2022年7月12日(火)に東京ポートシティ竹芝ポートホールにて、カスタマーエンゲージメントの最先端を体験するFORGE Japan 2022がBraze社主催で開催されました。同イベントは、マーケターやエンジニアが次世代CRMを活用しながら顧客体験を高めLTV向上を実現する顧客中心の思考・戦略・方法を学ぶことができるイベントで、オープニングセッション直後におこなわれたメルカリUS事例セッションを取材しましたのでその模様をお伝えします。
メルカリUSでは4年前からBrazeを導入しており、これまでのCRMの変遷や現在実施されている施策について、アメリカからメルカリUS CRM テクニカル ディレクター 現王園 浩士氏がリモート出演されました。メルカリUSがどのようにBrazeを活用して、チャネルを横断したパーソナライゼーションを実現したのかをレポートします。
【メルカリUS】ユーザの行動理解から始まる顧客エンゲージメント
メルカリUSにおけるCRMのミッション
メルカリUS 現王園氏|
メルカリは「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」をミッションに、創業翌年から海外展開を推し進めてきました。現地の趣向やマーケットの特徴に合わせたブランディング、UI/UXの改良などに取り組んでいます。
2014年にアメリカに進出して以降、2018年にリブランド&アプリのリニューアルと大きなイベントがありました。2020年には月間GMV100ミリオンドルというマイルストーンを達成しました。2021年には、4Qで初となる営業黒字の達成に成功しました。直近のMAUは566万人、売上は100ミリオンドルの規模にまで成長しています。私が入社した2017年と比較すると、売上は10倍以上増加しています。
メルカリUS 現王園氏|
CRMのミッションとしては、お客様1人1人に合わせて、最適なタイミングで最適なメッセージを届け、カスタマーエンゲージメントを最大化することだと考えています。新規のお客様、離脱しているお客様、ヘビーに利用していただいているお客様など、1人1人異なるお客様に対してどのように最適なタイミングで、最適なメッセージを届けるか、どうやってカスタマーエンゲージメントを最大化するかがCRMのミッションとなっています。
Braze導入前の課題とKPI
メルカリUS 現王園氏|
Braze導入前には、CRMのメッセージは自社システムから送っており、基本的には全てのお客様に同じ内容のメッセージを送っていました。Push通知やメールのA/Bテスト1つ行うのもエンジニアのリリースが必要で工数と時間がかかっていました。CRMのトラッキングも完全ではなく、誰に何をどれくらい送っているのか、パフォーマンスはどうなっているのかなどのシンプルな分析にも時間がかかっており、次の施策も不明瞭でした。
メルカリUS 現王園氏|
そこで、4年前に全てのチャネルを統合したCRMの実現を目指してBrazeの導入に至りました。Braze導入時には3つの目標を掲げていました。
1つ目は「データの一元化」です。全てのコミュニケーションをBrazeに統一化することによって、送信開封などの全てのデータをBQ(BigQuery)に蓄積して自社データと繋げることによってより深いデータ分析を目指していました。
2つ目は「セグメンテーション」です。以前は全てのお客様に対して同一のメッセージを送信していましたので、お客様の重要なライフサイクルやアクションで適切なコミュニケーションを取れるような環境の構築を目指していました。
3つ目は「実装&テストの高速化」です。1つ1つリリースに時間がかかっていましたが、お客様のステージを次に進めるためのプログラムを実装し、改善し続ける基盤を作ることを目指していました。
メルカリUS 現王園氏|
目標を達成するためにはまず、お客様の重要なイベントなどを追っていく必要があります。こちらの画像は「買う」カスタマージャーニーを表しています。新規から検索、商品閲覧、ライク、カートに入れる、購入、買った際にキャンセルをする方もおられるので、キャンセルした際に、どうすれば帰ってきてもらえるか、買った方はどうすれば再度購入してくれるか、このように簡単なカスタマージャーニーを作成して、お客様の重要なライフサイクルやアクションをカスタマーイベント、カスタマーアトリビュートとしてBrazeに送っていきました。
メルカリUS 現王園氏|
そして、重要なアクションをトリガーにキャンペーンをテストしていきました。重要なアクションを洗い出し、それに対してキャンペーンを追加していきます。例えば、オンボーディングにいるお客様に対しては商品閲覧などのよりパネルの高いイベントを使って、その商品の価格が下がったら通知を送る。そうすることで、ライクなど次のアクションを促すことができます。一度アクティベーションしたお客様に対しては、次のステージである購入に繋げるために「カートに入れた」というイベントをBrazeに送って、カートに入れたらリマインダーを送って、購入を促す。購買をしたお客様に対しては、次の購買を促すために購入商品に基づいたレコメンドを紹介といった流れで、重要なアクションをBrazeに送って、そのアクションを元にしたトリガーにしたキャンペーンをテストして行い、お客様を次のステージに進めるようなキャンペーンを作ってきました。
メルカリUS 現王園氏|
元々はパーソナライズされていないCRMだったものから、属性を送ることによって、属性や行動に基づいたイベントベースなCRMを実現しました。現在はよりパーソナライズされたレコメンデーションや、離脱予測、またマシーンラーニングのチームとも連携して、よりインフォベースなCRM実現を目指しています。
全てのチャネルをBrazeに統合
メルカリUS 現王園氏|
現在では、Push通知やメールの他にアプリ内のモーダルなどもBrazeに統合して、ほぼ全てのコミュニケーションをBrazeで行えるような環境を構築しています。また、クーポン配布などのエンゲージメント施策に必要なAPIのサービス自体も、BrazeのWebhookを用いて行えるようにしています。
メルカリUS 現王園氏|
我々はアプリがメインのサービスですので、Push Notification(Push通知)が一つの重要なチャネルになっています。左上から、インストール直後の新規のお客様に送っているオンボーディングのメッセージです。メルカリがどういったサービスなのかを伝えるためのものです。次が、新規出品をトリガーとする、初めて出品したお客様に対して送っている「お送り方ガイド」の通知です。3つ目がカートに入れた商品のリマインダーを送っている、カートドロップのメッセージです。カートに入れてx時間後に、商品のリマインダーを送って購買を促しています。最後が購買完了時のトランザクションのメッセージです。
オンボーディングからトランザクションまで全てBrazeで実現しています。右側はWeb Pushです。直近では、Webのグロースにも注力しており、まずはトランザクションからWeb Pushの導入を進めています。
メルカリUS 現王園氏|
メールもPush通知同様カスタマージャーニーにおける主要なイベントで送っています。メール自体はPush通知に比べてHTMLの作成に工数がかかるという課題がありました。その作成をスピーディーに行うためにBrazeにある機能を活用して工夫しています。これまではキャンペーン毎に都度メールを作成していました。HTMLエンジニアの方に作ってもらっていたため、工数がかかる上、ヘッダーやフッターなどの共通部分の変更が必要になった際に、メンテナンスがかかってしまっていました。
そこからBrazeのContent Block機能を使って、そういった共通部分をブロック化して、マーケターはレゴブロックのように組み合わせて使って必要なパーツを持ってくる、また画像などのようなメール毎にダイナミックにすべきところは変数で設定できるようにしました。そうすることでメールのデザインを統一化し、工数を大幅に削減できました。
メルカリUS 現王園氏|
次はモーダルについてです。モーダルはアプリを使っているお客様にリーチするには非常に有効なチャネルである一方で、ユーザビリティを低下させる可能性もあるので、特に重要なものだけを届けるようにしています。左はプロモーションの認知をあげるためのモーダルです。真ん中はスライドアップモーダルです。認知度は低いものの、ユーザビリティを下げずに伝えたいメッセージを、伝えたい場所で伝えることができます。
右側が、Web Pushの許諾を求めるモーダルです。BrazeではPush通知の許諾機能はデフォルトで簡単に使えるようになっており、ネイティブの許諾モーダルを出す前にBrazeからモーダルを出して、なぜWeb Pushの許諾が欲しいのかを伝え、許可をした人に対してだけネイティブのモーダルを出してWeb Pushの通知の許可を求めるという形で活用しています。もちろんアプリでも使えますし、今後Androidも許諾必須になりますのでそちらでも活用しています。
メルカリUS 現王園氏|
次がContent Cardsについてです。Push通知やメールを実装した後にCRMとして全てのコミュニケーションを統一化するためにContent Cardsを活用して、お知らせのページもBrazeで実装しています。これまではPush通知やメールはCRMでBrazeから送っていましたが、お知らせの中身自体はメルカリのサーバーサイドから直接送っていたため、統一が取れていませんでした。そこをBrazeから送れる仕組みを作ることで、全てのコミュニケーションを統一化することができました。最初はアプリからContent Cardsを使って実装をしましたが、今ではWebのお知らせページもContent Cardsを使って実装しています。アプリを実際に開いているお客様に対してユーザビリティを下げずにメッセージを届けられるので、非常に強力で通知のビュー自体も非常に高いので強力なチャネルになっています。また、特に伝えたいプロモーションなどのお知らせは、ピンドという機能を使って簡単に1番上に固定することができます。
メルカリUS 現王園氏|
次はWebhookです。直接的なコミュニケーションチャネルではありませんが、エンゲージメント施策、グロース施策などに必要なAPIのサービスをBrazeから行えるようにしています。例えば、以前はAPI側から行っていたクーポンを配信するといったAPIのサービスをBrazeから行えるようにしました。そうすることで、まだ出品したことのないお客様をBraze側のキャンペーンのオーディエンスに設定して、初めて出品したというイベントを作成し、クーポンを配布することで、初めて出品を行った際にクーポンを配ることができます。これを組み合わせることですぐにテストできるようになっています。
メルカリUS 現王園氏|
パーソナライゼーションを進める上で特に活用しているのが、Connected ContentとLiquid Logicです。Connected ContentはAPI経由でアクセス可能なあらゆる情報をリアルタイムで取得し、メッセージに挿入することができます。右の具体例では、レコメンデーションメールのサンプルになりますが、レコメンデーションエンドポイントとのメルカリAPIを作ってConected Contentでアクセスできるように実装します。そうすることでBraze側からユーザーIDをエンドポイントでリクエストを送ると、レコメンデーションが返ってきてメールに挿入できます。API経由であらゆる情報をリアルタイムに取得できるのがConected Contentです。
Liquid Logicはテンプレート言語で、if, elseなど様々なロジックを変数に加えることができるので、返ってきた情報に挿入したりできます。
メルカリUS 現王園氏|
カートのリマインダーメールの作成例です。カートに入れるというイベントをBrazeに送ってトリガーに設定し、x時間後にメッセージを送信するということができます。ただし、全員に送りたいわけではなく、既に商品が売れている場合には送りたくありませんので、そういった条件がある場合に活用できるのがConected Content、Liquid Logicになります。Conected ContentでアイテムのIDを投げて、その商品の状態をリアルタイムで取得します。そしてLiquid Logicを使って条件に当てはまる場合にだけ送信するようにします。
アクティブセラー向けのプロモーション活用でROAS184%を達成
メルカリUS 現王園氏|
アクティブにメルカリを使っていただいているユーザーに向けた出品マイルストーンのキャンペーンプロモーション例です。目的としては、期間内の出品数を増やしたい、そうすることで、出品側の供給を増やして、クーポンによって需要を伸ばして、供給と需要を伸ばすことがゴールとなっています。
出品数のマイルストーンを3段階に分け、その達成度に応じたクーポンを配布します。結果としては売上が8.5%増加、ROAS184%を達成しました。しかし、初めからこのような結果が出ていたわけではなく、このプロモーション自体何度も繰り返し行い、出品数のマイルストーンってどれくらいが最適なのかのテストを繰り返してようやく今の形に辿り着きました。
メルカリUS 現王園氏|
そのためにはスピード感を持ってセグメント毎にテストして、検証していく必要がありました。このプロモーションを実現するのに1回のテストに時間がかかっていたら改善し続けることが難しくなるため、Brazeだけで実現できる仕組みを作っています。
まずBrazeで検証したいセグメンテーションを作成できるようにしています。A/Bテストのコントロールとテストグループの振り分けもBrazeのWebhookを使っています。テストグループに関してコミュニケーションファネルをフルに活用して、プロモーションからやっていくことの認知をあげます。そこからプロモーション期間中の効果を最大化するためにリマインダーを送る、リマインダーは期間内の出品数をリアルタイムに集計して、あと何品出品すれば次のマイルストーンを達成できるのかなど、よりパーソナライゼーションされた効果的なリマインダーを送っています。プロモーション終了後に出品数の達成度に応じてクーポンの配信もBrazeから実施しています。
メルカリUS 現王園氏|
Webhookによる対象オーディエンスの振り分けです。振り分ける対象となるオーディエンスは、お客様のイベントや重要なライフサイクルなどをBrazeに送ることで作成します。作成した、テストしたいオーディエンスに対してCustom Attributeを追加します。Braze Rest Apiを叩くWebhookのキャンペーンをBraze上で作成して、テストグループのみに特定のCustom Attributeを設定することができます。テストグループが誰なのかBraze上で追加されるので、それを基にセグメントを作ることでその後のキャンペーン時などにもメッセージを送ることができます。
テストグループではセグメンテーションを作れば、そのセグメントに向けて全てのチャネルを使ってメッセージを送ります。
メルカリUS 現王園氏|
リマインダーのために期間内の出品数をリアルタイムで取得、通知してプロモーションの効果最大化に取り組んでいます。そこで取得した出品数をメッセージに挿入することで、次のステージへと促進するリマインダーを送ることができます。
メルカリUS 現王園氏|
Connected Contentで取得した期間内の出品数でマイルストーンの達成者をセグメントで作成し、それぞれのマイルストーンの達成者にクーポンを配布します。対象オーディエンスのA/Bテストの振り分けから、全ての必要なコミュニケーション、期間内の出品数の取得、クーポンの配布など、このプロモーションに必要な全てをBrazeで完結することによって、このようなキャンペーンを思いついた時にすぐ実行できる仕組みになっています。
メルカリUS セッションまとめ
メルカリUS 現王園氏|
Brazeを導入する4年前までは、A/Bテストに時間と工数がかかっており、分析もままならない状態でした。Brazeで全てのチャネルを一元化したことで、異なるチャネルを組み合わせてリーチの最大化すると共に、ユースケース毎に最適なチャネル、コミュニケーションを行えるようになったことで、お客様の重要なライフサイクルやアクションに対して適切なコミュニケーションが行えるようになりました。
また、A/Bテストをマーケターだけで行う基盤を構築したことで、施策の数が増えスピーディーに効果検証などが行えるようになりました。さらに全てのデータがBQに保存されるため、様々な角度での分析が可能となり、打ち手の精度向上にもつながりました。
今後もCRMのミッションである、「お客様1人1人に、最適なタイミングで最適なメッセージを届け、エンゲージメントを最大化すること」を達成するために、今後もテストを繰り返し改善を行っていきたいです。
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メルカリUS セッションレポートをお届けしました。
時間をかけてお取り組みされた大変貴重なノウハウを、具体的にとても丁寧に解説されていたのが大変印象的でした。これから統合されたCRM環境を構築したい企業のご担当者皆様、ぜひ参考にされてみてはいかがでしょうか。
関連リンク
【FORGE Japan 2022|日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社事例】
【Braze|メルカリのグローバル展開にBrazeが貢献】
https://www.braze.co.jp/customers/mercari
【Braze | FORGE Japan 2022 On Demand】
https://www.braze.co.jp/resources/webinars-and-events/forge-japan-2022-on-demand