この記事は、2024年2月6日に開催した『データサイエンティストとは?~急成長企業『ココナラ』に学ぶ、データ分析の重要性と社内での活用術~』のウェビナーレポートです。
はじめに
DearOne 安田|
本日は「データサイエンティストとは?急成長企業ココナラに学ぶデータ分析の重要性と社内での活用術」と題して、株式会社ココナラ データサイエンスグループ マネージャー南遼太さんをゲストにお迎えして、データ活用における具体的な事例や社内の環境づくりなどを深掘りしてお伺いしています。私は本日の司会を務めるDearOneの安田一優と申します。それでは、早速南さんに登壇いただきます。よろしくお願いいたします。
ココナラ 南氏|
株式会社ココナラでデータサイエンスグループのマネージャーをしている南と申します。よろしくお願いいたします。
簡単に自己紹介させていただくと、新卒で入社したソーシャルゲームの会社でデータサイエンティストとしてのキャリアを開始して、その後データコンサルティングのベンチャー、そして、ココナラという経歴になっています。
ココナラには社員が20名程度の時に入社して、データサイエンス組織の立ち上げから経験しています。その後、ココナラはIPOも実現して、現在は200名程度の規模となっています。現在はデータドリブン経営が実施できるようにデータ環境の整備であったり、企業全体でデータ分析を基に意思決定が出来るようにサポートするといった業務に日々取り組んでいます。
ココナラの会社と事業内容も紹介させていただきます。
まずココナラのビジョンとミッションですが、「一人ひとりが『自分のストーリー』を生きていく世の中をつくる」というビジョンを掲げ、それを実現するために「個人の知識・スキル・経験を可視化し、必要とする全ての人に結び付け、個人をエンパワーメントするプラットフォームを提供する」というミッションを掲げて活動しています。
事業内容ですが、中心となるのは「coconalaスキルマーケット」というマーケットプレイスのプロダクトです。これに加えて、メディアの「coconala法律相談」、また、直近ではエージェントと呼んでいる分野で「coconalaテック」「coconalaアシスト」「coconaraプロ」「coconalaコンサル」という形で多角的に事業を展開しています。
coconalaスキルマーケットですが、自分が持っている知識・スキル・経験を商品化して「ECのように売り買いできる」マッチング型プラットフォームです。物品ですと、Amazonや楽天、メルカリといったものがイメージしやすいと思いますが、それのスキル版と思っていただくと分かりやすいと思います。
特徴としては、大きく3点あり、まず1点目が「EC型で購入/出品できる」、2点目に「オンラインで完結する」、3点目に「幅広いカテゴリ」で、現在500弱のカテゴリがあり、多種多様なカテゴリで出品・購入いただけます。
DearOne 安田|
進行役の私も簡単に自己紹介させていただきます。改めまして株式会社DearOneの安田と申します。DearOneはNTTドコモのグループ会社で、主にデジタルマーケティングの支援をしています。スライド右側にあるような企業の支援を中心に行っています。扱っているサービスも簡単に紹介させていただきます。
1つ目が伴走型のアプリ開発サービス「ModuleApps2.0」です。飲食店や小売店様などが、販促アプリを簡単に作れるプラットフォームです。
そして、もう1つがプロダクトアナリティクスツールの「Amplitude」です。本セッションはデータサイエンティストがテーマですが、マーケターでも非常に簡単にデータ分析ができるという米国発のプラットフォームが「Amplitude」で、DearOneが総合代理店となっています。
そして、じつは私たちDearOneもココナラを使わせていただいております。主に購入する側として、今日皆さんにご覧いただいているウェビナーのバナーもココナラで発注して作ったものです。また、動画の編集、チラシやポスターの制作など、マーケティング活動内で必要となる色々なクリエイティブに関して、ココナラを使わせていただくことで非常に効率的に業務を進めることができています。
DearOne 安田|
本題に入る前に少し質問ですが、「データ活用のどこに課題がありますか?」ということでzoom上で投票をさせてください。
本日はテーマが「データサイエンティスト」ということですので、視聴いただいている方は何かしらデータ活用に興味・関心をお持ちかなと思います。その中でどんなところに課題を感じていらっしゃるかということで、「データの量が少ない」「データの質が悪い」「分析ができない」「活用する文化がない」「その他」という5択の質問にお答えください。
いま回答いただいた結果を見ると、「分析ができない」「活用する文化がない」というところで、データの量はあるが、分析できない、どう活用すれば分からないといった課題が多そうです。私たちもクライアント様と話していて、「データ自体は持っているけど使いこなせていない」というご相談が非常が多く、「分析できない」「活用する文化がない」という課題に通じるものを感じます。
本日はココナラでのデータ活用の事例をお聞きしていきますので、「分析できない」「活用できていない」といった課題感をお持ちの方には非常に有益な内容になるかと思います。
データ活用とグロースマーケティングの考え方
本題に入ってココナラ南さんにお話を伺う前に、私から米国企業が実践しているデータを活用する「グロースマーケティング」のフレームワークについて少しだけ紹介できればと思います。
まずココナラのように自社のデジタルプロダクトをお持ちの場合、マーケティング活動は基本的にスライドのような形になるかと思います。まず顧客を理解する。そのうえで、顧客理解を踏まえて、プロダクトの機能やUI(ユーザーインターフェース)を改善する、もしくはマーケティング施策、アプリでのプッシュ通知やメルマガだったりを改善する。そして、結果を効果測定して、結果を踏まえて次のマーケティングのPDCAをぐるぐると回していくということが基本的な流れになるかと思います。
マーケティングのPDCAを回していく中で、非常に重要なことがデータの活用です。基本的には、いまは効果測定するうえで、さまざまなデータを取ることができます。そうすると、マーケティング活動の対になるデータ基盤が重要になります。取ってきたデータを「ためる」「整える」「分析する」といったデータの活用によって顧客理解を更に深める。そして、新たな顧客理解を基に、プロダクトの改善、マーケティングの施策を実行していくわけです。こういった形でデータを使って、PDCAサイクルを早く、また確からしく回していくことがデジタルマーケティングの基礎になります。
その中で、DearOneが提供しているグロースマーケティングのフレームワークをスライドでいくつか緑色で記載していますが、幾つかのフレームワークを使うことで、マーケティングのPDCAを早く、そして精度高く実施できるようになります。
また、次にデータの種類という話です。企業がデータマーケティングで活用するデータの種類は、定量・定性、属性・行動という2つの軸で考えると、4つのセグメントになってきます。
デジタルマーケティングという意味でまず使いやすいのは定量的なデータです。その中で、属性データはたとえば性別や年齢・居住地、行動データはサイトの訪問回数や会員登録の有無、購入回数などです。また、定性的なデータは、属性だと性格や趣味・嗜好・価値基準、また行動でいえば、行動の理由や行わなかった行動、将来の予測といったものです。定量的なデータだけでは見つけにくい要素を、定性データで補って上手く使っていくことがデータマーケティングでは大切になります。
今日はグロースマーケティングについて詳しくは紹介しませんが、ご興味あれば以下の記事をぜひご覧ください。
この後のココナラ 南さんのお話も、今お話ししたグロースマーケティングにおけるマーケティングのPDCAやデータの4分類といったフレームワークを踏まえてお聞きいただけると理解が深まるかと思います。それでは、お話を伺っていきたいと思います。
ココナラにおけるデータ戦略の全体像
DearOne 安田|
まずココナラのデータ戦略について教えていただけますでしょうか?
ココナラ 南氏|
ココナラ社内では「ココナラ経済圏」と呼んでいますが、この「ココナラ経済圏」の拡大を図っています。スライドの左側にある事業が先ほどご説明したマーケットプレイスと呼ばれる部分になります。マーケットプレイスは案件単位での都度発注になるということもあり、右側のようなプロジェクト/時間の売買といった分野も今後拡大していきたいと考えています。
データ種類ですが、まずココナラには15のメインカテゴリに加えて、小カテゴリでいくと450を超える数が存在しています。先ほど安田さんが「作ってもらった」と仰っていたデザインやイラスト、漫画などのデザイン系、また、オンラインレッスンや悩み相談まで幅広いカテゴリを扱っています。
データ種類の2つ目ですが、ココナラのマーケットプレイスはCtoCの形態ですので、出品者さん側と購入者さん側、両方のデータがあります。出品者さんに関しては、ユーザー単位の実績評価、過去の作品、スキルといったところがデータとして存在します。購入者さん側に関しても「何を買ったのか」「どんな評価をつけているか」といったデータが溜まっていくといった形です。
従って、私たちは「ココナラ経済圏」を拡大していくうえで、プロジェクトであったり、カテゴリだったり、使うデバイスだったりといった多種多様なデータを幅広くホリゾンタルに整備/分析をして、社内のあらゆる施策の実行やプロダクトの改善に活かしていきたいと考えています。
DearOne 安田|
オンラインのCtoCプラットフォームということで、とても多くのデータを扱われていることがイメージできました。もう少しいくつか質問をさせていただきたいと思います。
データ活用の文化を根付かせるには?
まずデータ戦略ということで、「データを活用する」ということ自体を会社として非常に重きを置かれているかと思います。一方で、最初のアンケートでも課題として挙げられていた通り「データを活用する文化がなかなか根付かない」という会社さんが数多くいらっしゃいます。ココナラの場合、どうやって「データを活用する」という文化が生まれ定着したのでしょうか?
ココナラ 南氏|
そうですね。私が入社したころはメンバーが20名程度の規模でしたが、いま会長である南であったり、現代表の鈴木などを筆頭にデータドリブンな思想をもったメンバーが多かったと思います。
その上で、適切なデータがあってこそ適切な意思決定を行いやすい、施策の提案等でも納得感が得られやすいという点で、「データを基に意思決定していこう」という文化がすごく根付いているかと思います。
DearOne 安田|
ありがとうございます。仰る通り、データを基にすると根拠が非常にはっきりしてくるので確からしい判断をしやすくなると思います。そのあたりをトップの方から率先して、データドリブンな文化を作られているということですね。
ココナラ 南氏|
そうですね。トップから「大事だよ」とも伝えていますし、メンバーも「データが大事だ」と理解していて、データを基にして施策提案することがマストになっている感覚です。
DearOne 安田|
社内で何か提案されるときには「裏付けのデータはどうなっている?」と言わなくても、提案時に出されてくるようなイメージでしょうか?
ココナラ 南氏|
そうですね。データ分析に関しては、私たちデータサイエンスグループを頼ってもらうこともありますし、BIツールでデータを可視化しているところもあります。従って、メンバーが、BIツールからデータを取って「現状こうなっているので、こういう施策をしていきたい」と提案していることも多いですね。
DearOne 安田|
ここで、視聴者の方から質問をいただきました。「トップの方々が元々データへの意識が高いというお話でしたが、逆にトップの方々のデータへの意識を高めるにはどのような工夫がありますか?」という内容ですが、いかがでしょうか?
ココナラ 南氏|
ココナラとは逆のパターンですね。確かに一般的にはトップの方々がデータへの意識が薄いパターンが多いと思います。個人的には先ほどお伝えした「納得感」かなと思っています。やはりデータから何かを意思決定する方が施策の確度が上がります。その点をトップの方々に伝えていくことが良いかなと思っています。トップの人が何を大切にしているかによりますが、データを活用するメリットをしっかり伝えていくことが大事だと思います。
DearOne 安田|
日本企業でありそうなパターンとして、メンバーは一生懸命根拠を作って持っていったのに、上が「いや、こっちがいい」となって判断基準がよく分からない・・・といったことがあると思います。ただ、その中でも粘り強くデータ活用のメリットをきちんと伝えていくことが大事ということですね。
ココナラ 南氏|
やはり我々の会社でも「こういうことがやりたい」と持っている経験から言われる方もいますが、「このデータを見てください」「データを見るとこういう事例がありますし、こんな形もありだと思います」と定量的な観点を伝えていくと納得してくれるケースは多いです。そういう意味でもデータは検討や意思決定の材料になると思います。
DearOne 安田|
今のお話をお聞きすると、ココナラでは役職の高い方が「Aにしたい」と言った時、役職の低いメンバーが「データからするとBですよ」と伝えると、「なるほど、Bだね」となる風土があるイメージでしょうか?
ココナラ 南氏|
定量的に語ることが多いかなと思っていますし、意思決定に関してはA/Bテスト等を実施することも非常に多いですね。「デザインとしてどちらが良いか」といった迷うところは、実際にAパターン・Bパターンを回して「実際にどちらの方がコンバージョンが優位だったか」というところを日々分析しています。
ココナラで活用しているデータの種類
DearOne 安田|
ココナラでは、先ほど紹介した定性・定量、属性・行動というデータの4分類で考えた時、どんなデータを使われていますか?
ココナラ 南氏|
そうですね。定量での性別や年齢といった情報もありますし、「どういったものを買っているか」「購入経路はどこか」「どういったデバイスを使っているか」、また「既存ユーザーか新規か」といった定量的なデータは全て取っています。また、ユーザーが「どのページを見ているか」といったログなどの行動データも定量的に取得しています。
定性的なデータでいくと、ココナラには「ユーザーの声を聞く」という風土があります。オンライン上の「ご意見ボックス」でユーザーが自由に投稿してくれるものもありますし、ユーザー交流会を企画して実際に出品者さんや購入者さんに来ていただいて声を聞くこともあります。アンケートなどもよく実施しています。
DearOne 安田|
ありがとうございます。ECやオンラインサービスを提供されているお客様は、定量データを取ったり分析したりすることは得意ですが、定性データの取得や活用を意外とされておらず、「ユーザーがどんな方なのか?」を意外と知らないケースもありますが、ココナラは定性側のデータもしっかり取得されているという印象です。
ココナラ 南氏|
そうですね。やはり定量データの方が取りやすい、分析しやすいですが、同時に定性的なN1分析であったり、競合サービスに関しては定量的なデータを取れません。そこはアンケートを実施したりしながら、たとえば「他社サービスを使うニーズ、ココナラを使うニーズは何で、その違いは?」といったところを考察しています。
DearOne 安田|
ありがとうございます。今までお話しいただいた中で、出品者さん・購入者さんにそれぞれで「これも取っている」というデータというのは何かありますか?
ココナラ 南氏|
意外なものがあるか分かりませんが、先ほどお話ししたような購入経路やユーザーの検索情報といったところもデータを取っていますし、ページにおける滞留などの情報など、かなり多岐に渡ってデータは取得しています。
DearOne 安田|
滞留は「そのページにどの程度の時間いるかで購入意欲が分かる」といったことですか?
ココナラ 南氏|
はい、たとえば、ヒートマップのような「ページのどこまで行ったか、どのボタンが良く押されているか」といったデータも取っています。
データ活用で大事なのは「納得感」と「新鮮度」
DearOne 安田|
2つ目のテーマとして、データサイエンティストとしてどんな仕事をされているかをお聞きしたいと思います。
ココナラ 南氏|
冒頭の自己紹介と少し重複しますが、私たちデータサイエンスグループのミッションは2つあります。1つは、データ分析を基に全てのチームの意思決定をサポートすること。もう1つは、データドリブンな企業になるための環境構築であったりメンバーの意識改革です。この2つをミッションに掲げて活動しています。
まず1個目のミッション「良い意思決定」に向けては、ひとつは納得感、もうひとつは新鮮度という点を意識しています。1個目の納得感に関しては、やはりデータに納得感を持ってもらうことは非常に重要だと思っています。どんなに正しいデータで「高度な分析をしました」「こういう手法を使いました」「モデル作りました」といった話をしても、相手に伝わらなければ話が進みません、従って、経営層や意思決定する人にデータへの納得感を持ってもらうために、受け手の目線に立ってできるだけシンプルに伝えることは意識をしています。
また、2個目の「新鮮度」です。フェーズにもよりますが、基本として厳密性よりもスピードが非常に大事だと思っています。従って、正しくデータを出すことは前提としてもちろん必要ですが、たとえば意思決定が変わらない細部や定義まですごく深掘りした分析をするよりも、スピードを重視してどんどんPDCAを回せるようにサポートすることが重要ではないかと思っています。
DearOne 安田|
「納得感を持ってもらう」という点は仰る通りだと思います。データ分析できる方というのはデータリテラシーが高い方なので、高度な分析をやることが楽しいところもあるかなと思います。ただ、そうではなく、受け取る人に分かりやすいようにすることが大切ということですね。
ココナラ 南氏|
私もデータサイエンティストを始めた時は、新しいモデルを使うことは非常に楽しかったですし、インプットしたことをアピールしがちになっていました。しかし、意思決定する人にとって、またデータ活用としては、「どう施策に活かしていくのか」や「どんなインパクトがあるのか」が大事で、データ分析のHowの部分はあまり重要ではありません。もちろんHowの部分はデータサイエンティストとしては重要ですが、そこは補足として、という部分だと考えています。
DearOne 安田|
スライドで「良い意思決定のために」と書いていただいている通り、データ分析を何の目的でやるのかを非常に強く意識されていて、データ分析のアウトプットが役に立たないとダメだと考えていらっしゃるのだと感じました。
データ活用からプロダクト改善への流れと事例
DearOne 安田|
もう少しお伺いしたいのですが「良い意思決定のためのデータ分析」という視点で、ココナラでデータからプロダクト改善した事例があれば教えていただけないでしょうか?
ココナラ 南氏|
そうですね。直近では「ユーザー満足の向上」への取り組みのひとつで、かなりデータ分析をしています。ココナラのサービスはCtoCなので購入者さんと出品者さんがマッチングしたのにキャンセルになってしまうケースもあります。そういったケースが起きないようにすることで満足度向上を図りたいという目的のデータ分析です。
例えば、サービスのラインナップの並び方といったことに関しても、ユーザーさんがマッチングしやすいようなロジックをココナラ側で作成しています。また、ユーザーの質の良さといったものも定義していて、ランク制度を数年前から導入しています。
たとえば、こういった検索結果の画面ですね。ここの表示順に関しても、キャンセルが起こりにくいように、またユーザーがマッチングしやすいように、データ分析してロジックを制御しています。
ランクに関しては、納品完了率ですね。やはり「質の高いユーザー」としては納品完了率が高い状態を目指して欲しいということで、今プラチナとゴールドであれば90%、シルバーだと85%といった閾値を設けて、ユーザーの質を担保しています。
DearOne 安田|
ありがとうございます。ランク設定の中などに事業としてのKPI、データをきちんと盛り込んでいくことが大事なのだろうと思います。結果としてキャンセル率というのは低下していますか?
ココナラ 南氏|
そうですね。施策としてはもう数年にわたって10個近くの施策をしていますが、この2-3年でキャンセル率は1/3ほどに低減できており、かなりの施策インパクトを出せたかなと思います。
DearOne 安田|
私も個人でココナラに出品していますが、キャンセルされると精神的にダメージが大きいですね。「売れた」のにダメになったという精神的なものもありますし、工数等の金銭的なものもあります。従って、キャンセルが減るというのは出品者の方にとってすごく嬉しいことです。購入した方もキャンセルするということは、何らか不満が生じたと思いますので、それを防げるというのはココナラにとってもすごく良さそうですね。
ココナラ 南氏|
はい。ただ、難しいのはココナラは出品者さん側の立ち位置と購入者さん側の立ち位置の間に入るところです。キャンセル理由を把握していくと、出品者さんがキーになっているキャンセルもありますし、購入者さんがキーになるキャンセルもありますので、そのあたりを細分化しながら、適切に施策を打っています。
DearOne 安田|
今のお話に関わりますが、南さんはデータサイエンティストとしてデータ分析して、そこから先ほどのランク付けや表示を変える、出品者ランクの基準として納品完了率を入れたほうがいいといった施策案を導き出されているかと思います。お話しできる範囲で結構なのですが、どんなデータ分析、またプロセスを経て、施策が意思決定されている流れなのでしょうか?
ココナラ 南氏|
キャンセルという文脈に関しては、先ほど言ったようにカテゴリが多岐に渡っていますので、まずは解像度をあげることをやっています。テキスト解析なども実施しながら、購入者さん側のキャンセル理由、出品者さん側のキャンセル理由を分析していきます。また、たとえば制作系と相談系でキャンセル理由が違うといったこともあるので、そのあたりも細分化しながら、解決することでインパクトが大きなところをまず見つけ出していきます。
そうすると、たとえば、制作系では提供内容と期待値のギャップから来るキャンセルが多いといったことが見えてきます。そして、なぜ起こるのかを特定していくなかで「事前の情報共有が不足していること」が原因だとすれば、事前にユーザーのスキルや実績などの情報を可視化して、提供内容と期待値が釣り合うように施策をするといった動き方が多いですね。
DearOne 安田|
ありがとうございます。出品者さん・購入者さん、またカテゴリなどでセグメントしていった時に、インパクトが多い=キャンセルが多いところにまずは焦点を当てるというイメージでしょうか?
ココナラ 南氏|
そうですね。どこのインパクトが大きいかは、キャンセルの絶対数が多いかという軸もありますし、また、時系列でみた時にすごく増えている/減っているといった軸もあります。キャンセルがすごく増えているといった際には、なぜ悪化しているのかという理由を分析します。本当に幅広くデータを見て、そのうえでどんどんドリルダウンして分析していくイメージです。
DearOne 安田|
ありがとうございます。今回のケースでいうと、キャンセル理由のテキストデータがあるので、それを分析しながら、「こうすればもっと良くなるのではないか」と仮説を幾つか打ち出していく流れでしょうか?
ココナラ 南氏|
そうですね。仮説を出して、そこを実装して検証するところで、また分析して施策を提案していくような形です。
DearOne 安田|
ありがとうございます。施策の仮説を出して施策を提案する、そして意思決定して実装して検証するという流れですが、このプロセスを動かすのは時間はかかるものですか? それとも、さくっと進むものでしょうか?
ココナラ 南氏|
問題が会社として重要であれば施策の優先度も上がるので、さくっと進むケースもありますし、一方で、「問題だけどインパクトはあまり大きくなく、すぐ対応する必要はないね」という場合は施策候補として残しておいて、時間の余裕がある時にエンジニアに実装してもらう流れになることもあります。
DearOne 安田|
冒頭にお話しされていた通り、PDCAのスピードは非常に重視されている前提で、インパクトや優先度との見合いで調整している感じですね。
ココナラ 南氏|
はい、スピードと他施策の優先度付けなどを加味して決めていく形です。
DearOne 安田|
優先度付けという言葉が出てくる時点で、やはり非常にロジカル施策を進行されていることが透けて見えると感じます。
データドリブンな環境を作る3つの取り組み
DearOne 安田|
データサイエンスグループとしてのもう1つのミッション「データドリブンな環境作り」、こちらについて説明をお願いできますでしょうか?
ココナラ 南氏|
まずメンバーの目線を上げるというところで勉強会の実施をやっています。フェーズによって変わりますが、BigQueryを活用しているのでSQL勉強会であったり、そういった分析の勉強会を定期的に実施しています。また、導入しているDomoというBIツールに関して、利用方法や使い方、どこにデータが格納されているかといった勉強会も実施しています。
また、安田さんに冒頭で説明いただいたグロースマーケティングを支えるデータ環境というところに近いですが、データは基本BigQueryで一元管理しており、そこから各チームの用途に合わせてデータマートやデータウェアハウスを作成して分析するということを日々実施しています。ココナラは、SQLを使えるメンバーが多いので誰にでも利用しやすいデータ分析環境の整備を目指して対応しています。
最後が相談しやすい環境整備というところです。メンバーには施策を円滑に進める、会社を伸ばしていくため、データサイエンスグループに積極的に相談して欲しいと思っていますので、毎週レビュー会を実施したり、相談会を開催したりして誰でも相談しやすう環境づくりに取り組んでいます。
DearOne 安田|
さまざまな施策でデータドリブンな環境づくりに取り組まれていらっしゃいますね。最初に話されていた「会社全体にデータドリブンな風土を根付かせる」という施策についていくつか深掘りさせてください。
まずSQL勉強会ですが、一般の方にSQLを理解してもらうのは非常に難しそうだなと思いますが、どうやって実施されていますか?
ココナラ 南氏|
そうですね。難しいですが、組織のフェーズによって取り組み方が変わるかと思います。私はココナラが20名ぐらいの頃からいますが、まだ社員が2桁の時には、本当に社長含めて全員でスキル勉強会をしていました。
DearOne 安田|
社長もSQLを書けるんですね!
ココナラ 南氏|
得手不得手もあるので、全員が同じレベルに到達することはありませんが、勉強会をすることで、データ分析の仕方への理解等も深まります。また、SQLの基本を理解してもらっていると、「こういうデータ基盤を作りたい」とか、プロダクトの人と「こういうデータを取れるようにしたい」といった時に、「確かにそういうデータが必要ですね」「こういう取り方ができそうです」とコミュニケーションが円滑になります。そのため少し難易度は高いですが、非常に価値があると思っています。
DearOne 安田|
ちょっと難しいかな・・・と二の足を踏みそうなところですが、思い切ってやってみることが大事だったということでしょうか。
ココナラ 南氏|
はい、SQL勉強会はやってよかった施策です。組織規模が数百人や数千人になってくると大変なので、やり方を考えないといけないと思いますが、規模が小さい会社であれば、やる価値があると思います。
DearOne 安田|
ありがとうございます。2つ目の質問ですが、BigQueryを入れて、データ統合して使えるようにしたとのことですが、データ統合する際に注意した点はどんな部分がありますか?
ココナラ 南氏|
そうですね。転送時間などのコストの部分はもちろん重視しており、不要データは除外するといったところは意識しています。データマートをたくさん作ることが目的ではなくて、何に活用するかが重要です。従って、全データを送ればいいということではなく、「そのデータを使って何に活かしていくのか」「どういう施策に活かしていきたいのか」という利用目的を意識しながら作るという点は注意した部分です。
DearOne 安田|
さらっと仰っていただきましたが、非常に難しい部分だと思います。データ環境を作るとなると、「何に使うか分からないけど取り合えず入れておこう」となりがちだと思うのですが、いかがでしょう?
ココナラ 南氏|
そうですね。生データやログなどは本当に全体的に取りますが、そこからデータウェアハウスに落としていくところは必要最低限に絞るという考え方でやっています。
DearOne 安田|
「本当に使うんですか?」という部分の不要データを勇気をもってばっさり絞るところが大事ですね。仰る通り、何でもかんでも入れていくとコストも増えてしまいます。
最後にデータ分析の相談ですが、これは社内からどんな相談が寄せられていますか?
ココナラ 南氏|
「SQLクエリの書き方をレビューしてください」という相談もありますし、「モニタリングシートの自動化のやり方を教えてください」「KPI設計や目的の設計方法を教えてください」といったものまで多岐に渡ります。
DearOne 安田|
いまの相談内容を聞くだけでも、データドリブンな会社であることが分かります。
ココナラ 南氏|
昔からいるメンバーはSQLを書ける人が多いので、かなり高度な質問が飛んできますね。
DearOne 安田|
データ分析は少し「敷居が高い」「話しかけにくい」イメージもあるので、その距離を縮めることも意識されていると仰っていましたが、効果は感じられていますか?
ココナラ 南氏|
冒頭の視聴者アンケートでもありましたが「分析したいけどできない」という課題はどの組織でもある話だと思いますが、そこでコミュニケーションできるメンバーがいる、話しかけやすい状態になっているかと思います。
DearOne 安田|
これまでの質問と少し重なるかも知れませんが、南さんが「データドリブンな風土が根付いているな」と感じられたエピソードがあれば、教えていただけますか?
ココナラ 南氏|
たとえば、ミーティングとかでコミュニケーションを取る機会に、数値の話がすごく出てきますね。「このセグメントに関して、この期間でこれだけ数値が改善しています」「全体におけるシェアはこれぐらいです」といった話、また施策の提案でも定量的な根拠やインパクトの仮説を持ってくる人は多いなと感じます。また、いまはDomoでKPIの推移とかを可視化していますので、「ここの数字がおかしくないか?」といった声がデータサイエンスグループ以外から上がってくる機会も増えています。
DearOne 安田|
色々な部門がデータや数値を使って喋っている状態ですね。
DearOne 安田|
ここで視聴者からいただいた質問をいくつか拾っていきたいと思います。「データ分析を発信するに際して、課題を設定する必要があると思います。課題設定はチーム等の複数人で検討されているのか、個人でしょうか。データ分析のイシュー、課題設定をどんな形式でされていますか?」という質問ですが、いかがでしょう。
ココナラ 南氏|
分析自体は1人ですることが多いですが、必ずレビューを通す体制にしています。クオリティの担保という観点で、チームで「この分析でいきましょう」とレビューするので、その意味では全員で決めているという形ですね。
DearOne 安田|
次に「日々大量の個人情報を扱っていると思いますが、これらの管理や配慮していることはありますか?」と質問が来ていますが、いかがでしょうか?
ココナラ 南氏|
個人情報の取り扱いは本当に厳しくなっています。基本的に個人情報は見れない環境になっており、ユーザー情報などは何か問い合わせ等のイレギュラーケースが起きない限り見れないといった環境になっており、セキュリティは非常に意識しています。SQLのところでも、ユーザー情報はマスキングがかかっており、そもそもデータを抽出できない状態になっています。
DearOne 安田|
確かにデータリテラシーが社内で高まっていく中で、色々な方がデータを使えるように利便性を高める一方で、個人情報などの絶対に守らなければいけない部分への配慮は非常にしっかりとセキュリティをかけているという形ですね。
ココナラ 南氏|
先ほどSQL勉強会のところで、「フェーズによって違います」とお伝えしたのはこうした背景もあります。会社の規模が大きくなっていくなかで、こうした個人情報などのセキュリティは非常に大切になりますので、そうした情報にアクセスできる人をどう絞るかといった部分などは厳しくやっていく風土になっています。
DearOne 安田|
ありがとうございます。最初に「ここはアクセスできない」といったセキュリティ設計をした上で、社内で便利に使えるように広める活動をしていくといったイメージでしょうか?
ココナラ 南氏|
はい、仰る通りです。
DearOne 安田|
もう1つ、「企業によって定義は異なると思いますが、データサイエンティストとデータアナリストは区分をされていますか?区分されているとすれば、どのような役割分担にされているでしょうか?」との質問です。
ココナラ 南氏|
ココナラでは、全員データサイエンティストという呼び方をしていて、データアナリストとの切り分けはしていません。
明確な定義がある話ではないですが、世の中のイメージとしてはデータアナリストの方がビジネスドリブンで、データサイエンティストの方が機械学習などのエンジニアリングスキル、サイエンスに強みを持っているという印象はある気がします。その点では、弊社のデータサイエンティストは、ビジネスドリブン寄りです。
データサイエンティストに求められる能力とは?
DearOne 安田|
ここまで、ココナラの中でのデータサイエンティストの役割等について伺ってきましたが、ここからは「データサイエンティストに求められる能力」というテーマを質問していきたいと思います。南さん、いかがでしょうか?
ココナラ 南氏|
データサイエンティストに求めるスキルセットでよく言われるのは、大きくビジネス、データサイエンス、データエンジニアリングになります。ココナラでは、ビジネス領域の力に加えて、データサイエンスであったりデータエンジニアリングの力を併せ持った人を採用・育成しています。
なぜビジネス領域の力に重きをおいているかというと、データを通じて「意思決定をしていく」「施策を出していく」というところを重視しており、そのためには「ロジカルに伝えていく能力」や「プロダクトの深い知識」といった部分が非常に重要になってくると思っているからです。そこで、ココナラではビジネス領域の力は必須で、そこに加えてデータサイエンスやデータエンジニアリングの力を持った人を採用していきたいと思っています。
DearOne 安田|
今までお話を伺ってきた中で、非常に納得がいくお答えです。これまで、何のためのデータ分析をやるのかというと、最終的にはビジネスに役立てるためという軸で一貫して話していただいたと思います。その観点で、「そもそもビジネスに対して、またプロダクトに対して理解をしていないと、データ分析だけしても使えない」ということですね。
ココナラ 南氏|
はい。ただし、会社によっては役割を細分化している会社もあり、何が正解ということではないと思います。本当にサイエンス特化している会社もあれば、データエンジニアという職種を区分けされている会社もあり、会社としての考え方次第だと思います。
DearOne 安田|
視聴されている方の中には「データサイエンティストになりたい」というか方もいらっしゃると思いますが、データサイエンティストに向いている人はどんな人でしょうか?
ココナラ 南氏|
機械学習や基本的なスキルを学びたいという意欲がある人はもちろん、「データからインサイトを得て意思決定をしたい」という人も向いているかなと思っています。データを通じて「なぜ」を追求できる人ですね。「これはなんでだろう?」を追求していってビジネスに活かしていきたいという人は、個人的にはデータサイエンティストに向いていると思っています。
DearOne 安田|
「なぜ」を追求できる人、とても分かりやすいですね。ありがとうございます。
視聴者さんから「どうすればデータサイエンティストになれるでしょうか?」という質問が来ていますが、いかがでしょうか?
ココナラ 南氏|
そもそもデータサイエンティストという定義が難しいので、今は極端には「データサイエンティストです」と言えばなれるという話だと思います。そのうえで、データサイエンティストに必要な能力、ビジネス、データサイエンス、データエンジニアリングといった各領域のスキルに関しては、データサイエンティスト協会などが提供しているコンテンツがありますので、それらを見ながらスキルをマスターしていくことが良いと思います。また、統計検定を受けてみることも良いと思います。
個人的にはビジネスに活かしていくというところが大事で、簡単なクロス集計等でもいいので「データを分析して意思決定していく」ところから、もうデータサイエンティストの入口だと思っています。
DearOne 安田|
日々自分が携わる仕事の中でもデータはあると思うので、それを分析して意思決定するということをやっていれば、もうデータサイエンティストに一歩踏み出しているということですね。大変示唆に富んだ回答だったなと感じます。
ココナラさんのデータ活用についてお話を伺ってきましたが、今後の更なるデータ活用に向けて南さんがやってみたいことをお伺いできればと思います。
ココナラ 南氏|
やりたいことは多いですが、たとえば、先ほどサービスのマッチングやレコメンドに関して、「どんなサービスを表示するか?」の精度はもっと上げていきたいと思っています。OnetoOneではないですが、使っているユーザーに応じたサービスの表示などのやりたいことは多いので、取り組んでいきたいと思います。
DearOne 安田|
ありがとうございます。どれだけユーザーに即した機能にできるか、即したコンテンツを表示できるかというところに関わっていくイメージですね。
【事例】データ分析を成果へとつなげる流れ
DearOne 安田|
ここまでココナラのお話を伺ってきましたが、最後に私からもデータ分析からの改善事例として、ユーザーの行動分析からユーザーインターフェースを改善したケースを紹介したいと思います。
ECサイトアプリを運営されている事業者様で、スライドはアプリの画面をイメージして頂ければと思います。商品詳細のページにおいて「お気に入り登録」のボタンと「閲覧履歴ページ」の遷移ボタン、どちらを出すことが効果が高いでしょうという検討テーマ、どちらの効果が高いと思われますか?
結果として、このお客様の事例では「閲覧履歴」ボタンに変更した結果、CVRが非常に高まり、カート投入率122%、CVR156%、購入数114%ということで非常に高い成果が出ました。
事例でお伝えしたいのは「閲覧履歴のボタンが効果が出ます」ということではなく、どうやってこの結果を導いたかというプロセスで、少しだけご紹介させてください。
この企業では、まずユーザーの行動分析をしました。スライドは縦軸にECサイトで行うユーザーの行動を一覧化したものです。そして、ユーザーの行動回数を全体平均と購入回数が2回以上のユーザーで比較するという分析をやりました。
そうすると、「閲覧履歴を見る」という行動は、全体の平均が1.4回に対して、購入回数が2回以上のユーザーだと9.1回。よく買っている人ほど、自分の閲覧履歴を見ているということが分かりました。そうすると「閲覧履歴ページをもっと見せたら、購入回数が増えるんじゃないか」という仮説が成り立ちました。
そこで、次に「どのページから閲覧履歴ページに来ているのか」という分析をされました。すると、商品詳細のページから閲覧履歴ページに遷移している人が48%になることが分かりました。それであれば「商品詳細から閲覧履歴ページへの導線、これを強化することで購入回数が増えるのではないか?」という仮説が成り立ちます。そこで、商品詳細ページは「お気に入り登録」のボタンを置くよりも「閲覧履歴」への遷移ボタンを置いた方がCVが増えるのではないかということで試して、非常に成果がでた形です。
なお、冒頭でご紹介した弊社で取り扱っているAmplitudeという行動分析ツールを使うと、こういった分析が容易にできますので、ご興味あればぜひご覧ください。
私からデータ分析事例の紹介をさせていただきましたが、南さんいかがでしたか?
ココナラ 南氏|
そうですね、データ分析に関してツールはどんどん入れていきたいと考えています。昨今はジェネレーティブAIなどの便利なツールも増えていますので、こういった行動分析からの施策立案などもコストが許す限り検討していきたいと思っています。
DearOne 安田|
ありがとうございます。ココナラのデータ活用の取り組みや事例についてお話を伺ってきました。もっとお話したいところですが、本日のセッションはこちらで終了となります。南さん、ありがとうございました。