この記事は、2022年3月17日に開催した「事例で見るEC、アプリのCX(顧客体験)向上」のウェビナーレポートです。
ユーザー行動からわかる!“収益を上げる”EC検索改善ポイント
モデレータ 安田|
まず、ビジネスサーチテクノロジ株式会社 取締役 兼 営業本部長の光安様よりお話し頂きます。
光安|
ビジネスサーチテクノロジ株式会社は2004年設立の、サイト内検索サービスを提供する会社です。すでに850社以上の様々な業種・業態の企業様に弊社サービスを導入頂いており、本日はEC改善の観点から検索の重要性についてお話しいたします。
事例:カインズアプリとの連携
コロナ禍により、事業者側も顧客の購買体験の変化に対応する必要があります。カインズ様には弊社の検索をご採用頂き、アプリの1機能としてご利用いただいています。
これまでは店舗に来店して、時間をかけて様々な商品を見て頂く形でした。しかしこのコロナ禍、最短で効率的に買い物したいショートタイムショッピングのニーズが高まるなかで、アプリと連携した検索技術により、カインズさんの店舗に来たユーザーが欲しい商品がどの棚にあるかをアプリ上で見つけられるようになりました。
ニーズを聞いて適切な商品をアドバイスする店員がいる実店舗に行けなくなった分、ECサイトのおもてなしが十分でない場合ユーザー満足度が下がり、売上につながりづらい現象が起きています。また、店舗側からも実店舗同様の接客をECで実現できないか、とのご要望を多くいただいています。そこで弊社の検索の力を用いて改善を試みました。
ECサイトでの商品検索利用について
EC利用についてのアンケート
- オンラインショッピングでは、約7割のユーザーがスマホを使用。
- オンラインショッピングでサイト内検索を使用したユーザーは約9割。
- サイト内検索で探している商品が見つからなかったユーザーは約9割。
↓ その結果、
そのサイトでの購入を諦めて離脱するユーザーは8割以上。
ECサイト内検索とCV率
次に、サイト内検索を使用したユーザーと使用していないユーザーのCV率を比較したところ、約5倍の差がありました。
このギャップを埋めるには、いかに検索を使ってもらった上で購入して頂くか考える必要があります。
残念な検索キーワード例(0件ヒットキーワード)
検索キーワードの揺れ・揺らぎでヒットしないケースも多く見られます。例えば「ルイ・ヴィトン」を検索したいユーザーが、検索窓に「ルイビトン」「ルイ・ビトン」「ビトン 財布」「ビトン」等と入力する可能性があります。
サイト側で事前にこれらのキーワードを想定していない場合、該当する商品件数が0件になってしまいます。
検索で商品が「見つからない」→「離脱」の原因
キーワードがマッチしない場合、検索結果は出てきません。サイト事業者が想定するキーワードとユーザーが入力するキーワードのミスマッチの課題があります。
お客様の多様なニーズに対しては、揺れ・揺らぎの吸収といった検索精度改善による対応が必要です。
「GENIEE SEARCH」
サジェスト機能でキーワードを入れて頂くと上部に候補語が出るので、ユーザーがクリックすることで揺れ・揺らぎを解決することができます。
さらに、商品購入の際に予算やサイズを絞り込んで探す方法など、検索の力を利用してユーザーをスムーズにナビゲートすることができます。
改善事例:プチバトージャパン様
フランスのブランドであるため、独特な商品名を検索窓に入力する際にキーワードの揺れ・揺らぎが発生します。そこで候補語表示によって改善を行い、売上に繋げています。
検索機能はECカート機能に備わっているのですが、フリーワード検索機能の精度や、サジェストなどの機能の不足がありました。プチバトージャパンのご担当者様からは使いやすい検索を整備することが、ECの売り上げ改善のためにまず取り組むべき施策だとおっしゃっていただきました。
ECサイトやアプリのためのユーザー行動分析
赤木|
弊社はスマホアプリ開発やグロースマーケティング支援を行うNTTドコモの戦略子会社です。グロースマーケティング領域の中でも、ユーザー獲得後の顧客体験の向上・サービスの成長といった下のファネルを支援しています。
弊社ではグロースマーケティングをデータ活用の観点から、データを「ためる」「整える」「分析する」「使う」という4つのステップを回すことであると定義しています。
特に「分析する」では非常に工数がかかったり専門性が高かったりと、4ステップを回す際のボトルネックとなっています。そこで弊社は専用のソリューション Amplitude(アンプリチュード)を使用して、顧客のボトルネックを解消する支援を行っています。
Amplitudeについて
Amplitudeは、昨年Nasdaqに上場した米国企業であり、ユーザー行動分析をスタンダード化するプロダクトアナリティクスツールです。
グローバルでは45,000サービス以上、国内でも1,700サービス以上の導入実績があり、非常に将来性のある企業です。
Amplitudeの行動分析ツールを使うと、グロースマーケティングを行うための分析を14種類のチャートを用いて容易に遂行することができます。例えばユーザー行動状況の全体感の把握や、ロイヤルユーザーがどんな行動をするのかを見るユーザー特徴量といった分析を、データサイエンティストでなくても誰でも使いこなせるのがAmplitudeの特徴です。
書籍系ECサービスの分析例
分析の流れについて、ECでよくあるフレームワークを用いてご説明します。
F1購入はユーザーが初めて購入を行うことで、F2購入は2回目以降、最終的にはロイヤルユーザー化します。このユーザージャーニーの各ポイントで、どんな行動を起こせば次のステップへコンバージョン(CV)しやすくなるかという視点から分析を行います。
F1購入:初回購入への施策
初めて購入を行ったユーザーが、Webに来訪してから実際に購入を行うまでの間の行動で、キーワード検索を行ったユーザーと無料試し読みを行ったユーザーのCVレートを比較しました。すると、キーワード検索を行ったユーザーの方が圧倒的に初回購入のCVレートが高いことが判明しました。
一方で、購入1回以上のユーザーを比較すると、キーワード検索と無料試し読みのコンバージョンレートにはそれほど大きな差が見られませんでした。つまり、キーワード検索は初回購入で特に有効であると考えられます。
初回購入に繋げるためには、目当ての作品を効率的に発見できるサービスを提供することが重要であるため、キーワード検索の強化がF1購入の施策になると考えています。
F2購入:継続購入への施策
1回だけに留まらず2回目以降も継続購入してもらうための施策ですが、まずプロダクトインターバルの概念を紹介します。2回目購入に至ったユーザーの8割が戻ってくる日数をプロダクトインターバルとして定義することで、施策を打つのに最適な日数の仮説を設けます。
その日数の中で、どのような行動を行うとより2回目購入につながるのかをAmplitudeを用いて分析します。
Amplitudeのコンバージョンドライバーという相関分析の機能で検証したところ、試し読みとの相関が見つかりました。さらに深堀りすることで、特定の日数の中で3回以上の試し読みが有効ではないかという結果に至りました。
続いて無料試し読みの回数からしきい値を見たところ、初決済から27日以内に行われた実行回数が2回以下ではCV率63.5%、3回以上の場合75.7%と開きが見られました。
その結果、27日以内で3回以上の試し読みがF2転換に寄与するとの仮説を立てました。
ロイヤル化:ロイヤルユーザーの行動特徴の把握
F2購入した人をロイヤル化させるにはどういう行動を起こしてゆけば良いのか、ロイヤルユーザーの取る行動を分析します。
ロイヤルユーザーとそうでないユーザーの行動を比較すると、いずれの行動もロイヤルユーザーは回数/実行頻度ともに非常に高いことがわかりました。この比較だけでロイヤル化の特徴を押さえるのは難しいです。
そこでロイヤルユーザーをいくつかピックアップし、N1分析を行いました。
あるロイヤルユーザーがサイト訪問後どんな行動を起こしているか観察したところ、購買有無に関わらず、試し読み目的での来訪を行っているユーザーが多そうだということがわかりました。そこから、試し読みが「本サービスで漫画を探す/読む習慣」を醸成しているのではという仮説を立てられました。
実際に試し読みを行う頻度を振り返ると、ロイヤルユーザーの約8割が月に4日間以上無料試し読みを実施していることがわかりました。そこで「試し読み4日間/月」をロイヤル化しやすい先行指標NSM(ノーススターメトリック)*として設定しました。
*North Star Metric(ノーススターメトリック)
グロースマーケティングで使用される先行指標であり、ユーザー視点での指標設定となっている。ユーザーのプロダクト体験を評価し、様々な部門でノーススターを出してビジネス成長につなげる。
【グロースハック事例】アパレル ファッションEC様
テーマ1 購入者数を増やす
Amplitudeのクラスター分析チャートを使用し、実際に購入したユーザーを対象としたクラスターを4分割しました。その中で2回以上購入を行ったユーザーを多く含むのはクラスターAであり、閲覧履歴を見る行動が有意性になったことがわかりました。
そこで閲覧履歴を見ると複数購入につながるのではという仮説の下にユーザージャーニー分析を行ったところ、商品詳細ページから閲覧履歴にアクセスしているケースが非常に多いことがわかりました。
一方、商品詳細ページから閲覧履歴への導線にあるボタンが分かりづらいという課題も見えました。
また、「閲覧履歴」と「お気に入り機能」の利用を比較したところ、圧倒的に「閲覧履歴」の方が多く使われている上にCV率も高いことが分かり、UIの観点から閲覧履歴をもっと押すべきではという施策案が導き出されました。
そこで「お気に入り機能」を「閲覧履歴」に変更したA/Bテストを実行しました。その結果、カート投入率・CV率・購入者数のいずれも数値が向上したため、「閲覧履歴」の方が良いことがAmplitudeで発見でき、UI改善を実現した事例です。
ここまでの分析から示唆だしまでわずか15分で実行できる迅速性もAmplitudeの強みです。
テーマ2 カゴ落ち率の改善
購入ユーザーをクラスター分析した際に、商品ページとヘルプページを行き来しているユーザーがいることがわかりました。そこで、お届け日や送料が分からずヘルプページを訪問しているのではと仮説を立て、カートのページに必要な情報を目立たせるUIをA/Bテストで行ったところ、カゴ落ち率が4ポイント改善しました。
分析を短時間で行い、実際の施策改善に時間を注いで成果を上げた事例です。
グロースマーケティングのサイクルを高速で回すために、Amplitudeが貢献できると考えています。
パネルディスカッション
アプリの寄与度について
光安|
コロナ禍で実店舗が厳しく、これからECを始めたい事業者にとって、これまで使用していたアプリの寄与度をどう計測すれば良いのでしょうか。ユーザーが店舗で買い物をしたのと、店舗で商品を見てアプリ経由でEC購入では点数がつけ難いと思うのですが。
赤木|
実店舗とECを兼ねている事業者をAmplitudeで分析したことがあります。
アプリを使っているか使っていないかで一人当たりの売上高の違いを見たところ、アプリを使っている人の方が高いことがデータで分かりました。ですので、アプリを使って実店舗に来てくれる人はロイヤル性が非常に高いです。
本来デジタルの購入とオフラインの購入は結び付かないのですが、アプリを持っているとユーザーIDと紐付いた購買データが取れるので、例えばアプリ上でクーポンを配布し、数日以内に実店舗でクーポンを使用して購入するとアプリの寄与度が取れます。
光安|
アプリの存在によりユーザーID統合ができるため、実店舗とECの間で融通や協力ができるということですね。
赤木|
元々は完全に独立した計測だったので、恐らく店舗側からするとアプリの売上寄与度がわかりづらく、アプリ運営者側からしても集客はできているはずだと推測のレベルだったのが、データ統合によって可視化され、チームとしてもより良い関係になったのではと考えます。
安田|
アプリ作成するお客様は、アプリの裏にCRM情報があるため会員情報を持っており、POSデータと紐づけた見方をすると思います。
サイト内検索の精度向上
安田|
サイト内検索の精度を高めるために、簡単にここから始めれば良いというのがあれば教えて頂けますか。
光安|
簡単に精度を上げるのは難しいですが、いくつか方法はあります。例えば標準的な検索は、データベースに記載されたキーワードに合致したもののみを表示します。なので商品キーワードがドンピシャであれば問題ありません。
ECのカート機能には検索エンジン機能が備わっている場合がありますので、専用の検索エンジンを入れない前提で検索精度を向上することも可能です。その際には、2つのポイントがあります。
一つ目は、検索されるであろうホットキーワード、売れ筋の50ワードくらいを出して、事業者側が考えるユーザー行動とユーザー側が検索するワードの乖離を見つけ、売れ筋1位のキーワードでなくユーザーが実際に探すキーワードをデータベースに入れることです。
データベースの拡充と想定キーワードの拡充が重要です。
もう一つは、検索したキーワードの優先順位です。検索結果はデータベース内で何らかのロジックに基づいて並びが決まります。ユーザーが商品名で検索したかったにもかかわらず、一番上に説明文でヒットしている場合、精度の問題であり並び順を再考すべきです。
商品名検索時にそのキーワードが含まれる商品を上に出す設定を行って改善していく必要があります。
安田|
事業者側とユーザー目線でのキーワードの乖離ですが、事業者側がそれに気づくのは難しいのではないですか。
光安|
弊社もお客様の声を聴くと、そもそも検索キーワード自体にあまり興味がないケースが多いです。ですのでまずはそこに目を向けて頂きたいです。
赤木|
時期やタイミングでキーワードは変遷すると思われますが、どれくらいの頻度でメンテナンスすべきなのでしょうか。サービスにもよりますか。
光安|
1週間単位で見て頂くのが良いと思います。売上を伸ばしているEC企業は、1週間にどれくらいどういうキーワードが検索されているか、その内乖離がどれくらいあったのか、抽出してどんどん改善していくというのを1週間単位でKPIを設定して行っていたりします。CV率にも寄与しています。
新機能実装時の課題
赤木|
サイトに新たなシステムや機能を実装する際のハードルについて、作業内容や運用コストを教えて頂けますか。
光安|
10年程前の検索精度向上は画面開発がメインであり、弊社がAPIを提供し、お客様が自社で組んだ時代もありました。そうすると開発期間が半年等長くなり、稼働人材も増えてコストがかかりました。
最近のトレンドでは、JavaScript(ジャバスクリプト)を貼ってまずは導入してみるやり方が弊社の周りでも多くなっており、弊社も同様です。簡単なデータ取りをして頂き、それに基づくJavaScriptを弊社が発行し、JavaScriptで動いているサジェスト等に貼って、最後にデザイン修正を行います。
検索効果を見たい場合、検索結果画面を全て変えるにはそれなりの稼働人材が必要ですが、サジェストを入れて数値変化を見るのも良いと思います。以前と比べると簡単になり、高速で回せるようになりました。検索窓からCV率の上がり具合を見れるのでわかりやすいです。
アプリのマーケティング効果について
光安|
CV率や店舗との寄与率以外にも、Amplitudeのユーザー囲い込み効果があれば教えて頂けますか。
赤木|
Webのみの時とアプリがある時で、どんな打ち手があるかを考えるとわかりやすいです。Webだと、広告を出してユーザーに戻ってきてもらうか、ユーザー自身がその気になった時にアクセスするので、事業者側からはコントロールしづらい領域です。
アプリがある場合は、プッシュ通知を送ってみたり、そこにクーポンを搭載したり、事業者側からダイレクトに働きかけられるところが、アプリを併用するメリットと考えます。
そこにWeb・アプリ・店舗のデータが集まってくると、パーソナライゼーション向上もできるので、トータルで見てCRM強化の意味では、Web&アプリは非常に強いチャネルになります。
加えて、POSデータと会員情報の紐づけも鉄板になっているので、データ統合的視点やエンゲージメント的視点でも、囲い込みにおいては非常に有効な手段であると考えます。
安田|
各個人がスマホに複数DLしている販促アプリは、よく行くお店であり、1度しか行かないお店は恐らくDLしないと思います。ですので、アプリをDLする時点ですでにある程度のロイヤルカスタマー状態なのです。
アプリマーケティングはロイヤルカスタマーに特化したマーケティングができる仕様になっており、かつ、スマホ上に企業アイコンアプリを載せることでブランドロイヤリティが高まる効果もあります。
アプリの裏側ではCRMと紐づいており、パーソナライズしたコミュニケーションが行えるので、ロイヤルカスタマー化をさらに促進することができます。
赤木|
昨今ではモバイルオーダーといった、お店やサービスとの新たな付き合い方をより簡易的に提供できるという意味でアプリのプレゼンスが上がっています。
本日のまとめ
アーカイブ動画
スピーカー
株式会社ビジネスサーチテクノロジ株式会社 取締役 兼 営業本部長 光安 紀臣
大手総合人材会社、ネットワーク機器関連の法人営業を経て、2010年にビジネスサーチテクノロジ入社。営業部の主軸として、大手広告代理店や製作会社等のパートナー企業と連携したサイト内検索サービス提供の推進、新規サービスの企画・提案営業を行う。2019年、同社取締役に就任。
株式会社DearOne グロースマーケティング部 カスタマーサクセスユニット
ユニットリーダー 赤木 一平太
デジタルエージェンシーでのコンサルタントを経てDearOneにカスタマーサクセスとして参画。デジタルマーケティング分野におけるデータマネジメントやテクノロジースタック構築戦略の知見を元に、企業のグロースマーケティング支援に従事。
株式会社DearOne セールスデザイン部 ゼネラルマネージャー 安田 一優
岐阜県出身。パソコン販売店店長、ITエンジニア、ITインフラSIerのマーケティングを経て、2020年よりDearOneに営業企画として参画。転職をするたびに職種が変わるという経歴。DearOneではインサイドセールス、パートナーアライアンス、マーケティングなどを担務。中小企業診断士資格保有。副業でマイクロソフトACCESSの受託開発を行う。