この記事は、2023年8月3日に開催した「BOOKOFFに学ぶアプリ会員600万達成までの軌跡」のウェビナーレポートです。
BOOKOFFがアプリ会員数を大幅に伸ばした事例とは?
DearOne 安田|
本ウェビナーは、「BOOKOFFに学ぶアプリ会員600万達成までの軌跡」と銘打って、ブックオフコーポレーション株式会社の長尾様をゲストにお招きし、アプリ会員数を大幅に伸ばしたブックオフ様の事例をお話しいただきながら、会員増加の方法について学んでいきます。
アプリをリリースしたが、思うように会員数が伸びないという悩みをお持ちの方に有益な情報をお届けできるよう進めてまいりますので、ぜひ最後までお付き合いください。
登壇者紹介
DearOne 安田|
私、本日の司会を務めます、DearOneでマーケティングを担当する安田一優と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
本セッションでお話を聞かせていただくのは、ブックオフコーポレーション株式会社、人財育成推進部の長尾光洋様です。よろしくお願いします。
ブックオフ 長尾氏|
ブックオフコーポレーションの長尾と申します。私はブックオフコーポレーションに入社してから28年間勤めているのですが、そのほとんどを店舗勤務で過ごしております。
アプリを担当して5年になります。店舗勤務で培ったノウハウが、デジタルシフトしていくときにどのように使えるのか、少しでも自分の経験が皆さんの参考になればと思いますのでぜひ今日はよろしくお願いいたします。
DearOne 安田|
弊社について簡単にご紹介させていただきますと、NTTドコモのグループ会社で、主に企業のアプリのリリース、グロースマーケティングのご支援をしている会社です。スライドにロゴを掲載させていただいたような企業様のご支援をいたしております。
扱っているサービスは、一つは伴走型のアプリ開発サービス「ModuleApps2.0」で、さまざまな機能を元々標準的な部品として備えており、これを組み合わせることで早く安くアプリが作れ、さらにそこにカスタマイズを加えることができるようなサービスとなっております。
そしてアプリを作るだけでなく、作った後も伴走して「どうすればアプリのユーザーが増えていくか」を一緒に考えていくところまでがセットになったサービスです。
そしてもう一つ、行動分析ツールの「Amplitude」というサービスも扱っております。こちらはアプリ/Web上のユーザーの行動を可視化することができるツールで、通常はデータ分析官がやるような非常に高度な分析を、誰でもWeb上のGUI操作だけで簡単に行えるものです。
そのような分析結果から、マーケティング施策のスピードを上げていくことができるツールを扱っている会社ですので、ぜひよろしくお願いいたします。
アプリ運用についての会場内アンケート
DearOne 安田|
本編に入る前に、ご視聴の皆様に現在の状況をお伺いしたいと思っております。Zoomの投票機能を使って皆さんの意見を聞いていきたいのですが、質問の1つ目は「自社アプリを運用されていますか?」というものです。
本ウェビナーは「アプリのダウンロードをどうやって増やすか」が中心の内容となりますので、アプリを運営されている方には非常に興味深いテーマかなと考えており、一旦聞かせていただきます。
参加されている方の半数以上が、既にアプリを運営されているようです。
ブックオフ 長尾氏|
そうですね。私が話す内容が皆様にとってプラスになるのか、ますますハードルが上がったような気がして緊張しております。
DearOne 安田|
まだ自社アプリがない方も、おそらく「これからに向けて何か情報を得たい」ということで聞いていただけているかと思います。
2つ目の質問は、そのアプリをお持ちの方に対する質問になりますが、「自社アプリの一番の課題は何ですか?」というものです。
やはりアプリはさまざまな目的で作られているので、例えば「ダウンロード数が伸びない」、「継続利用されない」、「コンバージョンが増えない」など、どのような部分に課題感を持って本ウェビナーを聞きに来ていただいてるのかを知りたいと思っています。
ちなみにブックオフ様は今、どのような課題をお持ちでしょうか?
ブックオフ 長尾氏|
今回「600万会員」というタイトルをつけていただいたように、ある程度の会員規模は獲得できたとは思っています。ただ、ダウンロード数はまだまだ伸ばしたいという思いもあり、またこの600万人を超えた今だからこそ、今後はコンバージョンをもっと増やしていこうという、その2点が目下の課題になります。
DearOne 安田|
視聴者の皆様の結果は「ダウンロード数が伸びない」、「継続利用されない」などが結構多いですね。
この辺りはやはりアプリを始められた方の一番最初に突き当たる壁なのかもしれないなと思っています。
今回は、長尾さんから特にダウンロード周りのお話を中心に聞かせていただく予定ですので、非常に皆様の役に立つ情報提供ができるのではないかと考えています。
本日のアジェンダは以下の通りです。
・アプリマーケティングの進め方
・BOOKOFFアプリ会員600万達成までの軌跡
アプリマーケティングの進め方
DearOne 安田|
まず私の方から、アプリマーケティングの進め方について簡単にお話をしてから、ブックオフ様のお話に入っていけたらと思います。
まず、既にアプリを使われてる皆様は重々ご承知かと思いますが、弊社からクライアント様にまずお伝えしておりますのは、「アプリはロイヤルカスタマー向けの販促ツール」ということです。
新規のお客様、例えば今回でいうと店舗に来たことがないお客様などに向けたツールというよりは、既に会員になっているお客様やお店に来たことのあるお客様などに対して販促するツールという位置付けです。
実際に弊社のクライアント様でも、アプリ会員は非会員に比べ、購入単価が3倍も高いという実績も出ており、アプリを使ってロイヤルカスタマーを作っていくというイメージがふさわしいと思います。
スライドは、様々なマーケティングツールによる施策の位置づけをマッピングしたものです。
縦軸に「デジタル」と「リアル」、横軸に「新規獲得」と「既存の育成」を置いた場合、今申し上げた通りアプリは「既存の育成」領域にあります。
特にこの中でも特徴的なのは、この「デジタル」と「リアル」の中心にアプリを置けるということです。
例えばデジタル系だとLINEやメルマガといった施策を打たれている方は非常に多いと思いますし、リアルでいうとDMや会員カードによる施策を打たれているかと思います。
アプリはプッシュ通知などデジタルのメッセージを届けることができ、それを見た顧客がスマートフォンをお店に持ってきてくれるので、リアル店舗の中でも接客販促ができるという意味で「デジタル」と「リアル」をつないでいくことに使えるということが、非常に特徴的なツールだといえます。
このアプリマーケティングですが、今かなり流れが変わってきております。一昔前は「アプリをまず作りましょう」ということがメインで、「ベンダーはどこを選べばいいだろう?」、「開発はどうやって進めればいいか?」、「審査がなかなか通らないが、どのように通せばいいだろう?」といったことに、各企業様の中でもかなり主眼が置かれていました。
それが今ではもうそのフェーズは抜けつつあり、スライド右側の「育てる」というフェーズに進んできていると思います。
つまり先ほど申し上げた通り、アプリを使ってロイヤルカスタマーを育成するというプロセスの中で「プッシュ通知ではどんな内容をどれくらい送ったらいいか?」、「クーポンはどういうものを出したらお客様に喜んでいただけるだろうか?」、「元々ある機能をどのように改善していこうか?」といった点に主眼に置き、アプリの運営に注力される企業様が増えてきたというのが最近の状況です。
こうした中で弊社は、アプリマーケティングの進め方を「ダウンロード」、「リテンション」、「コンバージョン」の3ステップでご紹介しています。
アプリをリリースしても、まずダウンロードをしてもらえないと、プッシュ通知を送ってもクーポン出しても、誰にも見てもらえませんので、まず「ダウンロード」を増やすというのが一つ目のポイントになります。
またダウンロードしてアプリを使う方が増えてきても、1回しかアプリが起動されなかったり、インストールしただけで起動してもらえないと意味がないので「リテンション」すなわち継続利用ということで、いかにインストール後にアプリをしっかり継続して使って/見ていただけるかというのが二つ目のポイントです。
そして最後に、先ほど長尾さんもお話されていましたが「コンバージョン」ということで、店舗アプリなら店舗に来ていただいたり、EC系アプリなら購入がアプリから生み出される件数をどれだけ増やしていけるかという、以上3つのポイントの中で、ご自身のアプリが今どのフェーズに課題があるかも含め、確認しながら進めていただくといいかと思っております。
今回は「600万会員までの道」ということで、「ダウンロード」の部分を中心にお話しいただくわけですが、一般にダウンロードの促進施策といいますと、以下の3パターンを中心に取り組まれている会社様が多いかと思います。
1つ目は「店頭訴求」で、レジでの声かけや店頭POP、もしくはチラシといったものになります。
2つ目は「インナーキャンペーン」で、これは店舗スタッフの皆様に、ダウンロード数に応じてインセンティブを支給する、具体的には店舗別もしくは人別でどれくらいアプリのダウンロードを獲得したのかを調べて、リワードを与えるやり方です。
そして3つ目が「ユーザー特典」で、「アプリをダウンロードすると何ポイントもらえます」や「初回何円引き」といったクーポン割引を差し上げて、アプリを使っていただく施策です。
以上のようなパターンに則り施策を考えるわけですが、その中でも一番有効なのはやはり「店頭訴求」だという認識です。
スライドは、実際に弊社のあるクライアント様に「ユーザーがどこでアプリをインストールしたか」を調べていただいた結果です。
実はレジ前が86%という結果で、圧倒的にレジ前、つまり店内でアプリをインストールするという行動が起こっていることがわかります。
これを踏まえると、アプリ担当者と店舗スタッフの連携によってどれだけきちんとアプリを店舗で訴求してもらえるかが非常に重要だと考えていて、まさにこの二者の連携がダウンロード促進の秘訣であるといえます。
BOOKOFFアプリ会員600万達成までの軌跡
ブックオフ公式アプリとは?
DearOne 安田|
いよいよ長尾様からブックオフ様のアプリダウンロード数を増やした施策についてお話しいただきたいと思います。
まず、ブックオフ公式アプリに力を入れるようになった背景について教えていただけますでしょうか?
ブックオフ 長尾氏|
会員数600万を達成したブックオフ公式アプリについてお話しさせていただきます。
まずスライドは「サービスコンセプト」と申しまして、ブックオフ25周年のときに掲げた「これからのブックオフはどこへ向かうのか?」というコンセプトです。
「生涯を通じて利用していただける最も身近なリユースショップになりたい」と体系立て、スライドにイラストを配して皆が理解できるようにまとめたものです。
弊社の店舗は、小さなお子様から土日は家族連れ、平日の夕方頃にはお年寄りの方が文庫を選んでいるといった、各世代に対しリユースの入口になっているという自信が、本部社員にも店舗のスタッフにもありました。
ただ「それをもっと強く長く続けていくにはどうしたらいいだろう?」、「お客様側から見て『生涯を通じてご利用いただける』とはどういうことだろう?」という問題意識を持ったことがスタートでした。
そのとき、最適なツールとして利用できるのはアプリだろうということで始まったのですが、タイトルにもある通り、お陰様で2023年1月28日に600万会員を達成することができました。これはスタートしてから約4年半というタイムスパンになります。
その際「ありがとう!」ということで制作したのがスライドにある弊社公式キャラクターのグッズです。
この600万会員という実績を一体誰が作ったかというと、全国のスタッフによる1レジ、1レジでの声かけであると考えています。
そこで弊社社長の堀内が「直営店・加盟店の全スタッフ分作ってお店で配布し、全メンバーで同じものを持とう」という提言の元、制作されました。真ん中のキャラクターは「よむよむ君」という名前で150万会員突破のとき、右側は妹の「うるうるちゃん」といって450万会員達成のときに、そして左側は兄の「かうかう君」で600万会員達成のときにそれぞれグッズを制作しました。
なぜ、アプリに力を入れるようになったのか?
ブックオフ 長尾氏|
では、なぜアプリも作ろうと思ったのか。そのきっかけは5年ほど前、当時のブックオフに関するある市場調査の結果が出たことです。
まず「ブックオフはとても利用者が多い」。先ほどのコンセプトにもあった通り、最も多くの人に知られているリユースチェーンで「デイリーユース経験の入口」で「老若男女問わず利用されている」といったとても耳に心地の良い調査結果が出ました。
ユニークユーザー数、利用者数が多いという結果に関しては調査結果だけではなくスタッフも肌感覚で感じていることでした。
改めて調査結果としても確認できたので「よしよし、やっぱりそうなんだ」と思っていたら、次の情報にとてもびっくりしました。
ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)という点ではどうなのかについては、事実として「使わなくなってしまった人が最も多い」という調査結果が出たのです。
自社でもアンケートを取ると「久しぶりに使った」、「学生時代に使っていたが、今は使っていない」といった声が多くなっていました。
お客様1人当たりの利用金額に関しては、本を中心に販売していますので、何となく「そうだろうな」という感覚はあったのですが、正直、今目の前にいる小学生のお客様が、生活環境が変わるたびにブックオフから卒業してしまっているということは、事実としてはあまり実感していませんでした。
そこで、生涯を通じて利用してもらうことが最重要課題であると策定し直し、実際にどうするのが良いのか調べたときに、2017年からのレジ通過客数の推移がスライドのように出ました。
日本では2020年の1月に、コロナの国内初感染者が出て、それからガクッと下がるのですが、5年前と比較しても1200万人もレジ通過客数が減っているとわかりました。
一方で、ここで強い危機感を覚えきれなかったのは、売上金額を見ると何と65億円も上がっていたからです。
蓋を開けてみるとその要因は、本のみではなくさまざまなリユース商材の取り扱いを広げていったことで、客単価つまりお客様1人当たりにお買い物していただける金額が増えていただけのことでした。
売り上げが上がって利益も出ていましたので「何か問題があるのか?」とやはり危機感は薄かったわけです。ただ、その一方で利用者自体は、相変わらずどんどん卒業されてしまっていました。
ですから、当時の社員がまず考えたのは「正しい危機感を持とう」ということでした。
この数字が出てから「どうしたらレジ通過客数が伸びるんだろう?」という意識が徐々に醸成されていきました。
その甲斐もあり、アプリが600万を超えた後にわかった数値ですが、実は客数前年比は、3年連続でずっと伸び続けていました。
その後、チェーンとしては12ヶ月連続で昨年対比のレジ通過客数を超えていったので「確実に取り戻しつつある」ということで、やはりアプリなどを通じてつながりの深いお客様が増えると、こういう結果になるのかというのが今の実感です。
どうしてこうなるかというと、先ほど「継続利用」という言葉がアンケートで出ていましたが、私達も継続利用していただくための施策を、以前は何もやっていなかったかというとそうではありません。
実はブックオフ会員カードという、皆様もご存知の方がいたら嬉しいのですが、紙の会員カードを長年お客様に発行していました。
スライドはそのリピート率で、この表の中の薄いブルーの棒グラフの部分です。
対して濃いブルーがアプリのリピート率なのですが、ある月を基準に取って翌月のリピート率から見ると初速から違いました。
紙の会員カードの新規会員の方は、翌月に14%の人が戻ってきていたのに対し、アプリでは29%と倍の数字が出ていました。
ただ、その14%と29%という差以上に、紙のカードはその後ほとんど跳ね上がらず、ずっと下がっていって1年後には9%になっていたことが大きかったです。
もちろん、アプリ会員であっても休眠される方はいるのですが、9ヶ月後などを見ていただくとぽんと跳ね上がっています。
このように翌月の29%から、さらに大きく跳ね上がる動きですが、私が入社した頃は、紙の会員カードでも確実にリピートされていました。
それが時代の変化とともに変わっていった。その当時、創業者から「どうして会員カードを持ってもらうのか?長尾、毎日お前が使う生活道具は何だ?」と聞かれてなかなか答えられなかったのですが、「毎日昼飯を食うとき財布を開けるだろう?そのときにブックオフのロゴマーク入りのカードが入っていると、うちのことを思い出していただけるから、会員カードを配っているんだよ」と言われたことが非常に印象的で、30年前の出来事として今も覚えています。
しかし、生活環境が変わった今どうなったかというと、お客様はお財布を持ってブックオフやコンビニに来ていないんですよね。
お財布より1日に使う時間/回数が圧倒的に多い道具である、スマートフォンの中にブックオフのロゴを入れていただくことが今は重要なのです。
時代やライフスタイルの変化とともに道具が変わっていることに、弊社のチェーンはなかなか気づけませんでした。
「これは紙の会員カードから、アプリに切り替える必要があるのではないか?」と考え、実際にやってみたらこの通り、大きなリピート率の差が出たということなのです。
ですから今「ひとつのBOOKOFF」と銘打って、さまざまな取り組みを進めています。
店舗とネットがつながっている中でもお客様がお店にいない時間が現にある。
そのようなお客様の生活の中に、私たちのお店の入口を立て、そして店舗とネットがシームレスにつながって、私たちのお店/チェーンのサービスをお届けすることがミッションになるため、その道具がアプリであったということが、弊社がアプリを中心とした「ひとつのBOOKOFF」構想に入っていくきっかけとなりました。
以上がまず、ブックオフがなぜアプリというツールを導入するに至ったかというお話でした。
DearOne 安田|
調査結果で「使わなくなってしまった人が最も多い」と出たときは、だいぶショックを受けられたのではないですか?
ブックオフ 長尾氏|
はい、もちろんショックでしたので「本当かな?」と思いながら改めてアルバイトスタッフなどに状況を聞いてみました。
私も店舗勤務が長かったため、10〜15年勤めているスタッフに知り合いが沢山いて、「小さい頃、自分が客だったときから今でもずっと使っているよね?」と聞いてみたのです。
すると「小学生のときはたくさん使っていました」、「高校生のときは使わなかったですね」、「ブックオフに勤めてまた使うようになりました」と。
「どうして使わなくなったの?」と聞くと「だって学校から遠いんですよ」などと言われました。
確かに、自分のことに置き換えてみたら当たり前で、生活環境が変わり世の中が変わる中で、わざわざ学校や普段の生活が終わって、日常の行動範囲にない店に行くことはあまりないと気づきました。
「今目の前にいるお客様は、この後もずっと来てくれるだろう」というのは、確かに思い込みであると認めざるを得ませんでした。
DearOne 安田|
そこに対する「正しい危機感を持つ」という言葉が非常に印象的でした。そのことによって「やはりアプリをやろう」という話になったということでした。
アプリ会員を増やすための取り組み
DearOne 安田|
それではここから、アプリ会員を増やすための取り組みをされていくわけですが、この取り組みについて、どんなことをやられたか教えていただけますでしょうか?
ブックオフ 長尾氏|
実は、アルバイトスタッフを中心に、アプリがどのような意味を持つのか、どこがポイントなのかという説明だけでなく、スタッフの意見も聞くための説明会を行っています。
2022年度だけで年間34回、合計1,260人が参加しました。私がアプリ展開を担当するようになってから4年間、毎年、同規模の説明会を実施してきました。
このような説明会では、社内のスタッフに参加してもらい、その中でスタッフから使いにくいと感じる点や改善点を教えてもらうのですが、それを実際に改修すると「効果が出ている」という声も挙がったりしています。
このように、店舗スタッフの意見を積極的に取り入れており、今後の改善点を見つけ出すために、お客様と接するスタッフがアプリに関する質問や意見を自由に行える環境を大切にしており、毎年1,000人以上のメンバーと意見交換をする場を設けています。
説明会を実施してみると、実際には、アプリの入会に関してはミニチラシが大きな役割を果たしているという認識が強かったです。
「アプリはネットに慣れた人には魅力的かもしれないが、テレビCMの方がアプリの認知度を高めるのには効果的ではないか?」、「いや、やはりチラシが一番効果的だ」というのが当時のスタッフの本音のようでした。
「最近、ポイントや特典を最大限活用して生活する『ポイ活』なるものが流行っている」などと、世の中の情報にアンテナを張っているスタッフでも「うちの店は田舎で、おじいちゃんやおばあちゃんが多いため、アプリは関係ない」と思っている人が多かったくらいです。
ところが調べてみると、当時ミニチラシが実際に配られる頻度が低くなっていることがわかりました。
多くのお客様が複数のブックオフの店舗で10回レジを通る際に、3回しかチラシを手渡されていなかったため、この状況を変えなければならないと感じました。
まずはこのバラつきについて、各店のマネージャーがどのように感じているかを確認しました。
すると、「私たちも世の中が変わってきているから、ビジネスにおいてアプリが重要だと頭では理解しています」、「ただクーポンを利用してもらうのは良いが客単価が下がってしまうのではないか?」、「粗利にどんな影響がありますか?」、「チラシは実際にもう配っているんですよ?」とさまざまな声が挙がりました。
実は3割くらい、下手したら2割くらいしか配っていないお店もある中で、マネージャーはスタッフがもっときちんと配っていると思っていました。なぜならスタッフへの指示をしているからです。
ただ、同時に「チラシ以外の手段は何かないのですか?」、「1回1回お客様にミニチラシを配るより、何かイベントをやった方がいいんじゃないですか?」といった意見も出ました。
これは、もし私が店舗にいたら同じように思うだろうと感じ、そのようにいろいろ確認したい気持ちや不安は、やはりマネージャーが真っ先に持つものです。
一方スライドの通り、実際にレジでお客様対応をしているスタッフからの質問をみると、例えば「ご高齢の方にアプリを紹介すると、聞いてもらった後に『よくわからない』と断られてしまう」とありました。
このほか「これはアプリの入会のハードルが高いのではないか?」、「メールアドレスを取る必要はないのではないか?」、「もっと簡単にできる機能は作れないか?」などなど、手前味噌ですがブックオフで一緒にチェーンサービスを作ってもらっているスタッフには真面目な方が多いなと感じました。
その後、ある店舗スタッフリーダーが「1回のアクションでは、常連のおばあちゃんに『よくわからない』と断られてしまった。だが、毎回毎回同じおばあちゃんにミニチラシを配っていたら、あるときガラケーをスマホに切り替えたのか『アプリを入れてくれない?』とスマホを握りしめてお店に来ていただけた」と報告してくれたのです。
「今ではそのおばあちゃんにクーポンを使っていただけるようになりましたよ」と報告をいただき、「1年かかったけど、会員が増えました」と10年働いているスタッフからの意見が出たんですね。
こういったことは、本来マネージャーもスタッフも「本当にミニチラシを配り続けて意味があるのか」と不安になって、オペレーションの濃度が薄くなってしまうことがあります。
「この不安こそ解消しなければいけない」というのが、弊社がまず第1段階で気づいて取り組んだことです。
そこで少しアプローチを変えたのが、マネージメントのテクニックでブックオフが重要視している「時計合わせ」情報展開の実践です。
まず、皆様に少し視点を変えて考えていただきたいのですが、今、皆さんの時計は何時何分ですか?仮に、皆さんが自分の時計が11時半を指しているときに、Aさんが「11時45分だ」といったとします。この状況で何が起こるでしょうか?
多くの場合、普段から使っている時計の時間を信じて、「Aさん、時計がズレているよ」と思うのが普通だと、創業者からいわれたものです。
最初に時計の話が出てきたとき、何のことだろうと思った方もいるかもしれません。これは普通の反応です。
しかしその後、別のBさんが現れ、また「11時45分だ」と言われたとき、2人の人から「自分の時計は11時45分だよ」と言われ自分一人だけが11時半だと、「あれ、私がズレているのかな」と感じるのが人間の心理だと教わり、なるほどと思いました。
この「時計合わせの時刻」というのは価値観や情報のことで、そして、この価値観や情報はビジネスにおいて常に変化/進化していくものです。
皆様自身がAさんだと仮定してください。例えば、アプリの説明会に参加した店長の立場だとします。あなたは「アプリは非常に優れているため、是非導入しよう」と提案します。
Aさんと他のスタッフの間では、新しいアプリの情報が継続的に提供されていました。Aさん自身は新しいものを受け入れようとしていても、なかなか進展がなかったのはBさんが不在だったからです。
例えば、説明会で「本部を代表し長尾さんという責任者が、『アプリを導入するのが重要だ』と店長がスタッフの皆さんに通常言っていることと同じことを言っています」、「このツールを使うことの重要性を強調しています」と言えば、これがBさんと同じ効果になるわけです。
実際の説明会後の変化を紹介しましょう。7月7日にアプリの説明会を行った後、各店舗のデータを収集してお気に入り登録数を調べました。
その月に新たに入会登録した人の数を示すと、6月の単月と7月7日から27日までの3週間で、全店舗を対象に調査した結果は107%で、前月よりも多くのお客様が入会していました。
しかし、店舗ごとに見ると、214%、192%、183%といった数字もあれば、104%といった数字もあります。この違いは何が原因だったのでしょうか?
前述の説明会に、成績の良い店舗からは早番のスタッフ2名、遅番のスタッフ2名、そして店長を含む計5名が参加していました。そうでない店舗からは店長1名だけが参加して、その後スタッフに情報を展開していました。
以上のように、先ほどの「時計合わせ」のアプローチを使用するには、実は店長だけでなくスタッフも参加すること、つまり一斉にスタッフ皆を集めて伝えることが重要だったのです。
そして、このアプローチを成功させた店舗から、アプリを使用してつながるお客様が増加していき、入会者数を増やす一つのきっかけとなりました。
以上が、現在までの進捗状況です。
DearOne 安田|
「時計合わせ」の効果で、徐々に新しい価値が浸透していくことは、本当に重要ですよね。
ブックオフ 長尾氏|
はい。それについては私も店長時代、相当怒られていました。一人でエリアをぐるぐる回っていたら「お前はミツバチか?」と言われ、「ちゃんと子分がいれば『時計合わせ』が使えるから万事大丈夫なはずだ」、「お前の右腕は誰なんだ?」、「自分のお店で鍵を預けるとしたら誰なんだ?」ということは実際、先輩や創業者からよく聞かれていました。
DearOne 安田|
実際、店舗のスタッフからさまざまな意見が出され、それらの意見を取り入れてアプリを改善していったとのことでした。しかし、やはりケースによっては全ての意見に対応できず、優先順位をつけて行くことが必要な場面もあると思いますが、そうした場面ではどのような方針で取り組まれたのでしょうか?
ブックオフ 長尾氏|
結論としては、スタッフがオペレーションを行う際に最も困るものから着手します。しかし、どうしてもできないことは「ごめん、できない」とはっきり伝え、将来の開発スケジュールを示す際にも、「3年後にスタートできるかどうかだ」など、スタッフに対して正直な情報を伝えていました。
DearOne 安田|
なるほど。そこはやはりパートナーシップの一環で、スタッフには対等に正確な情報を提供するということですね。
ブックオフ 長尾氏|
そうですね。私自身も、どちらかと言えばスタッフ側に立つことが多かったと思います。
例えば、クーポン画面の一部の文字を変更し、クーポンの内容を表示するようにという要望があった場合、現場はすぐにできるだろうと考えますが、実際に開発の担当者に聞くと、その画面に表示されている情報は会員情報管理システムの更新が必要なため、何ヶ月、何百万円かかるという場合もあったりします。
こうした情報をスタッフに伝えると、「勉強になった」と面白がってくれました。
DearOne 安田|
はい、私たちもアプリ開発会社として、簡単そうな表示の変更を行うために、裏側では大きな開発や変更が必要となるケースも経験しています。
アプリ会員増加施策の取り組み結果・気づき
DearOne 安田|
では、アプリの会員数増加に取り組まれてきた結果や、気づかれたことなどを教えてください。
ブックオフ 長尾|
取り組みの結果について紹介します。まず5月末時点で644万人の会員数、スキャン率が36.3%という数字になっております。これはつまり、1ヶ月でお客様の3割を超える方がアプリでつながったということです。
「ひとつのBOOKOFF」と掲げ、まず会員数が600万を超えたことにより、様々なことが可能になりました。
特に販売の面で、継続利用が大きな可能性をもたらしてくれました。
例えば、アプリと同時に一つのサービスとして、店舗受け取りサービスを導入しました。
これは、ネットで販売している商品を最寄りのお店に取り寄せるサービスで、始める前はさほど需要があると思っていませんでしたが、実際に始めてみると月単位で5,500万円の注文数だったのが、1ヶ月で1.8億円、その後さらに単月で2億の注文をいただくまでに成長しました。
このサービスはカード会員や、あるいは非会員の方もネットから利用できるのですが、やはりスライドの濃いブルーの部分、アプリ会員のお客様の利用だけがぐんぐん伸びていることがわかります。
したがって、新しいサービスを導入する際にも、つながりを持つお客様が増えることで成果が出やすいということが示されました。これからも、ブックオフが展開するサービスは、アプリを中心に提供されると考えています。
ただ、この会員施策が進展する中で気づいたことの一つとして、すべてが順調というわけではないこともわかりました。
2021年度と2022年度を比較したデータからもわかるように、各加盟店や直営店の大きなチーム単位で見た場合、スキャン率と客数前年比にバラつきがあるのです。
横軸がスキャン率、縦軸が客数前年比です。前年度からのデータでは、右上に傾斜がついており、スキャン率が高いチームほどお客様が増加していることが示されています。
しかし、このバラつきつまりスキャン率が高いチームと低いチームの差が大きく、まだまだ改善の余地があることがわかりました。ですから次に取り組むべき課題として、このバラつきを減らすことが挙げられます。
チェーンとしては、これが600万人を超えた後の一つのスタートラインと位置づけつつ、今後はこの差を縮めていくことが重要だと考えています。
今後は、先ほど申し上げた通り「時計合わせ」を活用して、全体の平均数や単なる理論を超えた情報をチェーンに広げ、さらに実績を重ねていく予定です。
モデルケースとして、あるお店の数値をご覧いただきたいと思います。このお店はブックオフの昔ながらの店舗です。売り場の広さは80坪と、あまり大きくありません。駐車場台数も12台と、典型的なロードサイド型のお店で、特に最近リニューアルをしたわけでもありません。
実は、コロナ前の2019年からコロナを受けた2020年のデータを見ると、80坪の店舗で3年前と比べてなんと7,000人もレジ通過客数が増加していることがわかります。80坪の店舗で1ヶ月あたり600人以上もの増加がありました。
当然売り上げも増加し、利益も向上しています。さらに、このお店のスキャン率も非常に高く、1月には49.1%に達しています。
皆様もご存知の通り、1月は繁忙期でアプリでつながっているお客様にお正月クーポンを配布している時期でもあります。ですから、2人に1人がクーポン目当てのアプリ会員だったという背景もあったのですが、驚くべきことに6月のスキャン率も49.4%と、1月を超える高水準を維持していたのです。
この昔ながらのブックオフはセールもせず、商材の追加も行っていなかったにもかかわらず、地方でこのような数値を達成したことは注目に値します。
実はこのお店、前述のアプリを利用したいと希望するおばあちゃんが来て、リーダーがそのお手伝いをしたという、まさにそのお店です。
このエピソードから、アプリの効果だけでなく、店舗でのサービスレベルの高さの重要性が浮き彫りになりました。ホテルのような高級なサービスではなくとも、新人スタッフでも大切なのはお客様とのコミュニケーションです。
それは例えば、明らかに新人さんだろうなと思われる大学生のスタッフが、必ずミニチラシを渡して「アプリにぜひ入会してください」というトークの後、「アプリをお持ちのお客様にはこのような特典があります」とたどたどしく言うなどでも良いのです。
このお店では「ご利用いただけるクーポンはありますか?」と100%お客様に尋ねていました。
これがもし高級車の販売店なら、ホテル並みのサービスが必要かもしれないです。私たちの商売の形は、ホテル並みでなくても良いが、必ず新人さんも含めた全員が、会社として何が大切で、お店としてこれはやってほしいという内容が必ず伝わっている状況を作る。
これができているお店は2人に1人がアプリ会員のお客様で、商材追加がなくてもこれだけお客様が増えるという結果が出ています。
これがまさにアプリでつながりの強いお客様に、リテンションして新しいサービスも使っていただける理想的な形です。これを増やすことは、目指すべき店舗のサービスであるということの証拠なのではないかと考えています。
以上、アプリの結果についてでした。
DearOne 安田|
すごいですね。スキャン率、つまりレジを通過する際にアプリ会員証を提示する割合が、約50%に達するという数字は本当に驚異的です。
ブックオフ 長尾氏|
先ほどから素晴らしいリーダーを紹介していますが、「実は最初は正直、信用していませんでした」と元気に言われました。「地方都市で、アプリをそこまで使ってもらえるとは思っていませんでした」と。
「しかし、実際に試してみると積極的に入会してくれて、お客様が増えた」というスタッフの言葉は、社員にとってもチェーンにとっても活力になります。
DearOne 安田|
そのような店舗で、アプリがお客様同士のつながりを生み出すツールとして貢献していることは、長尾さんにとってもすごく嬉しかったのではないですか?
ブックオフ 長尾氏|
正直な話、私自身も4年半前に社長からアプリの担当を任されたとき、お互いに目を合わせて笑ってしまうほど、アプリの可能性には疑念がありました。
しかし、いざやってみたら私自身もハマって新しい扉が開いたと申しますか、実際に挑戦してみると新しい世界が広がり、現場で培った経験や考え方がデジタルにも適用できることを実感しました。
デジタルトランスフォーメーション(DX)では、理論で考えるよりも実際に行動する方が早いということを感じた瞬間でした。
BOOKOFFの今後の展開
DearOne 安田|
今後の展開について教えてください
ブックオフ 長尾氏|
先ほど、現在600万の会員がいて大きなスタートラインを作れたと申し上げました。
改めて店舗には「会員獲得を継続していこう」というメッセージを伝える一方、まず土台固めとしてアプリの改善をしようと大きく打ち出しています。
これは新しい機能といったことではなく、UIや使いやすさの部分を改修するということです。
現場からは「ここまで来たから、こんなこともやりたい」「あんなこともやりたい」と、かなり先走った新機能の要望もあります。
それは受け止めつつも、例えばクーポンがスムーズに見えるような改修や、途中で止まる不具合の改善など、もしかしたら現場ではなかなか気づけないかもしれない、お客様にとってより良い体験を提供するための改修からやっていきましょうと話しています。
アプリはそれ自体で売上や利益を向上させるというよりは、お客様とのつながりを強化し、お客様の背中を押すツールであることを強調しています。
そこを根っこに展開を進めるのであって、アプリ単体で利益を上げることを追求しすぎると、弊社の場合まだまだバランスを崩してしまう恐れがあります。
この先、アプリ会員数がさらに倍になった暁には、もちろんさまざまなチャンスがデジタルシフトの中に隠れているのでしょうが、今のブックオフはリアルのお店と連携し、お客様の背中を押すツールとしてのアプリへの理解の浸透をまだまだ進めていきたいというフェーズです。
次の目標は、2年後の2025年度に800万の会員を獲得し、アプリ会員がブックオフの利用者の半数以上を占めることです。
先ほどご紹介した「トップチーム」である店舗と同様、平均値でも2人に1人のアプリ会員、つまり「ブックオフを使う人は2人に1人はアプリでつながったお客様である」という状態を目指していきたいと思います。
スピーカー
ブックオフコーポレーション株式会社 人材育成推進部 長尾 光洋氏
店長、AM、統括AM、インストラクター、九州地区支店長として全国の店舗運営を担当、2014年、大手インターネットオークションサイトへの店頭在庫の出品運営構築、推進業務を担当。2017年、中京地区営業部長を担当したのち、2019年より本部にてチェーンのDXを浸透させるためチェーンサービス推進室を立ち上げ、ブックオフ公式アプリの展開を担当。
現在は人財育成推進部長としてチェーン施策の推進、ブックオフグループ従業員の人財育成、エンゲージメント向上施策業務を担う。
株式会社DearOne マーケティング部 ゼネラルマネージャー 安田 一優
中小企業診断士資格保有。
パソコン販売店店長、ITエンジニア、ITインフラSIerのマーケティングを経て、2020年よりDearOneへ参画。
DearOneではマーケティング、インサイドセールス、パートナーアライアンス等のマネージャーを担務。
マーケティング、インサイドセールス、セールスの連携体制を構築。