はじめに
本セッションにご参加いただき、ありがとうございます。株式会社メルカリの諏訪 ひと美と申します。本日は「『数字が苦手でもできる』データ分析の第一歩」というテーマで講演いたします。
私は、大学の文学部を卒業。新卒でデジタルマーケティングのコンサルティング会社に就職し、SEO支援をしている事業部に配属されてお客様のWebサイトを分析してきました。
4年ほど経験した後に、メルカリにデータアナリストとして転職し、プロダクト分析を担当してきました。Webやアプリにおけるユーザーの行動分析であったり、A/Bテスト分析などを実施してきました。いまは領域を変えて、人事データ分析チームに所属して人的資本の分析などを実施しています。
今日はこのように文系学部を卒業してデータ分析を仕事にするようになった私の経験を踏まえて、お伝えしていきます。
いきなりですが、社内でこのような質問を受けたことはないでしょうか?
『うちのWebサイトの月間訪問者数、どれぐらいだっけ?』
Webを担当されている方であれば、1回は受けたことがある質問ではないかと思います。頭の中で即答できた方もいれば、「覚えていないな・・・」と少しドキッとした方もいるかもしれません。
じつは、これは6年前の私の体験談です。当時、新卒でデジタルマーケティング支援会社に入社しSEO支援の事業部に配属されて、お客様のWebサイトをいくつか担当していました。そして、Webサイトのパフォーマンスを聞かれて即答することができませんでした。
当時の私は数字に苦手意識を持っていて、Google Analyticsなどの分析ツールを開いても何を見てもいいか分からず、数字に対するセンスもなく、数字を見て何かを考えて行動する習慣も全くない状況でした。「直観や感覚だけで判断してしまう」「主張がデータに基づいていない」といった状態です。
しかし、6年経って今はメルカリのデータアナリストとして、数字を武器にして仕事をしています。「定量的に考える」「数字的な根拠をもって主張ができる」といった形です。
本日は私の体験に基づいて、「数字が苦手」とはどういう構造で起こっているのか、そして、どうやれば変えていけるのかをご紹介していきます。また、「数字が苦手」な方でも踏み出せるデータ分析の第一歩を紹介します。
セッションは、データ分析の初心者向けになっており、
- 数字に苦手意識のある人
- データを見慣れていない人
- データ分析をやったことがなく、イメージをつかみたい人
に向けた構成になっています。同時に、指導者の方であれば育成等にも使えると思いまうので、ぜひご活用ください。
セッションのゴールは「データ分析を始めるとっかかりをつかむ」ということで、今日からデータ分析の第一歩を踏み出せる状態になっていただくことを目指してお伝えしていきます。
「数字が苦手」とはどういう構造か?
本編はまず「数字が苦手」の構造から説明していきます。
上のスライドはあるECサイトの直近半年間の売上推移を示したグラフです。このグラフを見た時、最初に何を考えるでしょうか?
「数字が苦手」の構造を説明するために、このグラフで具体的なイメージをお見せしていきます。
6年前の私は、グラフを見て何となく目についたことを当てもなく考えてしまっていました。たとえば、「9月の売上が突き出ているなぁ」とか「9月と比べると10月は元の水準に戻ったのかな・・・」とかぱっと目に止まったことを見て、何とか仮説や施策を絞り出そうとします。
しかし、グラフの変化だけを見て考えても何も分かりません。結果的に「数字を見てもよく分からない」と、数字に対する苦手意識が強まっていきました。
私の考える「数字が苦手」とは、整理するとこのような構造です。
まず「数字を流し読みしている」。しかし、流し読みしても「数字の実態がつかめない」。ゆえに「数字を見て考える習慣がない」。この負のループが回っていくうちに、「数字が苦手」になっていきます。
順番に解説していきます。
まずは「数字を流し読みしている」です。
たとえば、Google Analyticsなどを普段から見ている方もいると思いますが、当時の私は数字が並んでいると圧倒されてしまい、細かく読むことは諦めてスルーしてしまったり、何となく流し読みして分かったような気になっていました。
しかし、流し読みしているので数字は頭に入りません。何となく「増えたか?減ったか?」だけに着目して、その数字がいくつなのかといったことは見て見ぬふりをしていました。
次に来るのが「数字の実態をつかめない」です。
当時は数字を流し読みしていましたので、それぞれの数字のボリューム感がつかめない状態でした。極端にいうと、数字のボリューム感が、数万でも数十万でも数百万でも関係なく、ただ「数字がそこにある」という捉え方です。
最後に「数字を見て考える習慣がない」です。
数字の実態がつかめませんので、その数字を何かに活用する、施策を考えることもできませんでした。従って、数字を見る意味も感じられず、毎日数字を見る習慣もない状況になっていました。
SEOコンサルタントをしていましたので、「お客様のWebサイト状況やキーワード順位をGoogle AnalyticsやGoogle Search Consoleで毎日見て、変化に気づいて動いていきましょう」と言われていました。しかし「数字を見ても分からない・・・」と、毎日見る習慣がついていなかった時期もありました。
数字の実態がつかめず、活用イメージも湧かないので、毎日見る習慣ができません。結果的に、冒頭でご紹介したような「Webサイトのパフォーマンスを聞かれても即答できない」という状態に陥っていました。
このような負のループが回って、「数字が苦手」という意識が生まれてしまっていたわけです。
「数字が苦手」を脱する方法
「数字が苦手」状態だった過去の私に教えたいのが、「数字が苦手」を生み出す負のループを打ち切って、正のループを作る方法です。
正のループをどうやって作っていくかというと、上のスライドのように示せると思います。まず「理解できる言葉にする習慣をつける」。理解できる言葉にした数字を「身近なものに置き換えて親しみを持つ」。最後に「数字を活用して行動につなげる」というステップです。
各ステップを順番に見ていきます。まずは「理解できる言葉にする習慣をつける」です。
「理解できる言葉にする」というのは、「いつ、何がいくらだったか」という文章の形で数字の意味を捉えていくということです。
たとえば、「2023年10月の売り上げは100万円だった」という形でグラフや表の一つひとつの数字を言葉にします。
簡単そうに見えると思いますが、「数字を流し読みしている」に少しでも思い当たることがある方であれば、効果抜群ですのでぜひ試してみてください。
文章にするとき、「この数字は良い・悪い」といった解釈をする必要はなく、文字通り「2023年10月の売り上げは100万円だった」という事実をつかめれば問題ありません。ここまでが「理解できる言葉にする習慣をつける」です。
数字を理解することが出来たら、次は数字を「身近なものに置き換えて親しみを持つ」というステップです。たとえば売上額であれば、「自分の貯金額の何倍か?」と考えてみると、規模感が理解できて数字の実態が少しずつつかめてきます。
「身近なものに置き換えて親しみを持つ」と表現していますが、数字と友達になろうということではなく、「自分の体重」や「明日の最高気温」と同じくらい身近なものとして考えていくということです。
自分の体重や明日の最高気温なども数字で表されているわけですが、数字が苦手な方であっても、自分の体重や明日の最高気温の数字に苦手意識を持っている方はいらっしゃらないと思います。
従って、自分の体重や明日の最高気温などと同じくらいの親しみを持てるようにすることを目標すると良いと考えています。
最後のステップが「数字を活用して行動につなげる」です。数字を見て規模感がつかめ、親しみを持てると、自然と数字を見て考える習慣がついてきます。
先ほど、自分の体重という例をお伝えしました。「健康のために体重をコントロールしたい」という目的があれば、毎日体重の数字を見て、少し増加気味だったら食事に気を付けたり運動をしてみたり、行動に活かしていくことは誰でもできると思います。
健康のために毎日体重を計って行動につなげるのと同じ感覚で、Webサイトの数字を見て行動につなげる状態が目指すところです。
ここまでを踏まえて、数字が苦手な方に伝えたいメッセージは「まずは数字を読み上げてみましょう」ということです。6年前、数字が苦手で右往左往していた私も、いきなり何かを考えようとするのではなく、まずは規模感をつかむためにも「数字を読み上げる」ところから始めてもらいたいと思います。
冒頭でご紹介したECサイトのケースであれば「2023年10月の売上が100万円、2023年9月の数字は120万円・・・」と読み上げる。そして、「この売上は自分の貯金の何倍かな?」と身近なものに置き換えて考えていくと、少しずつ数字のボリューム感がつかめ、数字に手触り感が出てきます。
まずは「数字を読み上げる」ことから始めていただくことが、正のループに入る近道です。
今の私も、初めて見る数字では同じことをやっています。
たとえば、日経新聞などの中にはさまざまな数字がありますが、初めてみる数字は親しみがないので、自分の中に入ってきません。そういう時にはグラフの縦と横の指標を読み取って、まずは「いつ、なんの指標がいくら」と読み上げてみることを習慣にしています。
この正のループを回していくと、データ分析に必要な「計数感覚」が育ってきます。
「計数感覚」は数字の変化などを察知して、数字の裏で何が起こっているか、何が要因で起こっているかなどを推測する力です。数字の規模感をつかんで、数字の動きを見ていくことで、「計数感覚」が育ちます。
「計数感覚」がデータ分析の実践につながっていきますので、ここからデータ分析の話に入っていきたいと思います。
データ分析の段取りを知る
「数字が苦手」の改善方法を説明したところで、データ分析の第一歩に入っていきます。
正のループを回して数字の意味がつかめるようになってきて、データ分析をしようとすると壁にぶち当たることがあります。よくあるのは「データ分析をしたいけど、何から始めればいいか分からない」という課題です。
データ分析をする際には基本的な段取りがありますので、それをご紹介します。
データ分析には、まず「基礎分析」というステップがあり、その次に「目的別分析」があります。
基礎分析では「まずはこれを見るべき」という代表的な指標を見ていきます。
基礎分析のステップは、
- 代表的な指標を考える
- 代表的な指標の値を見る
- 指標の値を比較してみる
という流れです。
次の目的別分析は、目的に沿って分析する対象を決めていくというもので、
- 分析の目的を考える
- 指標と比較方法を考える
- 比較をしてみる
という流れです。
基礎分析から、詳細を説明していきます。最初のステップは「代表的な指標を考える」です。
「指標」というのは数字として計測する対象を指しています。体重でも、身長でも、気温でも、すべての数字には「何を測定しているのか」というラベルがあります。このラベルが指標です。
「この数字は何を表しているのか?」を知らなければ、その数字を理解できませんので、指標を知ることが大事なのです。
データ分析における「何から始めたらいいか分からない」は「何の指標を見たらいいか分からない」と言い換えられます。従って、知りたいことの「実態をよく表している指標は何か?」を知ることから始めていきましょう。
代表的な指標ですが、健康診断を例にして考えていきます。「自分の健康状態を知りたい」とき、健康状態をよく表している指標は何でしょうか?
たとえば、肥満度を知りたければBMI・体脂肪率、病気のリスクを知りたければ血圧、お酒をよく飲む人であれば尿酸値といったものがあると思います。
これらのBMI、体脂肪、血圧、尿酸値といったものが指標です。
次に、Webサイトの指標を考えていきたいと思います。「Webサイトの状況を知りたい」という時、状況をよく表している指標は何でしょうか?
たとえば、集客状況を知りたければユーザー数やセッション数、Webサイトをどれぐらい回遊しているか知りたければPV数、Webサイトがどれぐらい稼いでいるかを知りたければ売上やCV数といった指標があげられます。
これらがWebサイトにおける指標です。
健康状態を見る指標と同様に、Webサイトもタイプやビジネスモデルに応じて代表的な指標がありますので、まずはそれを知るところから始めることをおすすめします。
Webサイトのタイプに応じた代表的な指標を紹介していきたいと思います。
【全サイト共通】
まず全サイトに共通するのが
- ユーザー数
- セッション数
です。
どのような目的のWebサイトであっても「集客」がなければ成り立ちませんので、集客を計る指標であるユーザー数・セッション数が見ることが重要です。
ユーザー数は「何人のユーザーがWebサイトを訪問したか?」という指標であり、1人が複数回訪問しても1回です。セッション数は「ユーザーが何回Webサイトを訪問したか?」を示す指標で、1人が複数回訪問すれば訪問回数分カウントします。複数回訪問した場合の扱い方によってユーザー数・セッション数を使い分けていきます。
【ECサイト】
ECサイトの代表的な指標は、
- 売上
- CV数(コンバージョン数)
です。
「買ってもらうこと」がゴールになりますので売上を中心に見ていきます。そして、売上に対して「どれぐらいの販売件数があったか?」を示すコンバージョン数もセットで見ていきます。スライドに書いていませんが、販売単価や1人当たりの購入個数といった内訳の数字も見ていきます。
【メディアサイト】
メディアサイトの代表的な指標は、
- PV数
- 売上
です。
メディアサイトにはビジネスモデルがいろいろありますので、サイトによって見るべき指標が変わる部分はあります。ただし、共通して「記事を読んでもらうこと」が重要ですので、閲覧や回遊の指標としてPVを見ていきます。
メディアサイトのマネタイズ手法は、たとえば同じ広告でも掲載課金・クリック課金などがあります。広告によって収益を得ている場合は売上も指標になってくるでしょう。
【ブランドサイト・コーポレートサイト】
ブランドサイトやコーポレートサイトの指標は、
- 指名キーワードの検索順位
です。
ブランドサイトもコーポレートサイトも共通して、自社やブランドについて知りたい人が訪れるものになりますので、指名キーワードの検索順位が重要になります。
ドメインが1つしかない場合は、「それが1位に来ているか」です。また、複数ドメインを持っている場合、「それが表示されて欲しい順番になっているか?」です。ECモールに出店している場合などは、「指名キーワードにおいて自社のブランドサイト・コーポ―レートサイトがECモールに負けていないか?あるいはECが1位に来てほしい場合にブランドサイトが上回っていないか?」ということを確認します。
【データベースサイト】
データベースサイトの代表的な指標は、
- PV数
- CV数
です。
データベースサイトというのは、求人や不動産、旅行などの案件を載せて、ユーザーとマッチングするサイトです。たとえば、「○○トラベル」や「○○キャリア」といったものがデータベースサイトです。
データベースサイトもメディアサイトも同じようにマネタイズ手法がいろいろありますので、手法に応じて重要な指標を変えていきます。
たとえば、掲載課金という形で案件を掲載することで費用が発生する場合は、営業視点で「サイトにどれぐらい集客できているか?」を見るために、全サイト共通の指標であるユーザー数やセッション数に加えて、回遊状況を示すPV数を見ていきます。
また、成約課金という形で申込が発生した場合に費用が発生するようであれば、「どれぐらい申込が生まれたか?」というコンバージョン数を見ていくことになります。
一般論ではありますが、Webサイトのタイプに応じた代表的な指標をご紹介しました。ご自身が担当されているWebサイトのタイプやビジネスモデルに応じて、最適な指標が何かを考えてみてください。
自身が関わるWebサイトのタイプに応じた代表的な指標を理解したら、基礎分析の2つ目のステップ「代表的な指標の値を見る」に進みます。
冒頭からお見せしているECサイトのグラフですが、ECサイトの場合は売上が代表的な指標になりますので、表示されている売上を見ていきます。
先ほどお伝えした正のループに従って、まずは代表的な指標である売上を読み上げて理解してきます。「2023年10月の売上は100万円、9月は120万円・・・」という形で読んでいくと、指標の概要を理解できます。
データ分析の基本は比較
指標の概要を理解したら、基礎分析のステップ3つ目は「比較をしてみる」です。「比較」はデータ分析の基本です。なぜデータ分析の基本は「比較」なのでしょうか?
データ分析の基本が「比較」なのは、比較することでしか数字の良し悪しは判断できないからです。
たとえば、健康診断でBMIが32だった場合、「BMIの基準値は22である」という基準値との比較を通して、「BMIが32だと肥満である」と判断できるわけです。このように基準や前年実績との比較を通じて、数字を解釈してデータ分析は進んでいきます。だからこそ、データ分析の基本は「比較」なのです。
従って、代表的な指標、たとえば売上やセッション数をつかめたら、その指標を比較していきます。
比較の具体的な考え方を、再び健康診断の事例で説明していきます。
「自分の健康状態を知りたい」という時、どのような比較をするとよいでしょうか?
たとえば、「昨年からの変化を見る」という形で時系列で比較する、また、BMIの事例でお伝えしたように基準値や目標、つまりベンチマークと比較するといったやり方があります。こうした比較を通じて、「自分の健康診断が悪化しているのか?」「良好なのか?」を判断していくわけです。
Webサイトの場合は、どのような比較をするとよいでしょうか。
Webサイトの場合には、
- 時系列比較
→昨年同時期や昨月の値と比較、また時間単位ごとの推移を見る - ベンチマークとの比較
→現状の値を、設定している目標や基準、また、ツール等を使って競合と比較する - グループ間の比較
→ある軸で切ったグループの間で数字を比較する
といった方法が重要になります。詳細を説明していきましょう。
まず時系列比較ですが、昨年同時期や昨月の値との比較です。時系列比較をすると、まずトレンドが把握できます。また、急減する急増するといった異常が起こっていないかを確認できます。
上のスライドは、冒頭から使っているECサイトの事例で、売上を指標として、前年同時期と時系列で比較したものです。左側のグレーの縦棒が昨年実績、右側の青い縦棒が今年の実績です。
時系列で比較してみると、9月までは昨年とほぼ同水準ですが、10月は昨年より増えていることが分かります。
今年のデータだけを見ていると「9月から10月にかけて落ちているな。何故だろう?」と考えてしまいますが、昨年の指標と比較することで「10月の売上は悪い状況ではないかも知れない」といったことが見えてきます。
次はベンチマークとの比較です。現状の値を目標や競合、基準値と比較します。
ベンチマークと比較することでギャップが分かります。目標に対して、どれぐらいビハインドがあるか、またはオーバーしているか。また、ベンチマークしている競合にどれぐらい追いつけているかが分かります。
再びECサイトの事例で、ベンチマークとの比較を示します。赤い折れ線で目標売上が入っています。目標と実績を比較することで「8月だけ目標から未達だった」ということが見えてきます。
そうすると、たとえば、8月だけ何らかの事情でキャンペーンをやらなかったということがあれば、「キャンペーンを実施しなかったことが未達の原因かもしれない」と仮説を立てることができます。
最後にグループ間の比較です。ある軸で切ったグループの間で比較することで、どのグループが優れているか、またどのグループのパフォーマンスに課題があるかが分かります。
Webサイトの場合、たとえば自然検索、SNS、ダイレクトなどの流入チャネルという軸でグループにしてセッション数を比較するといった形です。
グループ間の比較もECサイトの売上事例で説明します。今回はグループ間の比較ということで、売上の発生ページをグループにしています。グループ間で比較してみることで「8月はキャンペーンからの売上が減っている」ことが明らかになります。これによって先ほどの「キャンペーンをしなかったことが原因かもしれない」という仮説が補強されることになります。
このような形でベンチマークとの比較、グループとの比較をしていくと、時系列の比較だけでは分からなかったことが見えてきます。
効率的に有効なデータ分析をするポイント
ここまでで代表的な指標と比較方法が大体分かってきました。このあたりで生じやすいのが「比較した結果をどう読み解けばいい?」「何の比較をしたらいい?」「どのように次の行動や意思決定につなげたらいい?」といった疑問です。
これらの疑問は全て「データ分析の目的」と紐づいてきますので、続いて「目的別分析」の解説に入っていきます。
目的別分析は、
- 分析の目的を考える
- 指標と比較方法を考える
- 比較をしてみる
という流れでした。
最初のステップは「分析の目的を考える」ですが、そもそも「なぜ目的を考える必要があるか?」を解説していきます。
データ分析をする際に目的を考える必要がある理由は、大きく2つです。
1つ目はビジネスに役立てるためです。データ分析をビジネスに役立てるためには、ビジネスにおける目的に即して分析をする必要があります。
また、2つ目に有限な時間の中で有効な分析を行うためです。先ほど紹介した指標や比較方法の組み合わせは沢山ありますので、すべての組み合わせを試そうと思うと非常に多くの時間がかかってしまいます。しかし、目的から逆算すれば分析方法を絞り込むことができ、効率的に有効な分析ができます。
Webサイトを担当される方が、データ分析を通してやりたいことは大きく5つだと思います。
- 変化の要因を知りたい
- 目標を立てたい
- 施策をつくりたい
- 施策の効果を予測したい
- 実施した施策の効果を知りたい
それぞれのケースに応じて必要な比較が何かを考えていくことが、データ分析における次の一歩になりますので、各ケースに応じた比較のやり方を紹介します。
【想定事例】変化の要因を知るための分析の流れ
まず「変化の要因を知りたい」とアクセス解析するようなケースです。
このケースでの分析目的は「昨年対比でセッション数が20%減少した理由を知りたい」です。
セッション数の減少を扱いますので、指標はセッション数です。また、セッション数の内訳を見ていくということで、グループ間の比較をしていきます。
比較の流れとしては、
- Webサイトのどのページでセッションが減少しているかを確認する
- 減少しているページの流入チャネルのうち、どのチャネルからのセッション数が減少しているかを確認する
- 減少しているチャネルが特定できたら、チャネルの内訳をさらに細分化する
という形の設計が考えられます。
分析の結果ですが、まずページ毎に比較してみた結果、トップページのセッション数が大幅に減っていることが分かりました。
次にトップページの流入チャネルを比較した結果、自然流入からのセッション数が減っていました。
続いて、スライドには表示していませんが自然検索におけるトップページへの流入キーワードの順位を比較すると、指名キーワードの順位が下がり昨年と比べてセッション数が減少しています。
指名キーワードの状況を確認すると、今はあまり使っていない別のドメインが上位表示されており、そちらにセッションが流れてしまっている状況でした。
このようなデータ分析の流れがあり、別ドメインとの統合を検討するといったアクションにつながるイメージです。
【想定事例】実施した施策の効果を知るための分析の流れ
続いては「実施した施策の効果を知りたい」というテーマで、A/Bテストを実施したケースにおける分析の流れです。
分析の目的は「商品詳細ページで初回購入で5%OFFクーポンを表示させた効果を知りたい」です。
実施した施策は、A/Bテストツールを利用して、無作為に選んだAグループにはクーポンを非表示、Bグループにはクーポンを表示した形です。
これを踏まえると、比較する指標としては「コンバージョン率」が適切です。この場合のコンバージョン率は「サイト訪問者のうち購入した人の割合」です。
先ほどはECサイトにおける指標は「コンバージョン数」とお伝えしましたが、A/Bテストの場合、まったく同じ人数がグループAとBに振り分けられるわけではありません。そこで、コンバージョン率にすることで振り分けられた人数の違いを相殺して比較します。
比較方法としては、クーポンの出し分けをしたグループAとBで、グループ間の比較します。
分析したところ、グループAとBのコンバージョン率を比較した結果、クーポンを表示させたグループBの方が統計的に有意に高かったという結果でした。
分析を踏まえて、全ユーザーにクーポンを表示するというアクションにつながるという流れです。
データ分析をする際に役立つフォーマット
データ分析の際には、フォーマットのブランクを埋めていく形で、
- 前提
- 分析の目的
- 指標
- 比較方法
- 分析の結果
をまとめていただくと良いと思います。
先ほどのA/Bテストの検証であれば以下のようになります。
このような形で前提・分析の目的・指標・比較方法をまとめて、分析に取り掛かると効率的で有効な分析をしやすいでしょう。
まとめ
「数字が苦手」でもできるデータ分析の第一歩ということでお伝えしてきた中で、改めてお伝えしたいことは以下の3つです。
まず数字の「いつ、何の指標がどれくらい」を言葉にして、また、馴染みのある数字に置き換えてみてください。これによって数字に親しみを持てるようになります。
次に、分析したい対象・テーマの代表的な指標とその値をつかんでください。
さらに発展として、時系列で比較してみたり、ベンチマークと比較してみたり、またグループ間の比較をしてみましょう。
本日の内容を踏まえて「もっと学びたい」という方には参考になる記事や本をご紹介しますので、ご興味あればぜひご覧ください。
それでは、以上でセッションを終了したいと思います。最後までお聞きいただき、ありがとうございました。