この記事は、2024年1月25日に開催された「マーケターの集い 2Days Camp -Under34-」のセッションレポートです。記事化に際してセッション内容を一部割愛していますので予めご了承ください。
スピーカー
はじめに
司会|
公式セッション「理想のキャリアの実現に向けて AIが浸透している今、考えるべき12のこと」を始めます。スピーカーは、株式会社ディー・エヌ・エー エグゼクティブビジネスプロデューサーの今西陽介さんです。
ディー・エヌ・エー 今西氏|
今日のテーマは「理想のキャリアの実現に向けて」ということで、キャリアがテーマです。
キャリアは迷いますよね。参加者の中には「やりたいことが明確にある」という方がいらっしゃると思います。同時に「やりたいことがあまりない。でも今の会社で働いている」という方もいると思います。どちらが正解というものではないと思います。ただ、何となく「やりたいことがある人ってかっこいい」という感覚があると思います。
でも、実際にはそんなことはなく、やりたいことがなくても今やっていることをしっかり積み上げるとキャリアは作れます。今日はそういった話を出来ればと思います。ご参加の皆さんは30歳前後の方が多く、キャリアに迷うこともあるかと思いますので、参考になれば幸いです。
私自身のキャリアも後ほど紹介しますが、何かを明確に目指してやってきたわけではありません。マーケティングを中心に経験してきましたが、昔から「マーケティングをやりたい」と思っていたわけではないです。先ほど話したように「ひとつひとつ積み上げる」ことをしてきたら、今があるという形です。
今日私が話すことは正解でも何でもありません。ただ聞いていただいて「明日からやってみようかな」「今日からやってみようかな」という気づきがひとつでもあれば満足です。
セッションを聞いていただく上で、明確にやりたいことがある人は「目指していることを実現する成功確率をあげるためにどうすればいいか?」という視点で聞いていただければと思います。また、現段階で目指していることがない人ももちろんOKで、「やりたいことがない時、どういう積み重ねがキャリアにつながるのか?」という視点で聞いていただければと思います。
良いキャリアとは何か?
ここまで軽く自己紹介させていただいたところで、ひとつ質問です。あなたにとって「良いキャリア」とは何でしょうか? そして、良いキャリアを作る上で「転職をする」と「社内で頑張る」、どちらが良いでしょうか? 正解はありません。ただ、30秒ほど考えてみてください。
転職と自社でのキャリアアップ、正解はありませんが、ひとつの考え方を紹介できればと思います。
まず転職のメリットは何かというと「視野が広がる」こと。短期的には「給料があがる」ことも多いと思います。また、赤字にしていますが、「現職におけるマイナスの解消」はすごく大きな要素です。「いまの仕事が大変」とか「嫌な人間関係」が解消されるといったメリットです。
一方で、転職すると信頼や経験はゼロリセットされます。たとえ経験があっても、周りからは「新しく入社したあの人使えるの?」という目で見られるわけです。これに耐えられるかは転職した後、最初に大事なポイントです。
私の知人、40歳ぐらいの人が転職しました。最初から○○マネージャーといった役職付きです。でも苦戦して若手からインプットされたりもしています。転職することで、信頼の積み上げもゼロリセットされるからです。
一方で、右側は「自社でのキャリア積み上げ」です。一生懸命積み上げることで、信頼関係や人間関係が深まり、また相互理解などが進んでいきます。こういうキャリアとの付き合い方も全然ありだと思います。私はどちらかというと右側のキャリアです。新卒で入った会社を3年で辞めて今の会社に約20年在籍してここまで来ましたが、こういう考え方でやっています。
プレイヤーとして持つべき8つのキャリア感
転職と自社でのキャリアアップ、どちらの場合もキャリア形成する上で考えたほうがいいことがあると思っていて、今日はそれを12個にまとめてきましたので共有していきます。プレイヤー偏とマネージャー編に分けて紹介していきます。本記事では、その一部の紹介になります。
考え方1:POD/POP/POF
まず1つ目はマーケティングのフレームワークに基づく考え方です。POD(Point of Difference)、POP(Point of Parity)、POF(Point of Failure)、3つのフレームワークでキャリアを考えていこうという話です。
まずPODは選ばれる理由、他社との違い、買い手にとっての便益です。PODを直訳して考えると「差別化ポイント」みたいな話になることもありますが、「違い」を作るだけでは何の意味もありません。「違い」が相手(この場合でいうお客様や、BtoBの場合は会社)にとっての便益であって初めて意味があります。
次のPOPです。選ばれない理由にならない必要最低条件、少し分かりづらいので、後で事例で説明します。
POFは、選ばれない理由、明らかにダメな理由です。
自動車メーカーの事例で考えてみましょう。たとえば、PODは便益です。この車にしかない最新機能があったり、デザインや色が好みだといったことです。
次のPOPは燃費です。自動車で燃費が良いことは素晴らしいことです。ただ、燃費の良さというのはほぼ当たり前になっていますので、買い手は燃費がよい+αを求めるようになっていると思います。こうしたものがPOP、選ばれない理由にならない必要最低条件です。
最後にPOFは、1カ月するとブレーキが壊れる、とかです。そんな車は誰も買うわけがありません。
POD/POP/POFを人材に、自分に置き換えて考えてみましょう。
まず「あなたのPODというのは何ですか?」という問いが出てきます。
圧倒的なコミュニケーション力、また、リーダーシップがあり決断力が強い、2つとも良いですよね。転職時の評価になりそうです。
POPの差がつかないポイント。たとえば、レスが5分で来る人と、1時間で来る人で評価に差はつきません。レスの反応速度に関しては、休みの日を除く仕事時間中において、24時間以内に反応がないひとは基本的にPOFになりがちではあります。
また、知識が多い。これも差になりません。知識はChatGPTをはじめとしてAIが導いてくれる時代になる中で、「何を言うか?」はもちろん大事ですが、「誰が言うか?」がより重要なポイントになりつつあります。
そして、POFです。車だと「1カ月でブレーキが壊れます」みたいな話ですが、人材だと、他責にする、愚痴が多い、謙虚じゃないといったことです。POFがある人材とは一緒に仕事をしたくないですから、ビジネスパーソンとしてPOFをなくしていくことはキャリアを考える上での基本になります。
考え方2:どこに時間を使うべきなのか?
「仕事をする上であなたの強みは何ですか?」、つまり、あなたのPODは何ですかを考えた次に来ることは、「自分の時間をどこに使っていますか?」というテーマです。
自分の能力を分解してみた場合、強みであるPODは10〜20%ぐらいです。そして、POP、つまり他の人と変わらない部分が70〜80%ぐらいです。
この時、時間の使い方として「自分の強みを生かすように時間を使っていますか?」ということが非常に大事です。
自分の強みを磨き込み、ビジネスの時間の大半を強みの領域で使うべきということが言いたいことです。
スライドの右上に書いてありますが、他者と代替できるものでは理想のキャリア形成は難しいでしょう。また、AIにできないことを自分のキャリアとして取り組んでいかないと、市場価値はあがりません。これは現在のキャリア形成として非常に意識すべきことだと思っています。
私は「優秀な人ってどんな人ですか?」という質問をよくいただきます。その時「24時間の使い方が上手な人」という答えをすることがあります。時間の使い方として、強みの領域に選択と集中をすることが大事だと考えています。
考え方3:AIとの向き合い方を考える
次にAIの話をします。AIやロボットが登場してずいぶん経ってます。います。AIやロボットと戦おうと思っても勝てません。では、どういう考え方でやれば良いか、という話です。
歴史をひも解いて考えることが大事です。
まずフェーズ1として肉体労働がロボットに代替されました。最初、ロボットが本格的に何に使われたかというと、工場の作業員の代わりにロボットを使おうというところです。物流センターの作業とかを思い浮かべてもらうとよいでしょう。ただし、今も肉体労働の仕事がゼロになったわけではありません。
次にフェーズ2で、知的労働の仕事にAIが入ってきています。ChatGPTを始めとして、2023年は知的労働がAIに代替される流れが一気に進みました。
肉体労働がロボット、知的労働がAIに置き換えられていく中で何が残るかというと、これが全てではありませんが、感情労働だと思います。感情労働、つまり人の感情が影響する労働は、今のところ代替するものがありません。
中には、感情を表現できるロボットもあり生活を豊かにしてくれる側面もありますが、感情ロボットは人の業務調整はしてくれません。たとえば「AさんとBさんが喧嘩しています」という時に、感情ロボットが仲裁できるかといえばできません。これは人間にしか出来ないところです。こういった人と人との調整をして、ビジネスを前に進める力=実行力、推進力、調整力などが人間の価値になってくると思います。
また、知的労働に関しても、AIを使うことでヒントは得られても、AIは決断することはできません。従って、決断力を磨いたり、そして、AIをうまく使いこなしたりすることが、AIへの向き合い方かなと思っています。
考え方4:戦略実行力をつける
先ほどのAIとの向き合い方、決断力を磨くという話から繋がってきますが、「戦略実行力をつける」ことが今の時代にすごく大切だと思っています。
「やりたいことが決まりました」「いまの会社で私はこれをやっていく」という時に大事になるのが実行力です。
たとえば、大きな会社で戦略コンサルが入っていたとします。その時、その戦略コンサルに手触り感がなく、現場でも実行が伴わないないケースは結構あります。そうすると描いた戦略も実行できなくなってきますし、実行力は非常に大事かなと思います。
ここまでの話のまとめにもなりますが、理想のキャリアを実現する上では、まずフェーズ1でPOD「強み」を磨く。フェーズ2として、強みを生かす。そして、フェーズ3で機会を増やしていくというステップだと思います。
なお、スライドのフェーズ1PODの磨き込みで、知識を赤字で記載しています。繰り返しになってしまいますが、今後は知識では差がつかない時代になります。正しい知識はAIで調べられるので、知識を自分自身がどう翻訳してアウトプットできるかが重要になります。
知識の量では差がつきませんが、知識を使いこなす段階は人間がやるしかありませんので、ここが大切だと思います。
考え方5:アプリよりもOSを磨いていく
今からどんなスキルを磨いていけばいいかという話が、考え方5です。私はアプリとOSですべての仕事を分けて考える癖があるので、磨くべきスキルも分けて考えてます。
マーケティング領域のスキルとしてのアプリに当たるのは、SNSやSEO、コミュニティ、デジタルマーケティング、PR、CRMといったスキルです。OSはリーダシップとか戦略思考力、コミット力、関係性構築力といったものです。
アプリにあたるスキルを仕事で正しく使うためには、適切なOSが必要になります。適切なOSがあって、初めてアプリが機能するものだと考えています。
たとえば、ある人がSNS活用に関して提案してくれたものが素晴らしいとします。ただ、素晴らしいけど、その人にリーダーシップがなくて実際には仕事を進められないとなれば、その人には依頼しません。
OSはどんな仕事でも共通で使えるスキルだからこそ、「私はこのアプリがあります」だけの状態だと、キャリア形成においてはすごく危ないと思います。
スライドで紹介したOSはあくまで一例です。私の中では100個ぐらいあると思いますが、こういったOSの要素は大事だなと思っています。
繰り返しになりますが、アプリのスキルはAIに代替されやすい部分でもあります。広告代理店さんが実施しているデジタル広告の運用実務は既にAIがほぼやってくれる状態が実現しつつあると思います。
そうなると、デジタルマーケティングにおける「広告運用」というアプリはなくなってしまう、全てなくなりはしませんが衰えていくわけです。従って、やはりOSにあたるスキルを磨くことが大事です。
キャリア形成する上で大切な4つのポイント【マネージャー編】
ここからはマネージャーが持つべき役割やマインドを説明していきます。
考え方9:メンバーの中長期のキャリアに向き合う
まず1つ目の話はプレイヤーも共通だと思いますので、リーダーやマネージャーだという人も、そうではない人もしっかり聞いてください。
上のスライドはキャリアの話でよく見る、Will-Can-Mustです。Willはやりたいこと、Canはできること、Mustはやらなければいけないこと。3つのバランスが取れている、領域の重なる部分が多いほど良いキャリアになります。
ここでひとつ質問です。、メンバーのWill-Can-Mustを完璧に把握していますか?
「やりたいことは一人前になってから主張しろ。まずは仕事をしろ」と、古い時代のマネジメントをしている人もいるかも知れませんし、「分かった、やりたいことをやりなさい」というマネジメントをしている人もいるかも知れません。どちらが正解ということはありませんが、まず相手を、メンバーの方をきちんと正しく知ることです。
マネジメントの視点ではメンバーのWill-Can-Mustを「知ること」「聞くこと」が大事です。
そして、メンバーの視点では「伝えること」も大事です。「あの上司は信用できない」「言っても一緒だ」と思うこともあるかも知れません。それでも伝えるべきだと思っています。
その上で大事なことは、「やりたいことをやるためには、出来ることを先にやりましょう」ということです。できることをやらないと機会をもらえません。シンプルな話です。
考え方11:役割の定義
「役割の理解」に続いて、「役割の定義」という話です。リーダーがどんな配分で仕事をすればいいかというテーマです。自ら考えて動く組織をつくるためには、リーダーの立ち位置が大事です。リーダーが全部考えて「あなたはこれをやりなさい」とやっていたら組織は崩壊します。
リーダーが絶対にやるべきことは、目的・方針の説明、そして、意思決定です。そして、それ以外のことと工数配分をどうすればいいかというと1:9です。方針説明が10%です。残りの90%は後ろで「方針通りに皆が動いてくれているか」「状況はどうなっているか」と見守ることです。
後ろから見守ることが大事です。後ろから余裕を持って見守るから状況を把握できます。真ん中の人が揉めている状況とかも分かります。リーダーが最前線で「俺がやるんだ!」とやっていると後ろが見えません。後ろで事故が起こっていたりします。だからこそ、リーダーは余裕を持って後ろから見守ることが大事です。
私は「草葉の陰から見守る」とよく言っていますが、それぐらいで良いと思います。メンバーと1on1している人もいると思いますが、メンバーに「仕事どう?うまくいっている?」と聞くと、メンバーは「はい」と言います。でも、実際にSlackやチャットを見ていると、その人がめちゃめちゃ大変だったりします。それでもメンバーは「はい」としか言えないんです。
後ろから状況を見ていれば、「じつはこの人、周囲から怒られているな」とか「無理してるな」と分かるんです。ただ、前にずっといると、後ろが見えなくなります。後ろから見守る。これがマネージャーの役割です。従って、マネージャーが工数過多という状況は絶対ダメなんです。
考え方12:メンバーに愛を伝える
メンバーに愛を伝えることが、マネージャーにより求められています。
給料を上げてあげることでメンバーが張り切ることはあると思いますが、より大事なことは「メンバーを求める」とか「メンバーの居場所を作る」ことだと思っています。
メンバーが張り切っているのに、マネージャーが「いや、俺の方が仕事できるぞ」とか言っていたら最悪です。メンバーに任せてあげることが、給料を上げてあげること以上に大事です。人は求められている実感があると頑張ります。
逆に言うと、プレイヤーの視点としては、求められるようにスキルセットを上げていく必要があります。求められるスキルセットを持たなければ、自分の居場所はなくなります。プレイヤーの人は自分のPOD「得意な領域」を作って、求められるようになることがとても大事です。
本題に戻ると、マネージャーの大事な仕事はメンバーに「求められている実感を作る」ことです。その時に、「人からの評価ではなく、自己のなかで評価できるのか」という考え方も大切です。
おわりに
最後に伝えたいのは、改めて理想のキャリアをどう考えるかです。
「理想のキャリア」を持つことは素晴らしいし、リスペクトすべきことです。ただ、こだわり過ぎなくても良いと思います。その場その場で、いま全力でできることは何ですかということが理想のキャリアを作る第一歩だと思います。人は自分が知っている世界でしか、やりたいこと「Will」は持てません。
私が小学校1年生、7歳の時にマーケティングの仕事をやりたいと思っていたかというと思っていません。なぜならマーケティングの仕事を知らなかったからです。従って、キャリアを作る上では、色々な世界を知る機会を積み上げることが大事かなと思います。
そして、知るだけでなく、経験することです。「百聞は一見に如かず」で、誰かから聞いた二次情報に踊らされるのではなく、自分で経験して意思決定しましょう。また、将来に漠然と不安を感じるよりも「今できること」をとにかく積み上げましょうということです。「できること」が積み上がれば、企業によって違いはありますが、給料も上がる可能性も高まります。年功序列の会社でも、できることを積み上げれば、給料はいずれ変わっていきます。
周りを見て「同じ歳の友人が独立しました。年収が100万以上あがりました」となると、不安になることはあると思います。でも、その時、冷静になることが大事です。あなたにしかできないことがあると思います。前半でお話ししたPOD「強み」です。PODをきちんと磨いていくことが、理想のキャリアを作る上で大切です。人と比べるのではなく、自分が満足できるかが全てです。
私はいま45歳ですが、皆さんと同じ30歳ぐらいの頃、特に何もありませんでした。結果も出ていませんでした。ただ、コツコツと積み上げた中で、ある大型プロジェクトにアサインされて結果を出したことが今につながっています。
やれることを増やすことが大事です。そして、目の前の仕事にフルスイングする、全力で取り組むことです。
以上で私からのメッセージは終わりたいと思います。ありがとうございました。