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米国ヘルスケア市場におけるイチ推しスタートアップとその展望【海外Hot Info】vol.25

2022.04.26

第25回は、前回に引き続き、スタートアップの全面的支援を行っているベンチャー・キャピタル「NTTドコモ・ベンチャーズ」シリコンバレー支店の長江 利行さんに「コロナで加速する『米国での医療DX』」についてのお話を伺いました!前回までの「ヘルスケア業界を取り巻く米国の環境変化」についても、ぜひご覧ください。

それでは、続きを見ていきましょう!

自宅検査から介護まで!アメリカヘルスケア市場注目の4領域

ヘルスケアテック

長江 1記事目の動向を踏まえ、今私たちNTTドコモベンチャーズが注目しているスタートアップをご紹介します。領域としては以下の4つに分けられます。

1:ホームケア×バイタルデータ(InsideTracker、Human API)

2:自宅検査サービス(Vivoo、ZOE)

3:メンタルヘルス(Calm、Hume AI)

4:介護(Tellus)

スタートアップ一覧

1:ホームケア×バイタルデータ

予知・予防の観点から、ホームケアにバイタルデータを活用するサービス領域。リアルタイムで血圧や体温などの健康状態を抽出し、アプリで可視化。体調に何か問題があった時、通知してくれるなどの機能があります。

2:自宅検査サービス

検査キットを用い、自宅で精度の高い検査ができるサービス領域。自宅で行うPCR検査や尿検査のようなイメージ。事前にこうしたサービスを利用し、異常が出たら受診するという予知・予防の役割を果たします。

3:メンタルヘルス

体だけでなく、心の健康をうながすサービス領域。メンタルヘルスの改善をうながし、うつ病や不眠症などの症状を予防・軽減します。例として、音楽や映像による瞑想やストレッチレッスンの提供などが挙げられるでしょう。

4:介護

プライバシーを考慮した高齢者の見守りに関するサービス領域。レーダーで高齢者の行動を見守るデバイス「Tellus」は、NTTドコモ・ベンチャーズ投資先のサービスのひとつです。

シード段階から期待の投資も!米国ヘルスケア市場におけるイチ推しスタートアップ

長江 今まで述べてきた4領域について、それぞれ私たちが注目しているスタートアップを7社ご紹介します。

1社目:InsideTracker(ホームケア×バイタルデータ)

InsideTracker
InsideTracker

リストバンドを腕に着け、そこからDNA・運動量のデータを統合し、リアルタイムで自分の健康状態を可視化できるサービスです。その状況をもとにしたProTips(プロによるアドバイス)を提供し、モチベーションを高めることで利用者の健康を維持します。

三石 弊社DearOneでもオムロンさんのグロース支援を行っていまして、そこではシニア向けの血圧を測定するプロダクトを展開されています。計測データを蓄積するアプリを用いて、血圧測定の習慣化を促すものなのですが、計測データに基づいたアドバイスについてもメーカーアプローチが始まっています。そんな中、InsideTrackerはリアルタイムで情報を可視化し、その情報をもとにアドバイスしてくれるところがオリジナリティーかもしれませんね。

(※編集部注・DearOneが支援しているオムロンアプリの紹介やおすすめポイントについては、下記の「アプリ研究会」で以前紹介済みです。ぜひチェックしてみてもらえるとうれしいです!)

2社目:Human API(ホームケア×バイタルデータ)

Human API
Human API

ユーザーの合意に基づき、ユーザー自身の健康情報を匿名化し、診療所や薬局、各種医療機関に提供・利用可能にするサービスです。アメリカの約9割の医療機関が、40,000を超えるソースを通じて健康データを収集しています。

3社目:Vivoo(自宅検査サービス)

Vivoo
Vivoo

自宅で尿検査ができる検査キットを提供するサービスです。キットをサブスクリプション形式で提供しており、ユーザーはキットに自分の尿をかけて専用アプリでスキャンすることで、体内水分量や尿のpH値といったさまざまな指標を知ることができます。

4社目:ZOE(自宅検査サービス)

ZOE
ZOE

各種食品に対する、ユーザーの身体的反応を確認できる検査キットです。血糖値や血中脂質などを生物学的に分析できます。また、検査結果をもとにパーソナライズされた栄養改善アドバイスも提供しています。

5社目:Calm(メンタルヘルス)

Calm
Calm

日本市場にも参入している、急成長中のメンタルヘルスアプリです。音楽や映像の瞑想プログラムやストレッチレッスンを通し、精神的ストレスの緩和やメンタルヘルスの強化を図れます。従業員数は539人と、ベンチャー企業としては規模も大きく、イグジット間近と言われるほど。

三石 コロナ禍もあり、最近メンタルヘルスケアの必要性が叫ばれていますよね。マインドフルネスも流行っていますし、僕もCalmバナーやロゴを見た記憶があります。

長江 そうですね、各種レポートを見ていても、Calmはよく出てきます。コロナ禍で失業したり、リモートワークで人とのコミュニケーションが減ったりと、メンタルヘルスに対する需要は高まっていると思います。

6社目:Hume AI(メンタルヘルス)

Hume AI
Hume AI

AIを用いて表情、音声より人間の感情を分析するサービスです。様々な国の感情データを蓄積しており、現在60ヵ国で展開中とのこと。日本人などアジア人のデータも蓄積しているので、日本人の表情や日本語での音声認識でも感情分析可能です。

7社目:Tellus(介護)

Tellus
Tellus

レーダーを用いた高齢者の見守りデバイス。カメラで映像を撮ることなく、人物がいるかどうか、普段と違う行動をしていないかどうかを検知できます。また見守りにおけるプライバシー問題に着目し、遠隔モニタリングサービスの実現に向けて、実証実験も行っています。NTTドコモ・ベンチャーズが出資しているスタートアップのひとつ。

三石 僕も普段Apple Watchで心拍数を測ってるんですが、それは腕時計の密着感があるからこそできていることで。Tellusのように遠隔で行動が検知できるのはすごいですよね。それも従業員数がまだ21人の、若い会社からサービスが生まれている。 

長江 私たちとしても、シードの段階から投資しているのは珍しいです。そして、Tellus社はアメリカ企業ですが、日本の高齢化社会の加速を見込んで、日本法人を持っています。

三石 日本の市場をターゲットにしているんですね。遠隔での見守りという点は、日本でも技術的に進んでいるんでしょうか。

加納 徐々に確立してきてはいます。それをどうサービスに生かすかという点でいうと今は黎明期ですが、一方で介護施設での「見守り機器等の活用」などに関する国の制度制定も進みつつあることから急速な進展が見込まれます。高齢者の浴室での転倒防止や、介護施設での夜間の見守りといった点からも、機器をもとに情報を取得しようとする「センシング技術」は注目されてきています。

一気通貫を狙うGAFA、パーソナライズ化を目指すスタートアップ

長江 コロナ禍の影響で、日本もアメリカもニューノーマルな生活に移行しつつあります。私は2021年7月に渡米したので、両国のコロナ禍の状況を見てきましたが、決定的に違ったことはマスクの着用率です。日本は屋外で99%以上の方がマスクをしていたのに対し、アメリカの屋外でのマスク着用率は60%ほど(2021年2月 NRC社調べ)と言われており、アメリカでは4~5人に1人が新型コロナウイルスに感染しています(2022年1月31日時点)。こうしてコロナ禍に苦しんだからこそ、アメリカでは医療DXが非常に進んだのではないかと考えています。

アメリカヘルスケア

三石 なるほど。ちなみに、医療DXについて、今後の日本の展望や注目のスタートアップについてはどう思われますか?

長江 やはり日本では「健康維持・増進」「予知・予防」の2ステップが注目されていくと思いますし、私たちもこの領域に力を入れていくべきではないかと考えています。

加納  予知・予防という点で言うと、遺伝子検査や尿検査の自己検査キットも出てきていますよね。コロナ禍でPCR検査キットが出てきたことでますます「自分で検査ができる」という認識が広まってきているのではないでしょうか。

≪三石所長(当時)`s Memo≫

健康維持~予防のステップが、今後日本でも注目されていく。

また、1記事目でGAFA参入の話がありましたが、アメリカにいる長江さんから見て、GAFAの動きはどう見えていますか?

長江 ヘルスケア領域のバリューチェーン全体に参入し、シェアを拡大しようとしている印象です。たとえばAmazonは、今従業員向けに 「Amazon Care」というオンライン診療を提供しています。Amazon Careは今後一般向けにも拡大する動きがあり、診療後の薬の購入・配達についても、Amazonで購入するとドローンが薬を配達してくれます。このように、Amazonのプラットフォーム内で全て完結するサービスに力を入れているようです。

加納 「健康増進・維持」から「予後・リハビリ・介護」までのバリューチェーンに対し、GAFAはその潜在層に働きかけ、バリューチェーンが循環する流れに乗れるように動いているんだと思います。それに対し、前半で紹介してもらったスタートアップは、健康状態が可視化できたり診断できたりといった内容が主流ですよね。特定のフェーズだけではなく、その後の動きやフェーズに対しての対策が必要だと思います。そこについては、長江さんはどう考えていますか?

長江 おっしゃる通りで、お客様が求めているのは、可視化や診断だけではなく、その後の診療も含めた一気通貫のサービスだと思います。今GAFAが狙っているのもそういうサービスで、私たちとしても一気通貫のサービスを提供していきたいと考えています。どのフェーズをどのスタートアップに担当してもらうのか、どの企業と手を組んでいくのかなどが今後の課題ですね。

≪三石所長(当時)`s Memo≫

GAFAは全フェーズに参入し、一気通貫のヘルスケアサービスに注力。

加納 そうですよね。また、可視化や診断の部分をサービスとして提供している企業は、将来的にはどこを目指してサービス提供をしていると思いますか?

長江 医療のパーソナライズ化だと思います。さまざまなデータをリアルタイムで収集・活用することで、提供できる医療も人によって変わっていくと思うので。そのために、バイタルデータの活用や自宅検査のサービスが出てきているのではないかと。そういう意味でも、今アメリカで伸びている「健康増進・維持」「予知・予防」のフェーズは、今後日本でも伸びていくと思います。

≪三石所長(当時)`s Memo≫

アメリカで注目のスタートアップは、医療のパーソナライズ化に注力

三石 なるほど。同じドコモグループの一員としても、全力で応援したいですね。NTTの「安心・安全感」もすごく生きると思いますし、これからも伴走・支援していきたいと思います!

今回もとてもいいお話を聞けました、本日はありがとうございました。

長江・加納 ありがとうございました!

―――次回の【海外Hot Info】は、NTTドコモ・ベンチャーズの舞野様にお話をお聞きします。ぜひお楽しみに!

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