私たちのコミュニティの場は、リアルの場からネット上のバーチャルな場に移りつつありますが、その変化が顕著なのはやはりZ世代です。
Z世代は今、どんなソーシャルメディアでどういったコミュニティを活用しているのでしょうか? 前回に引き続き、「Mr.モリスギ」こと株式会社トラストバンクの森杉育生さんにお話を伺いました。
Z世代は、複数のプラットフォームを横断してコミュニケーションを楽しんでいる
三石所長(当時。以下、三石) 今日もお時間をいただき、ありがとうございます! 今回は、「コミュニティ」について伺いたいと考えています。単刀直入に伺いますが、Z世代はどんなコミュニティを形成しているのでしょうか?
森杉さん(以下、Mr.モリスギ) 彼らのコミュニティは今、リアルの場を超えて仮想空間にシフトしています。以前の記事でも少し話題に出てきたところではありますが、Z世代というのは「ネットを常時接続しっぱなし」「AirPodsをつけっぱなし」の世代なんです。
たとえば、Robloxのようなゲームのプラットフォームにログインしてゲームをしながら、別のプラットフォームではライブチャットで友だちとテキストで会話をするとか。このように、プラットフォームを横断してさまざまなコミュニケーションをとるのが当たり前になっています。
三石 なるほど。音楽を聴くためにAirPodsをつける、友だちと会話をするためにAirPodsをつけるというわけではなくて、用途を限定せずにツールを使うことが当たり前になっているということですね! このZ世代の動きが、まさにメタバースの世界を現しているわけですね。
(※編集部注:「メタバース」とは、メタ(meta:超)とユニバース(universe:宇宙)を組み合わせた造語。オンライン上の仮想空間のことを指します。
2021年10月29日に、Facebook社が社名をメタバースを意識した「Meta(メタ)」に変更し、さらに注目を浴びています。)
≪三石所長(当時)`s Memo≫
Z世代は、用途を限定せずにネットを常時接続し、さまざまなプラットフォームを横断して、複数のコミュニティの中で自由にコミュニケーションを取っている。
オンラインゲームのプラットフォームという役割を超えて、新たなコミュニティを形成するRobloxやFortnite
三石 日本でも、「MMOG(マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ゲーム・Massively Multiplayer Online Game)」と呼ばれるような、いわゆる「みんなで仮想空間に集まってゲームをする」ようなコミュニティが人気です。MMOGの例としてRoblox(ロブロックス)やFortnite(フォートナイト)が挙げられると思いますが、まずはRobloxについてお伺いしたいと思います。
Mr.モリスギ Robloxは誰もがゲームを作れて配信できるプラットフォームです。開発者としてゲームを作ることもできるし、他の開発者が作ったゲームをプレイヤーとして遊ぶこともできます。たとえば、僕が何かゲームを作ったとしたら、それをマーケットプレイス(デジタル上の市場・電子モール)に置いておきます。すると、いろんなユーザーがそのゲームで遊べるようになります。様々な開発者が作った異なるゲーム間を同じアバターや同じユーザー名で行き来することができます。この点はRobloxがメタバースに近い存在と言われている一因だと思います。
三石 なるほど。Robloxでゲームを作るのは簡単なんですか?
Mr.モリスギ ゲームを作るためのツールがRobloxの中にあるので、それを使えば、基本的には誰でもゲームを作ることができます。10代が作ったゲームも多数ありますよ。
Robloxのいいところは、開発者がサーバーやネットワークなどバックエンドの仕組みを用意しなくていいところです。マルチプレイヤーのゲームを作るというのは実は技術的にもコンピュータのリソース的にもとても大変で、1から作れと言われて作れる人はそう多くないです。ですが、マルチプレイヤーで遊べるゲームを作り配信するために必要なツール・サーバ・ネットワークなどのインフラはすべてRobloxが用意してくれるので、開発者はゲームを作ることだけにフォーカスできます。
三石 なるほど、それはいいですね! Z世代の子どもたちも利用しやすそうです。ちなみに、同じくゲームのプラットフォームとしてはFortniteやCore(コア)なんかがありますが、これらはどういった特徴を持っていますか?
Mr.モリスギ Fortniteは少し対象が広めで、Z世代だけではなくミレニアル世代のユーザーもたくさんいます。特徴としては、グラフィックの質が高く、次々と新たなステージ、アイテム、人気のIPとのコラボが追加され続けていることでしょうか。エンタメのプロモーションの場としても活用されており、スターウォーズの新作のプロモーションビデオが放映されたり、アリアナ・グランデやトラヴィス・スコットといった有名なミュージシャンがバーチャルライブを行う場として活用されたりとかしていますね。
通常プレイヤーは、MMOのゲームとして、撃ち合いをしたり、協力して敵を倒したりしています。その一方で、友達同士で会話や遊びを楽しめるパーティモードでゲーム外のコミュニケーションをしており、その場所がそのままライブ空間になったりします。たとえば、巨大なバーチャルアバターとなったアリアナ・グランデが出てきてパフォーマンスを始めるんです。
三石 アーティストはその場にいるわけではなくて、完全にバーチャルなんですか?
Mr.モリスギ これには方法が2つあって、本人がモーションキャプチャースーツを着て動きをデジタルアバターと連動させるという点は共通ですが、プリレコーディングと呼ばれる事前にモーションを撮っておきそれを再現させる方法が1つ。もう1つが、アーティスト本人がスタジオでリアルタイムでパフォーマンスする、いわゆるライブ型の方法があります。
Fortniteがトラヴィス・スコットやアリアナ・グランデと行ったものは前者です。ですからアーティストはリアルタイムにその場にいないんですが、その分、宇宙空間に飛ばされたり深海に潜ったりと、演出がすごく凝っています。またアーティストの時間や場所の制約がないので、様々な国のプライムタイムにあわせて何度も公演をすることが可能です。表現力が3D空間に広がった新しい形の時限式プロモーションビデオのようなものだと思います。
Coreは、Fortniteの開発元のEpic Gamesが出資するスタートアップで、大人向けのRobloxみたいな感じですね。CoreはFortniteと同じくUnreal Engineというグラフィックエンジンを使って、よりリアリスティックな質感で、ゲームを開発・配信することができるプラットフォームです。
三石 なるほど。クリエイター側に回ってゲームを作ることもできるし、プレイヤーとしてゲームを楽しむこともできる。さらにはゲームの枠を超えて、観客としてライブを楽しむこともできる。そんな巨大空間が出来上がっているんですね!
ブランド側は、Z世代のファン獲得に向けてどんなコミュニティを形成している?
三石 RobloxやFortniteについて森杉さんにご紹介いただく中で、コミュニティの重要性についても理解が深まりました。今後、Z世代へのマーケティングは不可欠になっていくと思われますが、コンテンツを提供するブランド側は、従来のやり方を変える必要がありそうですね。
Mr.モリスギ その例としてお伝えしたいのが、Discord(ディスコード)というソーシャルメディアです。Discordはチャットツールで、元々はオンラインゲーマーを対象に開発されました。Discordではサーバーと呼ばれるトピック毎のコミュニティを作ることができます。今では、暗号通貨、投資、ブランド、サービスなど、ゲームの枠を超えて多種多様なコミュニティが作られるようになってきています。
さらに、こうしたコミュニティやサービスを提供するブランドや企業が、主導して作って運営するシーンも増えているんです。
三石 ブランドが集客する方法として、コミュニティの価値は年々大きくなってきていますよね。コミュニティを作らないとうまくファンがついてくれない、そんな状況にもなってきています。
Mr.モリスギ Z世代は、ブランドに憧れてファンになるというより、友だちみたいな感覚でブランドのファンになるという感覚を持っています。コミュニティを作るためのツールや方法も大事ですが、この「友だちのような感覚」を抱いてもらうためにはどうしたらいいのか。これがとても大事なポイントです。
三石 Discordで、実際に友だち感覚をうまく引き出している事例はありますか?
Mr.モリスギ SUPERPLASTIC(スーパープラスチック)という会社の事例を紹介しましょう。SUPERPLASTIC社はデジタルアバターを使った映像やキャラクターグッズを制作・販売する会社で、2021年9月に「JANKYVERSE」という、バーチャル版ディズニーランドのような仮想空間を作るプランを発表しました。
JANKYVERSEの構築にあたって、ファンの意見を吸い上げたり、ファン同士の議論を活性化させたりするために、Discordでコミュニティを作っています。DiscordではDiscordのコミュニティの中でモデレーター(コミュニティのルールを作ったり、マナーの悪いユーザーへの対処をしたりするなどの権限を持つ人)を置くことができます。自社だけではなく、熱心なファンにもモデレーターをしてもらって、ファン同士のコミュニケーションを活発にすることも行われています。
ファンというと、ライトな関わり方をするファンもいれば、深く関わるコアなファンもいると思います。そこで、まずDiscordでコアなファンを集めて、新商品や新企画はまずDiscord内のコミュニティで発表してマーケティングをする。友達感覚というか一緒に企画を考え進めていく仲間としてコアファンを扱っています。最近はそういったケースも多く見られます。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
コアなファンでコミュニティを形成し、一緒に商品やサービスを開発する。「友だち感覚」を好むZ世代には、このアプローチが刺さりそう。
三石 デジタルワールドの中で、どんどんいろんなことが楽しめるようになってきているんですね。すでに現実世界を「オールドワールド」、メタバースを「ニューワールド」と呼ぶような動きも出てきていますが、Z世代とその上の世代では全く違う世界が広がっているということを、今回森杉さんにお話を伺いながら強く感じました。
正直に言うと、Z世代よりも上の世代が皆感じているであろう「置いていかれていないか?」という焦りが隠せません(笑)。
Mr.モリスギ 自分のことを棚に上げてアドバイスをするならば、すでにこうした新しいメディアがどんどん出てきているという状況をキャッチアップして、とにかくチャレンジしてみる。これに尽きるんじゃないかと思います。
ベーシックな戦法として、まずは、大きなメディアで流行しているものを押さえた上で、次にまだ流行してないけど来るかもしれないものに先行投資できるといいですね。
三石 森杉さん、今回もありがとうございました!
―今回は、Z世代が仮想空間上でどんなコミュニティを形成しているのかについて、RobloxやFortniteなどのソーシャルメディアを例に挙げつつ、Mr.モリスギにお話を伺いました。
メタバースを自然に受け入れているZ世代。Z世代の価値観や感覚に対して「よく分からない」と距離を置いてしまわずに、積極的に情報を取りにいき、ビジネスのチャンスを掴みにいきましょう!