今回の「海外Hot Info」は、Web3におけるNFTと「ドロップモデル」の最新事例について、株式会社トラストバンクの森杉育生さんにお話を伺いました。
Generativeアートで数万種類のNFTを展開!「ドロップモデル」はNFTと好相性
安田 今回もよろしくお願いします!
森杉さん(以下、Mr.モリスギ) 今回もよろしくお願いします!前回 はNIKEやSupremeはリアルな製品におけるドロップモデルが上手いというお話でしたが、今回は「ドロップモデルとNFT」ということで、デジタル領域の最新事例を紹介していきます。
NFTって数量限定のドロップモデルと相性がいいんですよね。NFT業界では皆、デジタルにおけるドロップモデルを使っていると言えます。
安田 確かに、デジタルだと好きなだけアイテムを作って在庫にできますからね。
Mr.モリスギ はい。あえて「2,000個しかないよ」と限定で用意して、それも本当に2,000個しかないことをブロックチェーンで証明してレア感を演出することが多いです。
おっしゃる通り、画像だけだったら何百万枚でも複製できるのですが、真贋証明書のように真正性・限定性を表すメタデータをブロックチェーンに刻むことことで機能しています。
NFTのドロップモデルでは、発行してから「無料配布」(エアドロップ)することが多いですが、そのほか「先行限定」(ホワイトリスト)、「一般抽選」、「一般販売」などもあります。その後の受け取る方法にも「通常受取」と、開いて見て何が入っているか初めてわかる「ガチャ」(Riveal:リビール)の両方があります。
安田 購入した3ヶ月後に中身がわかるとかですか。
Mr.モリスギ はい。このようにNFTではさまざまな仕掛けをリアルな製品と比較して簡単に作ることができるので、リアルと比べてドロップモデルがかなり盛んです。
例えば「Generativeアート」と呼ばれるものは、簡単にかつ唯一のもの作れる方式を採用しています。。例えば、NFT界隈で最も有名な作品の一つに「Bored Ape Yacht Club」というNFTコレクションがあるのですが、どれも同じような猿の絵なのに、細部が全部違うデザインのNFTになっているんです。
例えば、メインの猿のイメージに対し、頭や体のパーツを色違いのバージョンも含めてそれぞれ5種類ほど用意するとします。これらを組み合わせると5×5×5=125種類。もっと別のパーツを組み合わせればさらに×5で625種類とどんどん増やしていくことができます。ほかにもメガネ・帽子・洋服などのバリエーションもあったりします。こんな感じで大体1万〜2万種類くらいは簡単に用意することができるんです。オンラインゲームなどでカスタマイズされたアバターを作るのも同じロジックですね。
Mr.モリスギ 「先行限定」(ホワイトリスト)に関しても、アーティストの村上隆のNFT配布事例を紹介します。さまざまなファッションブランドや「ドラえもん」ともコラボしていて世界的に有名な方ですが、デジタルファッションのNFTブランド「RTFKT」(アーティファクト)ともコラボしています。
NIKEが買収したRTFKTについては 過去の海外HOT Infoで紹介した記憶がありますが、村上隆はそのNFTブランドとタッグを組んで「CloneX」というコレクションを作り、NFTのキャラクターを村上隆が描くという形で先行限定で販売しました。
その際、CloneXのNFTの15%だけに「村上隆」特性を付与し、残りの85%は「村上隆」特性ではないNFTだと分けて特徴付けしたんです。これにはライセンスの問題が関係していて、つまり商用利用を禁じる15%と商用利用できる85%に分けた形です。
そして、15%の「村上隆」特性のNFT3,500枠を持っている人だけが「ホワイトリスト」対象者として、別途、村上隆が新たに出すNFTの購入権が得られる上、特定の値段で確実にもらえるという特典を与えました。
残った分6,751人分について値段はNFTアート1枚が約1万円で、一般抽選で当選する必要がります。一方、ホワイトリストなら1枚約7,000円と若干安く買えて、しかも絶対買えることが保証されているわけです。このように設定を分けることで、徐々に「ホワイトリスト対象者になりたい」と思うようにうまく作り込んでいますね。
安田 これも「ロイヤリティプログラム」の一種だと考えれば、割とNFT以外でもよく見られますよね。「ゴールド」「シルバー」などと会員を分けるのと似ている気がします。
Mr.モリスギ ドロップモデルにも、よく言えば「ロイヤリティプログラム」、悪く言えば「信者ビジネス」に近いものも中にはあります。特にデジタルのNFTだと、見た目が洗練されたものも多いので、素性が怪しいものでも「ロイヤリティプログラム」に見えるものもあるかもしれません。
中身がわからなくても3,000個が即日完売!「ドロップモデル」に向くプロダクトと向かないプロダクト
Mr.モリスギ NFT Revealの事例を紹介しますが、これが前述の開けてみるまでわからない「ガチャ」みたいな仕組みのことです。購入して数ヶ月後に中身がわかるといったものですね。
安田 その頃には購入したこと自体忘れていそうです。
Mr.モリスギ そうですよね。2022年初頭、前述のNIKEが買収したNFTブランドRTFKTが「MNLTH」(モノリス)と呼ばれるNIKEのマークが入った箱を突如販売しました。
RTFKTは村上隆とコラボしたりNIKEと一緒にアイテムを出したりしていましたから、元々期待値が高かったこともあると思いますが、2022年1月にこれが中身が何かわからないのに、3,000個が即日全部売り切れたんです。
その後、4月に「実は中身はこれでした」と発表したのが、誰もが想像もしていなかったNIKEのデジタルスニーカーCryptokicksというもので、メタバースの世界で、カスタマイズしてアバターに履かせることができるデジタルアイテムだったんですね。
安田 なるほど。一体どこで使うんだろうと思いました。
Mr.モリスギ あとはARですね。スマホのカメラなどで自身の足を撮ると、いわゆるARでファッションスニーカーが履けるんです。それをみんなに自慢するというわけです。
安田 なるほど。わかる人少なそうだなぁ…!
Mr.モリスギ はい。だいぶニッチな業界なのですが、とはいえNIKEということもありNFT業界の中ではかなり話題になっていました。
以上のように、従来のリアル世界でのドロップモデルよりも細かくカスタマイズや制御ができることもあって、デジタル領域でドロップモデルが盛んに取り入れられていて、ほぼ全てのNFTがドロップモデルを採用し、皆でいろいろな工夫を施してロイヤリティを高めているといっても過言ではありません。
安田 確かにそうですね。リアルの商品でも「1点物が欲しい」というニーズって結構あると思うのですが、実際に何かモノを作ろうと思ってもハンドメイドで量産できないという制約がありますが、これがデジタルだと簡単にすぐ量産できる。NFTはそこがすごく良いなとお聞きしていて思いました。
Mr.モリスギ まさにおっしゃる通りで、この辺、実はもう手法としては確立されてきていますが、前述のGenerativeアートみたいにテンプレ上の要素を取り替えるだけではなく、AIによって生成された唯一の作品を個数限定でドロップするというモデルは、今後ますます発展するのではないかと思います。
安田 今やMidjourneyやStable DiffusionのようなAIで、簡単に画像が生成できる時代ですからね。
Mr.モリスギ はい。こうなってくると、どういう材料をAIに与えてどういうものを作るかで、クリエーターの力量が試されるようになってきていると感じます。
ただし、ドロップモデルは何にでも適用できるかというとそうではなく、まさにNFTのようにプロダクトが高価すぎず、簡単に配布・販売できる場合が最適だと言えます。
反対に、自動車などはまず生産自体に時間がかかりますし、バラエティを増やそうにも、せいぜいエンブレムや内装をちょっと変えるくらいしか簡単にできません。例えば製造コストや輸送コストを考えるとBMWの車を無料配布(エアドロップ)するわけにもいかないでしょうし、そういう事情もあって、やはり高価で配布しづらいリアルなものはドロップモデルにはあまり向いてないと言えるでしょう。ただ、NFT以外でも、例えばリアルの特別なアイテムを、ターゲットのロイヤルユーザーに連続で購入してもらいたいようなときにドロップモデルを使ったりはできると思います。
以上のように、まさに今NFTを中心にドロップモデル自体が加速しているような状況ですので、デジタルマーケティングの一環で試してみたら面白い手法なのではないかと思います。ドロップモデルに適した商材を持っている企業や、今から挑戦してみようと思っている方は、NFTは一つのデータを入れる箱として考えてみても良いかもしれません。
安田 今回も大変勉強になりました、ありがとうございました。
≪安田`s Memo≫
高価すぎず簡単に配布・販売できるプロダクトが「ドロップモデル」向き。NFTの登場でデジタルドロップモデルが一気に加速。ほぼすべてのNFTがドロップモデルで販売
―次回の【海外Hot Info】も、ぜひお楽しみに!