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グロースマーケティングゆく年くる年 〜2022年の振り返りと2023年のトレンド予測〜

2022.12.27

こんにちは。DearOne グロースマーケティング部 ソリューションコンサルティングユニットでリーダーを務めている赤木です。2022年も残すところあと僅かですね。グロースマーケティング領域では様々なニュースや新たなフレームワークの台頭など、相変わらず変化の著しい1年でした。そんな2022年を振り返るとともに、2023年のトレンド予測などを交えながら考察していければと思います。長文となりますが、お付き合い頂けると幸いです。

トレンド1・UAの終了とGA4への移行アナウンス

デジタルマーケティング業界で今年一番のニュースとなったのは、間違いなくこのテーマでしょう。2023年7月1日から、おなじみのUniversal Analytics(以下GA)のサービスを終了し、Google Analytics4(以下GA4)への移行推奨をアナウンスしました。なお、エンタープライズ版であるGA360ユーザーに関しては廃止日を2024年7月1日に延長になったようです。

2021年にGA4がローンチされてから、遠からずこのアナウンスが来るだろうと予測していた方も多いとは思いますが、まさかこんなに早いとは・・・と個人的には驚きでした。おそらく多くの方が「まだ先だろう」と考えて、移行準備が十分に済んでおらず、急ぎの対応を迫られている状況になっているのではと想像します。

一方で急ぎの対応が必要な状況にも関わらず、移行プロジェクトが上手く進んでいないという声をよく聞きました。

これは、GAからGA4への切り替えが、単なるバージョンアップではなく実態としては全く新しい分析ツールのリプレイスのような取組であることがその大きな要因でしょう。GAの普及の背景は1.無料で使えること 2.導入が容易の2点が大きい要素だったと思いますが、GA4に変わることで2.の導入難易度が増したように感じます。データがすべて「イベント」単位で扱われるようになったことで、もともとGAでイベント計測などを独自で実施していた場合でなければ、新しいデータ構造の概念から理解する必要が出てきました。

 

イベントデータの構造

またイベントデータですべてが動くため、これまで計測していた指標を再現するにはどう設計したら良いのか?という変換の検討を実施していく必要もあり、実装の手前の設計から躓いてしまい、四苦八苦しながら移行を推進した2022年だったかもしれません。

DearOneとしては、実はAmplitudeやMoEngageの導入の際に実施するタスクである「タクソノミー設計」が、GA4導入時のイベント設計に通ずるところがあることが分かり、ノウハウを発信することでGA4導入の一助となればと取り組んできました。(Amplitudeにも関心を持っていただければという下心もありますが) 

今は聞き慣れない「タクソノミー設計」という取組ですが、端的に言うと「ユーザー行動/体験を計測するための最適なデータの取得設計」であり、データドリブンにCX改善を行う上では非常に重要な取組であると考えています。2023年にはGA4の移行が完了し、より使い倒す方向で考えるフェーズかと思いますが、GA4の機能をフル活用する意味でも、その他のMartech導入を見越した備えの意味でも、この「タクソノミー設計」が重要な取組テーマになり普及していくと予想します。まだ未実施の方は、ぜひこの「タクソノミー設計」の取組を2023年の取組の1つに組み込んでみてはいかがでしょうか?今後サービスページも公開予定ですので、ぜひご覧ください。

トレンド2・1st Partyデータマネジメントの重要性とCDP

ありがたいことに弊社で取り扱うAmplitudeの導入社数やユーザー数、引き合いの数も2021年と比べるとかなり増えた1年でした。Braze社の導入事例リリースも頻繁にアップデートされており勢いは加速していますし、弊社が総代理店を務めるMoEngageも実績が生まれました。グロースマーケティング分野で北米を中心にスタンダードとされるツールが、国内においてはようやくキャズムを超え始めているような感覚を持っています。

一方で、導入やPOCを経て別の課題感が顕在化するケースもありました。それは自社で持つ1st Partyデータの品質管理と維持です。AmplitudeやBraze、MoEngage、先に上げたGA4などは全てイベントデータで動くツールになっています。すなわち、投入するデータの品質が各ツールの持つ機能を最大限に発揮できるかを切り分けると言っても過言ではありません。

ですが、現実には投入するデータを棚卸しする際に自社のデータの不足点、課題事項が浮かび上がってきます。

以下は一例ですが、

  • ユーザーを識別するID体系がバラバラで、部分的にしかデータを顧客軸で統合できない
  • コンテンツを識別するIDを名称に変換するデータ処理の工程が必要
  • データ取得の実装時のミスがあり、意図した通りでないデータが流入している
  • 目的を満たすのに最適なデータ、項目の判断がつかない
  • 新機能やページの行動を示すデータの取得開発が漏れており、そもそも計測できていない

など、いざデータを分析する/使うプラットフォームを導入したものの、上流のデータの仕様の課題が顕在化し、改めてデータマネジメントの重要性を認識した会社様も多かったのではないでしょうか?

こうしたデータの品質管理・維持の課題に対するソリューションがCDP(Customer Data Platfom)です。CDP自体は数年前からTreasure DataやTealiumを始め市場への展開が進んでおりましたが、分析する/使うプラットフォームの普及がその重要性を再認識する機会となり、2023年にはCDP検討、導入がギアを上げて加速する年になるのではと予測します。

DearOneとしては2022年6月に、スターバックスやAirbnbなど有名BtoC企業で多くの採用実績を持つCDP「mParticle」とのパートナーシップを締結しました。

取得したデータの品質管理や、下流ツール/システムへの連携、柔軟なID統合ロジックの適応などに強みを持つツールです。先に上げたデータの品質管理・維持の目的においては非常に強力に働くことを期待し、CDP市場の新たな選択肢として2023年も提案活動を続けてまいります。

また、CDP市場のもう一つのムーブメントが予測されます。それがModern Data Stack型CDPの台頭です。CDPツールという新たな中核となる箱を立ち上げるのではなく、既に保有しているDWH(SnowflakeやBig Queryなど)に、Reverse ETLなどのデータ連携機能に特化したツールを組み合わせることでCDPに求める機能要件を満たしていく考え方です。HightouchというReverse ETLツールがきっかけとなり、北米ではこれを活用したCDP構築にシフトする事例も増えているようです。(個人的にですが、2022年に触れたMartechで最も感動したのはHightouchでした)

安価、かつ必要最低限の機能から「付け足していく」ことが出来るため、柔軟性や拡張性を持ちつつも過剰にならずにCDPを構築できるメリットがあります。もちろん、ツールの目利きやデータアーキテクチャの設計などパッケージ型CDPにない検討要素があるためどんな企業でもメリットが発揮できるか?という点においてはそうでないケースもあると思います。ですが、パッケージ型CDP vs Modern Data Stack型CDPの構図は2023年のCDP検討における論点の1つになるでしょう。

トレンド3・従来型KGI/KPIの機能不足とNorth Star Metricへの注目

KGI/KPIに代表される目標指標の在り方も、再考のフェーズに来ているのかもしれません。従来よりKGI(売上などの最終目標)とKPI(コンテンツの閲覧数、メールの開封率、アプリの起動数)などを設けて進捗をトラッキングしてきた企業様が大多数かと思います。ですが、実はグロースマーケティングを実践する際には、この2つの指標を観測するだけでは機能不足に陥ってしまうことに気付いた企業様も一定数いるのではないでしょうか?

この理由は2つあると考えています。

1つ目は「KGIは距離が遠く、KPIは距離が近すぎる」ことです。

どういうことかというと、例えば年間契約が前提のSaaSツールだと、オンボーディング体験の改善やコンテンツマーケティングなどのCRM施策の結果が解約を抑止し次の売上に繋がるかどうかが分かるのは1年後になります。検討リードタイムが長い耐久消費財の場合では、その結果が出るのは数年後という可能性もあります。なので、施策の結果を観察し施策の磨き込みをかけるグロースマーケティングの考え方からすると距離が遠い(=施策の効果を観察できるまでの時間が長い)指標であるということになります。

KGIKPI

一方でKPI(コンテンツの閲覧数、メールの開封率、アプリの起動数など)は結果がすぐに観測できる一方で、企業視点でコントロールしやすい数値になっています。極端な話ですが、プッシュ型施策(広告、メール、プッシュ通知など)に予算を注ぎ、とにかく数と頻度を増やせば向上する数値でもあるということです。このような状態になるとKPIは向上しますが、そこに執着するあまり肝心の顧客体験が良いものではなくなってしまう懸念もあります。場合によっては、例えば「プッシュ通知の開封率は高いので安心していたが、その後何も行動を起こしていない、あるいはプッシュ通知経由でしか起動しないユーザーが一定数存在していた」といったような事態が起こる可能性もあります。なので、顧客体験の向上によるリテンション向上を重視するグロースマーケティングの考え方からするとKPIは距離が近すぎる指標ということになります。

2つ目は、ユーザーリテンションの先行指標は、プロダクトにより全く異なるという事実です。ユーザー獲得のファネルで考えると概ね認知→検討→購入/利用開始というステップはどんなプロダクトであっても方向性は変わらないと思います。一方グロースマーケティングはプロダクトの利用体験を向上し、リテンションに繋げることが命題ですが、その先行指標は千差万別なのが事実です。特定の機能の利用回数かもしれませんし、N日以内の行動など時系列が要因になっているかもしれません。またリテンションはしているものの、本来プロダクトが提供する体験価値が十分に届いていない使い方をしている可能性もあります。

この2つが、従来型のKGI/KPIだけではグロースマーケティングの実践においては機能不足に陥っている理由と考えます。

この状況の解消策として注目されているのがNorth Star Metric(NSM)という新たな目標指標の考え方です。NSMはKGIとKPIの中間に位置する、KGIの先行指標として機能する指標で、1.プロダクトの提供価値 2.収益への貢献(KGIへの寄与度) 3.プロダクト戦略の3つの要素を満たすユーザー行動の先行指標から定義することを推奨しています。

DearOneではNSM策定をご支援するワークショップの開催を2022年は積極的に開催してきました。ワークショップを通して、NSMの策定そのものだけでなく、プロダクトに関連する様々なメンバーが提供価値と考えていることが実はそれぞれ違っていたり、プロダクトに対する思いが分かったりと副次的な効果を生み、チームの一体感醸成にも繋がるシーンなどを見てきました。2023年、よりグロースマーケティングを加速する取組の1つとしてNSMの策定を検討してみてはいかがでしょうか? 今後はワークショップの導入部分を自社Webinarの形式で開催する計画もありますので、ご期待ください。

先進Martech活用に向けたマインド転換

有り難いことに多くのクライアント様に恵まれ、弊社で提供したAmplitudeやMoEngageなどのツールを導入いただき、活用頂いております。一方でベーシックな使い方は利用しつつも、使いこなすレベルに至るまでのハードルが高いというお声をいただくのも事実です。弊社で出来るサポート内容の充実、ブラッシュアップは当然引き続き実施する前提ですが、このハードルはどこから生まれるのか、という観点で分析してみると海外製のMartechの共通点は「オブジェクト指向型」であるという仮説が浮き彫りになりました。

オブジェクト指向型の説明に入る前に、同じくSaaSである、例えば人事労務系のツールや日頃のMTGを実施するZoomやTeamsなどのオンライン会議ツールを例にします。これらはおそらく使いこなせないという人は少ないのではないでしょうか?我々は、これらのツールは決められた手順や機能を利用することでアウトカム(成果)が得られる「プロセス志向型」のツールであるためと考えています。

例えば、面倒な年末調整の提出も、画面に表示される項目を順番に埋めていくプロセスを経ることでアウトカム(年末調整の提出)を得ることが出来る、といった具合です。こうしたツールはマニュアルやUI上の表示を読み込めば誰でも使いこなせる(アウトカムを得られる)便利なツールになっています。

オブジェクト指向型ツールはどういった特徴があるか?の話に戻ります。最大の特徴は、機能を使うことだけではアウトカムにたどり着けず、機能を組合せ、解釈することで初めてアウトカムに辿り着くという点です。先述のプロセス指向型とは対極の構図になっています。

例えば、Amplitudeを例に「2回目購入に転換したユーザーの要因分析を行いたい」となった場合

  • ファネルチャートで2回目購入のCV、離脱ユーザーを可視化
  • CV/離脱ユーザーをそれぞれをコホート(=セグメント)化
  • 各コホートの行動をイベントセグメンテーションでランキング化して比較して差分となる行動を特定する

など、あくまで一例ですが上記の例だけでもファネル、コホート、イベントセグメンテーションという3つの機能を組合せて分析を実施しています。また、最後のステップでも「正解はこれです」というサジェストが出るわけではなく、これまでの分析結果から解釈を行う必要があります。自分の求めるアウトカムに辿り着くためには、機能と機能の掛け算を都度考えていく必要があるということです。これが使いこなすのが難しい要因になっているのではないか、と考えております。Amplitudeだけでなく、MoEngageなどで設定するキャンペーンシナリオも、同じ考え方ですね。

「こうした難しさのハードルを超えて、どうしたら誰でも簡単に使いこなせるようになるのか」

これを仕組みでどのように解決するかは我々の2023年の大きな宿題ですが、ツールへの考え方として「決められた手順を実施すれば結果が出る」というマインドがある場合は変えていく必要がありそうです。機能やデータの組合せ方と解釈手法の探求、その知見のシェアが今後Martechを使いこなしアウトカムを得るという点では重要なマインドになるでしょう。逆に言えば、オブジェクト指向であるがゆえに組み合せ方は無限大ですし、新たな可能性は発想次第で広がっていくものです。今のツールの使い方に甘んじることなく「自由演技」を楽しみ、探求していく2023年になればと思います。

まとめ

ここまで長文にお付き合いいただきありがとうございます。グロースマーケティング支援に心血を注いできた2022年のDearOneの営みを振り返ると、今年も変化の著しい1年間だったなと感じます。また振り返りの中で2023年のトレンド、宿題も同様に見えてきました。皆様のマーケティング活動はどんな1年だったでしょうか?ぜひ今年を振り返り、来年の準備に繋げていただければと思います。

それでは、良いお年をお過ごしください。

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