カスタマーサクセスとは?
カスタマーサクセスとは、カスタマー(顧客)のサクセス(成功)を支援することです。顧客を中心に考え、能動的に働きかけ顧客の成功を共に実現する活動を意味しています。
カスタマーサクセスの普及状況
ここ数年でカスタマーサクセスという言葉をよく耳にするようになりました。2019年にアイディクラウドとバーチャレクスが全国20〜65歳のビジネスパーソンを対象に行った調査で、「カスタマーサクセスという言葉を聞いたことがありますか?」という質問に対して、「聞いたことがある」と回答したのはわずか13.7%、対して「聞いたことがない」と回答した割合は86.3%とまだまだ普及していないのが現状です。
また、聞いたことがあり、「よく知っている」「少し知っている」と答えた人のうち、勤務先でカスタマーサクセスに取り組んでいる部署、または担当者がある/ いると答えたのは、全体で見るとわずか2.8%にとどまっています。
カスタマーサクセスとカスタマーサービスの違い
カスタマーサクセスは近年出てきた言葉ですが、カスタマーサービスとよく混同して考えられます。
違いは目的です。
カスタマーサクセスが「顧客の成功」を目的としているのに対して、カスタマーサービスは顧客の「不満解消」を目的としています。
目的の違いから顧客、問題へのアプローチも異なり、カスタマーサクセスは顧客の今現在の課題や解決したい問題に対して、どのように戦略を立てていくかを考え、顧客とともに課題を解決し、ステップアップするイメージです。
一方カスタマーサービスは、顧客から不満を指摘されてからその不満を解消するために動きます。
つまりカスタマーサクセスは「能動的」、カスタマーサービスは「受動的」だと言うこともできるでしょう。このような能動的、受動的な違いも大きく、能動的である場合は活動にも力が入り、よりいい方向へ導こうとなりますが、受動的であればあくまでも不満を解決するだけでよく、その後の成長には繋がりにくいともなり得るのです。
カスタマーサクセスとカスタマーサービスの違いについては「カスタマーサクセスとは?カスタマーサポートとの違い」で解説していますので、参考にしてみてください。
カスタマーサクセスとカスタマーエクスペリエンス(CX)の違い
カスタマーサクセスとカスタマーエクスペリエンス(CX)もよく混同して考えられます。2つの違いは、カスタマーサクセスは「顧客を成功に導く施策」にフォーカスされ、カスタマーエクスペリエンスは顧客の体験向上、つまりサービスを利用した際の満足度を上げるための施策にフォーカスされている点です。
カスタマーサクセスが必要な背景
カスタマーサクセスがどのようなものなのか理解していただけたと思います。
それではなぜ、現代でカスタマーサクセスが必要とされているのでしょうか。その理由は主に3つあります。「ビジネスモデルの変化」「LTV(ライフタイムバリュー)の見直し」「差別化」の3点です。
それぞれ紹介します。
サブスクリプション型ビジネスへの移行
一つ目の理由は、ビジネスモデルが購入して終了の「プロダクト販売モデル」から継続的に利用してもら「サブスクリプション型モデル」に変化したからです。最近では、SaaS(Software as a Servise)などのサービスが増えつづけていることによりカスタマーサクセスの重要性も上がってきています。
サブスクリプション型では、ユーザーは手軽にサービスを利用でき、満足しなかった場合、競合他社のサービスに簡単に移行できてしまいます。そのため、サービスはユーザーの役に立ち、満足させ続ける必要があり、常にいい商品を提供し続けなければいけません。
つまり、サブスクリプション型では長期間にわたって利用してもらうための仕組みが重要で、そこから「ユーザーに満足(成功)してもらうことで、利益を得る」というカスタマーサクセスが必要なのです。
LTVの重要性の高まり
2つ目の理由は、LTVの重要性が高まっているからです。LTVとはLife Time Valueの頭文字を取って作られた造語で、日本語では「顧客生涯価値」と呼ばれており、ある顧客が、取引を開始してから、取引を終了するまでの期間にどれだけ企業に対して利益をもたらしたかを測る指標のことを意味しています。
日本は特に少子高齢化社会で、新規顧客獲得がどんどん難しくなっていきます。売上は顧客数 × 顧客生涯価値(LTV)ですので、顧客数が大きく増えないのであれば、今まで以上にLTVを上げ、収益の最大化を目指す必要があるのです。
差別化
3つ目の理由は、製品・サービスの差別化が難しくなってきたからです。市場はすでに成熟しており、似たような製品が多く存在します。そのため新たな技術を開発し、新しい機能を追加したとしても、現代ではすぐに真似されてしまい、価格競争に陥ってしまうのです。
そこでカスタマーサクセスを用い、顧客の成長を支援することで、結果的に自社の収益につながるというWin -Winな関係を作り上げることが大切となります。
カスタマーサクセスのメリット
解約率(チャーンレート)低下
カスタマーサクセスを行うことで、解約率を下げることができます。サービスが解約される理由は「サービス・製品に満足していない」「思っていたより効果が出なかった」等、不満を感じているという点があげられます。
そこでカスタマーサクセスを実施することで、不満が出ないよう、また顧客が成功(製品に満足)するように活動を行うために、不満が出ずに継続して利用してくれるようになるということです。
LTV最大化
カスタマーサクセスを行うことで、LTVの最大化ができます。LTVは上記でも説明した通り、顧客が製品の使用開始から、使用終了までの期間に企業にどれだけ利益をもたらしたかを測る指標で、カスタマーサクセスでは顧客の課題を解決し、顧客と共に成長を目指し、利益を上げることで購買活動の継続を促し、LTVの最大化を試みるのです。
プロダクト改善のヒント獲得
カスタマーサクセスでは、顧客に寄り添い、顧客とともに成長を目指します。そのため、顧客情報はもちろん、顧客が現在抱えている課題、今後障壁になり得る潜在的な課題などを把握するために信頼関係を構築することから始まります。
そこからはじめ、実際に顧客がプロダクトに関して感じている意見、不満などのフィードバックをもらうことで改善すべき点を把握し、より良いプロダクトへと繋げることができるのです。
カスタマーサクセスの成果指標
カスタマーサクセスの成果を測る指標として主に4つあります。
・LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)
・CAC(Customer Aqquisition Cost:顧客獲得コスト)
・Churn Rate(チャーンレート)
・NPS(Net Promoter Score:顧客推奨度)
カスタマーサクセスでは顧客を成功に導くことが仕事のため、上記のような顧客の満足度や継続率などが指標となります。
LTV(顧客生涯価値)
LTVとは前述の通り、顧客が生涯にわたって自社にもたらす利益のことで、顧客が企業・製品を知り、サービスを利用した時から、サービス解約までの間に費やした金額の総額のことを指しています。
CAC(Customer Acquision Cost: 顧客獲得コスト)
CACとはCustomer Acquisition Costの頭文字を取った略語で、日本語では「顧客獲得コスト」と呼ばれています。つまり、一人の顧客獲得に要したトータルコストのことです。
CACは次の数式で求めることができます。
CAC(顧客獲得単価)=顧客獲得コスト÷顧客獲得数
Churn Rate(チャーンレート)
Churnとは、「解約」を意味しており、チャーンレートとはある一定期間に解約した顧客の割合を表しています。顧客が解約をする場合、サービスや製品に不満を感じているということを示していますので、改善のきっかけともなります。
NPS(Net Promoter Score: 顧客推奨度)
NPSとは「顧客推奨度」と呼ばれる、顧客のロイヤリティを測る際に用いられる指標です。
測定方法は簡単で、顧客に対して「製品・サービスを友人や同僚に勧めますか?」を尋ね、1〜10で評価してもらいます。他人への推奨度を尋ねることで、どれだけ製品に満足しているかを把握でき、さらにどれだけ愛着があるかを測ることも可能です。
顧客が満足した上で、どれだけ業績に貢献しているのかを測れるため、業績向上のためには追うべき指標となっています。
カスタマーサクセスに求められるスキル
コミュニケーションスキル
カスタマーサクセスには、高いコミュニケーションスキルが求められます。前述の通り、カスタマーサクセスは顧客と共に成長を目指すため、いかに良好な関係を構築できるかが重要です。コミュニケーションを通じて、顧客が抱えている課題、進むべき方向性を明確にします。
課題解決スキル
顧客とのコミュニケーションを通じて課題を定義できれば、次はその課題を解決します。課題解決スキルでは、様々な角度から問題を客観的に見て、解決策をひたすら考えます。その中から何がベストな方法かを選択するスキルが必要となります。
データ分析スキル
カスタマーサクセスでは、莫大なデータを元に課題や解決策を考えます。データを分析する際には、数字などのデータをみて客観的にわかることを把握することはもちろん、数字などでは表せない部分、「データから何が読み取れるのか」を見つけ出すことが重要です。
カスタマーサクセス成功の5つのポイント
サクセスストーリーの明確化
カスタマーサクセスをを成功に導くためには、サクセスストーリー、つまり成功に至るまでのプロセスを明確にする必要があります。カスタマーサクセスでは、顧客の課題を解決するだけでなく、成功にまで導くのが仕事です。そのため、適切なタイミングで、適切なアドバイスや働きかけが大切となります。
顧客データ収集・管理・分析
顧客の成功を共に目指すには、顧客のことをよく知らなければいけません。そこで重要なのが、顧客データの収集・管理・分析です。データを分析することで、数字などからわかる表面的な情報や、そこから考えられる潜在的なニーズ・課題などを把握することもできます。
データドリブン
データドリブンは、経験や勘に頼らず様々な種類に膨大な量のデータに基づいてビジネスの意思決定や課題解決を行うプロセスのことです。データドリブンを行うためには、上記のデータ収集・管理・分析が非常に重要になります。また、ただデータを収集するよりも、何を目的とするかで必要なデータの種類も異なりますので、データ収集目的の明確化も大切です。
また、全社員が必要時に、必要なデータにアクセスでき、有効に活用できるデータドリブンな環境を構築することでより効率的に、有効的なデータドリブンが実現できます。
トップダウン且つ、組織全体への浸透
カスタマーサクセスを成功に導くためには、トップダウン且つ、組織全体へ浸透させることが鍵です。カスタマーサクセスは、結果が出るまでに長い時間を要します。そのため辛抱強く運用できる体制構築が大きな鍵です。
カスタマーサクセスの成功事例(Adobe)
カスタマーサクセスを成功させ、事業を大きく成長させた企業はたくさんあります。今回はその中でもクリエイティブな作業をする上で欠かせないAdobe Photoshop、Adobe Illustratorなどのソフトフェアを提供しているAdobeのカスタマーサクセス成功事例を紹介します。*1https://success-lab.jp/how-customer-success-fuels-company-success-at-adobe/
Adobeはデジタル体験を通じて、世界を変えることを目指しています。
同社はプロダクトを購入して終了(購入後は自らインストールし、自ら使い方をマスターする)のモデルから、「購入して使いこなしてもらうモデル」の構築を目指しました。つまり、従来の「箱売り型」から「サブスクリプション型」へと移行したことで、大きく成長を成し遂げました。この背景にあったのが、カスタマーサクセスチームの存在です。
同社は従来の「箱売り型」に大きく3つの問題を抱えていました。
1つ目は、同社がカスタマーから離れていたこと。
2つ目は、売上の計算方式。
3つ目は、ニューバージョン提供に膨大な時間が必要だったこと。
1つ目のカスタマーから離れていたことの問題点としては、同社がカスタマーがどのような人なのかすらわからず、情報が全くないため、カスタマーがプロダクトに対して何を感じているか把握できておらず、プロダクトに顧客の意見を反映することができていなかった点が挙げられます。
2つ目は、売上の計算方式が、「購入すれば終了」であったことです。そのため、購入後のカスタマーの満足度向上に対する意識付けが弱く、新機能開発、追加したニューバージョンをカスタマーに届けるために18〜24ヶ月かかっていました。
3つ目は、ニューバージョンを届けるまでに時間がかかりすぎていたこと。箱売り型で提供していたため、新作機能を追加してもすぐには届けることができませんでした。
そのタイミングでクラウド型サービスなどが大きな注目を集め、会社自体が大きく変わる必要があると気づき、また同時にカスタマーにも共に変わってもらうことが大切だと考え、カスタマーに対する考え方、関わり方を大きく変えることにしました。
そこで顧客を中心として、プロダクトの価値を最大限引き出してもらうためにカスタマーと定期的に関わることを始め、カスタマーとの関わり方が多様化する中で、最適解を見つけ出すことに注力していったのです。
そして、カスタマーとの関わり合いを大事にしたことで、プロダクトを通してカスタマーの目的・成功を実現するところまで貢献できるような関係性を構築しました。この関係性を構築できたことによって、様々な顧客に対して、顧客を中心に寄り添った支援を施すことができるようになり、結果として事業を大きく成長させることに成功しました。
まとめ
カスタマーサクセスとは、顧客の成功を支援する活動のことです。
カスタマーサクセスを実施することで、解約率低下、LTV向上などのメリットを受けることが可能です。市場が成熟した現代において必要な考え方ですので、顧客の成長を実現させて、利益を得るというWin -Winな関係構築を目指してみてください。