今回もプレゼンターは、国内外のリテールテックを10年以上見続けてきた株式会社DearOne代表取締役社長の河野恭久さん。前回は、「不二家があえて赤字の洋菓子部門からDXを始めるワケ」という記事から、国内企業がDXを成功させるための戦略について探りました。
DXニュース 第3回に取り上げるニュースは「TSUTAYAのデータ活用戦略、7000万人分の会員データをAIに生かせるか」。それでは、はじめましょう!
「需要予測」「売れ筋商品の開発」など、書店のビジネスを変革した4つの施策を徹底解説!
三石所長(当時。以下、三石) 「DXニュース」第3回、はじまりました。ニュースプレゼンターは、前回に引き続き、リテールテックを10年以上見続けてきたCEOの河野さんです!
河野恭久さん(以下、河野) よろしくお願いします!
三石 今回は「河野さん厳選! 2021年8~9月 TOPニュース」の3本目ですね。
(※編集部注・河野さんが他にピックアップしたニュースについては、こちらの記事をご覧ください!)
河野 はい、3本目は「TSUTAYAのデータ活用戦略、7000万人分の会員データをAIに生かせるか」です。
TSUTAYAはみなさんご存じのTカードを発行し、現在、7000万人分の会員データを所有しています。そのデータをAIに活かせるか?という記事ですね。
まずは、僕の視点から注目ポイントをまとめてみたので、こちらをご覧ください。
書店を儲かるビジネスに変えるためにCCCが打ち出した「4つの施策」
1)需要予測
2)売れ筋商品の開発
3)売り切る店舗作りの規格化
4)徹底したデータドリブンな仕入れ体制の構築
河野 今回の記事ではTSUTAYAを運営するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)の方へのインタビューがあり、書店を儲かるビジネスに変えるためにCCCが打ち出した「4つの施策」について説明されていました。
三石 「4つの施策」について、それぞれ詳しく教えていただけますか?
河野 1つめは「需要予測」です。これまで書店は大量に本を仕入れて、売れなかったら返品するという流れでした。それをTSUTAYAは、版元から「返品枠」を設けて買い切る、そのかわりに安く仕入れるという方法に変更しています。買い切りのリスクがあるものの、7,000万人分の会員データからAIを使って「需要予測」をすることで、利益率を大幅に上げることができたそうです。
三石 大量の会員データをもつTSUTAYAならではの戦略ですね。
河野 2つめは「売れ筋商品の開発」。これは僕も素晴らしいと思っていて、TSUTAYAが独自の本の限定カバーを作り、SNSで話題にしたところ、売り上げが同じ作品でも他の書店よりも10%以上高い結果が出たそうです。さらにSNSでマーケティングしたので、20~40代の若い女性の新規読者層も獲得できたと。
三石 SNSを駆使するなどして「話題づくり」がうまく成功すれば、これは他の書店でも真似ができそうですね。
河野 3つめは「売り切る店舗作りの規格化」。たとえば、学術参考書は買う目的が決まって買う、ビジネス書は売り場で気になって買うなど、ジャンルによって購入される傾向が違うので、それに合わせて最適な面平率(背表紙ではなく表紙を見せる率)を算出したそうです。それによって、各ジャンルで売上前年比がアップしています。
三石 「面平率」は僕らには馴染みのない言葉ですけど、面白い視点ですね。
河野 4つめは「徹底したデータドリブンな仕入れ体制の構築」。これが僕らの事業にも最も関係があるところで、Tカードの登録データと購買データから推測して、「この会員は自己投資に励む一人暮らし」など、顧客をクラスタリングしました。ここまではよくある施策ですよね。
三石 そうですね、グロースマーケティングを推奨している僕らにとっては重要ですね。
河野 TSUTAYAはこれを10通りのクラスターに分類しています。書店のある地域によって各クラスターの来店率は異なるので、それを各書店に伝えて、書店はそのデータに沿って仕入れと店内レイアウトを変更しました。その結果、返品率は22%改善されて、さらに「書店はどこのお店に行っても同じに思われている」という課題も解消されたそうです。これを「クラスタリング発注」と呼んでいます。
三石 めちゃくちゃいいキーワードでましたね。クラスタリング発注、素晴らしいな。施策の効果もしっかり出ていて素晴らしいですね。
河野 面白かったのは、クラスタリング発注の成果、返品率の改善だけでなく、全ての店舗で軒並み売り上げが上がったという結果がちゃんと出たところです。この成功をもとにCCCではさらに精緻なデータを用いたAIによる仕入れにも挑戦しています。
三石 え、気になります! 一体どのようなデータを用いたのでしょうか?
「クラスタリング発注」で返品率13%を達成!ビジネス成功のためには「データミックス」の視点も必要
河野 何をやったかというと、「ID単位のレコメンド」です。先ほどのクラスタリングを、その先のワントゥワンまで落とし込むという話ですね。これは既に特定店舗で実験的に行って、返品率が13%まで下がってきているそうです。
三石 凄い! どんどん実施する店舗は出てきそうですね。
河野 現在、書店は本が売れないために存在自体が危ぶまれているなかで、こういう取り組みによって返品率が下がると書店の利益率が上がるので、実際にTSUTAYAは持ち直してきているそうです。まさにデジタルのおかげかなと感じました。以上です!
三石 ありがとうございます、面白いですね。これは「再現性」の観点でいうと、TSUTYAに限らず、流通、リテール、外食など、店舗系企業全般で再現性が高いのかなと感じました。特にこのクラスタリング発注は、スーパーなど、他の業態でも活用できますよね。
河野 そうですよね。私もそう感じました。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
顧客をクラスター分けして、その来店率によって発注を変える
「クラスタリング発注」は、書店に限らず、
スーパーなど他の業態でも活用することができる。
三石 ここからは仮説の話なんですが、これも前回の不二家同様に個別店舗ごとにできる施策ではなく、企業のセントラル(中心)から全体のデータを見て、そこから仕切って、発信していくというミッションが鍵になりますよね。TSUTAYAさんはもともとデータに強い企業でした。そこをさらに高度化して、実現度を高めたということですかね。
河野 僕も全く同じことを思いました。それで感じたのが、ぜひDearOneの親会社であるNTTドコモの「dポイント」も、こういったマーケティング要素をやってもらいたいなと。
三石 いいですよね。プラットフォーム視点で見ると、1つのリテール、1つの企業だけで集まるデータじゃなく、統合して情報が集まるからこその拡張性がありますから。たとえば、僕がエネオスでガソリンをめちゃくちゃ入れていて、ハイオクで…となると、そのデータから「この人の車はこうで、車好きで」と、ここでもクラスタリング発注ができる可能性がありますね。
河野 それはまさにクラスタリングですよね。
三石 今後こういった、自社のデータと他社のデータのミックスが重要になるでしょうね。TSUTAYAの場合は7000万人いるので、データの広さと深さがあると思うんですけど、広さと深さがない1事業会社ごとの場合は、パートナーごとに連携しあって、個別でユーザー許諾がとれている状態だから、いろいろ広がりが出てきそうですね。
河野 出てきそうですね。まさにそれを感じる記事でした。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
1社で大量のデータを保有していない企業は、自社と他社のデータを掛け合わせる「データミックス」の視点が重要になる。
―――次回の【DXニュース】では、引き続きプレゼンターの河野さんに、PayPayの戦略と今後の展望について解説していただきます。ぜひお楽しみに!