企業が取り組むべきサステナビリティ①Net-zero【海外Hot Info】vol.20

2022.03.28

今回のプレゼンターは、株式会社トラストバンクの森杉育生さん。「海外Hot Info」第20回は、サステナビリティと企業の取り組みについて解説します。それでは、はじめましょう!

三石所長(当時、左)とMr.モリスギ(右)

サステナビリティの実現のために、企業に求められること

三石 サステナビリティ(持続可能性)は今かなり話題になっていますよね。全てを拾おうとすると、かなり範囲が広いと思います。

 森杉さん(以下、Mr.モリスギ) そうですね。とても全て拾いきれないので、今回は身近なものにフォーカスして、いくつか事例を交えてお話ししていこうと思います。

サステナビリティとして取り上げたいテーマは大きく2つあって、気候問題への対応と、食料や衣類の破棄問題への対応です。前半で気候問題への対応について、後半では破棄問題への対応についてお話ししていきます。

三石 よろしくお願いします!

サステナビリティ

三石 気候問題への対応というと、今は カーボンニュートラル が叫ばれていますよね。

Mr.モリスギ そうですね。現在はカーボンニュートラルから一歩進んだNet-zeroとして、同様の施策が求められています。日本ではカーボンニュートラルとNet-zeroは同じような意味と捉えてられていますが、厳密には、Net-zeroが実質的に排出量をゼロを目指し、その適用範囲も広いです。

これら環境問題への施策は、投資の世界でも注目されているのです。というのも、環境・社会・企業統治の評価をもとに投資されている「ESG投資」の資産に年々関心が高まってきており、世界の運用額は2021年には3900兆円を超えました。これは世界の全運用資産の約1/3(35.9%)にあたります(※)。
(※出典……日本経済新聞「世界のESG投資額35兆ドル 2年で15%増」

さらに、各企業がこの課題に立ち向かわざるをえない大きな出来事が起きました。まず700兆円を超える資産運用を行う世界最大の機関投資家であるブラックロックが2008年に国連が定めたPRI(国連責任投資原則)に署名したのです(日本の160兆円を超える年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も2015年に署名)。ブラックロック以降、続々と各大手機関投資家がPRIに署名しました。また、2020年には、ブラックロックから「サステナビリティ宣言」が発表され、「サステナビリティは投資家にとって最重要課題で、特に気候変動とパーパスを重視した企業でなければ長期に利益を形成できない」旨が投資先企業へのメッセージとして発せられました。

大手の機関投資家などは、「これらの問題に十分に対応していない企業には、経営陣や担当取締役に反対票を投じたり、場合によっては投資を引き上げる」とまで明言しています。

三石 森杉さんのおっしゃるように、現在はESG(環境・社会・企業統治)を基準に投資・運用されているので、社会的課題に対してしっかり向き合っているかどうかをアピールする企業は増えてきましたね。企業によっては、IRにもこうした取り組みについて記載があります。

Mr.モリスギ ただ、特にNet-zeroについては、厳守しようとすると対応がとても大変なんです。今回は、このあたりからお話ししていきましょう。

≪三石所長(当時)`s Memo≫

持続可能な社会の実現のために、今企業にはさまざまな施策が求められている。特にNet-zeroは、カーボンニュートラルに比べかなり企業に求める水準が厳しい。

カーボンニュートラルとNet-zeroが企業に求めるものとは

カーボンニュートラルとNet-zero

三石 まずは、カーボンニュートラルについて少し基本的なところを教えてください。

Mr.モリスギ カーボンニュートラルは、たとえば自社工場で燃料を使った、電気を使ったというような、自社関係で発生する温室効果ガスの量を減らそう(スコープ1および2が必須で、スコープ3は推奨)という試みです。

モリスギさん

三石 温暖化については、2015年の パリ協定 で「産業革命前からの世界の平均気温上昇を2℃未満に抑えること」「平均気温上昇を1.5℃未満に抑えること」が目標として盛り込まれました。

Mr.モリスギ カーボンニュートラルの場合は、パリ協定の目標の達成に沿うところまでは求められていませんね。できる範囲でゆっくり取り組んでも構いません。なんなら、温室効果ガスの排出権を取引したりしてお金で解決するということも可能ではあります。

三石 かなり緩くても構わない。

Mr.モリスギ 問題はNet-zeroです。こちらはカーボンニュートラルのようにはいかなくて、かなり厳しいんですよ。

Net-zeroでは自社だけでなくサプライヤーや消費者による排出量も含んだ上で、パリ協定の1.5℃目標の達成に整合する排出量削減が求められています。サプライヤーや消費者まで含めるとなると、自分たちだけ取り組んでいてもだめで、「サプライチェーン全体で取り組んで、かつパリ協定にも沿いなさい」ということを求めているんです。

三石 カーボンニュートラルのように、排出権を売買して解決することはできるんですか?

Mr.モリスギ Net-zeroの捉え方にもよるのですが、厳密な定義に従うと実はそれもできないんです。物理的にちゃんと温室効果ガスの排出量を減らせ、というのがNet-zeroの概念なんですよ(一方で、温室効果ガスの実質削減分を企業間で売買してオフセットするという方法もあります)。

「やってる感」では済まされないNet-zero。Watershedの事例とは

モリスギさん2

Mr.モリスギ ただ、これだけでは具体的にどこまでNet-zeroに取り組まないといけないのかわかりづらいと思うので、Watershedという企業がNet-zeroに取り組むための支援をするプラットフォームを提供するスタートアップの事例をご紹介しますね。

たとえば「Sweet Green」というヘルシーメニューを扱うオーガニックサラダ専門レストランのスタートアップがあるんですが、「サラダやドレッシングを作る工場で、どの程度温室効果ガスの排出量があるのか」、「サラダに使う野菜を作る農家ではどれくらい排出量があるのか」、こういったことをWatershedを使ってトラッキングして、数値化・可視化できる状態にして、投資家や消費者に提示しています。他にも、Shopifyが配送方法の違いでどの程度のCO2排出量の違いが出たかトラッキングしていたり、決済スタートアップのSquareが購入したbitcoinでどの程度のCO2排出量があったのかトラッキングし、10億円のbitcoinのクリーンエネルギー推奨プログラムを作ったりしています。いずれもWatershedを使ってトラッキングやアクションプランの策定を行っています。

Watershedダッシュボード

三石 Net-zeroでは、ここまでしないとダメなんですね! これは大変そうです。

Mr.モリスギ そうなんです。これをおろそかにしていると、投資家からも評価されなくなってしまうというところが、企業が取り組まなければいけない強制力につながっています。

特にシリコンバレーの企業たちは、環境問題への意識が高い経営陣が多いので、こうしたトラッキングと予測をデータ化して具体的な対策を始めています。Watershedのようなツールを使って、トラッキングして、分析して、アクションして、効果を測定して、投資家や政府等の監査に耐えれるレベルのレポートを公開という一連の流れを行っています。

三石 ここ数年で、カーボンニュートラルをはじめサステナビリティへの意識が高まっていますが、実際にはどれくらいの企業が具体的な取り組みを始めているんでしょうか? 特に気になるのは、製造業などの昔ながらの企業です。

三石所長(当時)

Mr.モリスギ やらなきゃとは思いながらも、テクノロジーについていけなくて、なかなか具体的な取り組みをできていない企業は多いのではないでしょうか。こうした取り組みの有無は、今後株価にかなり影響すると思います。

三石 ブランディング的に良くないんですね。要するに、「社会的貢献をしないから製品が売れなくなる」ということにつながるのでしょうか? 

Mr.モリスギ 「卵が先か鶏が先か」という話にはなりますが、やっぱり今は、「グリーンチェック」をちゃんとしている企業の方が評価されます。

三石 「グリーンチェック」、つまりこうした環境問題に対するチェックということですか。

Mr.モリスギ そうです。冒頭でもお話しましたが、世界最大の機関投資家であるブラックロックが「グリーンチェックに対応していない企業には投資しない、しっかり施策を行っている企業にしか投資しない(もしくは経営陣に対して反対票を投じる)」と発言したのは、大きな契機になったでしょうね。

三石 昔から、よく企業が「砂漠に木を植えます」とかやってますよね。ボルヴィックも、出荷量に応じて清潔で安全な水がマリ共和国に届くというキャンペーンをしていました

そういった社会貢献はマーケティングやブランディングの観点でみても、結構昔からあると思います。

ただ、Net-zeroはそういう緩い感じではなくて、真剣に取り組まないといけないものなんですね。スタートアップやベンチャーとかだとそんな余裕はなさそうですが、その辺はどうなってるんですか?

Mr.モリスギ 逆にこれがビジネスになるという視点で、最初からサステナビリティを考慮した上でビジネスを立ち上げています。実際にサステナビリティに特化したD2Cブランドもかなり立ち上がっていますよ。ベンチャーキャピタルもそういったブランド戦略をもつスタートアップに積極的に投資を行っています。
そうすると、今度はそれで注目が集まるようになります。経営的な観点からすると、むしろ取り組まない方がリスクとも言えます。

三石 なるほど。日本ではまだまだ本格的に取り組んでいる企業は少ないと思いますが、これから増えていきそうですね。

三石所長(当時)&モリスギさん
(撮影場所:WeWork リンクスクエア新宿)

≪三石所長(当時)`s Memo≫

グリーンチェックへの対策をしているかどうかで、企業の株価が変わる時代に。日本ではまだ本格的な取り組みがなされていないが、逆にだからこそチャンスとも言える!

三石 今回もありがとうございました! 次回も引き続き、サステナビリティについて伺っていきます。次回は、破棄問題について伺います。よろしくお願いします!

―次回の【海外Hot Info】では、衣類や食料の破棄問題について引き続き森杉さんにお話を伺います。次回もぜひお楽しみに!

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