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店舗×オンラインと日々進化するアメリカのEC業界!【海外Hot Info】vol.9

2021.11.29

第9回は、前回引き続きスタートアップの全面的支援を行っているベンチャー・キャピタル「NTTドコモ・ベンチャーズ」シリコンバレー支店の飯野 友里恵さんに、「米国EC業界の進化」についてのお話を伺いました!これまでのお話「EC業界を取り巻く米国の環境変化」については、前回の記事をご覧ください。

それでは、続きを見ていきましょう!

コロナを背景に進化を遂げるアメリカEC業界!人とボットのハイブリッドでより良い顧客体験を​

飯野 友里恵さん(以下、飯野さん) アメリカのEC業界の動きが上の表に表されていまして、大きな動きはまず2つあります。ひとつは「店舗×オンライン」の動き、もうひとつは「オンライン」の動きです。それぞれ順にご説明しますね。

1)「店舗×オンライン」の動き

米国EC業界の進化①

「店舗×オンライン」の動きとは、第7回目 でご説明した、Whole Foods(ホールフーズ)とオンラインとの掛け合わせのような動きです。この動きの背景には、コロナウイルスの影響が大きくありました。顧客接点を最小化しないと物が売れないというところから、さまざまな買い方が生まれました。

①「クイックコマース(デリバリー)」……店舗商品を注文すると、たったの15分や30分で自宅まで配送してくれる方法

例:JOKR、FoodRocket

②「クイックコマース+カーブサイドピックアップ(※)」……オンラインから注文して、店舗でピックアップする方法

例:instacart

③「チャット型コマース」……オンラインで店員と話してオンラインで注文するサービス

例:HERO、attentive

(※編集部注:カーブサイドピックアップとは、注文した商品を集めた上で、袋に入れて駐車場まで持って来てくれるサービスのことです。詳しくは、【海外Hot Info】第8回目の記事をご確認ください!)​

「チャット型コマース」は、店舗にいる店員の方とビデオチャットで会話ができ、購入はオンラインでできるという買い方です。このチャット型コマースを使用すれば、店舗に行かなくても店員の方におすすめの商品を教えてもらうことができます。「店舗って要らないんじゃないの」という風潮が強まってきている中で、うまくオフラインとオンラインの良さを取り入れることで生き残るやり方として、こうした販路が大きくトレンドになっているというわけです。

≪三石所長(当時)`s Memo≫

コロナ禍を経て、店舗×オンラインの新たな販路が生み出された

2)「オンライン」の動き

米国EC業界の進化②

飯野 「オンライン」の動きとは、最初からオンライン上のプラットフォームでEコマースを進めていく動きです。こちらもコロナの影響が大きく、「ストリーミングの視聴数がコロナの影響で何倍にも増えた」というレポートが多数出ています。特にSNSの視聴は1.5倍~2倍という規模で増えていて、それを見るついでに広告を見て買い物をするとか、インフルエンサーの動画を見て商品ページのリンクを踏んで買うとか、そういった動きが既存のSNSサイト上でも出てきています。実はこれまでアナリストレポートでは、モバイルからの購買はEコマース全体の15%ほどしかなかったんです。しかし、コロナの影響でみんなモバイルから物を買うようになったので、2022年までにはEコマース全体の73%にまで、モバイルユースが増えると予測されています。

そしてその動きを素早くキャッチした、新しい購入方法も複数生まれてきています。

「ライブコマース」…インフルエンサーや一般の方のライブストリーミングから買う方法

例:shopshop、POPSHOPLIVE、talkshoplive、LIVESCALE、Firework

「Direct To Consumer」…各SNS上に流れているライブコマースのような映像から、ブランドサイトに誘導され、オンライン上で買う方法

例:MAGICLINKS

「チャット型マーケティング」…オンラインショップについたチャットで店舗の店員とチャットして買う方法

飯野 「チャット型マーケティング」の場合、過去の購入履歴やウェブサイト上の動きをAIが解析することで、おすすめの商品を提案してくれることもありますね。

三石所長(当時。以下、三石) 詳しく解説してくださりありがとうございます。めちゃくちゃ興味深いお話ですね!ちなみに、店舗×オンラインの「チャット型コマース」って、たくさん売った店員へのインセンティブはあるんでしょうか。

飯野 これがちょっと難しいところで、店舗が「チャット型コマース」を導入している場合は、店員の方のやる気を引き出すためにインセンティブを与えるケースはあります。ただし売上はあくまで店舗に入るので、そこからのインセンティブという形になりますね。ただ、近年の動きに乗ると、店員の方個人が「ライブコマース」などを使ってインフルエンサーとして物を売ることができます。店舗から中抜きされることなく、個人やクリエイターが強い立場で販路を設けることができるんです。そしてこの動きが、アメリカではかなり加速しています。

三石 ユナイテッドアローズのCDO(最高デジタル責任者)・藤原義昭さんもおっしゃられてたのですが 、DXやAIといっても重要なのは発信情報の内容で、店員の方のノウハウをしっかりデジタル化していくのが、顧客体験として良いそうです。店舗×オンラインの動きに関しては、特に店員さんの影響力が強いアパレル系は相性がいいんだろうな、と思いました。あと、Eコマース全体の15%だったモバイルユースが73%に増えるだろうという予測は、衝撃でしたね。

飯野  今まではPCかスマートフォンからECサイトに行くという動線しかなかったんですが、近年はスマホからSNSを見ていて、そこからECサイトに飛ぶ動線が多くなったので、ほぼスマホ経由になるんですよね。少し前にエンタメ系の調査をした時も、コロナの影響でストリーミング動画の視聴が驚くほど伸びていました。家にいる人が急増した結果、今まであまり慣れ親しんでいなかった人たちにも、SNSやストリーミング動画が浸透したんだと思います。
あとは、ユーザーサポートも進化していて、これからの5年でサポート体制はほぼチャットボットに代わるといわれています。日本だと実感しにくいですが、すでにアメリカでは、どのサイトにもチャットボットがついているんですよ。

今後に期待できるチャットボットの進化!ポイントは人間の対応とのハイブリッド

チャットボット

三石 めちゃくちゃ興味深いですね!実はDearOneも、新規事業でチャットボットのビジネスモデルを起案しているんです。日本だと、チャットボットにはQ&Aのマスターを組み込んで、質問に対して自動で回答すると思うんですが、結局は質問を網羅しきれず電話になることが多いですよね。アメリカのチャットボットは、そのあたりどういう仕組みになっているんでしょうか?

飯野 実は私も、前職でそのあたりを担当していました。アメリカでは、人間の応対とマスター上の知識の分断を統合しようという動きはありますね。たとえば、コンタクトセンターなど人間が応対する組織での回答を、すべてテキストに起こして解析し、データベースに蓄積します。そして、チャットボットが回答した内容も全部蓄積しておき、最後にどの回答が一番顧客満足度が高かったかを、最後にアンケートしてデータ収集するとかですね。こうしたデータ収集とベストプラクティスの共有が、セットでできるプラットフォームもあります。チャットボットの場合、こうした蓄積・学習をしていくAIを利用して、最終的には自動的な最適化ができるようになります。

アメリカのサポート体制で私が「ユニークだな」と思ったのは、対応がチャットボットから人間につながるものですね。三石さんのおっしゃる通り、どんなに回答の精度が上がっても、AIだけですべての対応をまかなうのは難しいところです。そうしたときにチャットボットから人に繋がることがあるんですが、そのタイミングが不快にならないよう、しっかりと設計されています。チャットボットと人間の対応が、上手くハイブリッドされているんですね。

あとは北米の回線事業者や一部銀行系の事業者など、顧客ロイヤリティを高める必要があるところでは、接客にアバターのようなものを利用するなど色々工夫する動きが出てきていますね。

≪三石所長(当時)`s Memo≫

アメリカでは、チャットボットが広く普及。有人対応とのハイブリッドも進んでいる

アメリカの背中を追う日本のEコマースの展望。
デジタル化の遅れの原因は、配達面の発達?

三石 ありがとうございます! 気付きがたくさんありました。またアメリカの最新トレンドや、その理由もよくわかりました。インフルエンサーの活躍にも触れられていましたが、日本では、「インフルエンサーを束ねたお祭り」みたいになっているところがありますよね。とにかくインフルエンサーを集めて宣伝するとか。

飯野 それで言うと、サイバーエージェントではインフルエンサーや芸能人を使わず、何千人もの彼らのアバターの権利を買って使用することで、広告費を数千億円削減したという話も聞いています。アバターなら、スケジュールを気にせず何回も人を集めたり、普段はない組み合わせの人達を集めたりできるので、自由自在にプロモーションを打てますよね。こうした手法も、マーケティングを支配していくんじゃないかと思います。

三石 うまい手法ですよね。サイバーエージェントは所属タレントも華やかですし、手法との相性もよさそうです。ありがとうございます。ここまでお話しいただいて、アメリカのEコマース事情はよくわかりました。続いて、飯野さんの上司の加納さんにお伺いしたいのですが、日本への展開の可能性というところで、何かありますか?

Eコマース

加納 出亜さん(以下、加納) やはり日本はアメリカの後を追っているなと思います。ヨドバシカメラは「一部商品のネット販売比率を50%に引き上げる」と言っていますし、大手が大きく舵を切るのも必然の動きでしょうという感想です。また、日本でのライブコマースはジャパネットたかたが代表的ですが、このようにTVからライブコマースの波が広がっていくのではと思います。あとはクイックコマースですが、日本でも地道に広がってきていますね。スーパーである成城石井の商品や、コンビニであるローソンの商品も配送が始まっています。各地域のロジスティクスの状況に応じて、成り立つところから始まっているのだろうなと。

あとは、「ツイディ(twidy)」 という地域密着型の買い物代行サービスが頑張っていまして、完全に自動化というよりも、オンラインと人をうまく組み合わせて使っています。たとえば注文が入った時に、商品の良し悪しを選ぶのは熟練の店員さんがやる、というような、アナログ的な「人の良さ」を取り入れている動きはあるようです。

三石 なるほど。この間知ったスタートアップで「CREW Express 」(クルエクスプレス)というサービスがあって、ラストワンマイルのデリバリーだけに特化した、専門の配達パートナーがいるんです。もうスタートアップという規模ではないのですが、僕もスーパーのアプリを作っているので、連携していけないか提案してみたいです。

加納 なるほど、面白いですね! 日本は配達面は発達していますけど、流通量が増えてしんどくなってきているので、そこをうまく効率化・最適化しましょうというスタートアップ企業も増えつつあると感じていますね。

三石 日本の場合はそもそも生活環境が良すぎるから、配達とかピックアップのペインポイント(悩みの種)がそんなにないですよね。だから逆にデジタル化が遅れているというか。

加納 そうですね。そこは住み分けが図られていく気がします。たとえばUber Eatsの便利さを気に入って「買い物袋を持って帰るのが面倒だ」と思った人から、順番にデジタル利用に移っていくと思います。

三石 子育て世代でなかなか買い物に行けない人とか、シニアで買い物が大変な人とか、そういったところからも入っていくかもしれないですね。

≪三石所長(当時)`s Memo≫

日本は配達面のペインが少ないものの、アメリカの後を追い今後も発展していきそう

現金要らずで割り勘も一瞬!アメリカでDXが進む理由は「国土の広さ」が原因?

三石 最後に、実際に西海岸にお住まいの飯野さんから見て、現地の最近のトピックスはありますか?

飯野 アメリカに来て、一切現金を使わなくなりました。基本的にクレジットカードで支払えますし、割り勘の時も「スプリット」といって、カードの枚数に合わせて会計を分けてくれるんです。 支払いの割合が違う場合は、「Venmo(ベンモ)」 という個人間送金アプリで送金し合うので、本当に現金を持たなくなりました。あと、ファーマーズマーケットやクリエイターマーケットなど、日本でいう出店のような店舗でも、カードリーダーがあってクレジットカードが使えるんです。

三石 日本で飲食店に行くと、未だに現金のみのところも多いですよね。クレジットカード払いの手数料を払うのが嫌なんだろうなと思いつつ、なかなかDXが進まない印象があります。しかも、飲食系は受発注を全てFAXでしているところも多いと聞いたことがあります。店を閉めた後に、次の日の材料を1時間半くらいかけて注文するのを、全部FAX でやっている。効率を考えると、なかなか恐ろしいですよね。

飯野 渡米してから、アメリカでDXが進んでいる理由がよくわかりました。国土が広いので、どこに行くにも大変なんですよね。買い物に車で1時間、市役所に車で4時間かかる、ということもざらにあります。こうなると、オンライン化せざるを得ないですよね。そういう必然性があってDXが進んでいるんだな、というのはすごく感じました。あとは、飲食店のチップがかなり高いですね(笑)。

三石 確かに、日本だとチップという習慣は全然ないですよね(笑)。いや、面白かったです。いろいろお話いただき、ありがとうございました!

飯野・加納 ありがとうございました!

―――次回の【海外Hot Info】では、トラストバンクの森杉様に、デジタルファッションやNFTなどをお聞きします。ぜひお楽しみに!

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