昨今、現代のビジネスにおいて重要なKPIとなるライフタイムバリュー(顧客生涯価値:1顧客からある一定期間を通じて得られる利益)が重要視されていますが「LTVってそもそも何?」「計算方法がよくわからない」などといった声もよく聞きます。
この記事ではデータドリブンマーケティングで企業のファンを増やす支援を行っている株式会社DearOneのメンバーが「LTVのマーケティングにおける重要性と計算方法」を解説します。
代表取締役社長 河野
CTO 佐々木(以下 サム)
経営企画 秋津
マーケティング 安田
LTVの計算方法は?
安田 今回のテーマ「LTVのマーケティングにおける重要性と計算方法」について、皆さんのご経験に基づく豊富な実例も交えて、深掘りトークを行っていけたらと思います。よろしくお願いします!
河野・サム・秋津 よろしくお願いします!
秋津 LTVの重要性について考えたとき、結構世の中にヒントが溢れているな、と気づきました。今回は私が最近体験したことから、身近なLTVの例を用意してきました。
さて皆さん、お家の方にウォーターサーバーって持っていますか?
安田 ないです。どちらかというと、お金持ちが持っているイメージですが…。
秋津 ウォーターサーバーって購入しますと、携帯電話を乗り換えたときのキャッシュバックみたいな特典がたくさんついているんです。
これは何でだろう、というところを紐解いて「このキャッシュバックを支払っても、どうして利益が成り立つのか?」と考えたとき、「これはLTVと高い親和性がありそうだ」と思ったんです。
そこで、ここで諸説あるLTVの計算方法の中から1例を挙げると、サブスク型の場合、まずはARPA(Average Revenue per Account:対アカウント単月顧客単価)、つまり1顧客あたりの粗利と平均月額から、1月ごとの顧客単価を確認することから始めます。
河野 ARPU(Average Revenue per User:対ユーザー単月顧客単価)という指標もあるよね。ARPAとARPUはどう違うんだっけ?
秋津 ARPAはper Accountですから、一人あたりの顧客単価の話になりますね。対してARPUは、スマホとタブレットなど複数台端末を持っている場合など、それぞれをユニークで別に数えます。これを同じ河野さん一人として数えるならARPAということになります。
河野 なるほど、勉強になりますね。
秋津 ウォーターサーバーの場合、一人あたりの月間の粗利に平均利用月数をかければ、ARPAを算出できます。そこから逆残して、「マーケティングコストとしてのキャッシュバック金額をいくらまで出せるか」を算出できるな、と思い至りました。
ウォーターサーバーにしても携帯電話にしても、一定の継続期間が見込まれるものであれば、やはり大きな獲得コストをかけてでも顧客を取りにいくべきだということが、方法論としてわかってきているわけですね。
ウォーターサーバーって水代も込みで、一人あたり大体月4,000円ぐらいの価格になります。例えば1,500円くらいの粗利があるとし、また継続月数を少々長めに見て60カ月ぐらいで取るとしますね。
というのも、私が契約したのって、子供がすぐ喉が乾いて「お茶を飲みたい」と言うからだったんですね。そこで、ウォーターサーバーがあれば子供が自分でお水を飲んでくれるだろうと見越して、子供が小学生でいる間、すなわち60カ月ぐらいは利用するかなと考えました。
そうすると、一人あたり「1,500円 × 60ヵ月 = 9万円」と計算して「一人当たりの利益が9万円取れる」ことがわかります。そして、9万円取れるときに、それが一人を獲得した場合の最終利益になるので、これを取るためにどこまでコストをかけていいかがわかる、というわけです。
そうなると、次に出てくるのがCPA(Cost per Acquisition:顧客獲得単価)あるいはCAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得単価)です。一般的に「LTV ÷ CPA = 3」以上であればいいと言われていますね。
つまり、顧客を獲得するためのコストに、LTVの1/3まではかけてよいということです。ウォーターサーバーの例でいえば、先ほどの9万円を3で割った3万円までなら、新規獲得にかけていいと割り出せます。
これは例えば、量販店や総合ショッピングモールなどで、アルバイトを雇いキャッシュバックまで行った上、バックオフィスまで考えて「この3万円で成り立つか?」と考慮しながら、そこをどこまで踏み込めるか判断をするということになります。
このように、身近な場所で大きなキャッシュバックをやっている機会があると私自身、LTVについて考えてみるようになりました。
日常生活において、客の立場でも店側に「ここまでキャッシュバック行けるんじゃない?」と吹っかけたら、もっと安くしてもらえるのではないか、対等に話したり交渉したりすることもできるのではないかと感じました。
≪.LTV Memo≫
LTV(1顧客からある一定期間を通じて得られる利益)の計算方法
LTV = 粗利 × 継続(回収)期間
CPA(顧客獲得単価)= LTV ÷ 3
LTVを高めるには?―「期間」との関係
安田 ありがとうございます!以前、河野さんとも話していたのですが、ことLTVとなるとやはり「期間」の話抜きには語れませんよね。
「期間」をどう見るかということは、結構難しい問題でして、今の秋津さんのお話ですと、そもそもある程度事業を継続していればもちろん「平均継続期間は大体これぐらいだね」と出せると思うんです。
ただ、新たに立ち上げる事業で「期間」をどれぐらいに設定して見るかというのは、すごく難しいことだと思います。
サム 確かに難しいですね。
安田 「これってどうやって計算するんだろう?」と純粋に疑問です。
秋津 そうですね。そこは結構、新規事業では必ず考えるべきことなのかもしれません。ですが、まあ何から何まで完全に新しいモデルって、そこまでないのかなとも思います。
類似のサービスなどを一定ベースにしないと、何も基準になるものがないことになりますから、そこはやはり類似したサービスやモデルなどから判断していく必要があるのではないでしょうか。
河野 今の話はまさに核心に触れていて、ウォーターサーバーの例だと、サブスク型のウォーターサーバーについて「60カ月 = 5年」は継続すると期限を見積もった場合、「9万円の3分の1 = 3万円」くらいまでかけられます、という話でした。
問題なのは、それができていない企業がたくさんある、ということだと思います。そこを本来、LTVからちゃんと逆算して、CPAでいくらかけられるかって落とし込んでいくべきなのに、それを年間予算を基にやっている会社がほとんどですよね。
つまり「年間にかけられるマーケティングコストがいくらで、今期の新規獲得顧客目標が何人で……だから一人にいくらかけられますね」という算出の仕方をしている会社が多いわけですが、それだとLTVが一切無視されていてプラスとマイナス、どちらにも振れる可能性があります。
どういうことかと言うと「いや、それではビジネスモデルとして全然成り立っていない。注文を取る度に赤字になります」という状況に陥るケースもあれば、「本来ならマーケティングコストに3万円かけられるのに、予算から逆算したため一人あたり5,000円までしかかけられていないことで、獲得数が大きく減ってしまいます」というケースもあり得ることになります。
だからこそ、LTVを考慮してCPAを考えることが本当に重要になってくるんです。
安田 そうですね。ただし粗利で見ると、まあまあ厳しいことがあるのも事実です。
河野 そうだよね。さっきの例でも、さらに固定費がかかってくるからね。
安田 はい。かなり単純化したCPAなど、獲得単価だけだならいいのですが、固定費分が無視できない存在になりますよね。そこが結構難しいなと思いますね。
河野 はい。ただこれは「サブスクだから必然的にそうなるのでは?」といった話ではなく、基本的に他のビジネスモデルや業界でも同じ考え方をすべきです。しかし、実際にはできていない会社が多いです。
「MQL(Marketing Qualified Lead)を取るために必要な単価が大体いくらだから、年間のマーケティング予算はいくら…」などとやっていては、そこにLTVは全く加味されていない。
本来はLTVを加味した上で事業ごとに見るべきで、最低でも何年継続というところから「月額何年分」という要素を足し、ただし最低でも変動費は引くなど限界利益は考慮しつつ、固定費は無視した状態で「3分の1」まではかけましょうと考える……。
こうすれば、顧客一人あたりに対し相当のコストをかけられるようになるはずですが、残念ながらそういう導き方をしている企業は少ないですね。
以上のように本来は、事業部ごとのLTVから「1人あたりどのくらい使えます」などのように逆算した、新たなCPAを用いるべきなんですね。
≪.LTV Memo≫
CPAはLTVから逆算せよ!
※当ページは、2022年10月のインタビュー記事です。