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事業も組織も爆速で成長させる秘けつとは? 新世代メーカーAnkerが明かす顧客目線の持ち方

2024.08.28

爆発的な速度で成長を続けるアンカー・ジャパン。経営の根底にある顧客目線を重視した戦略から、具体的な取り組み、顧客との関係性のあり方、顧客の声を製品やサービスにフィードバックする仕組みの創り方までを伺いました。

はじめに

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
こんにちは。本セッションでは「事業も組織も爆速で成長させる秘訣とは? 新世代メーカーAnkerが明かす顧客目線の持ち方」というところで、アンカー・ジャパンの代表取締役 CEO 猿渡さん、私加藤で進めていきます。よろしくお願いいたします。

最初に簡単に自己紹介させていただきます。私はCMO Xという100社のCMOが所属する団体を2014年から運営しております。現在は世界60か国以上、約8万人の社員でITのインフラサービスを提供しているキンドリルジャパンという会社に所属して、マーケティングの責任者をやっています。

続いて、猿渡さんも自己紹介をお願いできますか。

アンカー・ジャパンのミッションとブランド

アンカー・ジャパン 猿渡氏|
アンカー・ジャパンというハードウェアの企業をやっています。現在12期目になりますが、私が入社した10年前はまだ誰も知らないメーカーで、モバイルバッテリーをAmazonで販売するのがメインでした。皆さまのご支援のおかげで、ここまで成長できたことを非常に喜ばしく思っています。

元々は会社名の通り、「Anker」という充電器を中心としたブランドを主でやっていましたが、現在、Ankerブランドは売上でいうと半分もありません。「Soundcore」というオーディオブランドやロボット掃除機などのスマートホームブランド「Eufy」、スマートプロジェクターブランド「Nebula」を展開し、PC周辺機器のメーカーから総合デジタル機器メーカーとして成長を続けています。

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
モバイルバッテリーだけではないブランド展開も、背景に「Empowering Smarter Lives」というミッションがあるのかと思っています。

参加者の皆さんも実体験としてAnkerグループ製品を購入されたことがあるかもしれません。実際にアンカー・ジャパンの売上高をみると、非常に大きく成長を遂げられています。

アンカー・ジャパンの売上高の推移

アンカー・ジャパン 猿渡氏|
売上としては、最初は10億円に満たないところからスタートしましたが、2022年に350億円、昨年は前年対比140%程度も成長し、11期で500億円近い売上まで到達できたことはハードウェアメーカーとして悪くない実績だと思っています。どう成長してきたかということも、今日のテーマに絡めてお話しできればと思っています。

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
アンカー・ジャパンさんの販売チャネルも、現在は非常に多岐にわたるかと思います。セッションの前提として解説をお願いできますか。

アンカー・ジャパンの販売チャネル ONLINEとOFFLINE

アンカー・ジャパン 猿渡氏|
アンカー・ジャパンのスタート時点では完全にAmazonに注力しており、売上の99%以上がAmazon経由での販売でした。FBA(フルフィルメント by Amazon)というサービスを使って、サプライチェーンを自社で作らなくてもよいことがAmazonでスタートした一番大きな理由です。

Ankerグループは中国が本社になりますが、実は中国での売上は大きくなく、北米と欧州、日本が主要マーケットになっています。共通点としてAmazonが既にある市場ですので、同じような仕組みで販売のシステムを組めました。実際にビジネス部門が私1人だった時でも、2年目にAmazonでだいたい20億円近くの売上を作れていました。

このように効率という観点で、ECプラットフォーム活用を販売チャネルの中心にしてきました。その後、楽天市場や他プラットフォームにも拡張し、実は自社の公式オンラインストアでも販売を始めたのは日本法人の設立から6年目ぐらいです。売上100億円を超える頃までは、カタログ的な意味での自社サイトはありましたが、あまり注力せずに運営していました。

今でこそ皆さまもECでAnkerグループの製品を買っていただくと思いますが、10年前は「とりあえず家電量販店に行こう」という方も多かったと思います。私たちも大手の家電量販店さんとお付き合いしてきました。また、2018年ごろから直営店も少しずつスタートするような形でチャネル展開してきました。

アンカー・ジャパンが成長した秘訣「全体最適」

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
ありがとうございます。猿渡さんが執筆された「1位思考*11位思考|Amazon書籍」という書籍がありますが、この中にもアンカー・ジャパンさんがどう成長を遂げてきたかを捉えるヒントがあります。

1位思考

CX Circle Tokyo 2024のテーマとして「ロストジャーニー」というキーワードがありますが、「1位思考」の書籍にも共通する考え方が1つの軸としてあり、書籍の目次にも入ってきていると感じます。

いくつかのキーワードがある中でも、とくに「全体最適」ということは、猿渡さんのキーワードになっているのではないかと思っており、本セッションでも、全体最適とは何のか?顧客視点や顧客体験にどう落とし込めるのか?という切り口で、アンカー・ジャパンさんがこれまで成長されてきた背景や理由を読み解いていきたいと思います。

ストレートな質問ですが、「全体最適」とは何でしょうか?

アンカー・ジャパン 猿渡氏|
「全体最適」は、アンカー・ジャパンの社員も今ではよく使う言葉になっており、非常に重要視しています。

会社規模が大きくなると、どうしても「自分の部署が良ければいい」「自分のチームが良ければいい」となりがちです。しかし、大事なことは、個人のKPIやOKRの達成よりもチームの達成、チームよりも会社全体の達成です。

従って、常に「全体最適」を意識して行動していれば評価もあがるし、逆も然りです。たとえば賞与設計でも、オンラインでモバイルバッテリーの販売戦略を考えているメンバーが、「自分の売上が良ければOK」となると、オンライン販売向けには在庫があるのに、在庫が足りないオフライン等の他チームに回さないなど、非合理的な意思決定が生まれてしまいます。「皆さん協力しましょう」と管理職が言うのは簡単ですが、「全体最適」をきちんと仕組みに落とす、その上で文化として浸透させることで、会社全体の生産性を高めることは意識してやっています。

どうすれば「全体最適」を実行できるか?

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
「全体最適」の課題はおっしゃる通りで、全社の事業計画をKPIなどに分解して、各自がそれを追いかけて・・・となるとチームや個人がサイロ化しやすいと思います。私自身、「全体を見ようよ」と号令をかけても、サイロ化や部分最適を解消するのは難しいなと実感してきました。

また、たとえば、私の場合であれば、自分が担当するマーケティング部門だけであれば丁寧に説明して実行できます。しかし、会社全体に広げる、マーケティング以外のセールス部門に、また製造部門にと、部門をまたいで全体最適にしていくことは非常に難しいなと感じます。「全体最適」と言葉でいうのは簡単ですが、実行は難しいところです。猿渡さんはどう取り組まれているのでしょう?

アンカー・ジャパン猿渡氏|
Ankerグループには3つのバリューがありますが、一番大切なのはバリューに共感して行動できる人を採用することです。やはり年齢を重ねると、過去の成功体験に囚われてしまいがちです。そういった点も含めて、こだわって採用しており、アンカー・ジャパンの面接の通過率は1%程度です。

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
1%ですか!?

アンカー・ジャパン 猿渡氏|
日本法人の設立当時から1%程度です。いまは数百人規模になっていますが、社員は基本的にすべて私が最終面接しています。また、Anker Storeの店長も私が面接に入ります。従って、コスト・工数はかかっていますが、採用にはこだわっています。

私たちのビジネスは、シンプルに表現すれば「良いものを作って、お客様とコミュニケーションして売る」ことです。ですので、売上の作り方も考えるのはシンプルですが、きちんと実行することが難しい。だからこそ、意識をちゃんと揃える、組織をつくることに非常に力を入れています。

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
通過率1%というのは、インパクトがありました。多くの応募があるからこそ、厳しくフィルタリングできるのでしょうか?

アンカー・ジャパン 猿渡氏|
ここは難しさもあり、売上とともに組織も拡大したいのですが、なかなか追いつかないという面もあります。アンカー・ジャパン、全然人が足りていませんので、セッションをご覧の皆さんも興味があればぜひ応募してください(笑)

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
「全体最適」の実現は、人から来るということですね。

「全体最適の公式」とは?

猿渡さんは書籍で「全体最適の公式」を紹介されていますが、これについて解説をお願いできますか。

『1位思考』より「全体最適の公式」とは?

アンカー・ジャパン 猿渡氏|
この公式は私なりの定義を整理したものですので、これだけが正解ということではありません。式の左側からお話しすると、まず成果を上げるうえで、結局「質」と「量」が大事という話です。

効率化やDXなどはもちろん大切ですし、健康等を維持しながらという話ですが、最後は「圧倒的な量をどう実現するか?」だと思います。質をあげて、量もあげる必要があります。ただ、質を上げるにも、量をやらないと質は上がらない。だからこそ、「しこう」の漢字の表記を変えて、「思考回数」と「施行回数」と2つ入っていますが、これを効率的にやるということです。

成果の公式として、左側は想像しやすいと思いますが、左側と同じぐらい、右側もアンカー・ジャパンでは重視しています。Ankerグループには冒頭で紹介したミッション(Empowering Smarter Lives)と3つのバリュー(First Principle / Seek Ultimate / Grow Together)がありますが、ここに対する共感が大切です。逆に「ミッションに共感できない」とか「バリューへの意識がない」といった方が、アンカー・ジャパンに入ってしまうと合いません。

たとえば、「去年と同じ仕事を淡々とやりたい」という価値観は、性格や働き方であって別に悪いわけではありません。ただ、アンカー・ジャパンのように「前年対比で数10%の成長をしていきたい」という企業環境に楽しみを求められるかという点では、右側のミッションやビジョンへの共感が大事だと思いますので、非常に重要視しています。

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
確かに左側の「質」と「量」、あるいは「時間」は分かりやすいですが、右側も大切ですね。いま私が所属するキンドリルジャパンでも「The Kyndryl Way 」というミッションやバリューの浸透に取り組んでいます。いま設立して3年目ぐらいですが、全体にミッションやバリューを浸透させることは非常に難しいなと感じます。

リーダ一シップ陣がワークショップで学んで、それを下に伝えていく、カスケードするといった取り組みを100人単位でやっています。また、「ミッションって何?」という定義も人によって違ったりしますので、その定義や目線合わせも大切だと感じます。さらにミッションがアクションにつながっていることが大事だと思っていますが、そこまで落とし込むまでのプロセスやアプローチというのは、猿渡さんはどう取り組まれていますか?

アンカー・ジャパン猿渡氏|
本当に普段から言い続けることです。たとえば、能力100ある人が、80のパワーでやっていると、それは分かると思います。能力80の人が、80でやっているのはOKです。ただ、Ankerグループには「Seek Ultimate」というバリューがあり、“自分なりのベストを目指す”という意味です。このバリューに照らし合わせた時、能力100の人が80で持ってきたらバリューに反していますので、「これはSeek Ultimateできているか?」と言いやすいですし、フィードバックします。アンカー・ジャパンで働く行動様式として「Seek Ultimate」をちゃんとやることを求めるわけです。

たとえば、筋トレで60㎏のバーベルを持ち上げられる人が、ずっと60kgを持ち上げていても成長しません。負荷を増やしていくから、次の重さが持ち上げられるようになります。人の成長も同じです。そして、人の成長の積み重ねが企業の成長になります。

だらこそ、バリューに沿った行動様式を、数ヶ月に1回の全社会議はもちろん、普段の会議やコミュニケーション、1on1などで求めたりフィードバックしたりしています。その結果として、実際に社内にいる数百人の社員全員が3つのバリューをそらで言える自信はあります。

採用面接でこだわっていること

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
全員がバリューを言えて、たとえば、そのバリューが「Seek Ultimate」であれば、“自分の100%を超える行動を目指す”といった形で根付いているわけですね。

一方で、先ほどおっしゃっていたように、バリューは人に根ざすものであり、バリューに合った人を採用しなければ実現できないというお話でした。猿渡さんが、採用面接でどんなことを質問されたり重視されたりするか、バリューに合った人材を見抜くための秘訣を伺えますか。

アンカー・ジャパン 猿渡氏|
私は、候補者の方に最終面接でお会いしますので、もう9割程度のフィルターをくぐってきた状態です。私の場合、あまり履歴書や職務経歴書を見ないことは特徴かもしれません。履歴書や職歴書は、あくまでも過去の話です。

たとえば、アンカー・ジャパンのマネージャーには、学歴でいえば高卒から東大首席までいます。学歴はひとつの指標ではありますし、職歴や経験も同様です。ただ、それ以外のところも評価すべきものです。逆に言えば、任せたい仕事ができそうであれば、過去の履歴は何でも良いわけです。

アンカー・ジャパンはメーカーで、オンラインを中心に販売していますが、私はアンカー・ジャパンに入社するまでメーカーの経験はありませんし、オンラインで何かを販売したこともありません。入社時点で専門知識が必要なこともあると思いますが、多くのビジネスは考える力があるか?が大事で、面接でも考え方を聞くところは重視しています。

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
考え方を聞くというのは、具体的にどんな質問をしたり面接で何を見ていますか?

アンカー・ジャパン 猿渡氏|
「こういう場合にどう考えるか?」や、弊社を志望する理由や姿勢は見ています。

アンカー・ジャパンはいま500億円弱の売上規模があり、ベンチャーというステージではないかもしれません。ただ、売上500億円に対して、社員は200人もいません。だからこそ、スタートアップ気質を持って、すごく筋肉質な組織でありたいと思っています。

一方で、いまお話ししたような企業ステージもあり、例えば、Ankerグループ製品はAmazon内での売上も大きくなっていますので、「ECを勉強したい」という方もいらっしゃいます。ただ、採用したい方はそういう方ではなく、たとえば「自分がAnkerのブランドマネージャーとして、ブランドをもっと作っていくのだ」といった気概がある方です。面接で「自分の力で会社をこう成長させたい」という気概があるか、かつ能力があるか?は大切にしています。

成長するためにアンカー・ジャパンがこだわること

成長するためにアンカー・ジャパンがこだわること

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
ここまで、組織と人こそがダイレクトに会社の成長に結びつくという話をされてきましたが、もう少し具体的な話を伺いたいと思います。スライド下側にある「1%のこだわりを積み重ねる」という部分、実際にラストワンマイル的な考え方というのは非常に大事だと思いますが、そこに至る手前でプライオリティの決め方という話があると思います。

冒頭でお話しいただいた事業のポートフォリオもそうですし、日常の仕事のタスクもそうですし、会社の中でやらなければいけないプロジェクトがある中でどれから始めるのか?、このプロジェクトを続けるのか?それとも止めるのか?といった意思決定もそうです。こうした判断の積み重ねが成長の軸になると思いますが、Ankerさんの歴史も振り返った時に、どんな風にプライオリティを決めてきたのでしょうか。

アンカー・ジャパン 猿渡氏|
一番の軸は「お客様にとってベストかどうか」です。カンファレンスのテーマであるロストジャーニーにも絡めてお話しすると、たとえば、カスタマーサポートの電話番号を表示しないとか、サービスの解約方法を分かりづらくするといったことは、目先ではベネフィットがあるかもしれません。ただ、これは企業の都合で、お客様からすれば使いづらいわけで、ブランドイメージを低下させるようなロストジャーニーになっていると思います。

また、Anker Japan 公式オンラインストアにAmazonの購買ページへのリンクも設置しているのは「Anker Japan 公式オンラインストアでクレジットカードや住所を登録するのは手間で、すでに情報を登録してあるAmazonのほうが買いやすい」というお客様もいるんじゃないかという仮説を踏まえて、お客様の利便性を高めるためにやっています。これで短期的な利益は損失しているかもしれませんが、お客様の方を向いて意思決定することが大切です。

他にも、たとえば、アンカー・ジャパンでは過去に製品をリコールしたこともあります。行政からの指示ではなく、アンカー・ジャパンで「これはお客様の安心と安全のためにリコールした方がよい」という判断でやりました。同じ状況でもリコールしない企業もあるかもしれませんが、お客様にとってベストな判断としてリコールした結果、SNS等の声を見ると「対応が安心できる」といったポジティブな声もありました。

製品に対する信頼やブランドを作るのには10年単位で時間がかかりますが、築いたものを失うときは本当に一瞬です。こうしたブランドへの信頼というところで、お客様にとってのベストな意思決定をすること、Googleの行動規範である「Don’t be evil」にも近しい倫理観は大事にしています。

「お客様と向き合う」を実行するための秘訣

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
「お客様の目線にあわせる」といったキーワードは、どの会社でも言っている話だと思います。ただ、それを先ほどの電話番号やリコールのエピソードのように実行に移すことができていない・・・という問題は多くの会社で起きていることです。

先ほどの組織論であったように、通過率1%で優秀な方を採用したとしても、猿渡さん以外が話すマネジメント方針であったり、各部門長の強いキャラクター、また、部門のセクショナリズムやパワーバランスによって、言いづらい、実行しにくいといった問題が生じたりしないでしょうか。

「お客様にとってベストか」「お客様目線に合わせることが大事だ」と言葉では分かったとしても、具体的に各部門レベルでちゃんと実行に移すというディレクションはどんな工夫をされていますか?

アンカー・ジャパン 猿渡氏|
まずアンカー・ジャパンでは、社員に向けた情報共有をしっかりすることを意識しています。たとえば、売上や利益、新製品の情報などを管理系の部門、たとえばカスタマーサポート(CS)や経理には共有していない会社もあると聞きます。ただ、企業として一番大事なことは、企業価値をあげることです。ただ、メンバークラスの人にとって“企業価値を上げる”ということは、少し想像が付きづらいでしょう。そうなると、売上と利益を中長期でしっかり伸ばすということが分かりやすいわけです。

また、売上と利益を伸ばすという時、セールス部門は分かりやすいでしょう。では、マーケティングのサポートやCSは、コストセンターなのか? 仮にそれらをすべて外注していたら、コストセンターだと思います。ただ、アンカー・ジャパンでは、CSも内製化していて、そこで得られる情報というのは、マーケティングチームでやるデプスインタビューと同等に有益な情報です。その情報を新製品のためのヒントと考えると、CSは将来の売上を作るプロフィットセンターであるわけです。

アンカー・ジャパンでは、CS部門はコストセンターとしてコストだけをマネジメントするのではなく、自分たちも将来の売上にコミットしているのだという意識を持っています。また、メーカーだと、プロダクトチームとマーケティングチームの発言力が強いこともあるかもしれませんが、アンカー・ジャパンでは部門でのパワーバランスの優劣はありません。

また、アンカー・ジャパンは外資系の日本法人ということになりますが、「本社」という言葉もあまり使いません。基本的にすべてフラットで、テレビCMを作る、子会社を作る、Anker Storeを出店するといったことも、本社の誰かの承認が必要ということもありません。

そうした部分も含めて、グループ全体として全員がフラットで、お互いに信頼感を持って仕事するということが一番重要です。その意識を私も言い続けていますし、本部長やマネージャーからも話していくということを習慣的にやることが重要だと思っています。

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
お客様の声や財務諸表、そうした数字や顧客理解を全員で共有するのは、何かベースラインとして、会議体やミーティングといったフォーマットがあるのでしょうか?

アンカー・ジャパン 猿渡氏|
アンカー・ジャパンでは、半年に1回、社員サーベイを実施しています。そこでの声は参考にしています。もともとはフレックス勤務やリモートワークもなかったですし、実は全社共有会もありませんでした。ただ、社員の声を聞く中で「見えづらい」とか「一体感がない」といったものがあり、情報共有も始めました。

情報開示を通じて一体感を持てるようになるというのは、ちょっとしたことかもしれません。しかし、自分がどの部署であっても、たとえば経理やCSなどの売上を作ることから少し遠いように見える部署でも、「自分が会社の成長に対してコミットしている」と思えるか、は非常に大切です。セクショナリズムが起こってしまうと改善するのは大変なので、セクショナリズムを起こさない予防的措置が大事だと思っています。

フラットな関係性を生み出すRationalism

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
もう1つ、グローバルの本社との関係性もフラットで、日本法人として自由を勝ち取れているというお話がありました。売上の実績もあると思いますが、グローバルで展開してると、本社はブランディング、とくに広告やCMといったところをコントロールしたがる傾向は生じると思います。どうやって日本法人としてのオートノミー=自律を勝ち取っているのでしょうか?

アンカー・ジャパン猿渡氏|
実は最近10年ぶりにバリューを変えたのですが、これまでの10年間で掲げていたバリューのひとつが「Rationalism」、“合理的に考えよう”という行動様式です。「Rationalism」に基づいて、誰が言っているかではなく、どちらが合理的か?お客様目線か?で意思決定をする。逆に言えば、あるメンバーの意見が合理的なのに、それを頭ごなしに否定する上司がいたら、その上司の評価は下がるという仕組みです。

グローバルの本社との関係も同様で、日本の意見が正しいと思えば、それが通ります。直近では、イヤホンのカラーリングや製品の仕上げ加工に関しては日本からも意見を出して決めています。これも誰が偉いとかではなく、フラットに、合理的か?お客様目線か?による意思決定を徹底できています。中国本社側のマネジメントも同じ意見であり、創業の理念というところが大きいと思います。

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
確かに「社長が言っているから」「部長が言っているから」ということで、物事が決まるケースは多いと思います。そこをバリューやミッションに従って、お客様に向き合う。お客様にとってベストか?を軸に決断してプライオリティを決めていくということですね。

ロストジャーニーからお客様を救うために大切な考え方

ロストジャーニーからお客様を救うために大切な考え方

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
CX Circle Tokyo 2024のテーマであるロストジャーニー、お客様に残念な体験をさせてしまって顧客をロストする、カスタマージャーニーをキレイに描いても実際の体験はその通りになっていないといったことです。これをContentsquareなどのソリューションを使って解決していく手法もあります。アンカー・ジャパンさんでは、ロストジャーニーというテーマに対して、どんなことが重要だと思うか、またどんなアプローチをされていますか。

アンカー・ジャパン 猿渡氏|
繰り返しになってしまいますが、本当に「お客様の方を向く」ということが基本です。やはり上司や社内のカウンターパートを満足させようとする気持ちはどうしても出てきますが、そうではなく、本当にお客様にとってベネフィットがあるのか?が大切です。

たとえば、最近のデジタル家電はボタンが増えていて、20個を越えるような数があることもあります。でも、実際に使うのは、そのうちの5~6個だと思います。その時、残りの10何個のボタンに対して倍の価格を払う人が本当にいるのか。私はいないと思います。もちろん多機能なモデルはあって良いと思います。ただ、本質として機能が増えることと、価値が増えることは別の話です。お客様が価値を感じないものに、コストをかけることは企業のエゴでしかありません。これもお客様の方を向くという話のひとつです。

カスタマージャーニーで「お客様がこういう行動をする」と定義することは良いと思いますが、最終的にはお客様が決めることです。

cookie等のデータでは追えませんが、たとえば、「ブログやYouTubeを見て、店舗で実際に製品を見てみる。でも、ちょっと今はお金がないから欲しいものリストに入れて、Amazonのプライムデーに買います」といった買い方もあると思います。

私たちが実店舗をやっているのも、こうしたお客様に対応したものです。こういったものはデータで管理するものというよりは、そういった買える場所を準備して、コミュニケーションをきちんと整えて、後はお客様にいつ・どこで買うかを選んでいただけばよいと思うので、アンカー・ジャパンではデジタルマーケティング的な考え方のCRMで売ろうという意識はあまりありません。

たとえば、皆さんも「Appleからメルマガから来たから」という理由でiPadを買ってはいないと思います。本質は「実際の製品が良くて、良い体験が出来たから、また買おう」ということです。大事なことは良いプロダクトをしっかりと作ること、お客様に対して向き合うこと。これをしっかり徹底することが、アンカー・ジャパンのようなメーカーにとっては重要なことだと考えています。

マーケターが意識しておくべき「ブランディング」の本質とは?

マーケターが意識しておくべき「ブランディング」の本質とは?

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
今日このセッションをご覧になっている皆さまは、必ずしもメーカーの方ばかりではなく、またマーケターと言っても、実際にプロダクトから作れる、プロダクトに影響できるポジションの方ばかりではないと思います。

猿渡さんはブランドに関して、「長く続くブランドと続かないブランドの違いの1つ。続かないブランドは売上を伸ばすために広告戦略から入ることが多いのに対し、続くブランドは製品の改善や拡大に目が向いている。」と以前に発信されています。

一方で、先ほど私がお話ししたようにプロダクトに直接触れないマーケターを前提として考えると、上記はどういう風に適用できるでしょうか?

アンカー・ジャパン 猿渡氏|
身も蓋もない回答になってしまいますが、ここは経営陣の問題だと思います。たとえば、アンカー・ジャパンの製品をAmazonで見ていただくと、レビューが星4つを下回るものは少ないと思います。レビューの星が下がるとコンバージョンが低くなるといった話もありますが、そもそもお客様の満足度を満たしていない製品を無理やり売るというのは違います。

たとえば、数十年前であれば、「製品を作ります。テレビCMを打ちます。皆さん買いましょう」で製品が売れた時代もあったと思います。ただ、今はこれだけSNSが発達して、製品やサービスの評価を発信する人が大勢いて、CtoCで製品やサービスの良さが分かる時代です。そうなると一周回って「良いものを作る」という根本に戻らないと、お客様にもその姿勢が分かると思いますし、自分で100%の自信を持てない製品をプロモーションすることは心苦しいと思います。

従って「良いプロダクトをしっかり作る」ということに戻る、それができない企業は中長期で2ケタ成長できるかというと、私は難しいと思います。

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
ありがとうございます。最後に、今のお話も踏まえつつ、「ロストジャーニーからお客様を救う」ということに取り組むマーケターの皆さんに一言メッセージをお願いできるでしょうか。

アンカー・ジャパン 猿渡氏|
長くメーカーをやってきた身として、繰り返しになりますが、「本当に良いものを作る」ことが大切です。アンカー・ジャパンでは、Amazonなどのレビューはすべて見ています。星1つ、2つ、3つのレビューもお客様からのヒントで、それを直せば売れます。お客様にしっかりと向き合って、お客様が求めている良いプロダクトを作ることです。

また、ブランディングと言うことに関して、「こういうイメージにしたいです」とコミュニケーションしたりCMを流したりすることも良いと思いますが、ブランドの本質は企業が発信するメッセージではなく、お客様がどう思うか?です。だからこそ、お客様が感じているイメージと、自分たちが発信するイメージが合っている企業は素晴らしいと思います。

逆に、自分たちだけが「こういう企業です。かっこいいでしょ」とやっているのはエゴでしかなく、主語が「自分たち(企業)」になっています。主語はお客様にあることを意識するだけでも、ひとつの成長曲線を描けるのではないかと思っています。

CMO X , キンドリルジャパン 加藤氏|
猿渡さんが発信されている「顧客が抱くイメージと、企業が伝えたい価値を近づけていく活動こそが、マーケティングやブランディングの本質」というお話ですね。ありがとうございます。本セッションは以上になります。ご視聴ありがとうございました。

関連リンク

オンデマンド視聴はこちら

https://go.contentsquare.com/ja/cx-circle-24-tokyo-on-demand-thank-you

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