この記事は、2024年5月16日に開催された「GLOBALIZED by WOVN.io インバウンド最前線 2030年15兆円市場へ」の一部セッションレポートです。
日本空港ビルデング株式会社の堀と申します。本日はよろしくお願いいたします。本日は、会社概要、羽田空港の概要、羽田空港のマーケティング活動、最後に~まとめ~というアジェンダでお話させていただきます。
日本空港ビルデング株式会社とは
日本空港ビルデング株式会社の会社概要です。設立は約70年前、1953年の7月です。社名のとおり、羽田空港における事業を主に行っていますが、成田国際空港・関西国際空港、中部国際空港でも事業を一部やっています。
羽田空港を利用されたことがある方も多いかと思いますが、現在は3つのターミナルが存在します。赤が第1ターミナル、青が第2ターミナル、緑は少し前まで国際線ターミナルと呼んでいましたが、現在は第3ターミナルという名前になっています。3つのターミナルを日本空港ビルデングと連結子会社の東京国際空港ターミナルで建設、管理・運営しております。
会社の基本理念として「公共性と企業性の調和」ということを掲げています。事業の特性を踏まえて、ここにあるような経営方針のもとで空港ターミナルを建設、管理・運営しています。
羽田空港は、第二次世界大戦後アメリカが管理しており、その後日本に返還されたという沿革があります。当時の日本は財政難で、滑走路側は国の予算で整備しましたが、ターミナルビルは民間企業の出資によって建築することになりました。それに伴って設立されたのが日本空港ビルデング株式会社になります。
日本空港ビルデング株式会社を本体として、グループ全体で連結子会社が19社あり、ターミナルビルの建設、管理・運営を担っています。
10年連続ファイブスターエアポートという最高評価の羽田空港
先ほど紹介したとおり、羽田空港には第1〜第3まで3つのターミナルビルがあり、周辺には駐車場やその他いろいろな空港の関連施設があります。
上記は世界の空港旅客数ランキングです。直近の2023年、また2022年、そして2019年のデータです。羽田空港は、コロナ禍前の2019年は世界5位の航空旅客数でしたが、コロナ禍の影響で大幅に順位を落としました。世界的に航空旅客が減りましたが、日本はコロナ禍の回復が世界的に見ると少し遅く、2022年は16位という旅客数になりました。しかし、2023年はコロナ禍前に戻り、世界5位、年間旅客数は約7,900万人になっています。2019年と比較すると9割強まで戻ってきており、もう少しで完全に回復する状況です。
コロナ禍前、国内線の就航図です。1日の出発便が約500便。これに到着便を合わせると1日約1,000便という規模です。
続いて国際線は、1日で出発便が168便。国内線と国際線の出発・到着をあわせると1日約1,300便という規模になります。
また羽田空港は、スカイトラックス社という英国にある空港の格付け会社が実施している空港の評価では、10年連続ファイブスターエアポートという最高評価をいただいています。
部門別に見ると世界一綺麗な空港として9年連続1位、また、国内線のターミナルビルの評価では12年連続の世界1位、また、障がい者の方に優しい空港という部門でも6年連続の世界No.1の評価をいただいています。
羽田空港のマーケティング活動
マーケティング活動のミッション
ここから羽田空港のマーケティング活動の内容に入っていきます。まず背景として「顧客起点経営」が必要であると考えています。時代と共に、顧客のニーズも変化し、また多様化する中で、お客さまのことをよく知って顧客満足度を向上させる、あるいは会社にとっては収益の拡大に貢献することが、マーケティング活動のミッションになります。
上記のミッション実現に向けてロードマップを定めています。
まず「顧客を知る」、同時に「他部門との連携」です。当社は連結子会社19社と共にターミナルの建設、管理・運営をしていますので、会社あるは部署をまたいでマーケティング活動をしていかないと、お客さまのところに活動が届きません。
次に中央の「タッチポイント設計」です。お客さまと接するところはデジタルとフィジカル、リアルの接点があります、また、デジタル接点でも、ホームページがあったり、アプリがあったり、SNSだったり、サイネージがあったりといろいろなタッチポイントがあります。従って、各々の役割の整理と情報発信、コミュニケーションが必要となっています。
そして、最後に「マーケティング業務のフロー確立」です。いろいろなデータを分析して、こういうサービスがあると良さそう、こういう情報発信が良さそうということを議論した後、具体的な業務として設計して落とし込んでいくプロセスです。前述の通り、グループの各社、各部署で連携しながら活動に落とし込んでいくことが大事です。
「お客さまを知る」ことから始まるマーケティング 顧客調査・分析
羽田空港のマーケティングですが、まずお客さまの数は航空旅客数で約8,700万人、また非航空旅客、従業員や取引先、飛行機には乗らないお客さま、たとえば、空港ファンで羽田空港に遊びに来る方、食事や買い物に来る方、あるいは送迎の方が約2,700万人いますので、あわせると1億人を超えるお客さまがいて、1億通りのニーズがあると考えています。
まずは、お客さまを知るところから始めようということで、さまざまな手法を使って調査を実施しました。
最初に行ったのは、羽田空港利用者像の仮説ということで、真ん中にある丸のついたグラフの部分です。羽田空港に来る方にはいろいろな方がいます。縦軸にONとOFFとありますが、ONは仕事で羽田空港を利用する出張やビジネス利用の方、OFFは遊びに行く、旅行に行く、帰省といった方です。そして、横軸の左右は、空港の利用回数です。頻繁に空港に来る、飛行機に乗る方もいれば、じつは一番多いボリュームゾーンは年間1〜3回ぐらいという方です。このようにさまざまな方がいらっしゃるので、顧客のペルソナを作成して、どんなサービスが求められているのかということ考えました。
さらに、追跡調査も実施しました。机上で考えた仮説に加えて、実際にお客さまをモニタリングさせていただき、たとえば、京急さん、モノレールさん、あるいはバスで羽田空港にきた方が、どこにどのように、またどのくらい滞在して、どんなサービスを使っているのか。あるいは、どこで迷ったり休憩したりしているのか、実際に見て回るような調査も実施しました。
3つ目に顧客WEBアンケートとありますが、スライドに入っているのはインスタグラムのスクリーンショットです。「羽田空港を利用される方にアンケートさせてください」ということで、かなり長いアンケートを実施しました。1,000〜2,000人規模で協力いただき、「こういうところに不満や不便を感じているのか」「ここに満足いただいているのか」ということを数字としてしっかり捉えました。
最後4つ目が顧客オンラインインタビュー調査です。デプスインタビューに近い形になりますが、会話のキャッチボールを通じて、より深くお客さまを理解していくことを実施しました。
「便利」「リアルタイム」「楽しい」羽田空港の公式アプリ
こうした調査・分析を経て、やはりアプリは重要なタッチポイントになると考えて、羽田空港の公式アプリを、2021年にローンチしました。「便利」「リアルタイム」「楽しい」ということをキーワードにして、まずはマスマーケティング、全員に同じ情報を発信するところからサービスを開始しました。
One to Oneマーケティングにも当然トライしていこうと考えており、一部開発中の機能もありますが、会員サービスを提供しています。自分の利用するフライトを登録して「あなたが乗る飛行機は定刻通りですよ、あるいは遅延しそうです」といった情報から、おすすめの過ごし方、各種予約サービスなど、諸々のサービスを設計して、アプリを通じて提供することに取り組んでいます。
具体的にどんなことをやっているかですが、スライド左側に女性の写真と吹き出しがあります。赤字で書いてあるのは不安な感情です。たとえば「もうゲートに行った方がいいのかな・・・」や「フライトは定刻通りかな?」「混雑しているかな?」といった気持ちは、空港を利用する方であれば誰もが同じような気持ちを若干は持っているかなと思います。また、青字で書いてあるのは「免税店で化粧品を買いたいな」とかポジティブ、楽しみたいといった気持ちです。
私たちの調査結果、あるいはお客さまにヒアリングした結果、この図にあるように不安な気持ちの方が多いと考えています。空港が広すぎるとか、偶にしか来ないから覚えきれない、とかいろいろな背景・要因があると思います。
ここに対して、アプリを通じて、スライド右側にあるような顧客に最適なメッセージを送るということに取り組んでいます。
たとえば、位置情報を取れば「羽田空港に来た」ということが分かりますので、「羽田空港にようこそ。ご予定のフライトは定刻どおりです」とか、「搭乗予定時刻まで90分なので、時間は充分あります」「保安検査は混んでいませんので大丈夫です。5分ぐらいあれば通過できます」「予約いただいた免税品はピックアップ済みで、お渡しできます」。あるいは「貴方が乗る搭乗ゲートの近くにカフェがあって、新作のケーキがありますので、いかがですか?クーポンもお渡しします」などです。こうした情報発信を通じて、赤字で書かれたような不安を取り除き、空港での時間をより楽しいものにシフトしたいと考えています。
マーケティング施策はマスからOne to Oneへ
マーケティング活動の全体像を表現したスライドですが、下がマスマーケティングで、上がOne to Oneマーケティングです。いろいろと書いてありますが、前提としてマスマーケティングの情報発信には限界があるかなと思います。また、収益という点でもOne to Oneマーケティングの方が、相手にあった情報をタイミングよく提供できるので効果的だと考えています。
今の話を細かなカスタマージャーニーとして落とし込んだ一例です。旅前から旅後まで、大事なことはお客さまにあった情報をタイミングよく発信することだと思っています。位置情報や趣味嗜好、また、空港を頻繁に利用する方なのか違うのか。お客さまのことを深く知って、その人にあった情報を適宜発信していくことです。
アプリだけではなく、フィジカルでのコンシェルジュサービスであったり、空港内でのモバイルオーダーであったり、いろいろなタッチポイントがあると思いますが、やはり旅前から旅後までをフルカバーすることが大事だと思っています。
一例として海外旅行のシチュエーションです。たとえば、利用するフライトを登録して、利用したいサービス、たとえば、WiFiのレンタル、免税品の購入、レストランの予約といったことをアプリで登録します。そうすると、「WiFiはロッカーで受け取りができますよ」「免税品は事前にWebで予約すると、受け取りが便利でお得なサービスがありますよ」といった情報をプッシュ配信して、「そんな便利なサービスがあるならWebやアプリで事前に予約しましょう」と思っていただく。そして、当日は時間の余裕を持って出国できるという流れです。
これは、国内での家族旅行のケースです。浅草の写真が載っていますが、東京を旅行中に「帰りは何時の飛行機です」や「お土産はECで予約すると、すぐ受け取れます、あるいは家まで配送も可能です。送料もこんなお得になるキャンペーンをやっていますよ」とコミュニケーションすることで、観光により時間を割いて、ぎりぎりまで東京の観光を楽しむことにつながると考えています。
DXとの一体的な取り組みと全体設計
私はデジタルマーケティングが中心の部署で仕事をしていますので、デジタル施策を展開するうえではDXとの一体的な取り組みが大事かなと思っています。DXの取り組みに関して、スライドはかなり簡略化していますが、大きく分類すると8つの施策があります。
少しだけ紹介します。たとえば、一番左は「基幹業務システムの改善」ということで売上や予算等を管理するシステムのブラッシュアップなど、守りのDX的なものです。
中央には「混雑状況の把握と予想」とあり、LiDAR、IPカメラ、ステレオカメラ、開閉センサーと書いていますが、こうしたIoTのセンサーなどを使って「いま空港内のどこにどれぐらいの人がいるか?」ということを把握して、顧客とのコミュニケーションに反映する。さらには「明日、あるいは来月、この場所はどのぐらい混みそうだ」というような予想までやろうと思っています。
一番右は「顧客満足度の把握」で、たとえば、Webアンケート・NPSを把握する、あるいはインターネット上のGoogleやXでのクチコミを把握するといったことをやって、データを掛け合わせて分析しようと思っています。
何故こうしたDXに取り組んでいるかというと、たとえば、基幹システムで売上や利益は管理していますし、予実管理もしています。そうすると、売上や利益の予算・実績がよければ好調だと思われるかも知れません。
しかし、業績は絶好調でも、じつは混雑情報をみると、ある店舗が非常に混雑しており、お客さまが大行列しています。アンケートやクチコミをみると「大混雑で買うのを断念してしまいました…」というものがあります。そうすると、この状態は、弊社の経営あるいは空港のオペレーションとしては課題がある、顧客満足度として正しいのか、ということになります。
いまの業績は良いかも知れませんが、顧客サービスには課題があるので、改善策を考える必要があります。そして、改善策を実施したら、混雑状況が改善しました、あるいはクチコミの結果も良くなりましたとなれば、改善策は成功したことになります。こうした流れをオペレーションに落とし込んでいくことが大事かと思っています。
CRMの活用でグロースマーケティング促進
いまお伝えした流れを、よりシンプルに表現したものです。データを取得して、顧客のセグメントを設定して分析します。そして、マーケティング施策の実施につなげます。実施結果をまたデータ取得して・・・という形で、このサイクルをぐるぐるぐるぐると動かすことが大事だと思っています。
これはインバウンドに関するデータですが、羽田空港からの出国者数データをみると、コロナ禍前は外国人が45%と、日本人が少し多い比率でしたが、直近で見ると外国人が57%、日本人が43%と逆転しており、外国人の方々の利用が伸びていることが分かります。
売上はどうなっているか、免税店エリアの売上高を国籍別に表したデータです。2018年度、2019年度は、日本人による売上が1/3程度ありました。しかし、直近で見ると、日本人による売上は伸びておらず、少し落ちています。中国の売上も同様で、日本でも中国でもない、その他の東南アジア、韓国・台湾、北米といったエリアの方々による売上が非常に伸びていることが分かります。
ここでWOVNさんの話になりますが、こうした状況を踏まえると、外国の方々に対するマーケティングは非常に重要になっています。空港にはいろいろな母国語の方がいらっしゃいますので、本当に英語や中国語だけで十分なのかという問題があり、多言語対応ということは非常に大事になってきます。
いま提供しているアプリは、じつは日本人向けで日本語対応だけになっています。ここにWOVN.ioという多言語化ソリューションを入れて、さまざまな国の方に母国語で羽田空港のサービスを提供することを考えています。WOVN.ioを入れて、羽田空港を利用される方々の上位10か国語に対応すると、利用者の98%以上に対応できます。これを人力で翻訳して多言語化することは不可能だと思っていますので、ソリューションを使って発信することを考えています。
最後に ~まとめ~
最後に、今後取り組んでいこうと思っている大きな流れをご紹介します。図の上に「アクセス」「ターミナルビル」「航空」とありますが、大きくこの3つで提供する事業者が異なります。システム的にいうと、たとえば顧客IDが異なり、UIも違います。
デジタルプラットフォームを使って、具体的にはAPI連携などを通じて、1つの顧客IDでさまざまな事業者のサービスをつなげて情報発信していくということが、最高の顧客体験に向けたゴールイメージだと考えて、現在プロジェクトに取り組んでいます。
以上になります。最後までご清聴ありがとうございました。