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個数限定・期間限定の「ドロップモデル」によるマーケティングとは?【海外Hot Info】vol.45

2023.02.01

今回の「海外Hot Info」は欧米を中心に隆盛する「ドロップモデル」によるマーケティングについて、株式会社トラストバンクの森杉育生さんにお話を伺いました。

限定商品を素早く/細かくリリースする「ドロップモデル」

安田 今回もよろしくお願いします!今日はどんなテーマでお話しいただけるんでしょうか?

森杉さん(以下、Mr.モリスギ) 今回は「ドロップモデル」というマーケティング・販売手法についてお話しできたらと思います。ドロップモデルという販売手法は1980年代から使われているので、それ自体は珍しくないのですが、NFTと非常に相性が良いため昨今はデジタル領域でもよく使われています。

そもそも「ドロップモデル」とは何なのか、事例も交えて解説していきます。

Dropモデルとは何か?

ドロップモデルについて言葉としては、日本ではそれほど馴染みがないかもしれませんが、簡単に言うと「新しい限定商品を素早く/細かくリリースする販売手法」になります。例えば有名どころではナイキの「エアジョーダン」「エアマックス」などが90年代にありました。あれもドロップモデルの一つで、誰でもどこでも買えますという売り方ではレアな感じが演出できないので、ある程度ストックを絞って販売されていました。

別の例では、ファッションブランドとして人気の高い「Supreme」が先進的にドロップモデルを採用しています。突発的にポップアップストアを出したり、そこで数量限定アイテムを販売し、「レア」「今買わないとなくなる」といった感覚を演出し、行列を生み出しました。このようにドロップモデルの手法は、例えばLouis VuittonやハンバーガーチェーンのShake Shackなどさまざまな企業が模倣する主流のマーケティング手法になってきています。

安田 国内ではアイドルグッズの流通が少なめで、よく売り切れるという情報を最近見た記憶があります。

Mr.モリスギ はい。ファンにとって特に嬉しいアイテムについては、意図的に個数制限をかけていたり、また一回出しておしまいではなく、定期的に何度も細かく出し続けることで収益が上がってくる仕組みです。

ネットで単価が安いものを1発出しても収益は上がらないので、連続的に出していくことが重要になります。なおかつそれを飽きさせないことや、転売ヤーの手に渡ってしまうのをどう回避するのか、そこまでブランド側が考えてやっていく必要があります。

安田 近年は、Nintendoスイッチの品薄現象などもありました。

Mr.モリスギ はい。おそらくですが、スイッチはドロップモデルは採用しておらず、本当に人気がありすぎて、生産量よりも需要が上回ったので品薄になったのだろうと思います。

改めて、やはりSupremeが一番わかりやすい事例だと思うので紹介します。歌手のジャスティン・ビーバーさんもそのファンということでロゴも含め世界的に有名ですね。国内でもファッション好きな誰でも知っているようなブランドです。それに加えドロップモデルの代名詞としても注目を集めたブランドです。

例えば「ワイルド・ポスティング」と言って、街中の何もない空間に突然ロゴやポスターを掲げてポップアップショップを作り、急に街角に行列ができる状況を作り出して、さもバズっているかのように見せるといったことが、Supremeがよく採る手法です。

その数週間前〜直前に、ネットで数量限定商品の販売告知をするのですが、アイテムの個数はあえて言わず、すぐ売り切れてしまうくらいの数しか用意しないのがポイントです。

ゲリラ的ポップアップストアで南青山から外苑前まで7,500人が長蛇の列!?

リアル事例:Louis Vuitton x Supreme pop-up in

2017年にSupremeはLouis Vuittonとコラボしています。Supremeはかつて、自身のロゴの後ろにLouis Vuittonのモノグラムを勝手に付けて訴えられたりしているのですが、今では両者が和解してコラボをするという、10年前には考えられないような出来事が起きています。

安田 面白いですね!

Mr.モリスギ 「Louis Vuitton × Supreme」コラボモデルを何個も投入し、東京の南青山、パリ、LAの3箇所でポップアップストアを作って売り出しました。すると、発売日の公式アナウンスが直前だったにもかかわらず7,500人の長蛇の列が南青山から外苑前まで伸びて、iPhoneが初めて売り出されたときのような行列ができたそうです。先頭の男性は前日の21時から並んだそうですが、実はこれ抽選なんですね。

安田 並んだ上に抽選ですか?

Mr.モリスギ はい。なので、抽選して外れたら「10時間くらい並んだのに残念」でおしまいなんです。その上、1日300人くらいしか入店ができず、基本的に追加補充はなしで、そこにあるアイテムだけを売り尽くすスタイルで当選倍率は15倍。前夜の終電後から並び初回11時の回を引き当てたある男性は、総額150万円超のアイテムを購入したということです。

安田 すごいな。確かに認知度を上げるとか「流行ってる感」を演出する意味では「こんなに行列が並んでくれればいいな」と思いますが、反対に店舗やブランドへのロイヤリティー、顧客からのブランドに対する印象に関しては悪影響がありそうですよね。それでもユーザーが離れないSupremeのブランドロイヤリティがすごいなと思いました。

Mr.モリスギ Supremeにはユーザーからも賛否両論があるようです。それにも関わらず、こういう抽選とかが一度でも当たると「やったー!」と喜んですごく好きになってしまう人が多いというわけなんです。また抽選に当たらなくても「次こそは」と余計欲しくなるということもあります。構造としてはソーシャルゲームのガチャに似てますよね。射幸心を煽りすぎるのはよくないですが、モラルを守りつつ適度にマーケティングとして利用するということだと思います。

安田 そこはやはり、そのブランドが元々持っているアイデンティティーや期待値に照らして「想定内であればいい」という心理なんですかね。

Mr.モリスギ はい。Supremeは元々スケーター向けのブランドなのですが、ポップアップ時のディスプレーや店舗の配置は高級ファッションブランドと同じように仕立て、庶民が手を出そうとしてもなかなか届かない存在といった感じにブランドのイメージを作り上げており、手に入ったときの喜びをうまくかき立てていると思います。店舗の雰囲気から販売手法まで含めてドロップモデルの中で、一番成功している例の一つではないかと思います。

デジタル事例:Nike SNKRS

Mr.モリスギ 続いてドロップモデルのデジタル版、NIKEのSNKRS(スニーカーズ)というアプリを紹介します。NIKEというと、日常的にショップでもスニーカーを売っていると思いますが、こちらは一部のマニアの間で大人気になっている、スニーカーマニア向け商品に特化して販売しているアプリです。

例えばジョーダンシリーズやエアマックスを筆頭に、そのほかにも高級ファッションブランドとコラボしたスニーカーなどをこのアプリだけで出すのですが、先ほどの例のように抽選みたいなことを行うのがミソです。

つまり「先着抽選」「完全抽選」「先行限定販売」などさまざまな販売手法を組み合わせ、かつゲリラ的に個数限定発売を行うなどして、リテンションを高めるのがすごく上手いです。毎日のように新作が出され、しかもレアで皆が欲しがるようなアイテムが少ない数だけ発売されるため、すぐ売り切れるんですよね。

時間は朝9時前後に出ることが多いと皆わかっているので、ファンは毎日アプリを開いて確認することが習慣になります。9時過ぎに突如発売開始し、数分後には売り切れてしまうので知らず知らず「今度こそ手に入れてやる」という感覚になるアプリです。私自身は決してスニーカーマニアではないのですが、それでも好きなブランドとコラボしていたりするとやっぱり「欲しいな」という気持ちになります。

努力が報われる要素がミソ。「ドロップモデル」の4販売方式

NIKE SNKRSで行われる販売方式

具体的にはこちらの4つの販売方式が採られています。①通常販売はいわゆる普通のECと同じで、決済したら在庫が確保されます。③完全抽選はSupremeのケースと同じで、購入後エントリー状態となり無作為抽出で当選が決まるというもので、これが特に人気が高いです。例えばLouis Vuittonとのコラボスニーカーなど特に人気が出ると思われるモデルが、月に4〜5回ゲリラ的に抽選が行われます。

他方、②先着抽選という言葉はあまり聞き慣れないですよね。「先着抽選」は購入後にエントリー状態になって、一定のエントリーが集まった状態でリアルタイム抽選が行われ、結果がその場でわかるというものです。

もちろん、完売するとその後の当選はなくなるわけですが、先ほどの「完全抽選」よりもすぐに結果がわかり、また早く購入すればするほど当選確率が上がるということで人気が高いです。頑張って当選するために毎日アプリを立ち上げるようになるので、この仕組みは特に上手だなと思っています。

安田 なるほど、よくできていますね。

Mr.モリスギ これらを定期的に回していくのですが、超レアアイテムを扱う③完全抽選は、やり過ぎると付加価値が落ちるため連発できません。人気のあるアイテムも完売する④先行限定販売と②先着抽選とを、タイミングを見計らって合わせて実施しており、それをまたユーザーが毎朝9時に確認するというサイクルが回る…。もはやAmplitudeなどユーザー行動分析の話をしているような気がしてきました(笑)

こうしたサイクルを続ける一方で、やはり抽選に外れた人には何らかのインセンティブが必要です。普段からアプリをたくさん使ってくれていたり、通信販売で買ってくれたりしている人に対して④先行限定販売という形で特典を与えるというものです。このように、消費者の「これに選ばれたい」「さらに頑張ってアプリを使いまくれば先行販売のターゲットになるかも」という心理をくすぐるわけです。

以上のように、さまざまなアプリや販売の仕組み、商品の特性を用いて巧みに演出しているというのがNIKEの事例で、マーケティング的にはまさに教科書に載るお手本のようだと思いました。

安田 抽選の部分に「当たった」「はずれた」といったゲーム性・中毒性があるのだろうなと感じました。また、②先着抽選はインパクトがありますね。一定のルールで少しでもユーザー側に努力のしようがあるかないかの差は大きいです。

Mr.モリスギ スライドでも赤文字で示しましたが②先着抽選、④先行限定販売の2つで努力ポイントをしっかり作っているのが効いていますよね。

安田 はい。運だけだとユーザーがやる気をなくして離れていってしまいますが、頑張れば報われる部分があるからやる気が出るというのは、うまいこと作ってあるなと思いますね。

NIKE SNKRSのドロップ方式によるリテンション施策

Mr.モリスギ こうしてユーザーは毎朝9時に新規ドロップを期待して必ずアプリを開き、購入確率が上がるといった演出をしてリテンションが高まっている状態が作り出されます。

安田 アイテムがいつドロップされるかはわからないんですね。

Mr.モリスギ はい。③完全抽選は事前に告知されることが多いのですが、②先着抽選や④先行限定販売は割と急に来るんですよね。恐らくどの販売方式でも何らかの一番プロダクトに効くアクション/KPIを、しっかり分析した上で決めていると思います。。

安田 そうですよね。普段から放っておいても買う人は選ばれなかったりとか、きっともうちょっと押せば買ってくれるユーザーを見極めてアクションしているのでしょうね。

Mr.モリスギ そうかもしれないですね。

≪安田`s Memo≫

②先着抽選、④先行限定販売に努力が報われる要素を設け、消費者心理をくすぐるポイントを巧みに演出!


―次回の【海外Hot Info】では、「Web3におけるNFTと『ドロップモデル』の最新事例」について、引き続き森杉さんにお話を伺います。次回もぜひお楽しみに!

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