1987年に創業以降、女性を中心に大きな支持を集めるスキンケアブランドである「オルビス」。通販を中心に販売を行ってきましたが、現在はEC、アプリ、リアル店舗、BtoBと、その販売チャネルは多岐にわたり、さらに高度な行動分析が求められています。
Amplitude導入の経緯や成果について、オルビス株式会社CRM統括部 部長の大村 亮平氏、CRM統括部 CRM推進グループ グループマネージャーの藤田 剛氏、CRM統括部 CRM推進グループの阿部 由佳氏、CRM統括部CRM推進グループの生田 沙耶氏にお話を伺いました。
課題:
- 購買履歴などの顕在データからしか行動分析ができていなかったため、潜在的なニーズが見えづらかった
- 「データの民主化」が進んでおらず、社内でもデータを扱えるのが一部の社員しかいなかった
効果:
- プロセスの分析にかかる時間が1時間から2,3分に短縮され、キャンペーン期間中でも迅速に追加の施策が打てるようになった
- 分析データがわかりやすいグラフになり、Slackで簡単に連携できるので、社内での情報共有が手軽に
展望:
- 「データの民主化」をさらに進め、チャネルを横断した行動分析で「お客様第一」の心地よいOne to Oneコミュニケーションの実現
創業37年のスキンケアブランド「オルビス」
販売チャネルが複雑化していくなかでも「お客様第一」を目指す
DearOne 市来|
Amplitudeを導入いただいた御社のサービスと特長を教えてください。
オルビス 大村様|
オルビスはスキンケアを中心としたビューティーブランドで、ボディケアやインナーケアなどの周辺商材も販売しています。37年前に創業以来、通販をメインにサービスを展開してきたなかで、現在はECやアプリ、直営店舗、BtoBと様々なチャネルで販売を行うようになりました。そこでAmplitudeを導入しています。
全てのチャネルで一貫して私達が最も大事にしているのは、「お客様第一」であることです。通販はお客様の顔が対面では見えない世界ですが、お客様との距離感や心地よさを常に意識し、どのようにコミュニケーションを実施していくかを考えています。
DearOne 市来|
皆様の業務内容と役割を教えてください。
オルビス 大村様|
私はCRM統括部で責任者をしております。通販のダイレクトマーケティング部分の全般を担っています。
オルビス 藤田様|
CRM推進グループでグループマネージャーを務めています。最重要KPIとしてLTV(LifeTime Value:ライフタイムバリュー)を設定して、お客様の生涯顧客価値を追いかけています。
お客様によって悩み事や関心事は異なるため、One to Oneマーケティングに取り組み、お客様のセグメントを切りながら、お客様に合わせてLTVを最大化していくところを実装します。チームの中では施策の計画から実行、評価まで行っています。
オルビス 阿部様|
私は藤田と同じCRMグループの中でLTVチームのリーダーをしており、「LTVを上げるにはどうすればいいか」というところを主に考えています。
オルビス 生田様|
同じくCRMグループのメンバーで、阿部と同じLTVの領域や、スリーパー(休眠ユーザー)のお客様の復活施策などを担っています。
目指すは「データの民主化」。社内にデータ活用を広めたい
購買履歴など「結果」からの分析しかできていなかった
DearOne 市来|
Amplitude導入以前のデータ活用に関する課題として、どのようなものがありましたか。
オルビス 大村様|
オルビスは通販が主体であるため、多くのデータを保有していますが、以前は主に購買履歴に基づいたコミュニケーションを行っていました。お客様のアクションの結果に対してどう次の行動を促していくか、たとえば「この商品を購入したお客様に次はこの商品をおすすめしよう」「数か月後に再購入を促そう」といったコミュニケーションを考えて実施する形です。
ただ、現在ではWebやアプリ、カタログやDMなど、コミュニケーション手段が多岐にわたり、複数の流入経路が考えられます。お客様の消費行動も時代とともに変わっていくなかで、購買履歴だけでは潜在的なニーズを把握することが難しく、以前の分析ツールでは効果的なコミュニケーションに限界を感じていました。
DearOne 市来|
結果として見えているアクションだけではなく、見えていない領域もデータとして捉え、分析していく必要性を実感されたのですね。
オルビス 大村様|
はい。たとえば、「ECでどんなページを見て、お気に入りに登録したか」「このページを見ていたから、こういう商品に興味があるんじゃないか」など、購買履歴以外のお客様の行動に表れる潜在的なニーズをコミュニケーションの中に入れていきたいと思ったんです。
仮説を立てることはマーケティングにとって一番大事なことですが、結果だけから仮説を検証しても、本当の課題や購買に至った因果関係はわかりづらいものです。お客様が購買に至ったきっかけやプロセスの中には「本質的な部分の決定要因」があると考えていますが、以前の分析ツールでそれに辿り着くのには難しく課題として感じていました。
そのため購買履歴以外の部分もデータとして捉えられて、分析できるツールを探していました。
「データの民主化」を目指すなかで、操作の速さと手軽さを重視
DearOne 市来|
分析ツールを探すなかで、Amplitudeを選んだ理由や導入の決め手は何だったのでしょうか。
オルビス 大村様|
速さと手軽さが一番の決め手でした。以前のツールは扱いが難しく、当社は30年以上にわたりデータに基づいて意思決定をしてきた歴史があるのですが、それでもデータを扱える人数は社内で限られていました。
今後はいわば「データを民主化」して、より多くの社員が直接触れるようにしたいと思っていたので、操作が明快で、誰でも手軽に扱え、生産性を上げられるような速さや利便性が求められていました。
もう一点、惹かれたのは「マジックナンバー*1マジックナンバー:ユーザーが特定のアクションを規定回数以上行うとサービスの継続率や収益などの重要指標が飛躍的に向上する数字」を簡単に導き出せるところです。どうしても人間の手作業だと限界があるので、手軽にマジックナンバーを見つけられる点は大きなメリットでした。その2点が要因だったと思います。
DearOne 市来|
本導入前にテスト導入をされていますね。実際にAmplitudeを触ってみて、どのような感触でしたか?
オルビス 阿部様|
初めて触ったときに「感覚で使える!」とびっくりしました。これなら、明確なマニュアルがなくても誰でも触りやすいと思いました。
マジックナンバーの話でいうと、たとえばある商品を購入したお客様がWebでどういう行動をしたかといったデータは、以前の分析ツールで分析しようとすると、かなり大変でした。それがボタン1つや2つでできるところなど、感覚的にもわかりやすくてよかったと思います。
また、以前は分析するための条件を自分たちで設定したり、テーブルを自分で繋げる必要があり、難易度が高かったんですね。どこにどの情報があるのかを一覧で見ることも難しかったのですが、Amplitudeはその点でも感覚的にわかりやすく、データや分析に対して馴染みがない人でも簡単に操作できるツールだと感じました。
オルビス 藤田様|
私達が目指す「データの民主化」で言えば、以前の分析ツールは導入してからかなりの時間が経っているのですが、使っているチームがほぼ我々だけになり、他部署が何かの分析をしたいときは、私たちがその依頼を受けて対応する形でした。そのため、どうしても時間や手間がかかっていました。
テスト段階で、Amplitudeは感覚的に使いやすいので、他部署も扱うことができるようになると感じました。自分でデータを見ることで、気づきを得ることもたくさんあります。データ分析のリテラシーが会社全体で向上することが一番の魅力だと、私は思いました。
Amplitudeが実現した大幅な分析時間・工数の短縮
DearOne 市来|
現在、Amplitudeを活用して進めている取り組みについて、教えてください。
オルビス 阿部様|
AmplitudeによってWeb上での行動と販売データが繋がったので、お客様がどのような経路で購買に至ったか明確にわかるようになりました。たとえば、配信メール内のリンクを経由して購入したケースや、EC内の検索で商品ページに飛んでいるケースなど、詳細が見られるようになっています。
これにより、その後メールやLINEなどでお客様とコミュニケーションを取る際に、検索に使用されたキーワードを入れることで反応率が上がるかどうか、というテストを実施したいと思っています。
オルビス 大村様|
以前からそのテストは見るようにしていたのですが、あまりにも時間がかかっていたんです。メール内のリンクは長いのでデータとして重くなり、社内で加工しないと利用できず、やろうとしても工数がかかってしまっていました。つまり、「情報は取っているが活用できてない」という「もったいない事象」が起こってしまっていたんです。
常時、データをチェックすることで施策の改善も実現
DearOne 市来|
Amplitudeを活用して「情報は取っているが活用できてない」という課題は解決しましたか?
オルビス 阿部様|
Amplitudeによってデータの利便性が高まりましたね。社内でデータを加工して、いくつもの工数を重ねなければ分析できなかったものが、今ではそれも不要になりました。
たとえば、1か月間のキャンペーンを実施する際、以前は期間中にキャンペーンの効果や途中経過などを確認するのは数日ごとでした。それがAmplitudeを使い始めるようになってからは、キャンペーンの反応などを常に簡単に状況把握できるようになりました。
それによって、想定していなかった商品が売れている場合、次のメールコミュニケーションでその商品を大きく取り上げてお客様に案内するなど、効果的なアクションが取りやすくなっています。早めにキャンペーンの反応がわかると、次に行う別のキャンペーンの施策を考えやすくなりました。
オルビス 生田様|
以前は、キャンペーンの最初だけ反応が良くてその後に停滞している、といった動きがあっても、気づきづらかったんです。それがAmplitudeでは常にわかるので、プッシュのメールを増やしてみたり、ご案内する商品の順番を変えたりと、キャンペーン期間中にさまざまな改善ができるようになりました。
Amplitudeの特性が「データ民主化」を実現する
分析データがわかりやすいグラフになり、Slackで共有できる
DearOne 市来|
キャンペーン中のマーケティング施策に、大いに影響があったのですね。それでは次に、導入後の運用メンバーの変化について教えてください。
オルビス 生田様|
先ほど話したキャンペーンの状況がAmplitudeではわかりやすいグラフになって出てくるので、普段はデータを見ないチームに共有するときも伝わりやすくなりましたね。
オルビス 阿部様|
それは大きいですね。社内にはいろいろなチームがあって、そのチームごとに施策の評価がやりやすくなりました。AmplitudeはレポートをSlackに送る機能があり、毎日決まったメンバーに送るようにしています。
日々の売上データや、購入いただいたお客様の傾向、購入経路など、「日ごとにちょっと見たい。ただ自分でデータを出しに行くほどではない」といった情報を簡単に、リアルタイムで共有できるようになったことも施策を検討するうえでよかったと思います。
オルビス 生田様|
特に制作メンバー等様々な部署のメンバーが集まるユニットだと、以前はグラフ化されていないデータを共有しても、伝わりづらいところがありました。Amplitudeではグラフ化されたデータを出せるので、視覚的に理解できるようになりとてもよかったと思います。
オルビス 大村様|
やはりAmplitudeはSlackとの連携が便利ですよね。これがなかったら、当社ではここまで広がっていなかったかもしれないと思うほどです。気軽にデータを見られるところがいい。
オルビス 阿部様|
Slackとの連携が、ボタンを2,3回押すぐらいでできてしまって。他のツールだとそうはいかないですよね。簡単に連携できることに驚いて、感動しました。
1か月以上かかっていたslackへの日時レポート送信が2,3分に短縮
DearOne 市来|
以前のツールではSlackでレポートを共有することはできなかったのですか?
オルビス 大村様|
以前のツールでSlackへ日時レポートを送ろうとすると、1カ月以上かかるんじゃないですかね。RPA(ロボティック プロセス オートメーション)を組み、システム部と調整し、プログラムを書いてもらって実行する必要があるので、手間がかかり結局実現しないということもありました。
DearOne 市来|
1か月かかるSlackへの日時レポートの送信が2,3分で出せるのは、大きな違いですね。
オルビス 大村様|
以前は「それに時間をかけてやるのであれば、他の業務に注力したほうが生産性が上がる」と判断していました。それ以外の分析も以前のツールであれば1時間や2時間かかったものが、Amplitudeを使えば5分、10分でできるので、社内のコミュニケーションは活性化していると思います。
オルビス 阿部様|
Amplitudeを導入したことで、目的としていた「データの民主化」も少しずつ進んでいます。導入当初は私と大村と2人で取り組んでいましたが、その後に藤田、生田が加わり、メイン担当が少しずつ増えています。私達のチームは約20人いて、全員が毎日Amplitudeを見るかというとそうではないのですが、たとえば年齢別に見たいデータがあればAmplitudeで簡単に見られるので、そういう風に、気軽にAmplitudeを活用しているメンバーは結構いますね。
Amplitudeにより「伸びしろ」の大きさに気づいた
今後はマジックナンバーを活用した施策にも注力
DearOne 市来|
将来への展望について教えてください。今後どのようにAmplitudeを活用したいと考えていますか。
オルビス 大村様|
お客様に購入いただくために可能な限りデータを収集し施策に落とし込んでいきたいと思います。特に意識しているのは「潜在」と「顕在」で、今は購買履歴などの顕在データを活用してコミュニケーションを行っていますが、潜在的なニーズを捉えてコミュニケーションをしていくところはまだ弱いので、そこもしっかりできるようになるとLTVをさらに最大化できるなど「伸びしろ」があると思っています。
DearOne 市来|
具体的にAmplitudeのどのような機能を、どんな風に活用したいですか?
オルビス 大村様|
これまではCV(コンバージョン)まで至っていないお客様がいた時に、「コンバージョンしていない」という事象しかとらえられていませんでした。しかしこれからは、どこまではユーザー行動があってどこから離脱してしまったのかを「journeys」などの機能を使ってお客様のアクションを捉え、施策に反映していきたいと考えています。
例えば、購入までは至っていないが「ニキビ」のページを踏んでいるお客様がいるとすれば、その方は、ニキビに関心や悩みを抱えている可能性があるため関連する施策をご提案してみます。このように、闇雲に施策を実施するのではなく、精度を上げながら、お客様にとって心地よいタイミングや頻度で施策をブラッシュアップしていきたいと思っています。
オルビス 藤田様|
CRM推進グループは、One to Oneマーケティングを通じたLTVの最大化をミッションにしています。これまで購買履歴を基にお客様が購入してもらえる可能性の高い商材を提案することを繰り返しやってきました。たとえば、美白領域の商材を提案したいときには最初に、最も親和性の高い美白関連のスキンケアを使っている方にアプローチします。
ただ、普段は美白スキンケアを使っていない方でも、美白のスペシャルケアには興味があるかもしれません。Amplitudeによりこれまでは見えなかったユーザー行動データを取得することで、お客様が本当に悩んでいる領域に対して提案をしていきたいですね。それがより深いOne to Oneマーケティングの実現につながると考えています。
DearOne 市来|
「マジックナンバー」の話がありました。こちらも今後取り組んでいくポイントでしょうか。
オルビス 大村様|
はい、マジックナンバーを活用して施策に反映するところはこれからですね。当社はECサイトとアプリがあり、それだけで扱うお客様の行動データは2倍になっています。購買にたどりつくまでにたくさんの経路があるなかで、どのプロセスを経てゴールに至ったかはAmplitudeを使うことでこれからさらに見えてくるので、それを今後は施策に反映させるために、新たなMAツールと繋ぎこんで展開する予定を立てています。
これまでは購買履歴を元に施策を実施してきましたが、 結局はそれが「シナリオ化できてない」ところが大きな課題でした。施策を「線」で繋げていく、お客様の行動に合わせて施策の「幅」を広げていくことが、これからやっていきたいところですね。
それをECサイトやアプリだけではなく、リアルの店舗の体験も含めてシームレスに繋げていきたいと思っています。チャネルが絡めば絡むほど複雑になりますが、Amplitudeによってそれが反映できるような仕組みがあればベストだと思っています。あわせて、UIUXもよりお客様が使いやすいように改善していく予定です。
DearOneの定期的なアドバイスが有効
DearOne 市来|
ありがとうございます。最後に、DearOneに期待することはありますか?
オルビス 大村様|
Amplitudeに取り込むデータの選定を、サポートいただきながらやりきりたいですね。
オルビス 阿部様|
とても助かっているのは、毎月、「こういう分析の仕方があります」など提案をしてくださるので、それをきっかけに「こういうこともできるかもしれない」と気づけることがたくさんあります。今後もいろいろ教えていただきたいです。
オルビス 生田様|
操作のところも途中でつまずいたり、わからないところがあったりすると、すぐに教えてもらえて「こちらのチャートのほうが見やすい」など新たなアドバイスを受けられるのも助かります。今後も他の部署でもAmplitudeの活用が広がるように支援していただけるとうれしいです。
オルビス 藤田様|
我々は本当に手探りで、行動データの知見はまだまだ少ないので、マジックナンバーの見つけ方など、引き続きご支援いただけると助かります。
*所属は2024年10月時点の情報です。
*1 | マジックナンバー:ユーザーが特定のアクションを規定回数以上行うとサービスの継続率や収益などの重要指標が飛躍的に向上する数字 |
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