昨今、SaaSを提供する企業ではKPIとしてライフタイムバリュー(顧客生涯価値:1顧客からある一定期間を通じて得られる利益)が重要視されていますが「LTVってそもそも何?」「計算方法がよくわからない」などといった声もよく聞きます。
この記事ではデータドリブンマーケティングで企業のファンを増やす支援を行っている株式会社DearOneのメンバーが「SaaSの重要KPIとしてのLTV」を解説します。
代表取締役社長 河野
CTO 佐々木(以下 サム)
マーケティング 安田
経営企画 秋津
SaaSの重要KPI「LTV」と事業計画の違いとは?
安田 今回のテーマ「SaaSの重要KPIとしてのLTVを解説!」について、皆さんのご経験に基づく豊富な実例も交えて、深掘りトークを行っていけたらと思います。よろしくお願いします!
河野・サム・秋津 よろしくお願いします!
安田 日々、さまざまなサブスクサービスが登場し、SaaSという言葉もすっかり市民権を得て久しい感がありますが、にもかかわらずSaaSにおける重要なKPIであるLTVに対する国内企業の理解や実践は、必ずしも十分であるとは言えない現状があります。これって一体なぜだと思いますか?
サム う〜ん、そうだな。LTVには長期的視点が必要ですよね。単年度ではなく、例えば5年かけて利益を出してトントンにしていくというのであれば、最初の1年なんて絶対赤字になるじゃないですか?
一方でマーケティングで重要な位置を占めるのは、赤字が許容されない事業計画です。そこに差異があるということへの理解が中々、世間に浸透していないからではないでしょうか。
河野 そうサム、LTVは事業計画ではないし、そこは無視したビジネスモデルなんです。顧客を1人獲得したら「生涯」つまり取引期間の間に合計でいくら払ってくれるかがわかり、その時点でかけられるコストが把握できるわけなので、当面の間はもちろん固定費含め赤字になる前提で見ていくべきです。
サム はい。そこを損益計算書で追っていってしまうと、どうしても厳しくなってきてしまいますよね。CPAのところは本来、マーケティング予算からではなく、LTVから逆算すべきわけですから。
河野 そうです。にもかかわらず世の中の大半の企業はLTVからではなく、反対に予算から逆算してしまっていますね。
サム それだとまずいですよね。LTVのモデルってSaaSやサブスクではもうスタンダードじゃないですか?
河野 はい。特にSaaSではスタンダードとして確立していると言ってよく、DearOneでもSaaSにおける超LTV経営を実践しています。
秋津 そうですよね。そして、ハイブリッド経営という観点からは、顧客1件獲得の平均月額コストの面だけではなく、さらにその次の回収の部分をどう考えていくか、十分吟味することが肝要です。
安田 確かに。
河野 その通りですね。そして、特に注意が必要なのは「本来なら顧客獲得コストに一人あたり3万円かけられるところ、現状では5,000円しかかけられていない」とマイナスに振れているような場合です。
その金額がさらに積み重なれば「本来100万円かけていいのに、50万円しかかけられていない」といったケースにも繋がりかねませんから、本当に要注意です。
それってつまり、マーケティングコストをかければ市場開拓できるチャンスがあるのに、それをみすみす逃していることにほかなりませんからね。
サム 本当にその通りですね。また、LTVでは新規顧客獲得に加えリテンション、つまり既存顧客やユーザーとの関係・取引の維持が重要です。
それにもかかわらず、企業側の目線だけでLTVを無視した経営を続けていると、いずれ顧客の満足度が大きく下がって、チャーンが増えてしまいます。
本来、しっかりLTVから逆算したコストをかけていればちゃんと獲得できたはずの継続顧客が、チャーンして離れていってしまっては最悪です。
期初にLTVを把握しておけば「コストは100 万円までかけられます」「継続的にこれくらいかけられます」という数字は出せますから、もったいなさすぎますよね。
安田 その通りですね。
≪.LTV Memo≫
SaaSではチャーン防止の観点からも、LTVからCPAを逆算せよ!
SaaSで重要な「カスタマーサクセス」におけるLTVとコストのジレンマを解説!
河野 ただし、場合によってはあえてコストをかけないという判断もあります。例えば、原価は非常に低く、かつLTVを計算する際に平均利用期間を2年で計算できるプロダクトであれば、まあまあ大きい収益率になりますよね。
この場合、LTVの「3分の1」まで顧客獲得コストがかけられるという原則に照らせば、顧客を1件獲得するのにかなりのコストをかけられることになるわけです。
安田 本当にそうですね。ただそれはプロダクトによっても違ってきます。
もし、それが自社プロダクトであればおっしゃる通り、収益率が非常に高いので当然そういうことも可能ですが、弊社のように“Best of Breed”(各分野で最適な製品を組み合わせる形でシステムに導入していくこと)の視点で他社プロダクトも扱っている場合はやや事情が異なります。
つまり自社プロダクトではなく、代理販売しているプロダクトの場合は、どうしても利幅は狭くなるので、マーケティングコストのかけ方はもっとセンシティブにならざるを得ないと思います。
河野 はい。そこは絶対に全部数字で語るべきなので、間違いないです。仮に自社プロダクトなら100%入ってくる利益が、代理販売だと30%しか入ってこないとなると3分の1まで落ちてしまうわけですからね。
それは収益の総額という観点であり、「何年か赤字が続くけれども、長期的視点で黒字を出します」というLTVの発想とは、また違うレベルの話になってきます。
つまり「急いで黒字化しなきゃいけないから、今期100件取ろう」という事業計画の話と「100件取ったら黒字化するので、3年で実現します」というLTVの話とは、別々に考えるべきということで、1件あたりにかけるコスト自体はやはり、LTVから逆算すべきということに変わりはないです。
安田 そうですね。またSaaSでは「LTVを上げろ」とよく言われますよね。
その言葉自体は一見、企業目線のようにも思えますが、実際に打つ施策はしっかり顧客目線になっていないと意味がないですよね。
河野 その通り!そして、今議論した単価や継続期間、いかにチャーンを防ぐかというチャーンレートの部分はLTVが相当効いてくるため、そこでは伴走型のカスタマーサクセスの果たす役割がとても重要になってきます。
安田 そうですね。
河野 売上高から変動費を差し引いた限界利益からLTVを算出している場合、限界利益 = 売上 – 変動費です。
カスタマーサクセスの人件費は変動費に含まれます。
だから、限界利益を考えるとカスタマーサクセスに多くの人員を投入すると変動費としての人件費が上がり、LTVの総額が下がってしまうことになります。
安田 確かにそうなりますね…!
河野 ええ。そうするとカスタマーサクセスによって利用期間を長くしてLTVを上げようとしているのに、反対にコストが危機的になるジレンマに陥ってしまう…。
安田 なるほど……その点は今まで、あまり考えたことがなかったです!
河野 でしょう!
安田 すると、そもそもカスタマーサクセスの人員を投入した場合に、一人のカスタマーサクセスが顧客の継続利用期間体を何カ月伸ばせるのか?」といった数値も重要になってくるわけですね。
河野 …当然、そうなります!
安田 怖ぁ…(笑)。
サム そういう意味では先ほどのチャーンレートと近い話ですね。そこをどうバランスするかという観点で打つ施策が「クロスセル」ですよね。
河野 そう、SaaS型企業はチャーンレートを日々計測しますから、それが正解です。
秋津 おっしゃる通り、LTVは同じ顧客に対して別の商品やサービスを「アップセル」「クロスセル」することで上がっていくので、クライアントが求めている課題に見合ったプロダクトを販売していくことが最重要です。
そういうやり方でこそLTVも高く出るしCPAも抑えられるので、そこに徹していくことがLTVを高めていく上での基本になるのは間違いないです。
≪.LTV Memo≫
LTVの基本は常に顧客目線に立ち、クライアントが求めている課題に見合ったプロダクトを販売していくこと!