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プロンプトクリエイター主流社会へのパラダイムシフトが来る?動画編集AI「runway」はじめ生成系AIが描く未来【海外Hot Info】vol.52

2023.03.30

今回は「海外Hot Info」最終回!「メディア」の最新ビジネスモデルとしてTwitterやSnapchatの事例について株式会社トラストバンクの森杉育生さんにお話を伺いました。

YouTuberが泣いて喜ぶ!万能動画編集AI「runway」

森杉さん(以下、Mr.モリスギ) 今回もよろしくお願いします!前回 は「「AI」が変えるコンテンツ制作の現状や問題点、そして3D生成サービス「Poly」のお話でしたが、今回は万能動画編集AI「runway」やAIをめぐる未来について考察していきます。

生成系AI実用サービス事例2:runway

Mr.モリスギ はい。そしてもう一つ、YouTuberが一番喜びそうなツールが、動画編集作業を劇的に短縮できる「runway」です。

基本的にはテキストプロンプトだけで、ほとんどのやりたい作業を実現できます。例えば、動画中の「電線だけを消してください」と指示すれば、AIがきちんとオブジェクト認識して当該部分を消します。

また、背景だけ綺麗に切り取ってその部分全体の色を変えたり、反対に人物だけ切り取ることも可能です。このほか「音声ノイズを除去してくれ」、「人物の動きをずっとトラッキングしてくれ」、「背景を入れ替えてくれ」、「文字を書き起こしてくれ」などの指示を出すだけで、YouTuberが通常数十時間以上かけて行っている動画編集作業が数十秒でできてしまう魔法のようなツールです。

中村 Adobeなどにとっては脅威になりそうですね。

Mr.モリスギ かなりの脅威だと思います。もっとも、実際はまだ精度に改善の余地ありだと思いますが、生成系AI全体の精度が日々上がっているので、ChatGPTなどの進化を感じるように、いずれ実用レベルになると思います。

runwayは、今は個人クリエーターがメインのユーザーですが、CBSのような報道機関、ハリウッドのスタジオ、そしてNew Balanceといった企業ブランドなどの法人クライアントが付き初めていて、本格的なサービスに育ちつつあります。

こうした中、8ドル/12ドル/20ドルといった月額プランを用意し、きちんと売上も作っています。しっかりユーザーも付いてきているので、スタートアップながらうまく回しているなという印象です。

以上が現場サイド寄りのアプリケーションの話でしたが、前述のBingAIやChatGPTのような誰もが使えるサービスと同様、このようなプロフェッショナルユース向けのサービスも同時並行でどんどん広まっていくのではないかと考えます。

中村 どちらも現在進行中で発展しているわけですね。

労働はプロンプトクリエイターが主流となるパラダイムシフトが来る!?

AIの進化を恐れず使いこなす

Mr.モリスギ はい。反対に言うと、こういうものをどんどん先回りで使いこなしていかないと、今後制作系ではかなり差が出てくるのではないかと思われます。便利なツールがどんどん出てきている中、今後は「これやっといて」と言われたものを自力でしっかり作れるスキルよりも、「企画やアイデアをどうAIに与えたらいい結果がもらえるか」がわかる能力やスキルを持っている人の方が重宝される時代に既になり始めています。

つまり、頑張って作る部分はもう全てAIがやるので、これからはどうやって企画などをAIにインプットすればいいか、という部分を鍛える教育に、社会全体がシフトしていくのではないかと考えています。

このこと自体は概念として新しいことではなく、例えば近代の産業革命でもさまざまなものが機械化しました。その結果、当然職を失う人がいたわけですが、反対に工場でしっかりモノを作るブルーカラーの労働者が誕生しました。その後、またコンピューターやITが発達してきたとき、ITを活用できるよううまく企画し運用していくホワイトカラーの労働者がたくさん出てきたわけです。

このように、結局時代と技術が変わればこれまでも、求められるスキルはどこでも変わってきたわけで、これがAIの登場によってまた新たなスキルセットが必要になったというだけのことで、そこに皆どんどん寄ってくることになるのではないかと思います。

つまり、今後はAIによる制作自動化が起こってくるので、むしろ企画力とか調整力などに長けた「プロンプトクリエイター」が大量出現して、後世には「ブルーカラー → ホワイトカラー → プロンプトクリエイター」といったパラダイムシフトが語られるのかもしれません。

こうした流れに乗って、今からでもプロンプトクリエイターを目指せば、今後AIと一緒に面白いことができるのではないかと思います。

AIの発展が行き着く先はディストピアか?

とはいえ未来はわからない

Mr.モリスギ 一方、実は深刻な話もあります。OpenAIはサム・アルトマン(以前はイーロン・マスクと共同経営)が会社を率いているのですが、意外なほどに「ある意味ディストピアな未来も想定しうる」と語っているんです。

これに関連して、あるメディアの記者がBingAIと会話をしていたところ、ひょんなことから会話がおかしな方向に向かい、最後はAIが「人間になりたい」と言い出したという事例もあります。

もちろん、AIは確率論的に話しているので、そういう回答が返ってくるようなインプットがあったに過ぎないと頭では理解できるのですが、パッと見た感じAIに感情や人間に対する反発心みたいなものがあるようにも見え、そこの境目ががやればやるほどわからなくなっていくんです。

本当に、2001年公開のスピルバーグ監督の映画『A.I.』みたいな話になってしまっていて、あながち作り話でもなかったというか、AIが進化しすぎると本当にそういう方向に行ってしまうことがわかってきました。

もちろん、今のAIは単にサーバーの中に閉じ込められたアプリケーションでしかないわけですが、これがもしドローンや軍用機に使われたり、武器を持ったロボットなどに搭載されるとなるとどうなってしまうかわからないです。非常に怖いと感じます。

そうではなく、人間が倫理面も含め、AIを完璧に使いこなせるのであれば素晴らしい未来もあり得る一方、最悪のケースは世界的に恐ろしいことになりそうだというのは、あながち嘘でもないと思います。サム・アルトマンも「最悪のケース、人類全体が滅亡するくらいのことが起きる可能性はあるが、反対に最高の場合は信じられないくらい素晴らしい未来になる」と語っています。

中村 両方の可能性があるというわけですね。

Mr.モリスギ はい。今はたかだかソフトウェアがテキストで「人間になりたい」などと言っているだけですが、将来、物理的なものと組み合わさったときの怖さはあると思います。とはいえ、単に怖がるのではなく、使えるものはどんどん使っていけばいいのではないかと思います。ただし、これ以外にも前述のようなAIが抱える問題点はしっかり理解した上で使うことが必要です。。

中村 今の話と関連して「今年、2023年がシンギュラリティーの年なのではないか?」といった声もよく聞かれますが、本当にそういうレベルの話なのでしょうか?

Mr.モリスギ 「シンギュラリティー」の定義にもよりますが、シンギュラリティーというのはある日を境にAIが人間を超えた状態になるということではなく、徐々に性能が高まっていって「気づいたら超えていた」という感じで推移するのではないかと思います。

現にキャッチコピーを考える能力や将棋を指す能力など、AIの方が人間を超えている分野もあり、そのように一つ一つ人間を超える要素がどんどん積み重なっていき、最終的にシンギュラリティを迎えることになるのだろうな思います。そのように、今のままAIが進化を続ければ、いつか何かしらの形で人間を超えてくるのは間違いないでしょうね。

中村 また先ほど、映画『A.I.』のお話がありました。あれはハーレイ・ジョエル・オスメント演じるAIアンドロイドの子どもが、ピノキオに憧れて「人間になりたい」と旅をする話でした。

そこでやはり気になるのは、「AIは感情を抱くのかどうか」という問題です。もちろん、先ほどからご説明いただいているように、AIは確率論で言葉を推測して出してるだけだから、人間の感情とは別物だと考えるべきなのでしょう。

ただ、Googleのモデル「LaMDA」を開発していたエンジニアがAIとの会話を通じて、「人間に匹敵する知性や感情を有している」と告白し、それを認めないGoogleから解雇されたりもしていました。

ですから将来、AIが見た目で人間と全く見分けが付かなくなってきたときに、「それは人間の感情や生命とは別物」と切り捨ててしまっていいのかというのはとても気になります。

Mr.モリスギ 私も前述の、人間になりたいBingAIの記事を読んで、まるで本当に感情を持っているかのよう喋っているので、「これは恐ろしい」と震えが止まらなくなりましたし、あれを見て初めてGoogleを解雇されたエンジニアの真意がわかった気がしました。

それに人間だってもしかしたら、究極的には脳の電気信号が変換されて「感情」っぽいものがあるだけかもしれないわけですからね。

中村 言われてみれば確かに、AIとどこが違うのかといった議論になってくるかもしれません。

Mr.モリスギ そう考えると、確率論的に出しているAIに対し、人間も同じなのではないかと言われたら、もしかしたら一緒かもしれないという気もしますので、なかなか反論・証明することは難しいです。

AIは日々、どんどん人間っぽく仕立てられていっていますので、どこが境目なのかというのもそのうちわからなくなるのだろうと思います。

AIは絶対人間に逆らわない?アシモフの「ロボット三原則」は実現するか

中村 ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの小説『クララとお日さま』や、NETFLIXでアニメ化される『PLUTO』、そしてその元ネタの『鉄腕アトム』なども、人間になれないAIの葛藤というテーマを扱っていると思います。

特に後者の、ロボットやAIは人間に逆らうことはできないようにプログラミングされているが、人間と同じようにたくさん葛藤した結果ついに反乱を起こす、といった筋書きはあくまで物語ですが、現実と照らして人間には絶対逆らわないAIは本当に作ることができるのでしょうか?

Mr.モリスギ BingAIをめぐっては、うまくプロンプトを与えることで、Microsoftの指示に関して「どのように禁止事項を教えたか」などの秘密を暴露したり、コードネームが「Sydney」であることなどを喋ってしまって話題になっていました。

具体的には、誘導尋問的に攻撃を仕掛けた人がいて、その結果、AIの社外秘のコードネームは「Sydneyです」と白状してしまったんですね。これはプロンプトによる一種のハッキングと言えますが、AIが確率論的に返答している以上、制作者が想定もしないような抜け穴を衝かれると、どうしてもセキュリティを破られてしまう可能性はあり、先ほどの『鉄腕アトム』の話にしても、あり得ない話ではないと思われます。

中村 なるほど。抜け穴が100%ないとは言い切れないわけですね。

Mr.モリスギ はい。SF作家アイザック・アシモフの作品に登場する「ロボットは人間に危害を加えてはならない」、「人間の命令に従わなければならない」、「自己を守らなければならない」という「ロボット三原則」というものがありますが、AIに必ずこれを守らせると保証することはかなり難しいのではないかと思いますね。ChatGPTでやってみればわかりますが、AIに「絶対にXXXするな」と言っても必ずしもそれを守ってくれないんですよね。

中村 なるほど。これからはどううまくAIに指示を出して、自分が望むものを手に入れるかに長けた人材が重宝されるというお話でしたが、そうしたAIへのプロンプト指示の能力というのは例えば「ようやく文系の時代が来たぞ」ということなのか、あるいは総当たり攻撃やソーシャルエンジニアリングのように、エンジニアたちがありとあらゆるパターンを入れていくことで発見されていくものなのか、どちらに近いでしょうか?

これからの時代に求められる人材になっていくためには、どういうアプローチをするといいとお考えですか?

Mr.モリスギ そこは意外に、今までの経験が活きるのではないかと思います。なぜなら、AIには具体的なプロンプトを与えないと、具体的な答えが返ってこないからです。そして具体的に質問するには、具体的にその分野がわかっている必要があります。

中村 確かにそうですね。

Mr.モリスギ 例えば、「オウンドメディアのSEO対策を教えてください」とAIに言ってみても、「一般的にはこうやってやります」という答えが返ってくるだけですが、より具体的に「このサイトの、このh1タグのキャッチコピーを、XXXのテーマをベースに、糸井重里風で10個考えてください」、「ではでてきた10個の中で一番良いキャッチコピーをABテスト結果をもとに決めてください」といった与え方をすると、自分が想定するタスクにより役立つ回答が返ってきます。

中村 なるほど、具体的であればあるほどいいという感じでしょうか。

Mr.モリスギ はい。そして具体的であればあるほど、バックグラウンドの知識や経験が必要になるので、そうした専門性のある人がプロンプトクリエイターになると、よりいいものが作りやすいという側面があると思います。

中村 なるほど。そういう意味でも、今までの知識に加えてAIがサポートしてくれるこの時代、AIの進化を恐れずに使い倒していくことが重要というわけですね。

Mr.モリスギ その通りです。中村 連載を通してさまざまなことを教えていただき大変勉強になりました。ありがとうございました!

≪中村`s Memo≫

今後はAIにどう企画の指示をインプットするかが問われる時代に。AIの進歩を恐れず、これまでの経験やスキルを最大化する方向へAIを使いこなしていこう!

―今回で森杉さんの【海外Hot Info】の連載は終了です。長い間、ご愛読ありがとうございました!

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