広がるアバター活用とNFTの影響力【海外Hot Info】vol.27

2022.05.17

第27回は、前回に引き続き、スタートアップの全面的支援を行っているベンチャー・キャピタル「NTTドコモ・ベンチャーズ」シリコンバレー支店の舞野 貴之さんに、「NFTとMETAVERSE(メタバース)」についてのお話を伺いました!これまでのお話「NFTの広がりとアバターのポータビリティ」については、前回の記事をご覧ください。

―――世界各国の先進的な取り組みから、旬で“GROWTH”につながりそうな企業・サービスをご紹介する「海外Hot Info」。10年以上デジタルマーケティングに携わってきたGROWTH LABの三石所長(当時)が、その知見をもとに海外のデジタルマーケティングのトレンドについて切り込みます。

それでは、続きを見ていきましょう!

『レディ・プレイヤー1』の世界がそこに? なくなりつつある「人とCGの境目」

さらに広がるアバターの可能性

舞野 1記事目でアバターのポータビリティについてご紹介しましたが、欧米ではゲーム以外にも、さまざまな形でアバターが活用されています。その活用例を以下で3つ見ていきましょう。

【1:デジタルアバターでのライブ】
NDVの投資先企業「Wave」ではバーチャルプラットフォームを提供していまして、歌手のジャスティン・ビーバーも株主となっています。そして彼は2021年11月、自分のデジタルアバターを使って、Wave上でバーチャルライブを行いました。それが当時、かなり評判になったんです。

この事例を応用すれば、たとえば日本のアーティストでも、アバターを使うことでグローバル進出がしやすくなるのではと思います。

【2:再結成に伴い絶頂期の姿をアバター化】
面白い事例としては2021年、あの有名な音楽アーティストグループ「ABBA」が、40年ぶりに再結成し話題になりました。グループはそれだけではなく、デジタルアバターを使ったバーチャルコンサートも予定しており、今から40年以上前にあたる1979年当時のメンバーの姿をアバターで再現。現在、平均年齢74歳のメンバーの代わりに、コンサートに出演します。

アバターを活用することで、新しい表現、さらには若いファンをはじめとした幅広い年代にリーチしたり、さまざまなライブやイベントも実現できたりといったことが可能になるでしょう。

【3:IT企業CEOがフルCGで基調講演】
IT企業「NVIDIA」のCEOジェン・スン・ファン氏は、2021年4月の基調講演に登場。しかし、豪華な背景も本人も実はフルCGであり、フルデジタルで講演を行っていました。上記のようなエンタメ領域に限らず、企業や行政でもアバターを活用できるわけです。いわゆる「不気味の谷」を超える高精細のアバターがあれば、たとえば、日本人の起業家が英語でプレゼンをする際、このように高精細なアバターを用意し、英語は吹き替えで対応することも可能になるでしょう。

三石 こうした例を見ると、未来の到来を感じますね。VRの世界を舞台にした映画『レディ・プレイヤー1』を思い出しました。まさに映画のような世界が現実になりつつありますね。

舞野 人とCGの境目がわからない時代がすぐそこまで来ていると思います。人にしか見えない高精細なアバターが相手だと、「それはアバターだよ」と言われるまでは、人だと思って接してしまうレベルが実現しています。

見た目が良くとても滑らかにしゃべれるアバターが、営業の場においてzoomなどのオンライン越しにビデオで登場してくれば、セールスの成約率も上がるのではないでしょうか。これまで「人間しかできない」と言われていた仕事も、もしかしたらテクノロジーで代替できるかも知れません。

≪三石所長(当時)`s Memo≫

人とCGの境目がわからない、映画のような時代がそこまで来ている

舞野 それに、自分にそっくりなアバターって、きっと大事にしたくなりますよね。唯一無二のものとして、他の人に使われたくないし、自分で所有しておきたくなる。

ですので、課金して着飾らせたアバターをNFT化して、ポータビリティを得たうえでさまざまな場所に持っていく、ということも増えていくと思います。今はNFTといえばデジタルアートが主流ですが、これからはアバターを中心としたプラットフォームやエコシステムが出てきても、おかしくないと思っています。

アバター

三石 1記事目のロブロックスの話と比べると、幅広い世代に関係しそうな話ですね。一気に自分事としてとらえやすくなりました。

舞野 そうですね。また、アメリカのエンタメ領域でも面白い動きがあります。近年、ボブ・ディランやブルース・スプリングスティーンなどの歌手たちが、楽曲の「原盤権」と「音楽出版権」を音楽会社に売却しています。コロナ禍でライブなどが難しくなったことや、デジタル音楽配信やストリーミングビジネスの台頭によって、レコード会社が「CD」化などをしなくてもマネタイズできる、再生回数などによってキャッシュフローの価値が可視化しやすくなったことがあると思います。

もうひとつの理由は、彼らほどの人気アーティストであれば、若いころのアバターや曲の新しいアレンジを組み合わせることで時代に合った楽しみ方を提供したり、もし彼らが亡くなっても曲が再生されて、キャッシュフローが回るからです。AIを使って過去の楽曲を学習させれば、雰囲気の似た新曲も技術的には出せます。このように、アバターの活躍によって、エンタメ領域でも新しい動きが出てくるのではないかと、期待しています。

≪三石所長(当時)`s Memo≫

アバターの活躍により、プラットフォームやエンタメ領域での売り出し方が変わる

エンタメや営業にも影響 マーケティング的にも注目のNFTの今後

NFTまとめ

舞野 これまでのまとめとしては、上の画像の通りです。それに加え、以下のような背景も考えられます。

・自分のキャラクター(アバター)を所有したい・身に着けたいというニーズが、コレクション価値や所有欲が生まれつつある理由の一つ

・強いブランドはモノでなくデジタルアセットでも価値を生み出せるため、NFTアイテムの販売を始めている

・メタバースにおいてマネタイズができる事例の背景には、Apple税をはじめとした「手数料を払いたくない」という願望もある

こうした動向から、今後NFTやメタバースは、アメリカを中心として広がっていくのではないかと考えています。

三石 なるほど、ありがとうございます!ここで、東京サイドの加納さんにもお話を伺いたいのですが、これまでの話で何か補足などありますか?

加納 アバター系スタートアップの事例としては、「Arcturus Studio(アークトラス スタジオ)」社の話がおもしろいかもしれません。

2016年に創業したアークトラススタジオは、現実の空間や人の動作などを3次元デジタルデータとして撮影する「Volumetric Video」の、編集ソフトウェアとプレイヤーを開発・提供している会社です。3Dモデルに後付けで動作を設定でき、アバターの動きを表す「エモート」もデジタル化できます。

先ほどの舞野さんのお話のように、マネタイズしやすい人気アーティストたちにとって、アバター化することはそれ自体が価値につながります。アーティストは、自分のアバターや3Dモデルに関しても版権を持ち、コンテンツ化していく。そこで、アークトラススタジオのようなスタートアップが出てきているわけです。一時期ゲーム内での3Dモデル利用が流行ったように、至る所でリアルな動きを含んだアバター化が進み、メタバース内での利活用が進んでいくのではないかと想像します。

そして、NFTのデジタル的な観点で言うと、NFTは技術的に、誰が所有してどう流通したかがわかっちゃいますよね。その技術を、著作権を管理する目的で利用しているコンテンツプレーヤーも日本でも出てきています。ですので、誰がNFTを所有していて、誰がどんな取引をしていて……という一連の流れの把握が、今後のデータマーケティングに大きく関わってくるのではないかと思います。

三石 NFTについては、NIKEがNFTブランドの「RTFKT(アーティファクト)」を買収して、メタバースへの進出を拡大するという先進的な事例も出てきましたよね。今後の流れも非常に面白そうです。

加納 そうですね。こうした動きを受けて、実際にコンテンツ業界がどう動いていくのかを考えると、まもなく面白い動きが出てくるということが想定されると思います。フェスイベントにおけるプレイリストもNFTとして価値を出したり、そこでしか聞けないような限定的なコンテンツにNFT付与しファンクラブのみで流通したり、いろいろな想定ができますよね。

また、メタバースでさまざまな価値を楽しんだ後に、現実世界のイベントに会員だけを招待するというような、メタバースと現実の連携なども出てくるのかもしれません。一期一会のものがコンテンツとなり、それがNFTにより価値制御され、コミュニティの中で消費される世界ができていく気がします。

≪三石所長(当時)`s Memo≫

NFTに関する、コンテンツ業界の今後の動きに注目。メタバースと現実との連携が鍵

三石 あとは、先ほどの舞野さんの「アバターセールス」の例も面白かったですね。弊社DearOneでも今、毎日営業をしているのですが、アバター利用が広まれば営業も効率的になりますよね。

BtoB営業という点では、サイバーエージェントさんでも似たような動きがあると思っていて。サイバーさんは、容姿の優れた人を優先して採用することで、営業時の印象の良さを担保していますよね。とても戦略的で賢い方法だなと思っているのですが、そのデジタル版が「アバターセールス」なのかなと。

舞野 「”石原さとみ”風のアバター」とか「”吉沢亮”風なアバター」で営業したら、成約率が上がるかもですね(笑)。しかも、売りたいプロダクトに合うキャラや売り方、トークスクリプトも、自動で最適化される。

加納 しかも、アバターならABテストできますよね(笑)。アバターの普及に伴って、法人向け営業も今後変わっていくのではと思います。

舞野 このように、NFTは「メタバース」という大きな流れの中でも活躍していますが、エンタメや営業といった身近な例にも関わっているし、便利に使えるのではと考えています。

三石 今回もとても学びがありましたし、面白い具体例をたくさんお聞きできたと思います。本日はありがとうございました。

舞野・加納 ありがとうございました!

―――次回の【海外Hot Info】もお楽しみに!

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