今回のプレゼンターは、「NTTドコモ・ベンチャーズ」シリコンバレー支店の長江 利行さん。「海外Hot Info」第24回は「コロナで加速する『米国での医療DX』」について解説します。それでは、はじめましょう!
(編集部注:NTTドコモベンチャーズ様については、vol.1の記事 で詳しく紹介させていただいておりますので、ぜひご覧ください!)
三石所長(当時。以下、三石) 本日はお時間頂き、ありがとうございます。今回は、スタートアップの全面的支援を行っているベンチャー・キャピタル「NTTドコモ・ベンチャーズ」シリコンバレー支店の長江 利行さんに、「コロナで加速する『米国での医療DX』」について、お話を伺います。
長江 利行さん(以下、長江) はい、よろしくお願いいたします!
調達額世界一! 投資状況から見た米国ヘルスケア市場の動向
三石 それではまず、投資状況から見た米国ヘルスケア市場の動向から教えていただけますか?
長江 はい。2021年Q3時点の投資状況から見ると、世界で最も資金が集まっているのはアメリカです。アメリカの資金調達金額は対前年比で見ても、Q3時点で前年の約118%と、かなりの数字を出しています。
そして、ここまで資金が集まった理由は、「コロナを通じてアメリカの医療DXが加速したから」ではないか、と私たちは考えています。
では、米国の医療DXが加速した背景には、具体的にどんなことがあったのでしょうか。その背景には、コロナ禍が大きく影響していると思われます。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
世界のヘルスケア市場で今一番資金が集まっているのは、アメリカ。
まずはコロナ禍の影響で、生活の一部が対面から非対面のものへと変化しました。街での買い物がAmazon等での通販に、レストランでの外食がUberEats等での宅配食に。仕事に関しても、在宅勤務を採用する企業が増えました。そしてヘルスケア分野も、遠隔医療やデジタルヘルスケアアプリを利用した、非対面のものへと変化しています。
コロナ禍における非対面医療の活用も加速しており、今後も増加が予測されています。たとえば米国での遠隔医療利用率はパンデミックが起きた頃から急増し、当初の1%に対して、ピーク時は約70倍以上になっています。現在も、全体の約40%の方が遠隔医療を利用しています。
また、ヘルスケアアプリのダウンロード件数も急増しています。遠隔医療やメンタルケアを行える各種アプリはいずれも件数が増えており、特に遠隔医療アプリのピーク時件数は、コロナ前の約4,000倍となっています。
そして、2019~2025年の遠隔医療市場のCAGR(年平均成長率/企業の過去数年の成長率から幾何平均を出した数値のこと)予測は38.2%と、コロナ前の予測から約10ポイントも上昇しています。こうしたことから「アメリカの医療DXはコロナ禍によって一気に進んだのでは」と考えられるんです。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
アメリカのヘルスケア市場に資金が集まる理由は、コロナ禍による医療DXの加速。
GAFAも全般的に参入 ヘルスケア業界を取り巻く米国の環境変化
三石 ありがとうございます。アメリカの医療DXが一気に進んでいる今、ヘルスケア業界を取り巻く環境はどのように変わっているのでしょうか?
長江 アメリカで働く医師にヒアリングしたところ、今まで医療を利用できなかった層での遠隔医療の利用が増えているようです。実際に、コロナ前の遠隔医療の利用経験者は全体のわずか1%程度でしたが、今は診療の約40%が遠隔医療で、遠隔医療の利用者が増えています。
アメリカは日本のように「国民皆保険」はなく、医療にかかるお金が基本的に高くなる傾向があり、アメリカ人の自己破産の約6割は医療費が原因と言われています。
しかし、コロナ禍で遠隔医療の診療報酬が見直されたことや医療費が対面診療よりも安価になったことで、医療を受診しやすくなりました。これにより、医療費が高額で今まで医療を利用できなかった方でも遠隔医療を利用できるようになりました。このように、患者と医師の両方にとって、医療の利用が加速する要因があったと考えられます。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
アメリカではコロナ禍で遠隔医療の診療報酬が見直されたことや医療費が対面診療よりも安価になったことで受診しやすくなり、遠隔医療の利用が広まった。
三石 経済面について、資金調達の兆候で特徴的な点はありますか?
長江 「健康の維持・増進」、「予知・予防」の領域にお金が集まっています。関連サービスやホームケアサービスが伸びてきていますね。
たとえば、血圧や体温など、個人のバイタルデータが取得できるウェアラブル機器・端末が伸びています。こうした機器を通じて取得したリアルタイムデータをもとに、個人に合ったパーソナライズ医療を推奨するサービスも生まれているんです。
今後は、同じ病気になっても、個人に合わせて治療法や処方薬が異なってくることが予想されます。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
今後は、個人に合わせたパーソナライズ医療が発展していく。
三石 そんなヘルスケア領域において、GAFAはどんな動きを見せていますか?
長江 Meta(旧Facebook)を除き、積極的に進出してきています。それぞれの企業によって力を入れている分野は異なりますが、「健康の維持・増進」から「予後・リハビリ・介護」に至るまで、どこもほぼ全てのフェーズに参入してきていますね。
三石 アメリカの医療DXはかなり進んできているんですね! 長江さんから見て、日本の医療DXはどう思いますか?
長江 日本でも今後、「健康の維持・増進」や「予知・予防」の領域において、医療DXが進むと考えています。日本は世界一の高齢者大国ですし、今後も高齢者割合の増加は加速し、2065年には38.4%にものぼると考えられているからです。そして高齢者の割合が増えると、ますます病気になる前のウェルネスや、健康寿命を延ばすことが大事になると考えられます。よって将来的な医療の在り方としては、ウェアラブル機器やアプリで発症の可能性を予知し、かかるまえに病気を防ぐ方向に、シフトしていくのではと予想しています。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
高齢化に合わせ、日本の医療DXも予知・予防の領域で進んでいく。
医療保険から見る、アメリカの資金調達力の秘密
三石 投資状況から見ると、アメリカは他国に圧倒的な差をつけていますよね。この理由を、東京サイドでヘルスケアを見てる加納さんにもお伺いしてよろしいですか?
加納 出亜さん(以下、加納) アメリカって基本的に、予防やセルフケアでリスク回避をしようという動きに対して真剣なんですよね。長江さんも指摘していたようにアメリカには国民皆保険制度がないので、一回病気にかかってしまうとものすごくコストがかかって、場合によっては破産する人も出てくるという背景があります。
なので、ヘルスケアに関する市場は国民の関心も非常に高く、もともと大きいんです。そこにITがかけ合わさった結果、予知・予防や遠隔治療という選択肢が出てきて、さらに広がったのではないでしょうか。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
セルフケアに対する意識の高さが、アメリカ医療DXの加速を後押ししている。
長江 そうですね、アメリカでは自分で保険に加入しないといけませんし、医療費も高いので。あとは、ヘルスケア領域に携わる人口が、他国より圧倒的に多いということもあります。また、食生活についても、健康意識が問われますね。レストランのメニューに脂っこいものが多かったり、飲み物のSサイズを頼んでも、日本のLサイズで出てきたり。
加納 その一方でオーガニック食品もとても流行っているので、所得が高い人は食生活にもこだわっていますよね。所得による差が激しい面もあるんだと思います。
三石 なるほど。ちなみに、アメリカでヘルスケア系のスタートアップを立ち上げようと思った場合、法的な規制はあるんでしょうか。日本はそのあたり、法律でかなり厳しく決まっていますよね。
長江 アメリカにもそういった法規制はあります。FDA(Food and Drug Administration)と呼ばれる「アメリカ食品医薬品局」からの許可が必要なビジネスもあります。
―――次回の【海外Hot Info】も、引き続きNTTドコモベンチャーズ様に「コロナで加速する『米国での医療DX』」について、教えていただきます。アメリカのヘルスケア領域で活躍する、イチ推しスタートアップの情報も。ぜひお楽しみに!