Monthly Active Users)を初期フェーズから見ていました。
最近はノーススターメトリック(North Star Metric)を考えています、というのもMAUだけでは密着度が分かりません。期間での使用頻度や金額といった、生活にどれだけ浸透しているか表現できないので、ノーススターメトリックで決済回数を見て計画立案し、拡大に向け取り組んでいます。
河野|
決済回数は総和で見ていますか、月間一人当たりで見ていますか。
田原|
まず総和を見て、アプリユーザーで割り、一人当たりの月額利用料や利用回数をモニタリングしています。BtoCモデルなので毎日数字をチェックして見える化し、PDCAを高速で回すことが最近チームに定着してきました。
PDCAを高速で回せる環境になったのは、Amplitude(アンプリチュード)をシステムに組み込んだことが大きいですね。そしてオペレーションするメンバーの意識や仕事のやり方が改善されて、今年度からパフォーマンスが非常に向上しています。
河野|
まさにグロースマーケティングが回り始めましたね。
急速な事業成長のもと、想定の取扱高・ユーザー数・MAUは達成しましたか。
田原|
取扱高は達成できました。リアルもネットもカバレッジが広いため、コロナの影響で消費行動が一時的にリアルからネットに移っていたとしても、ネット側の決済の取扱高が飛躍的に伸びたので、トータルでは結果を出せました。
河野|
今後の展望をお聞かせ頂けますか。
田原|
dポイント・d払いをしっかり展開していきたいと考えるNTTドコモのパーパスは、加盟店のDX化に共に取り組むことや、ユーザーの利便性向上を目指すことです。これからも加盟店・ユーザーに向けて便利な機能や付加価値を提供していきますのでご期待ください。
河野|
田原さん、小梁川さん、本日はありがとうございました。
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ゲスト
株式会社NTTドコモ マーケティングプラットフォーム本部
ウォレットビジネス部長 田原務様
ウォレットビジネス部には大きく分けてモバイル決済事業とOMO事業の2事業がある。
モバイル決済ではd払いとGoogle play等のキャリア課金を、OMOではd払いやdポイントの加盟店に対しマーケティングやDXソリューションを提供している。これら2事業を統括。
株式会社NTTドコモ マーケティングプラットフォーム本部
ウォレットビジネス部 ウォレット戦略 小梁川悠美様
d払いマーケティングのwebプロモーション企画・分析を担当。デジタルをコアに据え、d払いユーザー拡大のためキャンペーンの企画・運用、その効果最大化のためのメディア露出最大化、施策の効果検証、次の打ち手を考えPDCAを回す業務等を担当。
モデレータ
株式会社DearOne 代表取締役社長 河野 恭久
人材ビジネスを営むスタートアップからキャリアをスタート。営業、経営企画、事業企画に従事し収益構造改革や新規事業を企画・立案。2004年には東証一部上場を果たす。2009年におてつだいネットワークスにジョイン。販売・企画・戦略立案等に携わりながら、イマナラ!事業の立ち上げに参画。2011年に現DearOneを共同創業、スマホアプリ開発サービスModuleAppsを立ち上げ2015年1月より現職。アプリビジネスを軌道に乗せ、現在は米国Amplitudeとの協業により国内のデジタルマーケティング活性化に邁進中。モットーは「WOWを創る」