羽田空港のデジタルリテール戦略とDX事例

2023.04.10

この記事は、2023年2月16日に開催された「GLOBALIZED インバウンド 2.0|訪日DXで進化する日本の未来」のカンファレンスイベントレポートです。

コロナ禍を超えて「安心・安全・快適」な羽田空港を 

羽田空港を支える日本空港ビルデングとは

日本空港ビルデング 堀氏|
日本空港ビルデング株式会社の堀と申します。私はデジタル事業推進室という部署に所属するほか、リテール営業部とマーケティング戦略部を兼務しており、これら三つのセクションの次長職を務めています。

日本空港ビルデング株式会社
デジタル事業推進室 次長
リテール営業部(兼務)次長
マーケティング戦略部(兼務)次長
堀 史晴 氏

日本空港ビルデング株式会社 デジタル事業推進室 次長/リテール営業部(兼務)次長/マーケティング戦略部(兼務)次長 堀 史晴氏

本日は「羽田空港のデジタルリテール戦略」というテーマで、まず弊社の概要と羽田空港の概要、続いて私たちが業務として取り組んでいるデジタルマーケティング、DX事例なども含めお話しさせていただきます。

日本空港ビルデング株式会社は1953年、約70年前に設立され、羽田空港の第1・第2ターミナルの建設、管理運営を行っています。東証プライムに上場しており、従業員は本社に251名、グループ全体で3,000名弱といった規模です。

日本空港ビルデング会社概要 事業内容

羽田空港は第1ターミナル(T1)が主に国内線、第2ターミナル(T2)は国内線および国際線の機能を一部有しており「T2i(ティーツーアイ)」と呼ばれていますが、オープン直後のコロナ禍で閉鎖されており実質2週間弱しか運用されていません。しかし、今年はインバウンド需要の回復、あるいは日本人も海外に出られるだろうということで、今年中にまた「T2i」が稼働できるのではないかと期待しております。

そして、第3ターミナル(T3)が国際線の機能を有していて、こちらは2018年にPFI事業として弊社が中核となって、航空会社などと共同出資した東京国際空港ターミナル株式会社が管理・運営しております。

これらのうち、T1・T2を私たち日本空港ビルデングが建設・管理運営しております。主たる事業としては、ANA様やJAL様といった航空会社様に事務室等を賃貸している不動産収入があります。それから、空港の中に飲食店、物販店、免税売店などがありますが、これらは直営店舗とテナントの店舗、あるいはグループ会社で運営しているものがありますので、その直営店の収入、テナント店であれば賃料の収入があります。

羽田空港の旅客ターミナルは極めて公共性の高い施設ですので、弊社は「公共性と企業性の調和」という、このバランスを保って事業展開していくことを基本理念としております。この基本理念に則って、お客さまに安心・安全・快適にターミナルをご利用いただくためにも、企業として安全面を非常に重視しています。

冒頭、1953年7月設立と話しました。それ以前、第2次世界大戦後に羽田空港は、一時アメリカ軍の管轄下にありました。その後、1952年に日本に返還されましたが、当時の日本は大変な財政難だったため、旅客ターミナルについては民間資本によって建設することが閣議決定され、弊社が設立し、旅客ターミナルを建設したという経緯になります。そして、航空業界の発展とともに弊社も旅客ターミナルを拡張してまいりました。

弊社のグループ会社は計19社あり、主に羽田空港の旅客ターミナルにおけるオペレーションをグループ全体で行っております。

8年連続「世界一きれいな空港」受賞!5スターエアポート羽田空港

日本空港ビルデング 堀氏|
続いて羽田空港の概要です。海外には、ターミナルが4つある大型空港などもありますが、日本国内の空港では、3つのターミナルを持ち、国内線・国際線のいわゆるハブ空港として乗り継ぎができる希少な空港になっております。

羽田空港の概要 旅客比較数

羽田空港の規模については、日本国内の空港旅客数ランキングでいうと、コロナ禍前の数字ですが、羽田空港が8,500万人強で1位です。世界の空港旅客数ランキングでは、羽田空港は5位という順位でした。

羽田空港の概要 国内線就航都市

就航都市は、コロナ禍前ですと国内線48路線。大体1日500便ほど出発便があり、到着便も同じくらいですので、一日約1,000便が離発着するという大変混雑している空港です。国際線は53都市、58路線、1日約170便という規模のフライトがありました。

ただコロナ禍以降になりますと、思い出すだけで泣きたくなるような状態で、フライトインフォメーションのボードがほぼ全便「欠航」という日が続いておりました。出発ロビーはかなり広い建物ですが、見ると職員10〜20人に対してお客さまが1人か2人という日が続いているような状況でした。

羽田空港の概要 旅客ターミナルの国際評価

英国のSKYTRAX(スカイトラックス)社という機関が世界の空港の評価をしていて、羽田空港は9年連続で「5スターエアポート」を獲得しております。特に「世界一きれいな空港」(World’s Cleanest Airports)という部門で、7年連続で世界一の賞に輝いております。また、高齢の方や障害者に優しい空港という部門でも、4年連続で世界一という評価を獲得しています。

日本空港ビルデングのDX事例とマーケティング

マーケティングロードマップ

日本空港ビルデング 堀氏|
続いて、マーケティング活動を紹介します。お客さまのニーズや価値観が変わっていく中で、これに対応して顧客連携を実践していくことが目的です。よってミッションとしては、お客さまの幅広いニーズを理解しそれを叶えていくことで、顧客満足度および業績の拡大に貢献したいと考えています。

マーケティング活動 ロードマップ

日本空港ビルデング 堀氏|
ロードマップとしては、まず「お客さまを知る」ことがマーケティングの基本になります。セグメンテーションをして「どんな人がいるのか」、「どんなニーズがあるのか」、「どんなペインがあるのか」を知っていきます。

次に「他部門との連携」ということで、マーケティング活動実践においては、実際にお客さまと触れ合う現場での行動変容が重要になりますので、各部署と連携しています。私はリテールを兼務しているので、この点は非常にやりやすいなと感じております。

また「タッチポイント設計」では、お客さまとの接点でどのようなサービスをリアル・バーチャル両面で提供していくのかを設定していきます。そして最後に「業務フロー確立」として、マーケティング活動は永続的に必要となる活動なので、お客さまのデータを収集・集計・分析した上でサービスを提供し、その効果があったのかを検証するというPDCAを回していくことが重要だと考えています。

マーケティングは「お客さまを知る」ことから始まる

マーケティング活動 羽田空港におけるマーケティング

羽田空港におけるマーケティングに関して、まず旅客はコロナ禍前までは8,700万人いました。また、従業員、取引先、あるいは空港に遊びに来る方といった非旅客が推計2,700万人くらいいるのではないかと捉えており、合計すると1億人強の方に羽田空港を利用いただいております。1億人のニーズをしっかり理解し、そのニーズに合った価値を創造・提供することが、まずはマーケティングの基本になると考えております。

日本空港ビルデング株式会社
デジタル事業推進室 次長
リテール営業部(兼務)次長
マーケティング戦略部(兼務)次長
堀 史晴 氏

日本空港ビルデング 堀氏|
次に顧客調査です。まずセグメンテーションに基づき、「こんなお客さまがいるのかな」「こういう人たちが多いのでは」「こういうニーズがありそうだ」などと考え仮説を立てます。続いて追跡調査ということで、お客さまの行動の跡を追って、例えばサラリーマンなら「多分、こんな人が多いのでは」という仮説に対し、それが正しいかどうか測定・分析します。

例えば、「サラリーマンは旅行客と比べ、お店をあまり利用しないで、一目散に飛行機に向かう方が多いのではないか」と仮説を立て、その割合は実際どのくらいなのかを調査してみたり、あるいはWebやInstagram上で「アンケートに答えてください」とお願いして、お客さまが羽田空港にどれくらい滞在するのか、滞在時にどのような不満があるかなどを調査・分析したりしました。

フライト・混雑状況・免税品などの情報をプッシュでお知らせ!会員サービスのハブ「羽田空港アプリ」

マーケティング活動 羽田空港公式アプリ

日本空港ビルデング 堀氏|
そんな中、2021年に「便利」「リアルタイム」「楽しい」というコンセプトで「羽田空港アプリ」をリリースしました。

マーケティング活動 羽田空港アプリユーザー概要

少し前のデータですが、男女比はおよそ6対4、年代の方は比較的ばらつきがあって、20代から60代まで幅広く使っていただいているアプリになります。

マーケティング活動 2022年 羽田空港アプリの開発状況

機能の概要としては、まずOne to Oneメッセージ機能は一人一人に合った情報を提供する機能です。また、「会員サービスのハブ」として、従来バラバラに提供されていた羽田空港のさまざまなサービスを、一つのアプリに集約しております。

このほか運用体制の強化や、Web上に広告を出すなどダウンロード数を増やすための施策に取り組んでいます。

マーケティング活動 羽田アプリ「会員サービス」の概要

日本空港ビルデング 堀氏|
羽田空港アプリには豊富な「会員サービス」があり、「こういうさまざまな機能があると便利かな」という仮説を立てた上で、お客さまへのインタビューを行い「これは便利そうだね」といったご意見を基に一つ一つ充実させていきました。

マーケティング活動 会員サービスの一例(イメージ)

日本空港ビルデング 堀氏|
会員サービスのイメージをスライドに表しました。左側に示したのがお客さまの気持ちで、特に「乗り遅れないか」「定刻通りに出航するか」「もうゲートに行った方がいいのか」「混雑するのかな」など、赤い文字で不安になりがちな気持ちを示しています。一方、青い文字で示した「免税品で化粧品を買いたいな」といったポジティブな気持ちも少し入れております。ただ、やはり皆さん「乗り遅れたら嫌だな」とやや不安を感じながら羽田空港を使っているということが、マーケティング調査の結果わかりました。

そこで、右側に示した通り、施策としては例えば、お客さまに「羽田空港へようこそ」「フライトは定刻通りですよ」「搭乗までは90分で十分な時間があります」「保安検査場は混んでいないので、5分で通過できます」「予約していただいた免税店の商品は既にピックアップしてあり、追加の商品を買いたいときはクーポン券をお渡しします」などのメッセージを送ることを計画しています。

あるいは、「ゲートの近くで小さなケーキを提供していますので、クーポンを使って召し上がりませんか」といったメッセージを送ることによってお客さまの不安が少しでも払拭され、空港内をより楽しみながらお時間を過ごしていただけるのではないかと考えております。

マーケティング活動 マーケティング施策はマスからone to oneへ

日本空港ビルデング 堀氏|
そして、「マーケティング施策はマスからOne to Oneへ」ということで、サイネージからWebサイトやSNSまで基本的に情報発信は全員均等に同じ情報が届くわけですが、アプリという個人が持つものを使うことによって、旅行前から旅行後まで、その人に合ったさまざまな情報をピンポイントで発信できると考えています。

マーケティング活動 顧客体験例:国際線カスタマージャーニー

例えばカスタマージャーニーとして、ハワイ旅行を決定した後にスマホでアプリを使うと、「あなたがハワイへ行く日は空港が混んでいるので、駐車場を予約した方がいいですよ」「免税品の予約はいかがですか?」といったメッセージを一人一人に発信していくことができます。

お客さまが実際に空港に来たことはビーコンやGPSの位置情報でわかりますので、「羽田空港へようこそ」「混雑状況はこういう状況です」などの情報を発信したり、コンシェルジュ機能を介してお客さまへの接客をしたり、お客さま側でもモバイルオーダー機能で例えばハンバーガーセットを注文して並ばずに受け取るといったことが実現できます。

そのほか、保安検査所の情報をサイネージで確認したり、免税店で商品を受け取ったりケーキを食べたりしていただくため、その人に合った情報を発信することによって、空港の中で何をしたらいいか迷わず存分に満喫していただくことができると考えております。

マーケティング活動 顧客データと基幹システムのデータを統合管理

日本空港ビルデング 堀氏|
それから、PDCAを回す部分については、データを取得・分析してマーケティング施策を実施した結果、例えば発行したクーポンを使ってくれたかどうかなどを分析し、その施策にどのような効果があったのかを検証して、また次の施策につなげていきます。

基幹システム、CRMのお客さまの情報、施設のリアルな情報などを一つのデータベース上で束ね、高速に施策を打ってお客さまに提供していくというDX的なことを実践しております。

中・韓・ベトナム語も!WOVNと取り組むインバウンド向けECの多言語化

マーケティング活動 2023年以降の活動計画

日本空港ビルデング 堀氏|
今後のマーケティング活動計画としては、まだまだやるべきことがたくさんありますが、今回のイベントを主催されているWOVNさんとの取り組みについて紹介します。

前述のアプリはコロナ禍におけるリリースでしたので、基本的には日本人向けとなっています。ただ、インバウンドが戻りつつあるというところで、WebサービスやECサイトはWOVNさんのソリューションを使って多言語化し、今後は外国人向けの情報発信をさらに充実させていく計画です。

マーケティング活動 インバウンド対応 コロナ禍からの回復に向けて

日本空港ビルデング 堀氏|
イメージとしては、まずスライド左側が日本人向けの羽田空港アプリです。そして右側はWOVNさんを導入したWebサイトを縮小したものになります。WOVNさんのソリューションを私自身使っているのですが、Webサイトの多言語化が非常に簡単でした。それぞれの国に合った言語で、それに適したデザインでの多言語サイト構築をすぐに作れて、かなり短い時間と低コストで多言語化対応できるとわかっていますので、英語・中国語・韓国語に加え、今後はベトナム語など言語追加していき、どんどん多言語化処理を進めていく計画です。

顧客との接点を1つに統合し、最高の顧客体験を構築

最後に まとめ 顧客との接点を1つに統合し、最高の顧客体験を構築

日本空港ビルデング 堀氏|
最後に、空港の事業者といってもさまざまありますが、全て羽田空港アプリのデジタルサービスに集約しているので、お客さまにはアプリを通じて羽田空港を安心・安全・快適に使っていただけるようになっています。

約1億人のお客さまがいると申し上げましたが、それはつまり、1億通りの適切な過ごし方・カスタマージャーニーがあるということです。そこをデジタルサービスで引き出して羽田空港をより快適に使っていただくため、ターゲットである日本人・外国人、全てのお客さまに最適な顧客体験を作っていけたらと考えております。

ここまで2023年2月16日に開催された「GLOBALIZED インバウンド 2.0|訪日DXで進化する日本の未来」の日本空港ビルデング様のカンファレンス講演レポートをお届けしました。

講演後に、グロースマーケティングメディア編集部が単独インタビューさせていただき、さらに詳しくデジタルリテール戦略の深掘りや、EC運用体制、OMOを意識したアプリリリースについてお話いただいております。

後日、その様子もレポートにてお届けします。お楽しみに。

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