この記事は、2024年7月2日に開催された「GLOBALIZED B2B 製造業 〜 グローバル競争を勝ち抜くための Web 戦略 〜」の一部セッションレポートです。イベント全体のレポートはこちらからご覧ください。
はじめに
Wovn Technologies 上森氏|
こんにちは。本セッションは「グローバル市場を勝ち抜くために ~B2Bマーケティング戦略の鍵はローカライズ」というテーマで、パネルディスカッションを進めていきます。
庭山さんのことをご存じの方も多々いらっしゃると思いますが、B2Bマーケティングに数十年取り組まれており、グローバルのトレンドやそれを踏まえた日本企業の取り組みの支援をされています。私たちのようなソフトウェア企業も庭山さんのところに相談に行っており、私も相談させて頂いています。庭山さんは、今年は「儲けの科学 The B2B Marketing*1儲けの科学 The B2B Marketing」というB2Bマーケティングについて語り尽くしている書籍も出版されていますので、ご興味あればぜひご覧ください。
シンフォニーマーケティング 庭山氏|
シンフォニーマーケティングの庭山と申します。今年62歳になりますが、マーケティングに出会ったのが大学1年生の時なので、かれこれ42年間、ひたすらマーケティングをやっています。じつは42年間マーケティングをやる中で、飽きたことがありません。1秒もないと思います。世の中にはいろいろな人がいますが、1つのことを40数年間やってきて、1秒も飽きたことがない人は余りいないのではないかと思います。
そういうものに巡り合えて、40数年仕事にしていることは幸せなことだと思います。その幸せに恩返ししたいということで、8年前から大学院でもB2Bのマーケティングを教えています。同時に、今も現役のマーケターですので、今日は現役のマーケターとして、製造業のグローバルマーケティングについて語りたいと思っています。
私が34年前に創業した会社が、シンフォニーマーケティングです。顧客の70~80%が日本の大手製造業です。日本の大手製造業にフォーカスして、コンサルティング、研修、アウトソーシングという3つの柱でサービスを提供しています。
こうした企業のマーケティングチームと一緒になって、「この製品をどのように売ろう?」「この事業をどのように立ち上げよう?」「北米でどのように売ろう?」「アジアにどのように展開しよう?」といったことに日々取り組んでいます。今日はそうした現場の視点からお話しできればと思います。
Wovn Technologies 上森氏|
私も少しだけ自己紹介させてください。いま41歳、北海道で生まれて北海道で育ちました。大学院を中退してデロイトトーマツに入社しました。デロイトトーマツでは、上場企業向けに会計監査をしたり、コンサルティングを提供してきました。ずっと大手企業、上場企業と一緒にビジネスをやらせていただいてきました。
また、アメリカのスタートアップでカントリーマネージャーをやった経験もあります。ヘッドクォーターがシアトルで、数十人の会社でしたが、多拠点展開していました。結果的にうまく行きませんでしたが、こうした経験も踏まえて、いまグローバル化・多言語化という切り口で日本企業のグローバル化を応援しています。
WOVNは2014年に創業して、「世界中の人が、すべてのデータに、母国語でアクセスできるようにする」というミッションを掲げています。
いまインターネット上にあるコンテンツのうち、日本語のコンテンツは2.5%しかありません。残りは色々な言葉で構成されています。WOVNが創業した10年前は日本語の比率は5%でしたが、10年で半減しました。日本語のインフルエンスが下がったというよりは、他のあらゆる言語がインターネット上に倍増したことが要因です。実は英語の比率も下がっています。それだけ母国語で情報発信する方々が増えています。こうした状況がある中で、日本語でフランス語の情報にもアクセスできる、ポルトガル語の情報にもアクセスできるという世界を、技術を使って実現したいと思っています。
WOVNは、直接Webサービスを提供する企業ではありません。企業に多言語化サービスを提供するという事業を展開するB2Bの企業で、WOVN.ioというブランド、Web、ERP、ソフトウェアなどの多言語化を支援しています。最近はグローバル企業の基幹システムや会計システム、経費精算といった社内システムのあらゆるインターフェースを多言語で提供できるようにするといったことも始めています。
導入いただいている企業の業界・業種は様々ですが、東証プライム企業の4社に1社ご利用いただいています。今日のセッションは製造業がテーマですが、製造業以外にも訪日インバウンド、交通系、航空会社、外食、スポーツ、金融など、様々な業種の企業と取引させていただいています。
こうした各業界の企業と多言語化のプロジェクトを進めていく中で、庭山さんのお話を皆さんにお届けできると助けになるかもしれないと思い、本日はセッションを企画させていただきました。
今日のセッションは、大きく2つのテーマを設定しています。前半は「グローバルでのB2Bマーケティング」というテーマで庭山さんからお話しいただきます。後半は「日本企業がグローバル企業に追いつくために取り組むべきこと」で、コンテンツやチーム・組織といった切り口で深掘りしてお話ししていきます。
グローバルでのB2Bマーケティング
日本のB2Bマーケティングは世界から15年遅れている!?
シンフォニーマーケティング 庭山氏|
グローバル企業の最新マーケティングトレンドということで話していきます。今日は製造業のグローバルマーケティングに取り組まれている方が殆どだと思いますが、前述した通り、シンフォニーマーケティングのお客様も殆どが製造業です。そして、今ここで非常に多くの失敗事例が生まれていますので、そこに警鐘を鳴らしていきたいと思います。
まず日本のB2Bマーケティングは、アメリカやヨーロッパから比べると大体15年遅れています。日本が15年遅れていることをマーケティングをやってる会社は知っています。グローバルマーケティングをこれから始める会社も多分これから思い知ると思います。もっと言うと、海外リージョンに勤務してる人たちは身をもって知っています。従って、海外リージョンに行くと「うちの会社、日本の本社がマーケティングを全然わかっていない」という話をよく聞きます。
残念ながら、15年遅れていることは事実です。そして、結果として何が起きているかというと、「アメリカの方が進んでいるから、アメリカの現地法人にグローバルマーケティングを任せよう」という会社が増えています。そして、私が知る限り、全部とは言いませんが、この判断は殆ど失敗しています。
マーケティングは、グローバルヘッドクォーターがやるべきです。そうしないと、グローバルデマンドセンターは作れません。グローバルプラットフォームは作れません。
では、日本のマーケティングは15年も遅れているのに、どうやって日本のヘッドクォーターが世界をリードするのかといえば、そこは勉強するしかありません。そこから逃げてはいけません、といったことも今日はお話ししたいと思います。
世界のB2Bマーケティングは不景気とAIの影響で進化が止まらない
世界のB2Bのマーケティングは、元々日本よりも15年進んでいるわけですが、今は更に加速しています。何故かというと、アメリカの不景気が要因です。約18カ月前、アメリカのハイテク分野のマーケターは、約10万人が職を失いました。アメリカ企業というのは、景気が悪くなると最初にマーケティングとPRを削減します。
私のLinkedInにほぼ毎日のように「辞めました」「クビになりました」「転職しました」というメッセージが入ってきており、アメリカで何が起きているのだと思ったのが1年前です。
そして、実はこういう時にマーケティングテクノロジーは進化します。マーケティング部門を1/3に、1/10に削減するわけです。しかし、仕事量は変わりません。だからこそ、そこを埋めるためにテクノロジーが進化します。アメリカの歴史を見ていると、不景気な時にマーケティングテクノロジーは圧倒的に進化してきています。
2000年にインターネットバブルが弾けた時もそうでした。2010年のリーマンショックの時も同じです。そして、まさに今も同じです。今は従来のテクノロジーに加えて、AIが入ってきていますから、進化スピードが更に加速しています。
私の友人に、スコット・ブリンカーという人がいます。彼は世界のマーケティングテクノロジーをウォッチしてカテゴライズしています。マーケティングテクノロジーのマップを皆さん見たことがあると思いますが、あれを作っている人がスコット・ブリンカーです。
私が彼に出会ったのは2014年です。その時に彼がマッピングしていたのは、300程度のブランドでした。300程のマーケティングテクノロジーをひとつひとつ見て「マーケティングオートメーションだ」「コンテンツマネジメントシステムだ」といった形でカテゴリーに分けていました。「大変な作業だね」と言ったら、「殆どがクラウドサービスで、どんどん機能が追加されるのでとても大変」と言いながらやっていました。
2014年バージョンで約300ブランドだったマーケティングテクノロジーのマップは、2024年バージョンでは14,500ブランドを超えています。10年でマーケティングテクノロジーはこれぐらい増えています。
そして、もう一つ重要なことは、14,500ブランドのマーケティングテクノロジーがある中で、日本に来ている会社は僅かです。15年も周回遅れの国で先端のマーケティングテクノロジーは売れないと、日本には進出してこないわけです。この問題にも、私たちは立ち向かう必要があります。
マーケティングの原点回帰
マーケティングのテクノロジーが進化しているアメリカやヨーロッパで、いま起きていることは原点回帰です。
メールを書くことも、ランディングページを作ることも、フォームを作ることも、AIがやるという時代は現実になっています。そうなった時、人間であるマーケターに残された仕事は何かというと、実は戦略だったり、戦術だったりです。その結果、原点回帰するわけです。
私がマーケティングを学び始めた40数年前、私は当時の師匠にマーケティングの原理原則は「3R」だと言われました。
Right Person
Right Information
Right Timing
つまり、正しい人に、正しい情報を、正しいタイミングで伝えることがマーケティングの要諦だと教わりました。それは現代でも何も変わっていません。つまり、誰がライトパーソンか、その人が今欲しい情報は何か、その人が情報を受け取ってくれるタイミングはいつか、というのを調べる道具、マーケティングテクノロジーがいま全世界に1万4,500あるということです。
こうした原理原則が分からなければ、どんなツールも使いこなせません。多くの日本企業はツールを使えていませんが、その問題も同じところにあります。
なぜ、日本のB2Bマーケティングは成果が出せないのか?
日本のB2Bマーケティングが成果を出せない理由は何かというと、日本人はツールから入ってしまいます。マーケティングオートメーションを入れました。そして「マーケティングオートメーションの操作ができるようになりました」と言います。しかし、マーケティングオートメーションの操作ができることと、マーケティングができることは全く別です。
皆さんのパソコンの中に、Wordなどの文章作成ソフトが入っていると思います。そして、皆さんはWordが使えることと人の心を動かすような感銘的な素晴らしい文章を書けることは別だと分かっています。だから「貴方はWordを使えるんだから小説を書きなさい」とは誰も言いません。
しかしマーケティングになると、こういう勘違いがとても多くなります。マーケティングオートメーションが操作できると、マーケティングができるような気になる。また、マーケティングオートメーションが使える人はマーケティングができる人に見えてしまう。とんでもない間違いです。マーケティングを勉強しなければ、正しくマーケティングオートメーションは使えません。このことを分かって欲しいと思います。
イゴール・アンゾフさんは、アンゾフの成長マトリックスで有名な方ですが、アンゾフさんは「3S」という考え方を提唱してます。
Strategy(戦略)
Structure(組織)
System(システム)
何かの課題を解決したかったら、まず戦略(Strategy)を立てなさい。ちゃんとした戦略ができたら、戦略を実現するために十分な質と量を持った組織(Structure)を作りなさい。そして、戦略と組織、つまり何をやるのか、誰がやるのかということが要件定義できて、初めてシステムが導入できます。最後がシステムです。
日本企業のマーケティングオートメーションの殆どはメール配信にしか使われていません。マーケティングオートメーションにとって、メール配信は本来持っている機能の1/100程度です。何故こうなるかというと、システムを最初に入れているからです。
マーケティングの戦略もない。マーケティングの組織もない。だけど、マーケティングのシステムがある。そういう会社にできることはメールを山ほど出すことだけです。結果として、「マーケティングオートメーションを入れる前と後で何か変わりましたか?」と聞くと、「メール発信の数が増えました」となります。これではスパムメールを増やしているだけで、売上には何の貢献もしません。
だからこそ、しっかりとマーケティングを学びましょう。いくら良い道具を買っても、使いこなすスキルを持った人や組織がなければ、宝の持ち腐れどころか、迷惑メールを増やして顧客に嫌われるだけです。
日本企業がグローバル企業に追いつくために取り組むべきこと
先ほどお伝えしたように、日本のマーケティングが遅れているということを自覚したうえで、今投資すべきなのは道具ではありません。マーケティングのナレッジです。マーケティングの人材を育てることです。
育成を横着して、外資から人を持ってきても大体上手くいきません。社内の営業チームと上手くコミュニケーションできない人間を外から連れてきても駄目です。自社で「あの人なら」と思う人間に、きちんと時間とお金をかけてマーケティングのナレッジを学ばせることをしない限り、日本企業は強くなれません。
失敗事例でお話ししたように「アメリカに任せましょう」「ロンドンに任せましょう」とやっても、絶対にうまくいきません。グローバルの中でアメリカとヨーロッパが喧嘩します。アジアが置いてけぼりになります。日本が本社であるなら、日本がグローバルヘッドクォーターとして、グローバルマーケティングを展開しなければなりません。これを覚えておいてください。
では「マーケティング戦略を学ぶにはどうすれば良いか?」ということですが、そんなに難しいことではありません。
私の定義では、マーケティング戦略というのは経営戦略の最も重要なサブ戦略です。もしマーケティング戦略がない経営戦略があれば、それは絵に描いた餅にしかなりません。
経営戦略を実現するために最も重要なサブ戦略がマーケティング戦略で、それをしっかり作りましょう。マーケティング戦略を作るために必要なのがCMO、チーフマーケティングオフィサーで、これが日本にはいません。いなかったら育てるしかありません。だから、人を育てる、ナレッジに投資することがすごく大事です。
Wovn Technologies 上森氏|
庭山さん、ありがとうございました。お話の中でマーケティングオートメーションツールの話が出てきて思い出したことがあります。WOVNもB2Bマーケティングをやっています。
5年前に結構高価なマーケティングオートメーションツールを導入しましたが、私たちのデータベース自体に十分にフラグがついていなかったこともあり、結果的にメールをばら撒くだけになってしまいました。
いまのWOVNのマーケティング部長は、前職でも本当に試行錯誤してきてマーケティングに詳しい人材です。彼が「こんな高価なツールは要らないですよ」と、もっと汎用的なツールに切り替えて、一方で、やっている取り組みは10倍ぐらいに増やして、WOVNのパイプラインはとても増えています。マーケティングを勉強することは本当に大切だなと思います。
シンフォニーマーケティング 庭山氏|
ナレッジがないとそうなります。マーケティングオートメーションの営業を受けたことがある方であれば、「ドラッグ&ドロップで、キャンペーンを設計できます」といったデモを見て、「便利だ」「これがオートメーションか」と思った事があるかもしれませんが、あれだけでは絶対に使い物になりません。
マーケティングオートメーションを安易に使うとスパムメールを量産するだけです。いまインターネットの世界はデジタルレピュテーションというものがあり、「この会社はスパムメールを出すな」と判断されると、どんどんデジタルレピュテーションが下がり、そもそもメールが届かなくなります。このようにマイナスしかありませんので、マーケティングオートメーションがメール配信ツールになっているなら、今すぐ運用を止めたほうがというぐらいにメール配信で使うのは危険です。
Wovn Technologies 上森氏|
ツールの使い方を勉強しながらも、ユーザーやオーディエンスの心を動かす。デジタルレピュテーションを下げない、むしろ上げていくようなマーケターになっていこうというのが大事ですね。
B2Bマーケティングで一番重要なものはコンテンツ
シンフォニーマーケティング 庭山氏|
私はB2CとB2Bのマーケティング、両方を経験しています。そこに関しては、B2Cよりも、B2Bの方が楽です。
B2Cのマーケティングというのは、理屈で説明できません。何故ならエモーショナルだからです。基本的にB2Cでは、欲しい人が自分のお金で買います。「欲しい」というのはエモーショナルです。そして、自分のお金で買うから、買う理由にロジックは要りません。
しかし、B2Bの購買はロジックの世界です。なぜならエモーショナルでは稟議が通りません。「WOVNのシステムを入れたいんです」という時、「何故?」と言われて「カッコいいからです」と答えたら、その人のキャリアは終わりでしょう。WOVNのシステムを入れることで、どういう課題が解決するか、どういうリスクをヘッジできるのかをロジックで説明できなければ、稟議は承認されません。
だから、B2Bの方がマーケティングの設計はある意味で楽です。学ばずにB2Cみたいなマーケティング、ハートに訴えかけるようなことをやる会社もあります。しかし、効きません。親しみを込めて関西弁でコンテンツを作るとかは要りません。私はB2Bのコミュニケーションはポライトであり、きちんと礼儀正しく接するべきだと思います。
そして、すごく大切なことはケーススタディです。課題を解決したい人にとっては、「どの方法でこの課題を解決することが良いのか?」が重要です。その時、一番頼りになるのはケーススタディです。
B2BとB2Cの違いとしてロジックとエモーショナルということ以外にも違いは沢山ありますが、際立った特徴の違いとして、「売り手と買い手の知識の差」ということがあります。
B2Cの場合、売り手が圧倒的に知識が多いことが殆どです。たとえば、カーディーラーの営業が持つ自社の車に関する知識、あるいはファッションブティックのハウスマヌカンが自分のブランド・製品に関して持っている知識を、買い手である消費者の知識と比べたら、圧倒的に売る方が強いでしょう。
しかし、B2Bの場合、例えば、複雑な工作機械を売ってるセールスパーソンと、その工作機械を使って毎日物作りをしている現場のエンジニア、どちらがその機械に詳しいかというと、ユーザーである現場のエンジニアです。B2Bの場合、多くの場合、ユーザーの方が製品について詳しいし、100歩譲ってもイーブンです。プロとプロです。だから、ハートウォーミング、エモーショナルは要らないのです。
「この製品はここがスゴいんです」とスペックを言う必要はなく、相手はカタログを読んでいますし、カタログやセールストークはある程度盛っていることも分かっています。相手は、「それはいいから、どういう業種の、どういう規模の、どういう部署の、どんな課題をどうやって解決したの?」ということを知りたいのです。だから、私はケーススタディをきちんと作る、それをグローバルに展開することが一番重要だと思っています。
グローバルマーケティングにおけるコンテンツ展開のポイント
Wovn Technologies 上森氏|
後半テーマ「日本企業がグローバル企業に追いつくために取り組むべきこと」の内容を大きく2つにまとめると、1つが適切なコンテンツをポテンシャルユーザーに届けるためにどうするかという話、もう1つ、役割分担やチームをどうするかという話になります。
グローバルマーケティングでコンテンツを考える時、特に気を付けるべきこと、注意しなければならないことはどんな点になるでしょう?
シンフォニーマーケティング 庭山氏|
先ほど日本の企業、特にB2Bの製造業は、欧米と比べるとマーケティングが15年遅れていますと話しました。全部が全部15年ではなくて、もっと遅れている部分もあります。一番遅れてるもののひとつがPRM、パートナーリレーションシップマネジメントです。パートナー、つまり販売代理店をどう活用するかというノウハウは、欧米では確立されていますが、日本にはノウハウがほとんど入ってきていません。
パートナーの選び方、あるいはパートナーのモチベーションを維持する、パートナーの営業をトレーニングする、パートナーの営業が売った後を引き取るカスタマーサクセスを整備する、パートナーに良い案件を渡して成果をあげてもらうといったことにノウハウがありません。しかし、ここを強化しないと海外の販売は動きません。
そして、ここでも重要になるのがコンテンツです。シンフォニーマーケティングで顧客と一緒に海外リージョンへの展開に取り組んでいると、海外パートナーの営業は売ってくれる製品と売ってくれない製品が明確に分かれます。売ってくれる製品の共通点は何かというと。「売れる」「儲かる」「手離れが良い」です。
「売れる」というのは、メーカーがどれだけプロモーションするかです。どれだけ良いWebサイトを作って、良い事例を提供して、お客様に説明しやすくするかということです。やはり全然知られていないものを売るのは大変です。ある程度はお客様が知っている・聞いたことがあるという製品やサービスでないと売ることが大変なので、積極的に扱いません。
「儲かる」は、メーカーと販売代理店との間の契約の話です。
そして、最後にすごく重要なことが「手離れが良い」、カスタマーサクセスです。たとえば、製品・サービスのWebサイトに行った時のFAQです。いまアメリカの会社は、製品・サービスサイトにチャットツールが入っているのが一般的です。しかし、日本ではまだメジャーではありません。
仮に、WebサイトにFAQもない、チャットボットもない、現地法人もあまりしっかりしていないとなると、販売代理店の営業が「この製品を売ったら、その後のサポートやクレームも全部自社に、自分に来るのではないか?」と思います。この段階で売るモチベーションは下がります。
手離れを演出するうえで、Webサイトがすごく大事なんです。販売代理店の営業が「私たちは売ればよい。注文書を回収して、納品・代金回収すればOK。あとはメーカーがしっかり後ろを守ってくれる」と思ってくれると、やる気がぐっとあがります。こうした部分もすごく大事で、売るための良いコンテンツがある、サポート系のコンテンツが充実している、FAQがある、チャットボットもあるとなれば、販売代理店のやる気が高まるわけです。しかし、こうしたもの無しでやろうとする企業が日本は多いので、アメリカの代理店からすると「これを売るのは面倒くさいな…」となってしまいます。
Wovn Technologies 上森氏|
いち生活者としての肌触り感がある事例ですが、「売る」でいえば、たとえば日用品、ティッシュ・石鹸・シャンプーであればメーカーがしっかりとプロモーションしている。CMでの露出に加えて、店舗向けの販促品やPOPもしっかり用意して、店舗で売りやすく、扱いやすくしてあげるということですね。
グローバルマーケティングを成功させるための組織体制とは?
シンフォニーマーケティング 庭山氏|
日本のメーカーは海外の大きな代理店を見つけると、そこに「売ってください」とお願いするわけですが、「売ってください」のなかにマーケティングが入っていることが多いです。しかし、販売代理店は営業部門です。マーケティングはしません。
国内でも基本的に同じです。販売代理店の大半は色々なメーカー、製品の販売代理店となっています。従って、扱う1個1個の商材やブランドのマーケティングなどは出来ません。
例外的にマーケティングをできる・やっている販売代理店もあります。そうした販売代理店は「この国でエクスクルーシブ(独占的)な販売権を貰えるならマーケティングからやる」といった形で契約します。しかし、そうした形で契約しても、本当にマーケティングからしっかりやっている販売代理店は、あまり見たことがありません。そうすると契約失敗です。エクスクルーシブな契約をしているので、他の販売代理店とは契約できませんし、直販もできません。エクスクルーシブ契約した販売代理店があまり売ってくれないとなると手詰まりです。
メーカーと販売代理店で、マーケティングと営業をきちんと役割分担した方が良いです。そうしないと、上手くいきません。
Wovn Technologies 上森氏|
「売れる」を作るためにコンテンツが必要ということですが、導入事例・顧客事例になると思います。グローバルマーケティングで考えた場合に、顧客事例を展開するうえでのノウハウやポイントはありますか?
シンフォニーマーケティング 庭山氏|
私たちは、マーケティングに紐づく組織コンサルティングも多く手掛けていますが、グローバルマーケティングを成功させるためには、グローバルデマンドセンターを作り、まずデータを統合すべきです。マーケティングオートメーションを考えると、データは絶対に一元化した方がよいです。
日本企業はよく「GDPRが怖い」と言いますが、GDPRは日本企業のデータベースに欧州在住の人間が入っていればGDPRに従わないといけないという規定になっています。従って、GDPR対応を後回しにする意味はありません。GDPRが出来る前は、日本が世界で一番厳しい個人情報保護法を持っていました。従って、日本と欧州の規定をカバーすれば、世界中OKになります。そうした点も含めて、日本企業であれば、日本が中心になってグローバルデマンドセンターを作るべきです。ここがまずデータの話です。
次に、そこにどういうコンテンツを当てるかに関しては、インダストリーカット、またリージョンカットになります。たとえば、製造業でも、アジアと北米と欧州では違う事例の方が効果があります。また、製造業でも、自動車産業の事例は半導体業界に刺さらないし、半導体業界の事例はバイオには効かない、ケミカルには効かないといったことも起こります。
従って、インダストリーとリージョンでカットして、コンテンツを作っていく必要があります。これを全部日本だけでやるのは無理です。そのため、コンテンツを作る部分はある程度ローカライズする必要があります。同時に、良いコンテンツが見つかった時に、「このコンテンツはこのリージョンでだけ響くコンテンツだ」なのか、それとも、「世界中に共通でシェアすべきコンテンツだ」なのかを判断して、リアルタイムに世界中で見られるようにシェアしてあげるといったことは、グローバルデマンドセンターでやるべきです。
Wovn Technologies 上森氏|
国によって会社の認知度も全然違ったりしますからリージョンでカットするということですね。
シンフォニーマーケティング 庭山氏|
その通りです。例えば、シンフォニーマーケティングの顧客には外資系企業もありますのが、その多くはアメリカ本社です。そうすると、アメリカで導入事例になっている企業が、日本ではそこまで認知度がない場合もあります。
アメリカ本国ですごく成功したコンテンツがあるとして、それが、例えばアメリカでは非常に有名な大手企業だったとします。そのコンテンツをグローバル展開する時、その企業・ブランドの認知度が低いエリアであれば、企業名の固有名詞を削除して展開することもあります。「アメリカを代表する大手ケミカルメーカーA社」という形にしてしまいます。認知度が低い場合には、この方が感情移入して読んでくれます。最初から「知らない会社だ」と思われると読まれないので、むしろ固有名詞を削除した方がよいケースがあります。
こうしたコントロールを、グローバルヘッドクォーター、グローバルデマンドセンター、グローバルマーケティングチームでやることが大切です。「このコンテンツは世界中にシェアすべきだ。言語ローカライズしよう」、逆に「このコンテンツは、この国でしか響かないので言語ローカライズはしなくてよい」という判断をするということです。
グローバルデマンドセンターの役割とは?
Wovn Technologies 上森氏|
庭山さんが仰るグローバルデマンドセンターというのは、マーケティングリードやコンテンツを集めるグローバルマーケティング本部というイメージでしょうか。
シンフォニーマーケティング 庭山氏|
そうです。「マーケティング」という言葉は抽象的で、該当する範囲が非常に広いです。例えば、日本で「マーケティング」というと、多くの人はリサーチもブランディングも入れて考えます。これに対して、「デマンドジェネレーション」をすごくシンプルに言うと、マーケティングからリサーチとブランディングを引いたものです。
デマンドジェネレーションのミッションは、案件を作って、商談を見つけて、営業や販売代理店に安定供給すること。この仕組みがデマンドジェネレーションです。そして、デマンドジェネレーションをつかさどる組織がデマンドセンターです。このデマンドセンターをグローバルで作ることが大切です。
そうすると、営業が案件を作らなくてもよくなります。良い案件を追ってクロージングすればいい状態になります。そして営業がクロージングすれば、その後はカスタマーサクセスが引き取ってくれる仕組みを作れば、営業の可動領域が狭くなるので、営業は売ることにフォーカスできます。そうすると営業の生産性が非常に高まります。
これをやらないと、恐らく日本企業は世界で勝負できません。売上を作るすべてを営業がやる。案件を見つけるところから、商談するところから、クロージングするところから、納品するところから、代金回収するところから、カスタマーサクセスまで含めて、全部を営業にやらせていたら生産性は上がりません。日本の営業の生産性が先進国で一番低いのは、これが理由です。
日本の製造業が持つポテンシャル
Wovn Technologies 上森氏|
アメリカの場合、色々な人種の方がいて、知識や能力・経験もバラバラで、販売対象となる消費者の方も様々であるという背景があるので、いわゆるジョブ型、仕事の役割分担が非常に明確になっています。一方で、日本は背景が逆になっているイメージもあり、アメリカほど機能や役割分担を細分化するところまでスグにいかないとは思います。ただ、従前の日本企業だと営業がお客様を発掘して、売って、サービス提供して…と全部やっていたのを、デマンドセンターを作ることで営業から外すというイメージでしょうか?
シンフォニーマーケティング 庭山氏|
そうです。同時に、日本の場合、全てをやっていた営業がいるからこそ、営業がマーケティングのボキャブラリーやフレームワークをきちんと勉強するととても早く素晴らしいマーケティングチームを作れます。
営業の人間の中から選抜してマーケティングにアサインして、マーケティング部門を作るトレーニングをすると、1年や2年で、そのインダストリーのグローバル企業と肩を並べるマーケティングチームが作れます。これは凄いことです。
欧米の場合、マーケティングやセールス部門の人間は頻繁に転職します。結果として、自分の腕が頼りで、明日には転職するかもしれませんから、自社や製品に対するロイヤリティがないことは当たり前にあります。
一方で、日本企業の場合、まだまだプロパーが多いわけです。だから、自分の会社や製品・サービスに対するロイヤリティが桁違いに高いです。顧客とも良いリレーションシップを培っているし、自社の製品・サービスもしっかり知っていて、会社に対してリスペクトもあるから、良質なコンテンツを作れます。カスタマーサクセスもきちんと機能します。その中で、マーケティング、デマンドジェネレーションだけ弱いんです。
日本企業の状態を、私はよくこんな表現をします。大学受験するときに、殆どの科目が67や68という高い偏差値なのに、英語だけ40なんです。だから、どこを受けても英語が足を引っ張って不合格になります。苦手な英語を、他と同じ67や68には出来ないかも知れません。でも、英語を偏差値60まで上げれば、英語が足を引っ張って落ちる大学はなくなります。
日本企業のグローバル展開というのは、この状態です。マーケティングで世界トップになる必要はありません。偏差値60まで高めれば、他の技術、人、ロイヤリティもあるので、とくに製造業は世界と十分戦えます。
マーケティングを勉強しよう
Wovn Technologies 上森氏|
最後に庭山さんからクロージングのコメントをいただけたらと思います。
シンフォニーマーケティング 庭山氏|
繰り返しになりますが、マーケティングを学ぶことです。
マーケティングにおける売上の方程式は色々ありますが、すごくシンプルに言うと「顧客基盤×営業基盤」です。日本企業が国内においてマーケティングが要らなかったのは、素晴らしい顧客基盤とすごく強い営業基盤を持っていたからです。しかし、海外に行くと両方ありません。顧客基盤はないし、営業基盤もありません。だから、上手くいかない。強い販売代理店にお願いして、強引に売ってもらうことになります。
海外でも「顧客基盤×営業基盤」という構造は同じです。マーケティングを学んで、マーケティング部隊を先行させることが大切です。マーケティングで案件を作って、データを溜めて、それからクロージングの営業部隊が行くという流れです。これがグローバルスタンダードです。欧米企業が日本市場に来るときは、最初に、営業の1年前にマーケティングが入ります。
私は日本もこうしたことを覚えて体系的にやっていけば、日本企業はまだまだ光り輝くと思います。
Wovn Technologies 上森氏|
「マーケティングを勉強しよう」ということですね。私も日々勉強していますが、庭山さんの書籍もそうですし、マーケティング関連でどうしようというお悩みがあれば、ぜひ庭山さん、シンフォニーマーケティングさんに相談してみてください。それでは庭山さん、お話ありがとうございました。
スピーカー
Wovn Technologies – 日本語サイトの多言語・自動翻訳
関連リンク
*1 | 儲けの科学 The B2B Marketing |
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