この記事は、2023年7月12日に開催されたBraze City×City Japanの一部セッションレポートです。
Amebaブログが実践した「パーソナライズの実現ステップ」とは?
サイバーエージェント 彦坂氏|
株式会社サイバーエージェントの彦坂と申します。簡単に自己紹介させていただきますと、今AmebaLIFE事業本部でプロダクトマネージャーを務めております。
経歴としては2021年に入社したので現在、社会人歴3年目となっております。おそらく本イベントの中で一番最年少かと思いますが、皆様にしっかり情報を届けられたらと思います。
キャリアとしてはPMからスタートし、2年目にBraze関連の責任者、現在は新規事業の責任者を務めております。今回、Brazeでのデータ活用が重要ということで、私自身、機械学習のプロジェクトやデータ人材育成など、データ関連の担当も担っております。
アジェンダは以下の4つです。
- Braze導入前と後の変化
- パーソナライズの実現ステップ
- パーソナライズ施策の事例
- その他のBraze活用事例
特に「パーソナライズの実現ステップ」について重点的にお話しさせていただければと思います。
パーソナライズと聞くと難しそうなイメージがあると思いますが、弊社ではBrazeを導入して結構簡単にパーソナライズが実現できたので、そういったところを深く掘り下げて説明させていただければと思います。
また、これからBrazeを導入される方や、もう既に導入されている方にも、実用的/具体的な情報についてお話ししていけたらと思っております。
パーソナライズメッセージによってDAUが102%成長!運用工数もゼロに
今回お話しさせていただくことと話さないことを、スライドで共有させていただきます。今回話す内容としては「素早くデータやBrazeの価値を引き出すための具体的な進め方や組織体制」、「データ×Brazeによる上手くいった施策の事例」を紹介できたらと思います。
今回のキーワードとしては「素早く」というところがポイントで、弊社ではBraze導入を2ヶ月で完了し、そこから成果創出までは約3ヶ月間PDCAを回したので、導入から成果創出まで計5ヶ月ほどで来た経緯の詳細についてお話しさせていただければと思います。
そこでは組織体制というのが非常に大きなポイントとなりますので、それについても詳しくお話しさせていただきます。
また、データを活用した具体的な施策事例もご紹介しますので、今既にBrazeを導入されている方に関しても、きっと参考になるであろう情報をご提供させていただきます。
AmebaブログのBraze導入前と後の変化について、結論としてはパーソナライズメッセージによってDAUが102%成長し、かつ運用工数もゼロになったという成果が出ています。
具体的な変化に関して、まず一つ目は、元々パーソナライズができていなかった状態から、ユーザー一人一人にパーソナライズする状態に変化することができました。
従来はユーザーの年齢・性別などあらゆる粒度でセグメントを切ってプッシュ通知を配信していたのですが、Brazeを導入したことによって、ユーザーの閲覧データや趣味/嗜好など、本当に細かいデータを活用し、ユーザー一人一人へのパーソナライズを実現することができました。
二つ目の変化は、プッシュ通知の運用コストがゼロになったことが、かなり大きなインパクトになりました。元々は1日4.5時間程度かかっていた工数がゼロになりました。
私自身もこの浮いたリソースを新規事業に割けたり、また運用担当メンバーが別の需要の高い案件にリソースを割けているので、これは非常に良かったと実感しています。
三つ目は、従来の旧プッシュ通知のシステムだとPDCAが回せていなかったのですが、Brazeを導入したことによって、高速PDCAを実現できています。
元のツールではセグメントを切る部分が結構複雑だったり、何かデータを追加するにしても実装コストが高く、またデータ分析が快適にできないなどの課題があったのですが、Braze導入によって、本当にスピーディーに毎日PDCAを回したり、データ分析も簡易的にダッシュボード化できるので、そういった点でかなり高速でPDCAを回して成果を創出できるようになりました。
若手社員のチームが実行!Braze導入から成果創出までの3ステップ
それでは、実際にどのようにこれを実現していったのかという具体的なステップについてお話しいたします。
まず一つ目のステップはBraze導入というフェーズで、ここでの組織体制は最小工数で構成しています。
私がPMを担当する傍ら、iOSとAndroidのサーバー担当を1人ずつアサインしました。これは結構若手のチームで構成をしており、当時私は入社2年目で、iOS・Androidも2年目のエンジニアをアサインし、とにかく若手のスピード感を活かして、2ヶ月間で旧プッシュ通知から新しいBrazeに移行していきました。
二つ目のステップはPDCAを回していくフェーズです。Brazeにはユーザーのセグメントごとにシナリオを設計し、メッセージなどを配信していく「キャンバス」という機能があり、それを活用して毎日ぐるぐるPDCAを回して、成果が出る勝ちパターン/成功事例をとにかくたくさん作っていきました。これによってDAUが102%成長したわけです。
三つ目のステップでは、標準化・自動化という部分を、PMの私とサーバーサイドエンジニアで担当しました。
ステップ2の部分で作った勝ちパターンの仕組みを、どうしたら自動化できるか考え、後ほどご説明するBrazeの「Connected Content」「Liquid」といった機能を活用し、勝ちパターンを仕組み化していくことで運用構想をゼロにしていき、DAU102%成長と運用工数ゼロという成果を実現しました。
今回強調したいのは「Braze導入〜活用まで一気通貫できるチームを構築し、導入完了をKPIにしないこと」ということで、これが振り返ってみての学びポイントだと考えています。
Brazeを導入すると「こういう施策ができるな」、「すぐにこの先もやってみたい」という意欲がどんどん湧いてきて、導入完了後すぐに施策を実行できたのが、この組織体制のいい部分だと考えております。
例えば、Braze導入チームと運用チームが分かれてしまうと「こういうデータがBrazeにありますよ」、「こういうルールで使ってください」といったBrazeの前提知識や情報を導入チームから運用チームを受け渡していく工数/コストがかかり、運用チームからすると「Brazeって何だか難しそう」という印象がついてしまう恐れがありました。
そこで、この導入と運用を同じチームで一気通貫して持つことによって、「頑張って導入したから、実際にサイクルをどんどん回して成果を出していこう」というモチベーション高いマインドになれたのが非常に良かったと考えております。
パーソナライズ戦略の2つのステップとは?
ここからパーソナライズの戦略の二つのステップについてご紹介いたします。
これはいわゆる「クイックに検証する」というスタンスで、まずPMの私一人で最小工数でパーソナライズを実現し、そこから実装を行ってパーソナライズ自動化を行うという、このような二つのステップで今回は進めてまいりました。
ちょっと技術的な話になるのですが、具体的な一つ目のステップとしては、今申し上げた通りPMのみで最小工数でパーソナライズを実現しました。
これに関しては、SQLが書ければ簡単に機械学習モデルが作れるBigQueryのマシンラーニングを用い、Amebaにある閲覧データをBigQueryに取り込み機械学習モデルを作って、そのデータをBrazeにインポートして簡易的にパーソナライズを実現しました。
これによって実際の勝ちパターンが見えたので、今度は「それをどうしたら仕組み化できるだろう」という部分についてエンジニアと話し、Amebaにレコメンドの仕組みがあるので、そのデータをBrazeと接続してパーソナライズしていくというステップを採りました。
次のステップです。具体的にどういうことをしたかというと、まず前提としてのBrazeの仕組みについて押さえさせていただくと、サービス側が持っているユーザーデータを取り込んでセグメントを作っていくような形になります。
例えば、年齢/性別や閲覧志向などの部分でセグメントを切っていきます。そのセグメントに対してどういうメッセージを送っていくのかのシナリオを構築し、メッセージが配信されていくという仕組みになっています。
そのメッセージを配信する前に、ユーザーIDをAmebaブログのレコメンドAPIの方に投げて「このユーザーさんはこういう嗜好データがあるから、多分この記事が合っているだろう」という推薦記事データを返し、実際にパーソナライズ配信していくという進め方をしてきました。
これによってユーザー一人一人に、趣味・嗜好や閲覧志向に合ったパーソナライズメッセージを配信し、推薦記事データを返すような仕組みを構築していったという経緯になります。
ここでのポイントとしては「仕組みのシステム化をする前に、まずはクイックに検証していく」ということが非常に重要になってきます。
システム化するとなると、エンジニアの工数もやはりたくさんかかってしまうので、それでもし成果でなかったらそのコスト分が無駄になってしまいます。
ですから、なるべくPMなどが今既にあるデータを活用して実験・検証し、成功パターンであるとわかったらそれを実際にシステム化していくという進め方が良いのではないかと考えております。
Brazeが可能にした5つのパーソナライズ施策を大公開!
では、ここから実際のパーソナライズ施策の事例について、具体的にどういうことをしてどのような成果があったのか、詳しくお話しさせていただこうと思います。
まず一つ目ですが、これは「Liquid」という機能を使って簡単に、開封率124%という成果を出した事例です。
スライドのように「{nickname}さん」という「Liquid構文」を入れることによって、名前の部分をユーザーごとに差し替えてメッセージ配信できるような仕組みになっています。
これに関しては、先週投稿してくれたユーザーに対し、アクセス数で振り返る体験というものをプッシュ通知で実現しました。
このように、Liquidでユーザーの名前を入れることによってより親近感のある文章のメッセージにし、興味を持って開封してもらう体験を作った事例になります。
続いて二つ目は先ほど申し上げたもので、閲覧データからおすすめの記事を推薦するプッシュ通知で、これにより開封率を113%成長させました。
これはAmebaのレコメンドAPIとBrazeを連携させ、ユーザー一人一人の趣味・嗜好や閲覧志向に合ったブログ記事を推薦するプッシュ通知を実現しました。
三つ目は、最近見たブログの最新記事を推薦するプッシュ通知です。
ここでも「{blog_title}」や「{entry_title}」の部分Liquidが使われています。ユーザーIDを実際にBrazeに投げ、返ってきたデータをLiquidの部分に差し込んで通知を配信していくという仕組みになります。
これに関しては、まだフォローはしていないが最近記事を読んだブロガーが書いている記事を返すので、より当該ブロガーのファンになるような仕掛けを構築することができています。
次は同じ仕組みを使って、フォローしているブログの未読記事を返すプッシュ通知です。
ここでもたくさんLiquidが使われていて「何件の未読ブログがあります」、「あなたがフォローしている誰々に関する何件の未読ブログがあります」といった感じで、実際にデータを取り込んでプッシュ通知を発信しています。
このような形で、ユーザー一人一人のフォロー状況に合わせてパーソナライズしていくということを実現しました。これによって、フォローしている好きなブロガーの記事を見逃さないような体験を構築することができました。
いろいろとご紹介させていただきましたが、Brazeって本当にさまざまなことができます。
それは小手先の施策から、かなり細かく調整して成果が出るものまでありますが、やはり一貫して大切だと思うのは「どのような体験をユーザーに届けていくのか」で、そこから設計し「実際にプッシュ通知に落とし込んだらどういう風になるのか」などと体験から設計をしていくということが非常に重要だと思います。
例えば、今回のケースでは「好きなブログを見逃さない」ということはユーザーにとって価値ある体験だろうと考え、これを実際にプッシュ通知に落とし込むにはどうしたらいいかと考え実装していきました。
先ほどの「最近見たブログの最新記事を推薦するプッシュ通知」でも、「ちょっと興味はあるがまだフォローには至らない」という人に対して、さらにファンになってもらうための仕掛けとしての体験を作っていく形になっています。
Amebaには会員と非会員という2種類のユーザーがおり、ここまでは会員を対象に、会員IDをベースにユーザーのパーソナライズを行った事例でした。
ただ、Amebaの中には非会員ユーザーも本当にたくさんいらっしゃるので、非会員の方々に対するパーソナライズも実現できれば、もっとインパクトを出せるのではないかと考え、非会員の方にもレコメンド配信を実施できたらと考えました。
それをどう実現するのかに関してはかなり難易度が高かったのですが、具体的な部分をお話しすると、まずAmebaにはアプリがあります。
ここからSDK経由で非会員IDというものをBrazeに送るような形を採りました。
そしてBrazeとデータの連携をして、AmebaのレコメンドのAPI、つまり「このユーザーにはこういう記事を返した方がいい」というものをここで生成しBrazeに返して、さらにBrazeからAmebaに送るという流れを取ることで、非会員に対してもパーソナライズを実現することができました。
これによって、実際に開封率が181%成長したという事例になります。
世の中のさまざまなアプリでも、会員と非会員という二つの属性の方がいると思いますが、上手く活用すれば非会員もカバーしてレコメンドを配信することでパーソナライズできるという意味で、大きな事例だと思います。
これら以外にも、2〜3ヶ月の間に数百以上のキャンペーン/施策を回したのですが、そこでの学びとしては、Brazeはシナリオなどを組んで配信できるので、本当に数多くの施工・実行を回せるという良い部分がある反面、条件分岐がたくさんあったりセグメントがすごく細かくなっていて、あるとき「すごく運用コストがかかっていて、気づいたら毎日入稿作業を頑張っているな」ということに途中で気づきました。
今後導入される方には念のため、このような課題が要注意だとお伝えしておきたいです。
まとめ
結論としては、Braze導入のプロジェクトにおいては目標設定が肝だと考えています。
もちろんユーザー一人一人に興味のあるパーソナライズ配信を行っていき、KPIのグロースを目指すわけですが、それと同時に運用工数を削減していく/ゼロにしていくという視点を持つことによって、やはり工数も大きく削減できていくのだと考えております。
そして、そのような目標を掲げたことで、今回のさまざまな成果に結びついたのではないかと考えています。
繰り返しまとめると、ポイントとしては「プロダクトKPIと工数削減のKPIの両方の観点を持つ」ことが重要です。
以上、Braze導入から成果創出までの組織体制や実際の進め方、具体的な施策の事例などを紹介させていただきました。ぜひ参考にしていただければ幸いです。
スピーカー
株式会社サイバーエージェント|AmebaLIFE事業本部 プロダクトマネージャー 彦坂 真一氏
関連リンク
https://growth-marketing.jp/engagement/braze/
https://www.ameba.jp/