今回はクリエイター支援サービスとして注目したい「メディア・コンテンツのバンドル化」「パーソナルメディア」の事例について、Mr.モリスギこと株式会社トラストバンクの森杉育生さんにお話を伺いました。
前回のクリエイターエコノミーが抱えている課題とその対策方法についてと、あわせてご覧ください!
TOP10のライターたちが年間20億円を稼いでいる!メディア・コンテンツのバンドル化の事例①「Substack」
三石 前回は、クリエイターが武器とするべき3つの神器の1つめ、クリエーションツールの拡充について伺いました。今回は、メディア・コンテンツのバンドル化とパーソナルメディアについてお聞きしたいと思っています。森杉さん、今日もよろしくお願いします!
森杉さん(以下、Mr.モリスギ) よろしくお願いします! 今回は、さっそく事例から紹介していこうと思います。まずは、メディアコンテンツのバンドル化ですね。
三石 バンドルというと「束ねる」という意味がありますね。メディア・コンテンツのバンドル化とは、メディアを束ねてネットワーク化するというような意味合いですか?
Mr.モリスギ そうですね。事例を見ていただいた方がイメージしやすいと思いますので、そちら紹介しますね。
最初に紹介するのはSubstackというメディアプラットフォームなんですが、Substackは、ニュースレター(メルマガ)・ポッドキャスト・ブログを一元管理できるサブスクメディアプラットフォームなんです。noteをイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。
Substackは技術的にものすごく優れているわけではないものの、ブランディングが上手い。そして誰でも有料のニュースレターをパブリッシュし課金できる仕組みをノーコードで整え、優れたコンテンツライターをちゃんと捕まえてきたことが成功につながっています。
似たようなメディアプラットフォームとしてミディアムがありますが、ミディアムは個別のライターのニュースレターのサブスク課金ができませんでした。そこで、3、4年くらい前にSubstackが登場しました。
三石 ということは、Substackだとサブスク課金ができるんですか?
Mr.モリスギ たとえば、価値の高いコンテンツを提供できる個人ライターがペイウォールつきのニュースレターを発行して、それを読者が購読する。ニュースレターとブログ用のCMSと課金とアナリティクスの運用が簡単にできるのが、Substackです。
小気味の良いUXで有料のニュースレターもブログも管理できるプラットフォームはありそうでなかったんです。今は似たようなサービスがたくさん登場してますが、Substackは先駆けですね。
三石 これって、日本のサービスにたとえるとしたら有料メルマガのようなものですか?
Mr.モリスギ noteと有料メルマガが合体したような感じですね。インターフェースはシンプルなんですけど、ブログ機能と、ワンタイム課金やライフタイム課金などのサービスをいろいろ絡められます。しかも、あっという間にそれが作れるんです。
これが現在すごく評判になってきていて、Substackで生計を立てるライターも出てきているんです。SubstackのTop 10のライターが、Substackの約半分のシェアである年間20億円を稼いでいるという現象が起きています。
三石 なるほど。このコンテンツの母体ともなっているGrowthLabのnote上のプラットフォームで、今面白い動きが出てきていまして。noteって、コンテンツをユーザーに届けるツールとしての機能のほかに、メディアとしてユーザーを回遊させる機能もありますよね。
そこで、GrowthLabのコンテンツが「今週の注目記事」に選ばれることがちらほら起き始めていて。そういう効果は、独自ドメインを取ってWordpressで自力でブログを作るとかだと得られないところなんです。
Substackでも、そういった流入機能を持ち合わせているんでしょうか?
Mr.モリスギ Substackも、最近はその方向に進もうとしています。たとえばTwitterで獲得したユーザーに対してマネタイズする場所としての機能を持つというのもそうで、彼らもディスカバリープラットフォームになろうとしているようです。
技術的にはあまり新しいことをやってるわけではないものの、Substackはユーザーの獲得の仕方やビジネスの進め方がすごく上手ですね。10%という手数料も絶妙な感じです。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
ニュースレター・ポッドキャスト・ブログを一元管理できるサブスクメディアプラットフォーム:Substack。技術的に斬新さはないものの、ブランディングやユーザーの獲得方法など、思わず唸ってしまう箇所が多い!
既存のカスタムドメインを使いつつ、プラットフォームも活用できるのが強み!メディア・コンテンツのバンドル化の事例②「Hashnode」
三石 続いては「Hashnode」について紹介していただけるとのことですが、これはどんなプラットフォームですか?
Mr.モリスギ Hashnodeを一言で表すと、エンジニアであるテックライターと読者に特化したブログメディアコミュニティです。
エンジニアの人って元々作ることが好きな人たちなので、ブログにしても、自分でサーバーを借りてポスティングして、カスタムしてブログを作ってる人が多いんです。
でもそうすると、メンテは面倒だしお金もかかる。しかも、長年自分の独自ドメインで運営していると、noteやミディアムにも移行できない、したくない。そういったエンジニアの悩ましい問題を解決したのがHashnodeです。
Hashnodeでは今まで使っていたカスタムドメインも残せつつ、Hashnodeのプラットフォームを使うことができるためにHashnode経由でさらに流入が増やせるということで、エンジニアの希望にしっかり応えています。
Hashnodeで投稿して、わずか48時間で58,000PVを獲得した人もいます。
三石 へ~面白いですね!最近は、「大人の学び直し」という言葉をよく耳にするようになりました。最近は学び系の個人向けコンテンツも増えていますよね。YouTubeでも学び系のコンテンツが増えてきていますけど、技術やエンジニアリング辺りの学びの領域というのも、需要が高そうです。
Mr.モリスギ 需要は絶対にあるでしょうね。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
大人の学び直しが改めて注目されている今、クリエイターの生み出すコンテンツにも、娯楽だけでなく学びを含むものが求められている。
クリエイターのポートフォリオとしての役割を果たす「リンクインバイオ」の代表的なサービス「Beacons」
Mr.モリスギ 続いては、パーソナルメディアの事例を紹介します。まずはリンクインバイオサービス「Beacons」(ビーコンズ)です。
「リンクインバイオ」について説明しますね。たとえばクリエイターって、TikTokやInstagramなど、いろいろなプラットフォームを使ってサービスを提供していますよね。
そのさまざまに散らばったアカウントやサービス全てを集約する1ページのリンク集のことを「リンクインバイオ」と言います。Beaconsはそのリンクインバイオサービスの1つです。
三石 そのページを拠点として、訪れたユーザーがいろいろなサイトに飛ぶことができますね。役割としては、ポートフォリオみたいなものですね。でも、それってある種今までもあったリンク集といってもいいような気がします。
Mr.モリスギ そうなんです。ただ、クリエイターにとってはたとえば拠点となるリンクインバイオページにECの機能を入れられたり、InstagramやTiktokからECへとダイレクトに連携したりできる点がすごく便利なんです。
しかも、スマホだけで簡単にそういった一気通貫ができるというのが、今とても求められているんです。特に若いクリエイターは、パソコンなんて使いたくない/使えない人もたくさんいます。
三石 確かに、それはすごく同意できますね。
個人事業主が売るサービスを全てリスト化できる「Dayslice」
Mr.モリスギ もう1つ、パーソナルメディアの事例を紹介しましょう。「Dayslice」もシンプルで、個人事業主に特化したプラットフォームです。
サービスを有料で売ることができるんですけど、たとえばコンサルティングメニューや相談メニューなど、提供するサービスを全てリスト化できます。こういうプラットフォームは、意外とありそうでなかったんですよ。
三石 フリーランスのこういったプラットフォームだと、たとえばクラウドソーシング系のマッチングサイトなんかありますよね。そういったものとは違うんですか?
Mr.モリスギ 似てはいるんですけど、大きな違いは主役が誰かというところです。
クラウドソーシング系のマッチングサイトだと、主役はプラットフォームなんですよ。でもDaysliceは、クリエイターが主役になってます。クラウドソーシングのプラットフォームはあくまでマッチングの役割が強いです。個人のブランドやサービスというのはほとんど表面化せず、フリーランスの方そのものが商品という感じですよね。
Daysliceは、クリエイターが独自のブランドのお店を持つイメージで契約や支払、サービスに関する全てを一気通貫で提供・運用できるプラットフォームなんですよ。
人気があるプラットフォームは技術ではなく「見せ方」や「マーケティング」で勝負!スマホで完結できるかがポイント
三石 なるほど、これも面白いですね!
お話を聞いていて常々感じているんですけど、技術的にはどれも大差がないというか、単純に「見せ方」で勝負している気がします。
どこにスポットライトを当てるかとか、サービスの内容やマーケティングメッセージ、UXなんかを上手に構成しているだけで、裏側の仕組みはある程度同じという感じがします。
Mr.モリスギ おっしゃる通りで、アイディアと実行力と先行者利益で差別化していると思います。エンジニアリングのスキルとスピード、UXの設計能力、人員拡大計画など、グロースするのに必要なことを正しい順番で行なっていることが成功につながっています。
これらの成功したサービスに共通するキーワードとしては、下記になりますね。
①スマホだけで完結する
②高度な機能があり、ノーコードで制作・配信・分析が一通りできる
大半の方は「散らばっているサービスをワンポータル化したい」と考えているので、そこを狙ったプラットフォームが生まれています。
三石 Z世代はもう普通に使いこなすんでしょうけど、コンテンツの枠が決まっていて有限のサイズの中で作らなければならなかった世代のクリエイターは、ここに適応するのは少し苦労しそうですね。それも学び直しなんでしょうけどね。
それにしても、ほんとに便利なサービスばかりですね。すごく分かりやすいし、これくらいの気楽さでいろいろ作れたら最高ですね。
Mr.モリスギ 結局は、パソコンとかいろいろな機材を使うのが面倒だということなんですよね。いかに簡単に、直感的に、スマホのみで、特化層にささるコンテンツを製作・配信・販売・分析・改善をしていく環境を提供していけるかが重要なんです。
ここを徹底することによって、すでに競合がいる分野であっても勝てるチャンスは十分にある。そうすれば、クリエイターエコノミーはもっと広がるでしょうね。メルカリがそのいい例ですよね。
三石 ヤフオクとメルカリでは、今やユーザー数が逆転していると言われていますね。サービスはヤフオクと同じなのに、「フリマアプリ」という表現が良かったと言われています。
Mr.モリスギ メルカリは、スマホに特化したUXだったり、最初は手数料を取らないマーケティングだったり、サービスの斬新性や技術的優位ではないところで競合に勝ったいい例ですよね。
私も昔は、スタートアップに対して「技術的な差別化要素はどこにあるんだ?」と聞いていたんです。でも、最近はそれは違うなと思っていて。確かに技術的に差別化要素はあったらあったでいいんですけど、それ一本では勝てない。結局正しくユーザイシューを解決していて、十分な市場の中で、参入タイミングがあえばどんなサービスでも良いわけです。
三石 本当にそうですね。それから、やっぱりベースとなるのは継続なのかなと思いますね。途中で発信が滞ってしまう人も多いものですが、そこをいかに継続しつづけられるかが大事なのかなと思います。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
これからのクリエーションツールで求められているのは、スマホさえあれば簡単に操作ができ、質の高いコンテンツを作ることができるツールである。
―次回の【海外Hot Info】では、米国景気後退(リセッション)の現状とスタートアップの対応について森杉さんにお話を伺います。次回もぜひお楽しみに!