この記事は、2023年11月14日に開催したマーケターはスバヤク!打ち手を増やす業務改善|Growth Summit 2023のウェビナーレポートです。
はじめに
DearOne 石黒|
こんにちは。本セッションにご参加いただき、ありがとうございます。モデレーターを務めさせていただきます株式会社DearOneの石黒です。よろしくお願いします。
本セッションでは株式会社ゴルフダイジェスト・オンラインの執行役員、CMO/CIOを務めていらっしゃる志賀智之氏をお招きしまして、「マーケターはスバヤク!打ち手を増やす業務改善」というテーマでゴルフダイジェスト・オンラインさんで取り組まれているモダンデータスタックの活用、マーケターの業務改善にいかに役立てられているかをお話しいただきます。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
ゴルフダイジェスト・オンラインの志賀です。よろしくお願いいたします。現在、執行役員としてCMOとCIOを兼任しています。ゴルフダイジェスト・オンラインには2008年に入社してもうすぐ15年が経過しますが、長らくマーケティング関係を担当しています。
DearOne 石黒|
ありがとうございます。モデレーターの私も簡単に自己紹介させていただきます。改めまして株式会社DearOneの石黒です。DearOneでは、海外の優れたTech Serviceを日本の顧客に提供しながら、併せてマーケティングのコンサルティングを提供するグロースマーケティング事業を統括しています。本日はよろしくお願いいたします。
続きまして、ゴルフをやっている方はよくご存知と思いますが、ゴルフダイジェスト・オンライン様のサービスを志賀さんからご紹介お願いいたします。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
ゴルフダイジェスト・オンラインは、簡単にいうと「ゴルファーのためのポータルサイト」を運営している会社です。
具体的には、ゴルフ用品の販売、ゴルフ場の予約(ブッキング)サービス、ゴルフメディアの運営、最近ではゴルフ練習場関連の事業やレッスン事業まで、ゴルファーの方にゴルフライフを楽しんでいただくためのサービスを展開しています。
現在、会員数は500万人程度、ポータルサイトのトラフィックもかなり多くなり、ゴルファーの方にさまざまな用途で使っていただいています。
なぜモダンデータスタックが必要なのか
DearOne 石黒|
ありがとうございます。それではセッション本編に入っていきます。まずは、何故いまモダンデータスタックが必要かという点を考えていきたいと思います。モダンデータスタックはどういったところで必要になってくるか、志賀さんの視点をお聞かせいただけますか。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
私の考えではモダンデータスタックを導入する目的は、ユーザー体験をより良くすることです。
ユーザー体験をより良くするためには、当然それを支える人たちが必要になります。
マーケター、売り場責任者、サービス責任者、プロダクトマネージャーなどのユーザー体験を支える人が良い環境でデータを活用して、良い顧客体験を生み出していく。そのために必要なものがモダンデータスタックだと考えています。
DearOne 石黒|
ありがとうございます。たとえば、販売の現場で勤務していると、KGIやKPIは売上などのビジネス指標に偏りがちです。しかし、「マーケターはいかにユーザーの使い心地を良くしていくという視点が大切である」というお考えもあるでしょうか。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
そうですね。KGIやKPIはもちろん大切な指標のひとつです。ただ、KGIやKPIといったビジネスの指標・結果に伴って、「質」が担保されている必要があります。質を担保するためにはより良いユーザー体験が必要で、そのためにデータを活用してアプローチしていくのだと考えています。
GDOのモダンデータスタック(Modern Data Stack)
DearOne 石黒|
早速ですが、具体的にゴルフダイジェスト・オンラインさんで、モダンデータスタックをどのように使っていらっしゃるかを説明いただけますか。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
モダンデータスタックという言葉自体は最近出てきた言葉です。簡単に説明すると、データを貯めて、顧客をより深く知り、顧客のエンゲージメントを高めるためにいろいろなアプローチをする(エンゲージする)、このサイクルを支えるものがモダンデータスタックであると捉えていただければと思います。
モダンデータスタックというと、データベースのことを指しているように聞こえるかも知れませんが、ただデータを貯めることだけではありません。データベースはもちろん、データを分析して顧客のことを知るプロセス、そして、その結果を踏まえてどんなコミュニケーションをしていくかまでの一連のつながりを指しています。
ビジネスとしては、スライドにある「③エンゲージする」という部分が一番重要な部分になります。そして、エンゲージをうまくやるためには、「①データを貯める」「②顧客を知る」「③エンゲージする」がひとつなぎになっている必要があります。このプロセス全部を含めてモダンデータスタックと表現しています。
スライドはデータスタックがどんなシステムになっているかを簡略図として示したものです。
スライドの左側から説明すると、各サービスの基幹システムがあり、トランザクションデータ、伝票データ、また、顧客のマスターデータ、そして、行動データまですべてのデータを集めてきます。
CDPはTresure Dateを使って、一人ひとりの顧客をIDで捉えて、顧客の行動、トランザクションデータなどをすべて統合することで、顧客の解像度をあげていきます。
データを蓄積するだけでは意味がありませんので、顧客の行動にどんな特徴があるのか、どんな顧客がいらっしゃるのかを分析していきます。この顧客分析では、Amplitude(アンプリチュード)を使っています。
Amplitudeで分析して、顧客の行動や特徴を捉えた後、顧客とどうコミュニケーションをしていくのかという部分がマーケティングです。ここではSalesforce(セールスフォース)のMarketing Cloud(マーケティングクラウド)を通じて、顧客と接点を持つという流れになります。
最近では、顧客とのコミュニケーションだけではなく、顧客の行動データを踏まえてUX改善もしています。その基になっているのが、Contentsquare(コンテンツスクエア)というツールです。
Contentsquareは直接CDPと繋がっているわけではありません。CDPではWebログを蓄積していますが、ContentsquareはWebログではなく、ユーザーが実際の画面上でどんな動きをしているかを捉えて、顧客のペインポイントを考察して、UX改善につなげていくというものです。
DearOne 石黒|
ありがとうございます。確かに「顧客を知る」という部分がWebログの解析だけになっているケースはかなり多いですね。ゴルフダイジェスト・オンラインさんでは、いつ頃からユーザー単位での行動データ分析が重要だと思われて取り組まれてきましたか?
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
現在のCDPに相当する概念を、最初はDWH(データウェアハウス)と呼んでいました。DWHに伝票データやマスターデータがすべて入っていて、それをユーザーIDと紐づけて統合したものをタイムラインと呼んでいまが、タイムラインデータベースを作ったのはかなり古いですね。今から10年以上前だと思います。
DearOne 石黒|
CDPと呼ばれる前からそういった取り組みをされていたのですね。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
モダンデータスタックの仕組みをもう少し構造的にみると、スライドのようなシステム構造になっています。マーケティング活動の基盤となる部分の概念図で、左側に各層の名前が書いてあり、右側に各階層で何が行われているかを示しています。
一番下のデータ連携/コントロールは、基幹システムからデータを持ってくる機能、次のデータ蓄積/データ加工/データ活用はデータを貯めて分析するところです。
その上のトラッキングがWebサイト内のトラッキングで、ログを貯めて解析・分析していく部分。ディストリビューションは実際にメッセージを発信したり、Webサイト内でWeb接客したり、LPの表示や広告に使ったりする部分です。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
前述したようなマーケティングのプロセスを支えるシステムが、どういう形で構築されているかを表現したものが上のスライドです。
まずデータを持ってくるのは、JP1でバッチ処理しています。ここに伝票データを日次で持ってきます。
データを蓄積・加工するところはETLツールはTalend(タレンド)を使っています。CDPは先ほど紹介したTresure Dateです。
分析のところは、Amplitudeであったり、Tableau(タブロー)、また、AI(機械学習)はPredict Analytics(KXEN)(プレディクトアナリティクス)です。EXCELであったり、SQL文を直接打つようなこともあります。
データトラッキングは、Tresure DateとGoogle Analytics(グーグルアナリティクス)を併用して使っており、また、閲覧ログだけではなくContentsquareを使ってセッションリプレイも蓄積しています。セッションリプレイは、先ほど説明した通り、ユーザーの画面内での動きを追うものでUX改善に向けて利用します。
そして、ディストリビューションで実際に顧客とコミュニケーションする部分は、SalesforceのMarketing CloudやKARTE(カルテ)、Repro(リプロ)を活用しています。
DearOne 石黒|
ありがとうございます。ディストリビューションのところで、SalesforceのMarketing CloudとKARTEはどのように使い分けをされていますか?
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
元々、メールマーケティングを中心にディストリビューション層を改革する部分でSalesforceのMarketing Cloudを導入しました。その後、Webサイトやアプリでリアルタイムにデータ活用して顧客とコミュニケーションしていくためにKARTEを導入したという流れです。
DearOne 石黒|
なるほど、ありがとうございます。このシステム構成図は時々拝見していますが、時間が経つ中でどんどん変わっており、その変化も楽しみにしています。
ゴルフダイジェスト・オンラインさんは、他社に先駆けて新しいツールを取り入れていらっしゃいます。新ツールの導入時は事前の検証等もされるともいますが、どういったところをポイントに検討・検証されていますか?
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
たとえば、CDPであれば、当然スピードであったり、どの程度のデータ量を扱えるかといった部分は検討のポイントです。
また、定期的に入れ替えている意図のひとつとして、エンジニアのシステム構造の理解を促すという視点もあります。たとえば、入れ替えをせず、ずっと同じCDPを使っていると、エンジニアの入れ替わりに伴って徐々にシステムの全体構造を理解している人がいなくなってしまいます。だからこそ、定期的にCDPの入れ替えをするわけです。
また、分析ツールに関しては昔はTableauなどは存在していませんでしたが、そのように新しく出てきたものは積極的に取り入れたりしています。
Amplitude(アンプリチュード)も本当にずっと探していたツールでした。顧客分析しつつ、エンゲージメントを獲得するためのデータを作り、更にオートメーション化していくために導入しています。
Contentsquareは全く別の文脈で、ユーザーの行動観察調査をDX化するという意図で導入しています。
DearOne 石黒|
よく分かりました。ありがとうございます。多くのツールを導入して運用していこうとすると、「新しいツールを入れたが使いきれていない」といったケースも多いですが、導入・運用する上でヒントやコツはありますか?
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
CDP周りは専用のエンジニアをきちんと置く必要があると思います。基幹システムはサービスの増減などに伴って変化が生じますので、それに対応してCDPでしっかりとデータを取れる状態にするためにエンジニアは必要です。
一方で、AmplitudeやTableuは、マーケターや事業部、ビジネス側のユーザーが比較的簡単に触れる状態を作ったことも運用ポイントですね。Contentsquareに関しては、元々ゴルフダイジェスト・オンラインはユーザーテストをかなり積極的に実施する会社で、そのための専門部隊がいるぐらいでしたが、それをツールで効率化できるようにした形です。
Amplitudeで自動化工数が2週間から5分間という圧倒的な短縮
DearOne 石黒|
続いてAmplitudeの活用について事例を紹介いただけますか。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
Amplitudeは簡単にいうと顧客行動分析ツールです。たとえば、LTVの高いお客様はどういう行動をしてるのか、ユーザーがどういう行動をすると頻繁に使ってもらえるようになるのかといったことを分析できます。
DearOne 石黒|
そうした行動分析は、閲覧ログや伝票データ、顧客マスターなどのデータがあれば、Amplitudeを使わなくてもBIツールでも実現できませんか?
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
仰る通り、弊社もAmplitudeを導入する前は、BIツールで分析したりEXCELで分析していました。
ただ、本質的に大事なことは分析することではなく、分析をした後に何をするかです。たとえば、データを踏まえて特定の顧客リストを作って、そのリスト向けに何かレコメンドを送付するわけです。
これをBIツールを使って実施していました。しかし、作成した顧客リストをSalesfoceのMarketing Cloudに反映し、より細かくコミュニケーションのパーソナライズしていこうと思うと、運用段階でオートメーション化する必要があります。
BIツールでセグメントした顧客リストを作り、それをSalesfoceのMarketing Cloudに連携させて顧客とコミュニケーションして、結果を踏まえて改善していくというサイクルをぐるぐる回していくわけです。この時、既存のBIツールでは、オートメーション化するためにはSQL開発をする必要があることが実施のボトルネックになってきました。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
Amplitudeを入れる前がスライドの上側です。マーケターがBIツールで分析して仮説検証して、「良い結果が出た」となるとオートメーション化する流れになります。
しかし、オートメーション化しようとすると、SQL開発が必要になり、最短でも2週間、通常だと3週間ぐらいかかってしまう状態でした。これだけの時間がかかってしまうと、PDCAを高速で回せず、施策の手数が減ってしまう状態でした。
この状態をどうにかしないといけないということで、開発を入れずにオートメーション化できるツールを探しており、出会ったのがAmplitudeです。
Amplitudeは開発しないでオートメーション化できるツールになっており、マーケターが分析した結果、発見した顧客セグメントを、SQL開発しなくても自動で抽出して、SalesfoceのMarketing Cloudにデータ連携できます。そして、連携したデータに基づいて、Marketing Cloud側でEメール等で顧客とコミュニケーションしていくという流れです。
つまり、顧客分析とオートメーション化の業務改善をするためのAmplitudeですね。Amplitudeの導入はマーケターの業務改善に非常に貢献して、導入したことでオートメーション化する工数が2週間から5分間という圧倒的な短縮が実現しました。
その結果、今までこのプロセスに携わってきたマーケターの業務内容が変わったり、施策の数が増えたりといった効果が出ています。
手間が減ることで、よりカジュアルに施策の企画もできるようになりました。また、効果があるコミュニケーションを企画できた時にオートメーション化までの時間が非常に少なくなったということも効果は大きいです。
コミュニケーション施策は、ひとつ可能性を見出したら終わるものではなく、そこからクリエイティブを変えたり、セグメントを変えたりなどの様々なことをしながらPDCAを回します。この一連のサイクルを開発なしに回せる、結果として、高速で回せるというのはすごく重要です。
DearOne 石黒|
志賀さんは普段から「打席にたくさん立つ必要がある」と仰っていますよね。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
そうです。仮説検証をとにかく回すことが本当に大事だと思っています。いくらデータを分析してみても、顧客のことは少しだけしか分かりません。
だからこそ、分析で切り口を見つけたら、それで一旦「こういうシナリオが良いのではないか」「こういうコミュニケーションをやってみよう」と動かしてみて、顧客の反応というフィードバックをもらって、また改善していくというサイクルが大切です。従って、高速でどんどん施策を回せる環境が非常に重要です。
DearOne 石黒|
ありがとうございます。実際に、Amplitudeを入れたことで、どんな行動分析ができて、どんな施策を打てたのか?事例の紹介をお願いできますか。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
スライドに示されているのは、ECで購買してもらうことを目的として、新作アパレルの特集メールを送るアプローチですね。「春夏の新作でこんな商品が出ました」というご案内です。
メール送信の際には「どんな顧客に送ればいいか?」ということが重要です。すべての顧客に配信してしまうと、興味がない人にも送ってしまう形になりますので、顧客リストをセグメントして、本当に興味ある方、メールをクリックして特集ページを見て購入してくれそうな人に送りたいわけです。
そのリストを出すために行動分析をしたのがスライドの事例です。
分析していくデータには、Webの閲覧情報や過去の購入履歴などが含まれます。データをAmplitudeで分析すると、最終的にコンバージョンしやすい、メールを開封してクリックしてくれるであろう顧客のセグメントが抽出されます。そこから開発不要で、リスト抽出と配信までを動かしていくシナリオを作れます。
実際にやってみると、全体に一斉配信するよりもCVR(コンバージョンレート)も高いですし、メールの開封や閲覧も非常に高いという結果が得られました。
DearOne 石黒|
これはデータを分析したから得られた結果でしょうか?
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
そうですね。データを分析して配信することで、スライドのように明確な違いがある数字になりました。
DearOne 石黒|
データを分析していくことで、スライドにあるような14日以内といった閾値なども見出せるわけですね。やはり顧客分析は非常に重要ですね。事例のご紹介ありがとうございます。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
Amplitudeを使うことで、こういった施策を高速でどんどん動かせるわけです。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
このスライドはアプリにおける行動分析の事例ですね。ゴルフダイジェスト・オンラインでは、ゴルフ場でラウンドする時にスコアを記録できるアプリをユーザーに提供しています。
ゴルフの度にアプリを使っていただき、顧客のエンゲージを獲得する。そして、ゴルフダイジェスト・オンラインと長くお付き合いしていただくためのアプリです。
従って、「アプリを長く使っていただくためにはどうすればいいのか?」ということをデータから分析していきます。
インストールして数回使って止めてしまう方もいれば、ゴルフをする度に毎回使われて数百回分のスコアが入っている方もいますが、そういった方々の間にどんな違いがあるかを探ったところ、長く使っているユーザーはスコアを入力するだけではなく、パット分析機能を使っていることが見えてきました。
行動分析することで、長く使っていただくにはパットに関するスコア分析機能を知ってもらう必要があるということが分かったわけです。また、パット分析を使っていただけるとアプリのチャーンレート(離脱率)も低くなるということが分かりましたので、「初期にパット分析機能をしっかりと知ってもらう」というアプローチをしたわけです。
DearOne 石黒|
なるほど。行動分析から施策がでてくるわけですね。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
「4回以上スコア登録していただけると継続して使ってもらえる」といったデータもそうですね。4回というのはAmplitudeを活用することで見い出せたマジックナンバーです。
アプリを長く使っていただくためには、4回以上使ってもらうことが大切。そして、4回以上使ってもらうためにはパット数の分析機能を使ってもらうことが大切。行動分析によって、スコア登録が3回以下のユーザー、また4回以上登録しているがパット分析機能を使ったことがないユーザーに訴求していこう、と具体的な施策に結びつきました。
行動観察調査をDX化するContentsquare
DearOne 石黒|
ありがとうございました。次の事例はContentsquareですね。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
Contentsquareは先ほどご紹介した通り、ユーザーの行動観察調査を代替するツールです。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
ユーザーの行動観察調査を実施したことがある方は分かると思うのですが、行動観察調査は手間がかかる調査です。被験者の方にWebサイトを使ってもらいながら、それを観察していきます。色々なインタビュー等も交えながら操作した時の気持ちを確認したり、うまく操作できなかったところを見極めたりしながら、ペインポイントを探っていき、改善に役立てるための調査です。
この行動観察調査をDX化する、より容易にできるように導入したツールがContentsquareになります。
従来の行動観察調査では、被験者の方に操作いただくところをビデオで撮影していました。被験者の方を集めて、場所を確保して、機材をセットして、「このWebサイトを見て、何らかの商品を検索して購入するまでの流れを全部やってください」といったシナリオを作成し、モデレーターが誘導していきます。
また、そもそも被験者を集めることも大変です。さらに、ユーザーの画面操作をビデオで撮影するという特殊な環境を設定する手間もあります。そして、撮ったビデオを分析する必要があります。このように行動観察調査は、かなり手間がかかる調査です。
この手間を改善してくれるのがContentsquareです。Contentsquareは簡単にいうと、実際にユーザーが操作した画面を録画してくれるツールです。
もちろんプライバシーポリシー等の問題はクリアして、個人情報等は見えない状態ですが、「実際のユーザーが画面の中でどんな操作をして何が起きたのか」が見えます。実際のユーザーの画面操作がデータとして貯まっていく。それを分析して、WebサイトであったりアプリのUX改善に役立てることができます。
改善する時はいきなり開発を入れるのではなく、ある程度まではWeb接客を変えて解決できることはすぐ実施していきます。そして、「Web接客でこういうアプローチをすることで、顧客のペインポイントが解消できる」ということが分かったうえで開発するという流れです。
もちろん最初から開発しないと解決できない場合もあります。どちらにしても、重要なことは仮説検証を回すことです。Web接客なり開発をリリースした後に、またContentsquareでセッションリプレイをして、自分たちが意図したように顧客を誘導してペインポイントを解消できたかを解析していくことが大切です。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
Contentsquareを導入することでユーザ行動観察調査をDX化した実際の事例をご紹介します。
スライド中央にあるバームクーヘンのようなものはジャーニーと呼ばれ、ユーザーの画面の遷移を表しています。この中から顧客のペインポイントを探していくことになります。
たとえば、ペインポイントを表すパターンのひとつに「あるページから次のページに行って、また同じページに戻ることを繰り返す」という画面遷移があります。こうしたパターンの場合、顧客は自分の意図通りに動けていないケースが多くなります。
今回の場合で言うとスライドの赤い枠で囲んでいる部分がそれに当たります。ここを拡大して、「同様のパターンをしている人が何人ぐらいいるのか?」「どのページでこのパターンが起こっているのか?」といったことを分析できます。
そして、該当するユーザーにセグメントを絞り込んで、その人たちのセッションリプレイが見られるので、実際の画面操作などを見て原因を考察していきます。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
Contentsquareでは顧客の行動をずっと録画しているわけですが、ランダムにデータを見るのではなく、ジャーニー分析で絞り込んで、似通った課題やイレギュラーな行動がある顧客のセッションに注目することが活用のポイントです。
「エラー画面が何度も表示されている」「同じページがずっと表示されている」といったイレギュラーな画面遷移が起きているものだけをセグメントして、セッションリプレイで見ていきます。そうすると、何が起きているのかを効率的に特定できます。
スライドの事例は先ほど紹介したスコア管理アプリを分析したものです。
この事例でいうと、「プレーしながらゴルフのスコアを入力していって、18ホール全部回りました。データを保存してクラウドにアップロードします」という流れの最後で、「スコアの未入力ホールがあります」と指摘するダイアログが出ています。
開発の意図としては、ちゃんとしたデータを貯めて欲しいので「未入力ホールがある」と気づかせるダイアログを出していましたしかし、このダイアログが重大なユーザーペインを引き起こしていたことが分かったのです。
Contentsquareでセッションリプレイを見ると、未入力のダイアログが表示された後に元の画面に戻って、また未入力のダイアログがされて元の画面に戻って…という行ったり来たりする挙動をしています。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
未入力を指摘するダイアログが表示されると、ユーザーはスコアカードを確認して未入力の箇所を探します。スライドで示されているのがその画面ですが、一見すると未入力のホールはないように見えます。
基本的にゴルファーの方は自分のスコアを記録することを目的にアプリを利用しているので、一緒に回った他の方のスコアにはあまり興味がありません。ただ、スコアの照らし合わせのために自分以外のメンバーのスコアも入力します。
興味関心はあくまで自分のスコアにあるので、未入力ホールのアラートが出た時も基本的にしっかりと確認するのは自分のスコアだけになります。しかし、この事例では他のメンバーのスコアに未入力部分がありました。
DearOne 石黒|
一見すると埋まっているように見えますね。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
実際に何が起きていたかを解説しましょう。スライドに示されているアプリ画面の一番左が自分のスコアです。黄色い四角で囲われた部分は「パー」といって、たとえば、3打で回らないといけないホールを3打で回ったという意味になり、「-」という記号が表示されています。
このパーと同じ記号が、赤丸で囲った同伴者のスコアに入っています。実は、これが未入力を意味しているのですが、記号がパーと同じであり、表示も小さいために非常に分かりづらかったのです。
未入力のダイアログが表示されたユーザーは上記の画面を確認して「未入力はないはずだ」と思い、保存しようとするとまた「未入力ホールがあります」というダイアログが表示されるわけです。これがずっと繰り返され、ユーザーにある種の間違い探しを強要していたような形になっていました。
本当は「未入力ホールがあります」というダイアログを出した後に、「何々さんの何番ホールのスコアが未入力です」と未入力箇所が分かるように表示する、もしくは、スコアカードのどこが未入力になっているかを赤色で表示する、他にも「-」ではなく「未入力」と文字で表示するといった形にしておく必要があったわけです。
ただ、表現の仕方が行き届いていなかった結果、気を利かせたつもりが逆にユーザー体験を棄損してしまっていました。
データを見ると、同様の行動をしているユーザーがかなりの人数いたことも分かりました。セッションリプレイは全ユーザーの操作を記録しているわけではなく、ランダムにサンプリングして録画しています。従って、全ユーザーで考えると、Contentsquareに記録されているよりもずっと多い人数が同様の体験をしているわけです。
スコアを保存するのは、ゴルフが終わって「終わったね!」「お疲れさま!」と言っているようなタイミングです。そこでアプリが思うように操作できない、データが保存できないというのは最悪なユーザー体験です。
Contentsquareを使うことで、このようなペインポイントを発見して改善できたという事例です。
DearOne 石黒|
確かにWebログの分析では数字だけしか出てきませんので、上記のような内容は分からないですね。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
はい。これは数値化されたデータではなく、リアルなユーザーの画面遷移を見て初めて分かることです。
DearOne 石黒|
ありがとうございます。ちなみに、ユーザーを集めての行動観察調査は現在はもう実施されていない形ですか?
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
はい。ほとんどContentsquareで代用している状態です。
Contentsquareで録画するデータは、実際に操作しているユーザーからランダムでサンプリングされる形で数千人というセッションリプレイを見られるわけなので、ユーザーの行動観察調査と比べると圧倒的な母数を確保できます。
DearOne 石黒|
なるほど。しかも、調べたいときにすぐデータが見られるわけですよね。実際にユーザーを集めてインタビューするには準備の時間がかかりますので、その点もメリットですね。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
はい。さらに他のメリットもあります。
スコア管理アプリというのは、当然、ゴルフ場で使われるアプリです。そうなると実際に使われる現場での行動観察調査はできないわけです。必要な装置を持ち込むことも出来ませんし、「被験者の方がゴルフをしている後ろをずっと追いかけて画面を覗き込む」といった状態になるわけで、そもそも自然な状態での行動観察が実現できないのです。
しかし、Contentsquareを使えば、自然な状態かつ、大量のデータが取得できるわけです。そして、データから改善すべきペインポイントをジャーニー分析やヒートマップを駆使したり、またエラー画面の表示に注目したりして見つけることができます。
DearOne 石黒|
ありがとうございます。具体的な事例で説明いただき、非常に分かりやすかったです。
ジェネレーティブAIの可能性
DearOne 石黒|
最後に、志賀さんが最近気になっているテーマということでキーワードをいただいています。ご説明お願いできますか。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
最近気になっているテーマはジェネレーティブAIの可能性ですね。ジェネレーティブAIは1年ほど前から大きな話題になってきました。まだ今は「文章を生成してくれる」ぐらいのイメージですが、今後はユーザーのWeb上の検索や閲覧といった行動にも大きく影響を与えていくと思います。
また、マーケターのコパイロットとして業務改善に使っていける可能性も非常に大きいと感じています。
たとえば、CSの問い合わせに対してジェネレーティブAIにメールの回答文を生成してもらい、それを校閲した上でユーザーに返信する。あるいは、回答に必要なナレッジをAIに提供してもらうなど様々な使い方ができます。
ジェネレーティブAIをモダンデータスタックの中に組み込んでPDCAをどんどん実施する、また、ユーザー体験をより良くするために使っていける可能性は非常に高いと思います。
先ほどのAmplitudeで顧客分析して最終的にアプローチするためのセグメントを作るということも、たとえば、ChatGPTのようなチャットスタイルで「こういう顧客セグメントを作れないか?」と自然文で打ち込んだらセグメントを作ってくれる、さらに必要なSQL文まで吐き出してくれたらマーケターの業務は非常に効率化します。今後は実際にこういったことが実現していくと考えています。
DearOne 石黒|
なるほど。何かジェネレーティブAI分野で注目されているサービスはありますか?
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
ChatGPTもそうですし、ChatGPTをベースにして業務プロセスにどう組み込んでいけるかということを色々と研究しています。
最初は、CS向けのAIチャットbotを作れないか?と考えていましたが、なかなか上手くいきませんでした。現状のジェネレーティブAIだと、嘘の回答をしてしまうハルシネーションの問題が解消できなかったです。
ただ、たとえば、顧客の対応履歴を全部AIに読み込ませて、それぞれの履歴をネガポジ判定させて、ネガティブ体験の履歴をテキスト分析して対応すべき顧客ニーズを提案してもらうといったことであれば、ハルシネーションの問題を回避してジェネレーティブAIを使えます。
このようにジェネレーティブAIは上手く活用すれば、マーケターやプロダクトマネージャーがPDCAをどんどん回していくための素晴らしいツールになるのではないかと感じます。
DearOne 石黒|
じつは我々もひとつ注目しているサービスがあります。Google出身の方が立ち上げられた米国スタートアップ企業が提供しているサービスで、シナリオ生成や精度の高いパーソナライズを実現するものです。
このサービスはGoogle Analytics(グーグルアナリティクス)やFirebase(ファイアベース)、Amplitudeなどのイベントデータ、そして、顧客のプロファイルデータを入れると、AIが自動でユーザーのジャーニー分析をしてくれます。そして、「ここでジャーニーが躓いているから、こういうメッセージを出したほうがいい」という提案までしてくれます。
いま我々のテスト環境で検証しているところですので、使い勝手を確認できたらぜひご紹介させてください。
まとめ
DearOne 石黒|
それでは、最後に志賀さんからまとめのコメントをお願いします。
ゴルフダイジェスト・オンライン 志賀氏|
今日はモダンデータスタックについてご紹介しましたが、モダンデータスタックはシステムの話ではなく、モダンデータスタックを使って何をするかということが一番重要です。つまり「データをどう使うか?」です。
データを活用したひとつのアプローチが、「データを使って顧客体験をより良くしていく。そのためのPDCAサイクルを回していく」ことです。ただ、PDCAサイクルを素早く回すためには、じつは業務改善が必要で、「データを貯める」、分析して「顧客を知る」「エンゲージする」というプロセスの間に色々なボトルネックがあります。
そのボトルネックをきちんと無くしていかないと、本来自分たちがやりたかったモダンデータスタックにはなりません。だからこそ、ボトルネックを潰していくというところをきちんと考えていく必要があります。
そして、来年には「データを貯める」「顧客を知る」「エンゲージする」というプロセスの中に、ジェネレーティブAIが入ってくる可能性が十分にあると思います。ジェネレーティブAIの力も使って「顧客を知る」「エンゲージする」というプロセスをより早く動かし、そして、顧客へのコミュニケーションを実施して仮説検証していく。モダンデータスタックを使うことでこうした世界が実現できます。
DearOne 石黒|
ありがとうございます。モダンデータスタックだと新しいソリューションが出たときも組み込みやすいですね。ここまでモダンデータスタックを本当に早いタイミングで導入されて活用されているゴルフダイジェスト・オンラインさんの取り組みを具体的にお話しいただきました。視聴されている方も大変参考になったのではないかと思います。志賀さん、本日はありがとうございました。