Amplitude主催プロダクトアナリティクスの実務能力を競うデータ分析コンテスト「第2回 データモンスターNo.1決定戦」が、2022年5月18日にライブ配信にて開催されました。
プロダクトデータを分析し、改善のための示唆を見出し、改善提案を行うというテーマに対して参加者を一般公募。前回アナリティクスのプロの視点から総評されたウルフ松陰氏とともに、今回は日本CPO協会の理事を務める宮田善孝氏を審査員に迎え実施。
グローバルではデータサイエンティストだけでなく、プロダクトマネージャー、マーケター、デザイナー、など誰もが簡単にデータ分析をできる環境になっている今、プロダクトアナリティクスツールAmplitudeを使って参加者はデータ分析のプレゼンを行いました。
今回のレポートは、コンテストで披露され最優秀賞を受賞したアスタミューゼ株式会社プロダクトマネージャー竹村淳氏によるデータ分析プレゼンをご紹介します。
アスタミューゼ株式会社プロダクトマネージャー竹村淳氏
全体把握
はじめに、AmpliTunesのサービス概要です。
AmpliTunesは音楽ストリーミングサービスで、収益源である楽曲の購入が重要なCVとなっています。
本来、収益を高めるためには他の課金ポイントや購入単価等もポイントとなりますが、データを確認するとボリュームとして楽曲の購入が大部分を占め、単価は一定であると見受けられましたので、楽曲の購入数にフォーカスしております。
サービスの分析
1.楽曲購入ユーザーの特徴
まず、楽曲を購入するユーザーの特徴を調べました。
楽曲購入と相関の強いイベントを調べると、プロフィール編集が強い相関があり、楽曲購入ユーザーの83.2%が事前にプロフィール編集を行うことがわかりました。
また、楽曲のシェアやコミュニティへの投稿も楽曲購入と強い相関がありました。
全購入イベントの内、90%以上がこうしたユーザーによるものであり、シェアやコミュニティ投稿を行っているユーザーの95%近くが楽曲を購入していました。
前スライドの「プロフィール編集」は、こうしたコミュニティ的な利用方法をするためにプロフィール編集を行っていると考えると理解しやすかったため、そのように推測しました。
2.楽曲未購入ユーザーの特徴
次に、楽曲を購入しないユーザーの特徴を調べました。
音楽ストリーミングサービスにおいて楽曲の再生はメインの機能ですが、楽曲の再生をしていても購入に至っていないユーザーが44.7%存在することがわかりました。
「サービスは利用しているが、ライトな利用にとどまってしまっている」ユーザーが多く、こうしたユーザーはプロフィール編集率が2.08%など、購入ユーザーと逆の傾向になっていました。
3.構造の整理
ここまでの分析から、楽曲再生とプロフィール編集に着目してユーザーを分類し、構造を整理します。
まず、楽曲再生とプロフィール編集を行っているユーザーをコア層と定義しました。この層はUUとしては全体の45%である一方で、購入イベントの99.6%を占めます。
また、楽曲再生をしているが、プロフィール編集を行っていないユーザーをライト層と定義しました。この層はUUとしては全体の39%を占めますが、購入率・平均購入回数・購入数は低い値となっています。
離脱層は楽曲再生を行っていないユーザーと定義をしています。
このデータを見ると、コア層の購入率や平均購入回数は高い一方で、UU数は改善の余地が大きく、コア層のUU数を増やすことが購入数を増やす上でのポイントになると考えられます。
4.ストック・フローの考え方で数値を整理
コア層のUU数を考える上で、ストック・フローの考え方で数値を整理してみました。
こちらは、2021年11月に各セグメント間でユーザーがどのくらい転換しているのかという数値です。
注目していただきたい数値は、新規登録からコア層への23.5%という数字、新規登録からライト層への55.2%という数字、それからライト層からコア層への0.6%という数字です。
これらから、新規登録ユーザーはコア層よりライト層になることが多いが、その後ライト層からコア層になることは少ない、ということが言えます。実際、ライト層が離脱層に転換してしまう数は66.4%と多くなっています。
つまり、新規登録からコア層へ転換させる数、ライト層からコア層へ転換させる数を増やすことが、コア層を増やす1つめのポイントとなります。
また、コア層から離脱する数も21.6%と改善の余地があり、コア層の継続率を高めることが2つめのポイントと考えられます。
5.KPIツリーで整理
ここまでの数値の位置付けをKPIツリーの形式で整理します。
元々楽曲購入数を向上させることがゴールですが、そのために向上させる数値はここにあるように様々です。
ただし、施策を行うリソースが有限であることを考えると、いかにレバレッジが効くポイントに注力するかということが重要になってきます。
そのような観点で注力ポイントを絞るとするならば、コア層のUU数を上げること、さらにそのためにコア層への転換率とコア層の継続数に注力すると良さそうである、ということがここまでの分析から言えるかなと思います。
6.サービス構造の整理のまとめ
まず、このプロダクトにおいては楽曲の購入が重要なCVとなっており、プロフィール編集、楽曲のシェア、コミュニティへの投稿と相関が強く出ていました。
それを元にコア層とライト層にユーザーを分類し、さらに数値状況からコア層のUU数を増やすことがポイントというところまで特定できたことになります。
次のスライドからはこのあたりを重要な数値ということを念頭に、2021年11月の実績を分析していきたいと思います。
7.2021年11月の実績を分析
まず、楽曲の購入数です。
楽曲の購入は409.8万回となっており、通年で見るとほぼ横ばいの傾向でした。
続いて、コア層UU数です。
コア層のUU数は23万人と、こちらも楽曲購入と同様にほぼ横ばいの傾向でした。
購入率や平均購入回数も購入数を構成する基本的な数値となるため調べました。
結論、こちらもほぼ変化が無い状況でした。
続いて、新規登録数、それから新規登録からコア層への転換率です。
新規登録数については、多少上下はあるものの、大きなトレンドがあるわけではありませんでした。コア層の転換率は横ばいでした。
コア層のリテンションについてです。
コア層のマンスリーリテンションの推移を調べましたが、こちらも大きな変化はありませんでした。ストックフローに関する他の数値も年間を通してほぼ変化がないと思われます。
2021年実績のまとめです。
購入数をはじめとし、基本的な数値はほぼ横ばいとなっており、総じて、悪化はしていないが成長もしていないということができます。
つまり、新規獲得への投資が事業成長につなげられていない状態ということになります。
そのため、これを右肩上がりの状態に持っていく施策が必要と考えられます。
あらためて、注力するポイントをおさらいすると、今回はコア層のUU数を増やすため、コア層への転換率とコア層の継続率という2点に注目して施策を考えました。
施策の企画立案
まず、一点目のコア層への転換率の向上です。
新規登録ユーザーやライトユーザーをコア層へ転換させるためには、コミュニティ的な利用を促進し、それらの楽しさや価値を感じてもらうことが重要だと考えました。プロフィール編集はこうしたコミュニティ的な利用をするために行っていると考えているため、直接的にプロフィール編集を促すのではなく、こうした機能へ誘導することを施策としています。
具体的な施策として1つ目に、楽曲再生後、その楽曲のシェアを促すポップアップを表示する、あるいは新規登録や楽曲再生後、ユーザーが興味を持ちそうなコミュニティをレコメンドし、参加を促すという施策を考えました。
単純なポップアップやレコメンドというより、他の人と繋がる楽しさを疑似体験できるような見せ方にできると効果が高いと考えています。
2つ目に、友人紹介の促進です。友人をまだ紹介していないユーザーへ、紹介特典として紹介した人とされた人に5曲分のクーポンを進呈するというものです。
ちなみに、コアユーザーは平均して18曲の楽曲購入が期待できるため、クーポン分はペイできると考えられます。
次にコア層の継続率向上です。離脱しそうになったユーザーを呼び戻す通知を送る施策が考えられます。特にコミュニティ関係の通知が興味を引くのではないかと考えています。また、少し大きめの施策かつ、継続率向上以外にも関連する施策になりますが、コミュニティ機能を強化する方法も考えられます。
まず、更新通知です。
送信タイミングについても、データを元に考えてみました。
コア層の週次スティッキネスは4〜5日がボリュームゾーンのため、2日間ログインが無いのは黄色信号と考え、3日目に通知を送るのが良さそうです。時間別のリテンションでは、24時間ごとにピークが見られるという特徴があり、ユーザーごとに使う時間が決まっていることが多いと考えられるため、前回ログインと同じタイミングで通知をしてあげると良いと考えました。
内容はこちらに記載したようなコミュニティ関連の通知が良いと考えております。
続いて、コミュニティ機能の拡充です。
コア層は単なる音楽再生ではなく、コミュニティ的要素を求めていると考え、ユーザー同士のフォローやタイムライン機能、いいねボタンの設置など、SNSライクな機能を拡充することで、さらに定着率を上げられると考えました。
また、これはコア層の定着だけではなく、新規やライト層をコア層に転換させることにも効果があると考えられます。
最後にまとめです。
収益源である楽曲の購入を行っていたのは「コミュニティ的な利用を行うコア層」でした。
楽曲購入の増加にはコア層のUUを増やすことがポイントですが、現状は横ばいの状況のため、改善が必要です。
改善の方向としては新規やライト層向けにコミュニティ的な利用を促進するもの、コア層向けに継続率を高める機能の2軸で行うと効果が得られそうだと考えております。
審査員コメント
全体として非常に論理展開がスムーズで、途中途中行われた分析もかなりメッセージに実直にコンテンツを作られていました。大きく「問の理解」「分析」「施策」の3つのフェーズに分けてコメントさせていただきます。
まず「問の理解」です。改めてサービスの内容、問われていること、やろうとしていることを簡潔に1枚ずつのスライドにまとめてくださっていて、非常に聞きやすいプレゼンでした。分析に慣れてくると、この辺を飛ばして分析結果だとか結論を先に急ぐ方が多い中、資料が一人歩きしても大丈夫なように前段を丁寧に書いてあるのがとても良かったです。
問の理解の中でも、単価が一定である、購入UUがポイントである、というすごくプライマリーな集計をしていて、議論のポイントを絞って出したのもすごく印象的でした。
次に「分析」については、コアとライトとペルソナをしっかり分けたり、分析していく上でKPIツリーを作り分解したりだとか、ペルソナを分けた後にそれぞれの行き来やコアへの転換、ライトへの転換、そして離脱、といったポイントに分けてお話していただけて視覚的にも分かりやすかったのが非常にいいポイントでした。
「施策」のところでは、ここもペルソナごとの行き来をかなり意識されてプロフ編集からコミュニティ利用だったり、友達紹介、メールプッシュを使ったSNS機能の強化みたいなところあげてくださっていたと思うんですけど、かなり分析結果を基に忠実にそれを受けて施策に落としてくださっている感じに思っています。分析がおそらくメインではなく、プロダクトマネージャーをされている方なので、ここにこそ本当は意識を置きたかったのかななんて思っています。
あえてプロダクトマネージャーであることにこだわってやるのであれば、競合の動向を入れるだとか、ユーザー課題にもう一歩踏み込んでから施策を考えるとか、この2年間コロナ禍によって音楽を聴くみたいな、行動様式が変わった部分もあると思いますし、新しい音楽との出会いみたいなものもトレンドとして変わったものがあると思うんですね、そういったものを取り入れて施策に生かすにはどうしたらいいか、とかを踏まえてアイデアを出していただけると、よりリッチなプレゼンになったのではないかと思います。
概してすごく聞きやすく力強いプレゼンでした。
【最優秀賞:アスタミューゼ株式会社 プロダクトマネージャー 竹村 淳 氏】
【審査員】
米田 匡克(Amplitude ジャパン・カントリーマネジャー)
朱 赫(Amplitude ソリューション・アーキテクト)
山浦 直人(Amplitude シニア・ソリューションコンサルタント)
【ゲスト審査員】
ウルフ松陰 氏(松下村塾株式会社 CEO & Founder)
日本CPO協会理事 宮田善孝 氏
関連リンク
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