グロースマーケティングに関する記事を検索していると「グロースマーケティングを実施するためにはグロースチームを編成する必要がある。」という記事をよく見かけませんか?
実際にAmazon、Netflix、Uber、Dropboxなどの海外大手企業では既にグロースチームを編成して、グロースハックを施している企業もたくさんあります。
しかし、グロースマーケティング自体がまだ日本でそれほど広がっている手法ではないため、グロースチームを社内に持つ企業はそれほど多くなく、グロースチームの事例を探してもなかなか見つかりません。
そこで今回の記事ではFacebookを例にあげ、グロースチームの成り立ち、実際に社内でどのような役割を果たしているのか、グロースハックに成功した事例を紹介します。
グロースチームを編成して、グロースマーケティングに取り掛かろうと考えている方はぜひ参考にしてみて下さい。
グロースチームの成り立ち
Facebookがどのように設立され、どのように成長をしていったのかを知ることで同社のユーザーグロースチーム(以下、グロースチーム)の成り立ちを理解することができます。
Facebook(設立当時の社名はThe Facebook)は2004年にマークザッカーバーグ氏によって設立されました。当時、彼はまだ19歳でハーバード大学2年生でした。
アメリカの高校や大学では、もともと学生間での交流を図るためにプロフィールと顔写真を載せた紙の名刺「フェイスブック」を作成し、配布する習慣がありました。
本来であれば、大学側が用意するはずのオンライン版の「フェイスブック」を、大学側が作成にもたもたし時間を要していたため、彼は自らプログラムを組み、サーバーを借りて、独自のSNSをオープンしたのです。
このSNSがFacebookの原点となります。
彼は以前にも、アプリやソフトウェアの開発を何度もしており、その経験からFacebookを完成させることができたのです。
しかし、そのSNSは現在のFacebookとは程遠く、まだ大学内の限られた人にしかオープンされていない、オンライン版学生名簿のようなものでした。
その後2003年に「Facemash」というアプリを作成しました。これは同性同士の写真を比べてどちらがより「HOT(魅力的)」かを投票するものでした。公開後4時間で2万以上のレビューがありましたが、倫理違反、セキュリティー侵害等で告発され、大学から謹慎処分を受けてしまいます。
そして2004年2月に、改善を加えたFacebookをハーバード大学内全ての人向けに公開しました。公開後1ヶ月でユーザー数は、生徒、教員も含め11万人を超えるほどに広がっていました。
また並行して、ハーバード大学を含めた、アイビーリーグと呼ばれる、全米、世界でも常にトップに名を連ねる8つの大学(ハーバード大学、イェール大学、ペンシルバニア大学、プリンストン大学、コロンビア大学、ブラウン大学、ダートマス大学、コーネル大学)に向けても公開をし、ユーザーを増やしていきました。
アイビーリーグで一通り登録者数を増やすことができ、その後全米の大学へも普及しました。
それまでは大学生、職員限定でしたが、その後に全米の高校生に公開し、さらに13歳以上という制限を設け、一般向けにも公開をしました。
この時点で既にユーザー数は1,000万人を超えるほど広がっていたのです。
その後も順調に登録者数を増やしており、毎日5,000人もの新規登録者を獲得していました。さらに、2007年の終わりには7,000万人ユーザーを達成。
しかし、2008年の終わりにユーザー数の伸びが停滞。その理由には見当もつかず、経営陣の合宿を開き、今後の道のりについて議論をすることに。
そこで、プロダクト、マーケティングどちらを優先するべきかという話に行きつきました。そこで出たマークザッカーバーグの答えは「両方」でした。
しかし、それ以外の全てのこと(売上も含む)の優先順位は下げることを決断。
そして、プロダクト、マーケティングを重視するためとして、「製品」「エンジニアリング」「分析」「設計」「マーケティング」それぞれの分野を担当する5名で構成されるチームを設立しました。
これがグロースチームの発足です。
どのように機能しているか
Facebookのグロースチームの成り立ちについて紹介しました。それではここからはグロースチームが企業内でどのような役割を担っているのかについて説明をします。
まずグロースチームは主に以下6つの領域で機能しています。*1 *2
- ビッグデータの分析
- ダイレクト・アクイジション(新規顧客の獲得)
- 製品開発
- 組織風土
- 人材採用
- 小さな改善の積み重ね
それではそれぞれ見ていきましょう。
1.ビッグデータの分析
ビッグデータの分析は、グロースチームの最も重要なタスクです。
グロースチームの業務のほとんどは、分析したデータを元にテストを繰り返すため、この分析作業によって他の仕事の成果が左右されるといっても過言ではありません。
グロースチームはデータサイエンスチームと密接に連携して、何が成長を促進するかについて考え、その質問に対して答えとなる可能性があるデータを収集、分析しさらに改善を施すためにテストをする、ということを繰り返し行なっています。
具体的には以下のようなプロセスでデータ分析を行なっています。
(1)ユーザー数を伸ばすためのドライバーが何なのかについて仮説を構築
(2)仮説を検証するために必要なログデータを集め、プログラムを構築
(3)データが集まり次第分析
(4)要素の一部を変更し、改善した場合にどのような影響が出るのかテストを実施
(5)テストの結果を測定する
(6)(1)〜(5)をひたすら繰り返す
このループをどれだけ早く回すことができるかのもとても重要で、グロースマーケティングではこの「高速に施策・テストを繰り返す」を大切にし、持続的な製品・ビジネス自体の成長を目指しています。
2.ダイレクト・アクイジション
グロースチーム内には、インターネットマーケティングに通じた顧客獲得に取り組んでいるチームがあり、これらの活動はユーザーを直接獲得する施策なので、ダイレクトアクイジションと呼ばれているのです。
具体的にはSEO(検索エンジン最適化)、PPC(クリック課金型広告)、Eメールマーケティングのような業務を行なっています。
グロースチームはこれらを最適化し、より多くのユーザーとより多くの広告主を確保すべく常に改善を試みて、ユーザーにとってフレンドリーで、心地よい体験をしてもらうために取り組んでいるのです。
3.製品開発
グロースチームはFacebookのプロダクトそのものに関しても重要な役割も担っています。新規ユーザーの行動、体験、サインアップ、ログイン等のエンゲージメントにも大きく影響を与えています。
具体的には以下の分野に関して、影響を与えています。
(1)ログアウトの状態で表示される全てのFacebookページ
ログアウト状態で表示されるページは一種の広告スペースであり、ユーザー獲得に利用できる
(2)新規ユーザー獲得に関するフロー、ユーザー体験(UX)
(3)新規ユーザーの登録フロー
(4)Facebook内での通知、広告 A/Bテストを繰り返し最適化する
(5)その他、ユーザー数の増加に影響を与えるもの全て
このようにユーザー数の増加に関する業務であれば、あらゆるものに携わっているのです。
また、他のチームが作成したプロダクト、スマートフォン向けの携帯サイト、スマートフォンアプリ、プラットフォーム、Facebookクレジットなどに対して改良を行い、最適化を行うこともありますし、実験用にグロースチームがプロトタイプを開発することもあります。
4.組織風土
成長に重きを置く組織風土を確立することもグロースチームが担う重要な役割です。
Facebook社内には、データドリブンなチーム(定量的な目標を持つチーム)とデータドリブンではないチーム(定性的目標を持つチーム)が存在し、両チーム間での問題解決や製品設計のための共通の考え方や、枠組みが、会社全体とグロース進める上で重要な役割を果たしているのです。
5.人材採用
グロースチームの影響は、人材採用にも及んでいます。それはFacebookが順調に成長していれば、Facebookに転職したいと考える人が増加するからです。
数千万人、数億人のユーザーを獲得していれば、それだけこの会社に参加したいと考える人も増えていくというわけです。
6.小さな改善の積み重ね
今日まで、グロースチームはFacebook.com、スマートフォンやフィーチャーフォン向けのモバイルサイト、スマートフォンアプリに関して、何千回ものテストを繰り返してきました。
ユーザーを伸ばすための特効薬はありません。
多数の小さな最適化を積み重ねることなのです。
例えばたった5%の改善を行う施策でも、そのような施策を10個見つけ出し実行することができれば、将来のユーザー数が大きく伸びることがわかります。
そのような小さな改善の積み重ねこそがビジネスをグロースへと導くのです。
成功事例
Facebookでは、分析に分析を重ねた結果、3つの要因がグロースを達成するために必要であると考えました。
1つ目がノーススターメトリック(North Star Metric)、
2つ目がマジックモーメント(Magic Moment)、
そして3つ目がコアプロダクトバリュー(Core Product Value)です。
まず1つ目のノーススターメトリックとは、ビジネスをグロースさせるために最も重要となる指標を定めるためのフレームワークのことです。
これまでは売上・利益などが最も一般的な指標として設定されていましたが、これは企業視点であり顧客の体験が考慮されていません。
顧客視点を重視するグロースマーケティングにおいては、顧客の体験価値を踏まえた指標であるノーススターメトリックが重要視されています。
ノーススターメトリックの説明についてはこちらもご覧ください。
Facebookは「月間アクティブユーザー数」をノーススターメトリックとして設定しています。
ノーススターメトリックを設定したら、そこからはひたすら「検証、実験、計測、反復」を行うのです。
例えば、
- 何人の友達を追加したか
- いくつのコンテンツを利用したか
- モバイルアプリをダウンロードしているか
- どれだけコメントをつけたのか
- どれだけコメントをもらったのか
このようにして様々なユーザー行動の情報を集めていくことで、最終的には複数の指標を持つ顧客データ表を作成することができます。
顧客データ表を作ることができれば、次に行うことは、分析です。
顧客データ表を基に行動ベースで分析を行います。
具体的にどのような行動をした人、どのような指標を持つ人が継続的に利用をしてくれているのかを考えます。例えば同社の場合、「電話帳と連携させて、友達になっている」「1日で10人以上友達になっている」「友達は少ないけど、毎日ログインをしてくれている」など、継続してくれている人が行っている行動を見つけることが大切です。そうすることで、どのような施策を打てば、多くの人が継続の要因となる「行動」を行ってくれるのかについて仮説を立てることができます。
反対の場合も同じです。
「登録画面で離脱した」「登録後4日で10人と友達になったけど、使わなくなった」など、離脱してしまっているポイントを見つけることで改善を施すことができるようになります。
このように行動ベースで分析を行うことで、ノーススターメトリックに影響のある要因について仮説を立てることができるようになるのです。
2つ目のマジックモーメントは、ユーザーにとって最も重要となる瞬間のことを意味します。Facebookにおけるマジックモーメントは、「ユーザーが初めてニュースフィードで友人を見る瞬間」と定めています。
中学校の友達、高校の友達とは成長をするにつれて連絡を取る機会は減ってしまって、「あの子と何年も話してないなー、今何をしてるんだろう」と考えることがあるでしょう。
その時にFacebookを開き、友人の現状を知るこの瞬間がFacebookが最も大事にしている瞬間です。ユーザーはこれを体験することで、Facebookを利用する価値を実感してくれるということです。
3つ目のコアプロダクトバリューとは、ユーザーにとってのプロダクト価値のことです。ユーザーが製品を使用する、使用し続けるためにはユーザーにとって価値がある製品であり続ける必要があります。
Facebookでは、「常に友人と繋がっている感覚」をコアプロダクトバリュー、ユーザーがFacebook利用したいと思う価値だと設定しています。これを毎日提供し続けることで、ユーザーのロイヤリティを得て、継続的に使用しつづてもらえるように改善を試みています。
Facebookはこれらのことを大切にした結果、ビジネスをグロースさせることができ他のです。
ここからは実際にFacebookがグロースした事例を紹介します。
Facebookの登録者数が停滞をした際にグロースチームを組織したことは上記で述べましたが、同社では停滞を打破する方法として、Facebookを世界各国で使用されるサービスにしようと考えました。
国際的にグロースさせるチャンスがあることは明確でしたが、そこで問題となるのが「言語の壁」です。
今日でこそ、より簡単に、より正確に様々な言語を翻訳できるようになりましたが、当時の翻訳ツールのレベルは高くありませんでした。
そこで、Facebookが選んだ方法が「Facebookのユーザー自身が翻訳をできる」という機能です。これにより言語の壁によって利用できないユーザーを作り出さないようにしたのです。
Facebookの特徴、プロダクトをよく理解しているユーザー自身が翻訳を行えることで、Facebook側はユーザーに、例えばどのように友人にPoke(Likeのようなもの)を送るか、どのように友人向けに投稿するか、のような機能的質問をしながら、それに対して翻訳を行えるようにしました。
このようにユーザーとコミュニケーションを取りながら翻訳を行うことで、ユーザーのエンゲージメントを向上させることができ、繰り返し利用してくれるサービスへと改善を試みることができます。
さらに、言語の障壁をなくすことだけではなく、サインアップのプロセスにも改善を施しました。初期のサインアップでは、クリックするとホームページから離れ、さらに5ページ分にも及ぶ記入欄がありました。
それをホームページ上で直接サインアップを行えるように7つのフィールドに落とし込み、簡単にサインアップを行えるようにしました。
さらに一度サインインしたユーザーは、友達を見つけることができなければ、Facebookを利用する価値を見出すことができないため、コンタクトインポーターと呼ばれる機能へのリンクをホームページ上へ設置することにしました。
コンタクトインポーターでメールアドレス等をフォームへ入力することで、そのメールアドレスと関わりを持つ友達を表示します。これにより、ユーザーは友達を簡単に見つけることができ、登録後すぐにFacebookの価値を体験することができるようになるのです。
これらの施策により、Facebookは停滞していた登録者数を再び増加させることに成功。そして2008年の10月にSNSでは鬼門とされていた、登録者数1億人を達成しました。
まとめ
Facebookを事例にグロースマーケティングを打つために必要となってくるグロースチームについて、紹介しました。グロースチームのメンバー編成、役割に関しては企業によって変わる部分はあると思います。
しかし、グロースを成功させるためにはどのようなグロースチームにおいても「ユーザー視点で考える」がとても重要です。
グロースチーム編成を考えている方は、ぜひ参考にしてグロースマーケティングに取り組んでみて下さい。