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グロースマーケティングゆく年くる年|2023年の振り返りと2024年の展望や課題とは?

2023.12.26

DearOneの小林と申します。グロースマーケティング部という部署でCDP、分析、MAなどのSaaSツール導入のアーキテクチャ設計や実装の支援を行っています。

早いもので2023年も終わりを迎えようとしています。私自身は今年、様々なモダンデータスタックのツールに触れ、マーケティングツール業界全体の動向に対する理解も深めることができた1年になりました。皆さんはいかがでしたでしょうか?

本記事では、SaaSツールを扱うグロースマーケティングのコンサルとして、2023年に印象的だったトレンドを振り返ってみたいと思います。長文となりますが、お付き合い頂けると幸いです。

初心者でもわかるグロースマーケティング

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トレンド①:生成AIブーム

2023年に最も話題を集めたテクノロジーとして、生成AIがあると思います。中でもブームの火付け役となった「ChatGPT」の登場は、マーケティング業界だけではなく、さまざまな業界・業種で注目を集めました。

帝国データバンクの調査では、2023年現在、生成AIを業務に実用化している企業は約10%*1参考:生成 AI の活用に関する企業アンケート|帝国データバンク程度と、まだ多いとは言えませんが、活用を検討している企業は50%以上にのぼり、人間の「やりたい」をAIが自動で叶える時代は確実に到来すると思っています。

グローバルではDatabricksが大規模言語モデルを開発する企業を約2,000億円で買収するなどのニュースもありましたが、私も最近、ユーザーデータの機械学習からユーザーごとに最適な施策を訴求文言のレベルで生成してくれるツールを触ってみる機会があり、「グローバルではここまで来ているのか」と衝撃を受けました。

生成AIはすでに様々なマーケティングツールへの導入が進んでおり、今後以下のような点での発展が期待できます。

クリエイティブやメッセージの自動生成

マーケティング施策において、クリエイティブやメッセージの作成には多くの時間やリソースが割かれており、多くのマーケターの悩みの種になっています。そのため、ツールの操作だけでクリエイティブやメッセージを大量に作成できる生成AIの技術は、オペレーションの革新が期待できる画期的なものでした。既に実用化も進んでおり、実際にSNSなどで生成AIを使った広告画像を見たことがある方も多いと思います。

また、複数パターンを瞬時に作成できる特徴があるため、例えば、顧客の傾向に応じた多種多様なパターンを生成するなどといったことも簡単に実現できます。

今年は、欧米のMarTechを中心に、顧客データに基づきパーソナライズされたクリエイティブが生成できる機能が続々と登場しました。生成系AIとマーケティングツールは非常に相性がよく、私が担当しているCDP、分析、MAツールの領域においても、これらを掛け合わせることで以下のようなな相乗効果が見込めると思います。

  • アクションの回数を増やしPDCAのスピードを上げる
  • ユーザーのセグメントに応じた大量のクリエイティブやメッセージが生成しパーソナライズの精度を上げる

DearOneが取り扱うMAツール「MoEngage」にも生成AI機能が搭載されております。機能の詳細は以下の記事をご覧ください。

生成AIの今後の課題

生成AIは便利である一方、新しいテクノロジーのため課題も多いのが現状です。例えば、生成された情報の信憑性に欠ける、生成されたクリエイティブへの著作権の問題などが挙げられます。

また、欧米ではAIに対する法整備が進みつつありますが、日本ではやっとAI利活用における論点の整理が行われているような状況です。

私自身生成AIには非常に注目していますが、一方で人の手でクオリティを担保するということが今以上に重要になってくると思っています。例えば、他社の事例ですがコンテンツSEOではAIが書いた記事が、公開後一定期間が経った後にインデックス削除されるということがありました。Google側もAIを判断し意図的にインデックス削除をしているのではないかと思われます。

そのため、全てを生成AIに頼るのではなくどのように活用するのか、品質向上は人の手で、などテクノロジーと向き合う人間側の工夫も求められています。

トレンド②:加速するファーストパーティデータ活用

Google社が2024年から段階的にChromeに対してサードパーティーCookie(サードパーティーCookie)を廃止することに伴い、企業が自分たちで集めるファーストパーティデータの収集と活用が求められていることはすでにご存知の通りです。

そんな背景から、今年は特にファーストパーティデータの収集や活用に関する問い合わせをいただく機会が多くありました。

サードパーティデータの活用制限は痛手を伴いますが、サードパーティデータからファーストパーティデータへの転換が求められる市場動向の変化は、ブランドがより顧客一人ひとりに向きあったコミュニケーションを考えるきっかけになった側面があり、必ずしもデメリットだけではないと考えています。

実際に、数年に渡りオウンドメディアのログや顧客とのコミュニケーションログを収集しパーソナライズに取り組んで来た企業は、その地道な努力がオリジナリティがあるマーケティング施策につながり、高レベルの顧客体験を提供することができています。

ファーストパーティデータ活用が困難な理由として、様々なステークホルダーが絡み、リソース、コストを必要とするため、関係者間の複雑な調整や多くのタスクが発生する点があげられます。特に複数部門にまたがったプロジェクトを遂行する場合は、それぞれ目標、使用する言葉、文化の違いなどがあり、一つの目標に向かってプロジェクトを進めることは大変なものです。

そのため、私は複雑なプロジェクトを進める際には、様々な立場の方に理解して頂けるようなメッセージを簡潔に伝えるように心がけています。

以下にご紹介するのは、ファーストパーティデータ活用のプロジェクトにおいて、私が特に重要と考える3つの要素です。

パーソナライズはID軸のトラッキングが必須

パーソナライズ施策を行うためには、ユーザーを正しく理解しなければなりません。ユーザーを正しく理解するためには、相手が誰なのかを正しく判別する必要があります。つまり、ユニークなIDと、そのIDに紐づくユーザーのデータが必須となります。

そんなの当たり前、と思うかもしれませんが、実際にツールにデータを連携しようとすると、肝心のデータが欠損していたり、取得されていなかったりという問題が発生することが多くあります。ユーザーの行動データを正しく取得するためには、カスタマージャーニー、ユースケース、KPIに紐づいたデータ設計(タクソノミー設計)と、タクソノミー設計に基づいたデータの収集・蓄積が非常に重要となります。そのため、弊社ではデータの要件定義とタクソノミー設計を必ずプロジェクト初期に行うようなご提案をしています。

タクソノミー設計に興味がある方は、下記記事をご参照ください。

データの民主化

フルファネル*2特定のカスタマージャーニーではなく、認知、興味、検討からCRMまで、一気通貫で顧客にアプローチすること。でのマーケティングを実現するためには、新規営業部門やWebやアプリのUXチーム、カスタマーサポート、広告運用担当など様々な組織や部門が共通して使えるマーケティング基盤環境を整える必要があります。そのため、それぞれの組織のニーズに合わせたツールの選定や一元的なデータソースの構築、基盤全体のスムーズなデータ連携など様々な観点から環境を構築しなければいけません。

基盤の構築においては設計の段階からビジネスサイド、エンジニアサイドの両方の観点を組み込むことが不可欠です。例えば、マーケティングの担当ではないエンジニアだけでデータ連携を行う場合、使うデータや活用方法を知らないため、マーケティング施策で使いたいデータとは違うデータが取得されてしまう、ということもあり得ます。

そのため、マーケティング基盤を構築するためには、全体設計をするデータアーキテクトのような視点を持った人材や、それぞれのツールに関する深い知見を有したパートナーとの連携が不可欠となります。

データの民主化に関する注意点については、以下の記事でも詳しく紹介しています。

データガバナンスの統制

ユーザーのデータを、多くの部門や社員が扱うようになるとデータガバナンスの統制、セキュリティといった観点がより重要になります。データガバナンスとは、企業がデータを取得・管理・使用する方法を規定する枠組みであり、データの品質、セキュリティ、アクセシビリティ、利用可能性などの確保を目的としています。

さらにターゲティングやパーソナライズ、機械学習などユーザーデータを活用する機会が増えれば「どのデータがどこでどのように使われているのか」を管理する負担が大きくなります。この部分に関しては間違いなく今後より人ではなくテクノロジーが担う部分になっていくと考えます。例えば、ビジネスが多岐に渡っていたり企業の規模が大きい場合は、ユーザーのデータの検索性や同義のデータが複数発生することを防ぐために、データカタログの整備をツールを使って行うこともあります。

データガバナンスを充実させることで、会社全体のデータ活用能力が向上し、透明性や公正性のある意思決定が実現することも期待されます。

トレンド③:CDP領域でのコンポーザブルCDPが新たな選択肢に

私は主にCDP領域のコンサルティングを担当しているのですが、この領域においても今年は色々な変化を感じる年でした。

CDPとは、Customer Data Platform(カスタマーデータプラットフォーム)の頭文字を取った言葉で、顧客データを収集し、管理し、分析するデータプラットフォームを指します。主に、DHWに溜まったデータの統合や他のツールへのデータ連携にCDPが活用されています。

ここ数年CDPはパッケージ型のソリューションが主流だったのですが、予算のスリム化などの理由により、必要な機能をよりシンプルに実装したいというニーズが多数発生するようになりました。このような市場動向から、注目ソリューションとしてコンポーザブルCDPをご紹介したいと思います。

パッケージ型CDPとコンポーザブルCDPの違い

それでは、コンポーザブルCDPとは一体何なのかについて、従来のパッケージ型CDPツールとの対比でご説明したいと思います。

パッケージ型CDPとコンポーザブルCDPの違い

パッケージ型CDP

パッケージ型CDPツールには、データ収集・統合・管理や分析機能など、さまざまな機能が付帯しているのが特徴です。それらをうまく活用することで企業のマーケティングを加速させることができるというメリットもあります。しかし、多くの企業の場合全ての機能を使いこなすことは難しく、不要な機能にコストを払っているケースも少なくありません。

また、パッケージ型CDPツールではデータをDWHとCDPに二重に持つ必要があり、ストレージや運用のコストが大きいという課題がありました。利用期間が長くなるほどCDPに貯まるデータが増えるため、コストが継続的に増加してしまいます。

パッケージ型CDPについて詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。

コンポーザブルCDP

コンポーザブルCDPは、すでに保有しているDWHに必要な機能のみを追加することでCDPの構成を再現するものです。そのため、パッケージ型CDPのデメリットであるストレージの二重コストが発生しない点が大きな特徴となります。また、DWHのデータをそのまま活用するため、CDPを介することで発生するタイムラグが無いというメリットもあります。

コンポーザブルCDPはツールの入れ替え、機能の解約なども素早く柔軟に行うことができるため、欧米ではすでにDWHとの鉄板の組み合わせになりつつあります。

DearOneでも、2023年7月にデータ連携機能に特化したツールを提供するHightouch社とパートナー契約を締結しました。

私自身、他のマーケティングツールの実装を行う際に「データの連携って手間だな」と思うことが多々あったので、まさに欲しかったツールでもあります。ツールにサンプルデータを入れてPoCなどを行う際も、これまではエンジニアに依頼をしてEmbulk*3トレジャーデータ株式会社が提供するオープンソースのETLツールなどでデータを入れていましたが、簡単なデータ連携であれば非エンジニアのメンバーで完了できるようになり、検証作業のスピードを格段に高めることができました。

最近では、ありがたいことにHightouchに関するお問い合わせも増えており、日本での需要の高さも感じています。Hightouchに関して、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

2024年の展望

ここまで2023年のトレンドを取り上げてきましたが、2024年の展望についても個人的な予想を簡単に書かせていただきます。

トレンドの部分でも解説しましたが、生成AIに限らないAIブームについては今後数年間続くと思います。その中で、今後はAIを機能させるための環境づくりがより重要になってくると考えます。

データソースとなる上流の部分では、AIに学習させるためのデータの質・量の確保が重要になり、そのための複数のデータソースから集めるデータの標準化、整備に関する技術やツールに注目が集まるのではないでしょうか。

一方、下流のデータを活用する部分では、AIによるターゲティングや示唆出しの他に、ターゲットやユーザーごとの訴求内容に合わせたクリエイティブの生成や施策の自動実行など、マーケティングのオートメーションをさらに進めるようなツールがどんどん増えてくると思っています。

こうしたデータ活用の上流、下流含めた全体のムーブメントに広がることで、一過性のブームでない積み上げの技術、文化の進歩に繋がっていくと考えています。

皆さんも2024年は、AI系の機能だけでなくそれを機能させる、活かすためのツールや技術に注目してほしいです。

まとめ

ここまで長文にお付き合いいただきありがとうございます。ここまでグロースマーケティングに関する3つのトレンドについて、私なりの考えを交えてお話しさせていただきました。3つの中で特に話題となったものは、やはり生成AIに関するものでしょうか。これ以外にも市場動向が動いたと感じる年でした。

しかし、これらのいずれにおいても「データをどのように扱うのか」という観点が含まれており、今後グロースマーケティングに関わる全員が持つべき視点であると考えます。

また、変化の激しい業界だからこそ定期的にトレンドを振り返り、定期的に発信できればと考えております。この記事が皆様のお役に少しでも立てましたら幸いです。

それでは良いお年をお過ごしください。

References
*1 参考:生成 AI の活用に関する企業アンケート|帝国データバンク
*2 特定のカスタマージャーニーではなく、認知、興味、検討からCRMまで、一気通貫で顧客にアプローチすること。
*3 トレジャーデータ株式会社が提供するオープンソースのETLツール

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