今回のプレゼンターは、株式会社トラストバンクの森杉育生さん。「海外Hot Info」第18回は、以前少し登場した「DAO(分散型自律組織)」について解説します。それでは、はじめましょう!
中央集権型に代わる、新たな組織体系「DAO」とは
三石 今回もよろしくお願いします! 今回は、DAOについてですね。DAOは、前にお話を伺ったときにも少し登場しました。
今回は改めて、2回にわたってDAOについて詳しくお伺いしていきます。よろしくお願いします!
森杉さん(以下、Mr.モリスギ) よろしくお願いします!
Mr.モリスギ まずは前回の復習にもなるのですが、そもそもDAOって何だっけ、というところから少し振り返りたいと思います。
DAOを簡単に説明すると、「コミュニティ用のトークン(ガバナンストークン)をブロックチェーン上で発行し、トークンを購入した不特定の参加者全員が意思決定者になる分散型自律組織」です。
三石 こちら でも仕組みを教えていただきましたが、改めて教えていただけますでしょうか。
Mr.モリスギ まず何らかのプロジェクトとプロジェクトを進めるためのコミュニティがあって、「何をどのように進めていくのか」という意思決定を、コミュニティ用のトークンを使って行うのがDAOの仕組みです。
トークンはブロックチェーン上で発行し、そのトークンを購入した人が意思決定者になれるんです。
三石 なるほど。株式会社と似ているところがだいぶありそうですね。
Mr.モリスギ そうですね。ただ、株式会社の場合は株主が所有権を持っていて、会社の所有権を持つ株主と、実際に経営を執行する人が別なことが多いです。
株主利益を最大化するために、株主→経営陣→マネジメント層→従業員というように、垂直的な意思決定が行われるようなイメージだと思います。
一方、DAOは開発者やマネージャー、ライターなどのクリエイターが、経営に関わり実務も行いつつ、株主のように所有者にもなれるんです。
三石 意思決定はトークンを持っていれば参加できる。ファンも含めて、コミュニティ参加しているステークホルダーが意思決定者になれるというわけですね。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
DAOは株式会社と似た概念ながら、コミュニティに参加している人が経営にもかかわり、実務も行い、さらにコミュニティの所有者として意思決定にも参加できる点が大きく異なる。
DAOの利用シーンは無限に広がる
三石 そもそも、DAOはどうやって生まれたんでしょうか?
Mr.モリスギ やっぱり発想はブロックチェーンですね。「通貨が自律分散的に成立するなら、組織も同じように成立するのではないか」というのが発端だと僕は理解しています。
イーサリアムが出てきた頃から、DAOは概念として成立していました。なので、6、7年前くらいには「DAO」という言葉や実装もありました。
(※編集部注:「イーサリアム」とは、ビットコインの次に時価総額が高いと言われている仮想通貨イーサを動かすプラットフォームの名前です)
三石 へえ。結構前からあったんですね。
Mr.モリスギ 今ではかなりの数のDAOがあって、今もどんどん増え続けています。正直、追い切れないくらいで。
DAOですが、2021年10月時点で169のDAOが確認されており、100億ドル(約1.1兆円)以上の時価総額となっている(2022年2月時点ではUniswapだけで、99.4億ドル(約1兆円)を超えている)というデータもあるほどです。
三石 とても勢いづいてきているのがわかりますね。DAOには、どのような種類があるのでしょうか?
Mr.モリスギ いろいろなDAOがあります。あとから事例をご紹介しますが、たとえば投資プロジェクトを目的にした「投資DAO」、メディアを一緒に運営していきましょうという「メディアDAO」などです。様々なジャンルで幅広く存在しています。
三石 株式会社の場合、あらゆる産業セクターの中で株式会社が生まれていますよね。車メーカーもあれば、投資会社もある。インフラ系の会社もあれば、コンサルティング会社もある。DAOも同じように、あらゆる産業で成立しうるものなんでしょうか? それとも、DAOが成立するジャンルは限定されているのでしょうか?
Mr.モリスギ たまたま投資やメディアなどのジャンルで最初にDAOが登場したというだけで、産業と連動して無限に広がり続けると思います。
今後は共通した趣味で集まるサークル的なDAOも出てくるでしょうし、ビジネス寄りのDAOもあれば、「オープンソースプロジェクトを作ろう」といったDAOも当然出てくるでしょうね。
三石 ほんとにDAOって何でもありなんですね! ちなみに、現実世界のビジネスにもDAOは関わってくるんでしょうか。
Mr.モリスギ DAOってWeb3とか仮想通貨の世界の中でやるものというイメージがあると思うんですが、そして実際にそういうDAOもかなり多いんですが、現実世界に出て影響を及ぼしているDAOも出てきています。
後で事例を紹介しますが、実際にあるフランチャイズを買収しようとするDAOもあります。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
DAOは仮想世界を超えて、現実世界にも影響を及ぼし始めている!
DAO事例① 合衆国憲法がオークションに出品!Constitution DAO
Mr.モリスギ 1つめの事例は結構面白くて。アメリカ合衆国憲法の原本がサザビーズのオークションにかけられたんですが、これを競り落とすためのDAOが作られました。これを「Constitution DAO」と呼んでいます。
Constitution DAOでは、1万8800人が参加して54億円の資金を集めました。
三石 ちょっと待ってください。合衆国憲法って売りに出されたんですか!?
Mr.モリスギ びっくりですよね! おそらく、美術品と同じようなもので、コレクターが所蔵していたんだと思います。
三石 なるほど。アメリカ合衆国としてはテキストの情報があればいいわけだから、特に原本は必要ないのか。
Mr.モリスギ この事例のポイントは、現物資産の売買・所有にDAOが参加したことです。これまでNFTをDAOで競り落としたことはありましたが、現物資産を競り落とす試みはこれが初めてでした。
結局どうなったかというと、集めた金額的には最終落札価格を上回っていたので落札しようと思えばできたと思うのですが「誰が原本を管理するんだ」という問題が出てきたので、入札は諦めました。
三石 集めたトークンはどうなったんですか?
Mr.モリスギ 残ったトークンについては、全額返金を受け付けています。
三石 DAOってまだ「怪しい」というイメージも強いと思いますが、こうして50億円も集められた、というのはすごいことですね!
DAO事例② ワイオミング州の土地を買ったCityDAO
Mr.モリスギ これは少し長期的なプロジェクトです。「ブロックチェーン都市を作る」目的でDAOが組成され、その都市の市民権をNFT化してOpenSea(NFT取引マーケット)で販売しました。
そして、市民権を売って得た資金で、アメリカ合衆国のワイオミング州に東京ドーム3~4個分の土地を買ったという事例です。
三石 DAOって実体がないと思うんですが、ワイオミング州に物理的に土地を持ったということですよね?
Mr.モリスギ そうです。ワイオミング州は「DAOをLLC(有限会社)組織として認める」という州法を出したんですよ。
三石 すごいしか言葉が出てこない。
Mr.モリスギ ちなみに市民権のNFTもすごく高くて。最初は1イーサリアムくらいだったんですが(2022年2月8日時点で1イーサリアムは約36万円)、今は10イーサリアムくらいになっています。
三石 買った土地はこれから都市化していく感じなのかなと思うんですが。これもガバナンストークンみたいなものを活用して街作りをしていくんでしょうか?
Mr.モリスギ そうです。インフラをどうやって整備するかとか、どんなお店を誘致しようかとか、そういったところまで全てトークンを使って決めていきます。
やってることはほぼシムシティ(※都市経営シミュレーションゲームで有名なゲームソフト)ですよね。こういうことを、顔も知らない人同士が徒党を組んでやっている。こういうことが現実に起きているんです。
DAO事例③ FriesDAO
Mr.モリスギ これも、仮想世界を超えて現実世界にDAOが出てきている例ですね。先ほどちょっと出てきた、フランチャイズの事例です。
三石 フランチャイズを買収するためにDAOを作った、みたいなことですか?
Mr.モリスギ そうです。資金調達の方法としては、USDCという、米ドルとほぼ連動した仮想通貨(ステーブルコイン)を使って資金を募っています。USDCトークンでファンドを集め、フランチャイズオーナーへ交渉して買収するというシステムになっています。
三石 クラウドファンディングで個人から集まった少額資金をまとまった資金にして、それで運転資金を確保する。こういう事業って実際にあると思うんですが、似たようなものでしょうか?
Mr.モリスギ ほぼ一緒です。違いがあるとすれば、USDCトークンを使っていることと、フランチャイズの運営に使っているガバナンストークン自体の値上がりが期待できるところです。
ちなみに、トークン自体にもリワードといって利益が自動で付与されていくんです。2022年1月時点では、8%くらいのリワードがつくので、トークンを持っているだけで利益になります(注:仮想通貨は非常に不確実性が高く、リスクも大きいため、本記事掲載の価格や利率等が大きく動くことがあります。投資のアドバイスや勧奨するものではないため、これらの情報に依拠し投資することはお控えください)。
ただ、やっぱり大きいのは、トークンの保有者が決定権も持てるところですね。ここが決定的な違いです。
DAO事例④ Bankless DAO
Mr.モリスギ 最後の事例は、Bankless DAOです。元々は「中央集権型の銀行に代わる新しいテクノロジーとは」というテーマでメディアを作っていて、そのメディアのサブスクで収益を上げていた会社です。
「中央集権的な金融機関がなくなってほしい」というなかなか過激な思想をもっていて、それで「Bankless」という名前になっています。
この会社が昨年DAOを作ったんですが、創業チームは一度トークンを全て手放し、DAOでのコミュニティ投票による承認を経てトークンの25%分を所有することを実現しました。
三石 あまり聞かないケースですね。
Mr.モリスギ ここでの注目ポイントは、創業者チームが25%を所有することで、コミュニティの舵取りをするという役割を自分たちに残したところです。完全に有象無象の集合体になると、コミュニティの運営が難しくなってしまうので。
三石 そういう意味では、DAOと既存の組織システムは共存しうるわけですね。
Mr.モリスギ そうですね。この事例のように、DAOと既存の組織システムのハイブリッドモデルは今後も模索されていくと思います。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
DAOは既存の組織とも共存しながら、組織やコンテンツの分散自律化が模索されている!
三石 今回もありがとうございました! DAOにもいろんなスタイルがあって、仮想世界だけでなく現実世界にもすでに影響を及ぼし始めていることが分かりました。
次回も引き続き、DAOについて伺っていきます。よろしくお願いします!
―次回の【海外Hot Info】では、「分散自立組織(DAO)」について引き続き森杉さんにお話を伺います。次回もぜひお楽しみに!